ゆのさんのボーイズ・ラブの館

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15-2激暑

オリジナルBL小説 GIFT~激暑・・・9・・ 連載約129話



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まだ夏の名残りある蒼穹のもと
文化祭に並ぶ二学期の大イベントに向けて全校生徒達が同じ志を抱く


体育祭は中等部、高等部と全校一斉のせいか、校内は否が応でも盛り上がっていく
そして中等部の1年生にとっては始めての大行事
未知のものへ不安ながら心は沸きあがる

この二つの行事が終わるころ、幼さ残る面影はひと回りもふた回りも逞しく成長するのだ
ただひたすら無邪気に駆け抜ける青春の日々
今は誰も気づくことが無くてもやがて大人になった時
それは懐かしさとともに、永遠に消え去ることの無い“心のアルバム”の1ページとなるはず

体育祭の練習で小麦色に日焼けした色白な日樹も
ことさらに、ほほ、鼻の頭と薄っすら赤らめていた

互いに親交を深めることのなかったクラスメイト同士が誰彼とうちとけ
それまでの様子が信じられないくらいに気心許せる仲になっていた
一致団結奮起し、目指すはチーム、クラスの勝利
全力を出し切れば結果はどうあれ満足だ

彼らはまだ若い
たとえ敗れ去ろうとも屈辱感と悔しさの経験は
長い人生において後で必ず生きることがある



グラウンドいっぱいに響く生徒たちの応援や掛け声が空に吸い込まれて行く・・・




そんな折、小梶は美術教室に一人
一冊のスケッチブックに目を留めていた







晩夏、そして初秋へ・・・





そよぐ秋風、天高く限りなくどこまでも広がるこの空は
間違いなく遥のいる場所と繋がっている




「諸藤君、運動部に入部しないの?」
「そうだよ、3人抜きしたクラス対抗リレーの活躍は中等部中の評判だよ」

日樹の横にはいつしかクラスメイトが肩を並べるようになっていた
それは遥のことを忘れてしまったというわけではなく
自分が傷つかないように、相手を傷つけないように
いつの頃からか張り巡らした護身用の自壁の殻が、ぽろぽろと崩れ落ち
諸藤日樹という人間を完全にさらけ出すことができたからだ

そのきっかけを作ってくれたのが他でもない
殻の中に小さくうずくまる日樹に手を指し伸ばした遥だった

「ううん・・・」

放課後、教室を後にした数人のグループの中に身を置く日樹は
気軽に声をかけてくるクラスメイトへ照れくさげに答える



放課後


偶然が偶然を呼び、1つのことが好転し始めれば
不思議に二つ、三つ・・・のことが連鎖しだす
運動部に所属しているわけでもないのに
体育の授業で皆から注目を浴びるようなタイム成績を出した日樹は
そのままクラス対抗リレーの選手に抜擢され
着順こそは上位入賞を逃したが、最下位から巻き返した最後の追い込みは
ギャラリーの目を釘付けするほどみごとな走りだった

何においても優れた義兄をもつ日樹
物心ついたころから歳が離れた義兄との間に闘争心が芽生えることは無く
その背を越えることもなく、才があり褒められる機会があっても
それは義兄を通してだと踏まえ決して思いあがることは無かった


義兄が6年間過ごした学び舎を同じく志望校とし、難関を突破合格した時には
尊敬する義兄に少しでも近づけたような満足感に胸溢れさせた
この西蘭学院に義兄の影は存在しないにもかかわらず
一個人とし栄誉を讃えられるは光栄とはいえ、それが自分へのものだという認識が持てず
喜ぶべき状況にかかわらずなぜか心がくすぐったかった

取り囲んだ人垣は日樹と歩調を合わせて進む

「もったいないなぁ・・・」

クラスメイトは少々不満なようだ

「美術部ってあんまり活動してないよね だったら掛け持ちしちゃうとか?」
無責任な提案を持ちかければ

「それはできないよ」

もちろん校則には部活の掛け持ちが不認可と、うたわれていない
活動内容ではなく心地よい空間に身を預けていたいがために
美術部に所属している日樹はあっさりと否定してしまった

その返答がきっぱり潔いため、クラスメイトもそれ以上は執拗に触れない
躊躇わず自然に意思表示ができるようになった日樹だが
自己主張とは話が別だ
目的の場所へ行き着くまで何人の視線が体育祭のヒーローへ向けられたことか
一時のブームだから、しばらくすればほとぼりも冷めるであろう
とはいうが困惑するばかり

