舞い降りた天使は闇夜を照らす  4

僕は乗っていた電車から降りると急いで反対車両に乗るべく、階段を2段飛ばしで駆け上がり高架になっている通路を全力で走って反対側に位置する階段を今度は3段飛ばしで駆け降りた。



さすがに息があがって汗もかいてしまった。



脇汗が気になるので一応エイトフォーの小さいのを購入しようと思った。



全身から汗が噴き出ているからあぶら取り紙も必要かな?と考えている間に電車がホームに滑り込んできた。



携帯のメールをチェックすると健也から



「遅い、打ち合わせどうすんだ!」と短い事務連絡のような、でも怒り心頭のメールが着ていた。



僕は落ち着いてくる心拍数を感じながらゆっくりとメールを返した。



「すいません、チョット遅れます。」



なんで敬語かは自分でもわからない。
きっと僕は疲れているんだ。
家に帰って休もう。
違う、違う!
バカ!
これから人生初めての合コンに参加するのではないか!!
僕はまたガラスに映る自分をチェックして渋谷に着くまでの時間を潰した。
ここでもやっぱり訝しく見られた。僕を見つめてきたのは中年の会社帰りと思われる顔があぶらでテカテカのおじさんで、お腹にボウリングのボールを入れているような真ん丸な人だった。



今度、僕はその場から逃げることなく堂々と髪の毛をセットした。
走ったので随分と髪の毛が乱れてしまった。



渋谷に着くと僕はすぐに健也に電話をかけた。
「ごめん、今着いた。 健也はどこにいる?」僕は早口で捲し立てる様に質問した。
タワレコの方のマックに誠と一緒にいる、と健也は言うので僕は足をそちらの方向に向けた。



モヤイ像と逆方向じゃんか!と思ったが口には出せない。
僕が遅刻したのが悪いのだ。


マックに着くと100円のホットコーヒーを買い喫煙席に居るはずの2人を探した。



はたして二人は、居た。
少し灰皿の煙草の吸い殻の量が多いことが僕の遅刻を責めているようで困惑した。



だけれども二人に片手で手刀を切りながら謝りの言葉を述べながら近づこうとすると思いの外に明るい声で「やっときたか~」とのんびりとした声が聞こえた、声の主は誠だ。



誠は祖父がやり手の経営者で店や土地を持っている。
バブルの全盛期に荒稼ぎをして今は隠居生活だという。



「おぉ、別に変な心配しなくて良かった。 幸一にしてはルックスは上出来。元々の顔は変わらねーけど。 てかもうすぐ女たちが来ちまうから作戦を立てるぞ。」健也は目をぎゅっと瞑り話し始めた。



「まず最初の誠の親父の店では絶対酒に飲まれるな、女に飲ませるのは構わないけど飲ませ過ぎるな。 酒の席だとは言っても失態を見せたら次回が絶対になくなる。」健也は真面目腐った顔と声で喋り続ける。



あぁメモ用紙持ってくれば良かったと少し後悔した。
隣では誠が顎を少し引いて頷いている。



「誠の店で軽く飲んだらカラオケに行く。 今日は休日前の金曜日だから割増料金取られるけどそれはこの再仕方がない、飲み放題付きの店に入る。 そして女にここで酒を飲ませろ。いいか、打ち解けてからの女の行動は大胆になる。


最初に確認しておくが王様ゲームとかポッキーゲームはNGだ。」




え?
王様ゲームもポッキーゲームもNGなんですか?
僕それしか知らないんですけど…



健也はなおも話を続ける。
「酒を飲んだらトイレで吐け。 俺達が潰れたら負けだ。」
誠は今度はそうだ!と声に出した。



「今夜は童貞喪失記念日になるように俺も誠も全面的にバックアップする。」健也は断言した。


僕は声には出さなかったけれどもただ学部は違っても同じ大学の女の子の友達が増えれば少しはキャンパスライフが楽しくなるくらいにしか考えていない。



コンドームを買ったのは…
うん、万が一の… 億が… テラが一の可能性を捨ててはいけないと思ったからだ。



健也が断言した後に三人で100円マックのホットコーヒーで乾杯をした。
そしてそれから1分も経たないうちに健也の電話がメロディーを奏で始めた。



遅れてくる女の子以外の二人の女の子が渋谷のハチ公前に着いたらしい。




「よっしゃ、準備はいいかチェリーボーイ?」健也が右手を僕に向けてきた。
僕はその右手の掌にハイタッチをして「OKです!」とここでもまた敬語を使ってしまった。



温くなったホットコーヒーを一気に飲み込み僕たちはマックを出た。
ハチ公前に向かう途中で健也がポケットから「ウコンの力」を僕に差し出した。
「コンドームは後で渡すから」と笑いながら健也は小さくジャンプをした。


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