おしゃべりしようよ

ひな祭りの白玉フルーツポンチ






最後のひな祭り
旦那ちゃんは家にいた。


食が細り
歯茎への転移の放射線治療のため、
味覚が麻痺していた。

肺への転移も、もはやどうしようもなく
一日中咳が止まらなかった。


どんなにか、辛かったことだろう・・・。


足関節へも転移していたのだと思う。
痛みがひどく
歩くことも困難になっていた。

体重もめっきり減ってしまい、
激痩せしていた、私より軽くなっていたと思う・・・。


そのことは、私にとって大きなショックだった。


経口で摂取するモルヒネも処方されていた。


体調が思わしくないから、不機嫌で
Rottyの遊ぶ声も気に障るらしい・・・。


声を潜めるように、過ごしたひな祭り。


「お祝いするようなことを、何かしてあげたい」
そうは思っても、
私もいっぱいいっぱいで、
どうしようもなかった・・・。


その時、Rottyが
「保育園で白い御餅みたいなのが入ったやつ食べたんだ」
「桃とかみかんとか入っていて、美味しかった」
というような話をしてくれた。


どうやら、白玉ダンゴ入りのフルーツポンチらしい。


材料をどうやってそろえたのか・・・
その辺の記憶はない。
でも、二人で白玉粉からお団子を作り、
フルーツと合わせてフルーツポンチを作った。


食が進まない旦那ちゃんにも
なんとしても、食べさせたかった。




その時撮ったのが、生前最後の写真になった。


写真を撮られるのを嫌がっていたので
Rottyを撮るようにして、隠し撮りした彼の姿。

写真の端っこのほうに、なんとか写っていた。


下を向いて、
Rottyの作った白玉フルーツポンチを食べている旦那ちゃん。



どうしようもなくて
旦那ちゃんの苦しむ姿を見守るしかなくて
せめて、手足の変わりになろうと
神経をピンピンに張っていた。

少しでも、心地よく過ごさせたい
少しでも、苦痛を取り除いてあげたい

それがすべてだった。


Rottyにとっては、我慢我慢のひな祭り。
いい子だったね。
あの頃も。






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