「美術部の顧問って、高等部の小梶先生だったよね」
「うん」

「知ってる!その先生って凄い評判良いんだっけ」

年齢も兄と慕うにほど近く
堅い教師イメージとかけ離れた美術担当教師
熱血風でもないのになぜか生徒の信望も厚いと中等部にまで名が知れている

「良いよなぁ~担当教師で授業への意気込みが変わるもんね」
「中等部の美術担任ってさ、おじいちゃん先生だし・・・」

小梶の噂は遥から聞き、その真意も自分で承知している
体育祭の偉業を讃えられるより、こうして小梶の優功な評価を耳にする方が名誉でならない

「諸藤君が美術部を離れられない理由はそこかなぁ?」
「え・・・?あ、・・・そんなわけじゃないんだけど・・・」

深い意味も無く尋ねられただけなのに
もしかしたら、うっかり口元に笑みを漏らしていたかもしれない
日樹は慌てて否定をする

「僕も美術部に入ろうかなぁ」
「やめときなよ、キミのセンスじゃ美術部は無理、無理
 医大志望らしく生物部でカエルを解剖している方が良いんじゃない」

「医大志望って・・・?」

「こいつの家は代々医者の家系だから、必然的に進路が決まっちゃうんだ」
「そうそう~ 選択肢がないのは進路のことで悩む必要もないけど、決められたままっていうのも
 つまらない気がするよ」

「そうなんだ・・・」

西蘭は一流大学への進学率も高く、このクラスメイトのように
入学時に既に進路が決まっている生徒も少なくない
義兄と同じ西蘭に入学しただけで自分の今後の進路についてまったく考えていなかった日樹は
名門校の現状をあらためて思い知ることになる

殻の中に居たままではこうした詳細を知ることもなかった
日々のさりげない会話から多くを学び、それが今までと違う自分へ導く
目の前には吸収することばかり、真っさらな心はそれを全て受け入れていく
まるで遥と過ごした時間のようだ


「じゃ、ここで・・・これから美術教室に寄って行くから・・・」

話題尽きずに高等部の校舎、体育館、昇降口への起点になる
中等部のはずれまで来ていた3人

「あ、そうなんだ」
「じゃね、諸藤君」

それぞれの場所へ

スケッチブックを小脇に抱えた日樹はクラスメイトを後にした










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オリジナルBL小説 GIFT~激暑・・・10・・ 連載約130話





晩夏~そして初秋へ





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体育祭の練習に明け暮れ
文化祭への出展課題がすっかり遅れていた
当日の本番が終了し、やっと提出することができる
小脇にスケッチブックを抱え、北のはずれの校舎三階、美術教室まで来ていた日樹

いつのもように美術教室から続きの準備室へ向おうとしたが、入り口の前で躊躇し足を止めた

誰かいる・・・

先客だった
顧問小梶のを含め二、三人の声が混じる
そろりそろり近づき気づかれないように顔半分で準備室を覗く

こちらに背を向け腰掛けているのが小梶、そして向かい合わせに座っている数人の生徒は
高等部の生徒だろう、大人びた表情や体格が中等部の最高学年の生徒と比べ
明らかに差がある
いつもは小梶に対面して自分が座っている簡素な応接セットのイスに腰掛けている三人
そのうちの一人が日樹に気づきこちらへ視線を向けた

「あ・・・」

見つかってしまった

「先生、後ろ」

新たなお客を察したその生徒が目配せをし小梶に知らせれば
いつもの優しげな面持ちで出迎えてくれる

「諸藤か?」

ここへ来れば心安らぐ時間を保障されているのだ
この上級生たちもきっと、日頃吐き出し場のない悩みを打ち明けに来たのだろう
先ほどクラスメイトと話題にした将来の進路、
きっと高等部ともなれば否が応でも付きまとう話題

自分と同じように容赦ない大人の味の珈琲でもてなされ小梶と談話する上級生
真剣な面差しはまず進路の相談に違いない

担当教科を教えるだけではなく、小梶は自部活以外の生徒を誰となく受け入れる
それが人づてに噂も校内に広まり、かつて遥や自分がそうだったように
足を運ぶ生徒が後を絶たない


「・・・提出課題が・・遅くなってしまったんですけど・・・」
それでなくても期限を過ぎているのに、更に今日は第三者の視線まで感じ少々気まずく
スケッチブックを差し出す日樹

