舞い降りた天使は闇夜を照らす9

青山さんはピッタリと健也にくっつき、誠はバタコさんに鉄道のファイルを見せていた。



バタコさんも鉄道が好きらしく「キハ」とか「モハ」とか年末年始の帰省の新幹線とローカル線の話を時刻表片手にしていた。



時刻表も持ち歩いてんの?!



と僕はびっくりしたけど隣に座る如月さんが気になって適当な会話をしようと「渋谷に住んでるの? 実家なの??」と聞いた。
すると如月さんは悲しそうな顔になって「一人暮しなんです、一人だと家に帰っても誰もいないから真っ暗な部屋なんです。 蛍光灯のスイッチを手探りで見つけなくちゃいけないんです。 間接照明は点けてあるんですけど… なんか頼りなくて。」



渋谷に一人暮らしなんてリッチだなーと思いつつ、実家はどこだろうと聞こうと思ったけどなんとなく止めておいた。



女性が渋谷で独り暮らしをするのはよっぽどの大金持ちなんだと自分で勝手に納得した。



僕と如月さんとみんなの酔いが回ってきた頃に健也が「よっしゃ、カラオケ行く人~!」と呂律が怪しくなった声で仕切り始めた。



もちろん僕以外は如月さんと僕をくっ付けたがっているので全員参加になった。



僕、歌には自信があるんです。



と、僕は心の中で呟いた。



新譜は知らないけれども一昔前の歌ならばっちりです!


会計は誠が済ませて店を後にして6人はカラオケに出陣する事になった



僕たち6人は誠の父親の店で飲んだアルコールが程よく回り、師走の渋谷の街を歩いていた。
街を照らすイルミネーションがとても綺麗だ。



青山さんと健也は二人寄り添うように先頭を歩いている、誰が見ても仲の良いアベックにしか見えない。
バタコさんと誠も健也たちの後を二人仲良く歩いている、これまた仲の良いアベックにしか見えない。



僕は、如月さんと並んで最後尾を歩いていた。
僕たちは世間から見たらどう見られるのだろうか?と考えながら歩いていたら右手の人差し指でメニュー表をくるくる回しながら退屈そうに立っている、ロン毛の金髪を左手でしきりにかき上げている居酒屋かカラオケボックスの客引きに声をかけられた。



「カラオケいかがっすか? ノミホーで朝5時までOKっすよ。」
客引きは最初無表情で僕の顔を見ているだけだったけど如月さんに目をやると急に息をのんで追従笑いで「お安くしますから前歩いてるのお友達でしょう? 6人で朝まで3000円で! どうすか? 破格ですよ」と捲し立てた。
するとすぐに健也が「幸一、なにやってんだ行くぞ~」と声を掛けてくれた、助かった。 正直切り抜け方がわからないで戸惑っていた。




そんな事がありつつもすこし歩くと健也が「はーい、着きました。 予約入れておいたから… あ!時間10分過ぎてるじゃん! みんな早く早く!! 入って入って」と急かして僕たちをカラオケボックスの店に押し込んだ。


6人にしては少し広すぎるボックス内は小さなミラーボールがくるくる回っていた。
な、なんと豪華な…
まさか…



「ここも大蔵省こと誠先生のお父さんの経営するお店の一つです~」とおどけて健也が言った。
僕は「やっぱりお前か!」と腹の中で呟いた。
どんだけ金持ちなんだ?



健也は「はいはい、みんな座って座って。 はい、ソフトドリンクもアルコールも飲み放題だから。 大蔵省さんがいるからビールも飲み放題だよ、あ、でも女の子ビール飲まないか~」と健也が一人で仕切っている。



僕は如月さんの隣に座ってカシスソーダーを注文した、如月さんも「あ、じゃあ私もカシスソーダーで」と右手をひょっこり挙げて照れくさそうに俯いた。



か、可愛い過ぎる。
こんな人とは一生お近づきになれないと勝手に思い込んでいた僕だったけど…
健也と誠と青山さんとバタコさんのお陰だ、ありがとう。



「はいはい。歌は誠くんから歌います。 「GReeeeNの愛唄」をお願いします。」
と健也が無茶振りをした。
でも誠は歌が男三人の中で一番上手いのだ。



「はいよー」と青山さんが選曲の機械を操作して曲を入力した。
イントロが流れるとだらしなく笑っていた誠の顔がきゅっと引き締まった。



「ねぇ大好きなキミへ…」



歌いだすと女の子たちはあまりの歌の上手さに顔を見合わせた。
各々手を叩いたり手を挙げて右に左に揺れて誠の歌を聴いた。
歌が終わると盛大な拍手が誠に送られた。


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