「そうか、お前が最後だったな 悪いが隣の部屋にパネルがあるだろう
それに入れて多目的ホールへ掲示しておいてくれないか?
お前のスペースはあけてあるからすぐにわかると思う」

「はい」

まだ談話途中なのだろう、小梶は簡単な指示だけし日樹が頷くと先客の方へ向き直ってしまった
それが嫉妬ではないにしろ蚊帳の外の自分をちょっぴり寂しく感じた

週末の文化祭へ向け、校舎のいたるところで準備が進められている
美術教室は授業で使用されるため、前日ギリギリまでは美術教室並びの多目的ホールに
展示品を収納してある


進路・・・
そういえばつい先ほどもクラスメイトが自分の将来を早々と決めてるとことに驚かされたばかりだった

将来・・・まだ漠然とも浮かばない

恐らく父親の後を継ぐのは義兄であろうから
自分は家督相続に束縛されず自由な道を許されることになる
だが、自由というものは逆に選択を難儀する代物なのだ
このまま流される日々を送りながら、果たして高等部へ進級するまでに兆しが開かれるだろうか・・・

美術教室を出た日樹は廊下を道なりに進み、多目的ホールの前にたどり着いていた

ホールは教室二部屋分のスペースがあり
その室内にはすでに作品を掲示したキャスター付きのボードが何台か配置されていた
当日、この掲示板は美術教室へ移動される
展示済みの作品はどれも個性豊かなものばかりで、この中には美術関係の進路を考えている生徒もいるはず
『素晴らしい』、と賞賛するには今の自分にはまだ理解し難い作品もあったが
本格的に学べばその作品の持ち味も納得できるようになるかもしれない
小梶と同じ道、安易ではあるがたった今選択肢の一つにそれが加えられる

傾げていた首を戻し小梶に指示された通り自分の掲示スペースを探す
一列目、その裏面、二列目・・・順に作品へ目を通しながらゆっくりと進む

あった・・・

「・・・・・これは!?」




遥の残した絵



自分用に空けられたスペースの直ぐ隣、そこには作成者の名も記載されていない
一枚の風景画が貼られていた
日樹のように期日に間に合わなかったのだろうか
まだ作成途中の絵は “ 風の広場 ”に違いない
日樹の描いたものととてもよく似ていた

そして、それが誰のものか・・・
日樹にはすぐにわかった

さぼってばかりで
他人のものばかり覗き見をしていた彼のスケッチブックは
いつ見ても真っ白だった
それでも限られた時間の中でここまで描き残したのか

遥・・・


「他校の生徒の作品を無断で掲示するわけにはいかないからな」
「先生・・・」

声に振り返れば、背後に小梶が立っていた

「名無しだが、それなら掲示しても良かろう」

西蘭学院に在籍していたとはいえ、
転校してしまった生徒の作品を無断で展示するわけにはいかない
小梶や日樹の心の中で遥はまだこの美術部の一員だとしても
それは学院のルールに反する

名無しだろうが、諸藤
お前にはこれが誰の作品かもうわかっているよな?
小梶の瞳が日樹にそう問いかける

これが小梶の計らいだ
答えはもちろん・・・

「・・・ええ・・・」

日樹はその名無しの作品の隣に自分の絵を心勇み立たせながら並べた









  ずっと友達だよ・・・





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オリジナルBL小説 GIFT~激暑・・・10・・ 連載約130話




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時の流れは残酷に
美しい想い出さえも薄れさせてしまう
忘れてしまおう、決してそう願うわけではない
次から次へと受け入れる真新しい鮮烈な場面に追いやられ
完全に消えることなくても褪せては霞んでいく
大切な想い出




日樹、西星学院で迎える
~三度目の秋~




ここから風の広場を眺める
そんなのんびりとした時間を過ごすのが好きだった
準備室の机の上には見慣れた文字
特徴のある筆跡は小梶のもの
達筆とはいえないが、角、角した几帳面な文字はまるで何か模様のようで
一度それを見れば、美術教師らしい彼の筆跡とすぐに判別できる


遥を通じて親しくなった高等部美術担当教師
年のころには義兄に近く、ことさら親近感が沸く

いつもならその彼が出迎えてくれるこの空間
このところこうして彼不在の時間を過ごすことが多くなったような気がする
沸きあがる不安にあり得ないだろうことを仮定しては打ち消す
結びつけてみれば思い当たる節はいくらでも浮かび
傍にいる自分が原因ではないかと思い至る時もある

小梶の心情を推し量ることはできない
まして彼の現在の境遇を知るよしも無い

思い返してみればその頃からだったろうか
運命の歯車が少しずつ乱れだしたのは・・・


持ち前の性格それだけではなく
遥が相談をもちかけた内容が誰のものより小梶が共感したのだろう
その遥との別離からもう丸2年が過ぎた
連絡先もわからないまま
それが遥らしいといえばそうなのだが
もしかしたら全て承知の上で一切口外しない小梶
遥がそれを望んでいるのに違いない

だから尋ねることもしない
遥が残してくれた
『またいつか逢えるよね』

その言葉だけを信じて

『一流の人間になるためだよ』
西蘭に入学した遥の目標はそれだ
事情あってここを去らなければならなかったのは
どんなにも口惜しいことだっただろう


だが
遥ならきっと大丈夫だ



一陣の風に揺れる“風の広場”の木々を眺めながら時折思い見る
それから何も変わっていない
失うものも無く平穏に過ぎていく毎日
それが心地よかった





準備室の扉がカタッと音を立て開く

「すみません、小梶先生はいらっしゃいますか?」
中等部の生徒であろうか
小柄な生徒がおどおどしながら遠慮がちに立っていた

救いを求めてここへやってきたのだろう
小梶に悩みを打ち明けたくて美術教室を訪れる生徒は今も後を絶たない
かつての自分もこんな姿だったのだろう
中等部最上学年となった今、当時より少しではあるが背も伸びていた


「まだ職員会議中かな?」
ここへ出入りする生徒が何人もいる中で
小梶の助手気取りというわけでもないが
美術部員の特権で自由に行き来することができるようになっていた

「そうなんですか・・・」
既に何度も空振りを食らったのか、残念そうだ

「うん」
「・・・じゃぁ駄目かな・・・また伺います」




下級生




自然に流れる滑らかな言葉遣い
どこか洗練された上品さが見受けられる
やはり良家の息子なのだろう

「待って!ここで先生を待っていれば?」
しょんぼりと俯き引き返そうとするのを呼び止めれば

「良いんですか!?」
不安顔は見る見るうちに華やいだ
少年というよりソフトな顔立ちは少女のように優しげで

「小梶先生はこの頃お休みが多いみたいでなかなか逢えなくて・・・」

彼の言う通りだった
夏過ぎた頃から気にかかるほどに休暇をとっている
どこか体調でも悪いのだろうか・・・

準備室の中へ通し
年長者らしく小さな訪問者をソファに導く
自分が末っ子ということもあって
こうして年下の面倒をみるのが日樹には嬉しくもあり照れ臭くもあった

「あの・・・先輩は美術部なんですか?」
温かいもてなしに警戒心も緩んだのだろう
真っ直ぐに尋ねてくる後輩

「え?・・・あぁ」
小梶の傍に居付いてしまった自分
見よう見まねで挽いた珈琲は
小梶がホームグランドに戻ってくるのを楽しみに先回りして準備していたもの

日樹自身も顔を合わせるのが久しぶりだった
小梶の戻りが待ち遠しい

「珈琲・・・飲む?」
きっとこの小さなお客の口にはにが過ぎるだろう
しかしこの部屋を訪れるゲストにはお約束のこと
小梶の決めセリフをそのまま真似てみるが
やはり気恥ずかしい

「はい!」

笑顔で元気良く返ってきた返事に顔をほころばされた




勝手知ったる身で棚からマグカップを取り出し
コポコポと珈琲を注ぐと
瞬間、ふんわりと深みのある香りがこの準備室に充満する

「ボク、先輩のこと知ってます」
カップを両手で受け取った彼は、友好的な挨拶で日樹に打診する

「あの・・・小梶先生とよく一緒に居らっしゃるから・・・」

彼の言う通りではあるが
本人達以上に傍目から見る印象はシビアなのだ
さして深い意味はないのだろうが、
続いて自分の分の珈琲をカップに注ぐ手が少々落ち着かなかった


「好きな人がいるんです・・・」
「・・!?」
「その人高等部の人で、なかなか逢う事ができないから
高等部の美術を教えている小梶先生にいろいろ聞きたくって」

驚くべきこの発言が、珈琲を注ぎ終わった後で良かったと
日樹がどれだけ冷や冷やしたことか



どうやら彼は恋の悩みを相談にきたらしい・・・




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