舞い降りた天使は闇夜を照らす10

誠は「今日は喉の調子が悪いな」と憎まれ口を叩いた。
充分だっつーの。



「じゃあ次は女の子歌ってよ、パヒュームいける?」と健也は女の子に聞いた。
僕の記憶だとパヒュームは三人じゃなかったか?
一気に三人に歌わせるつもりか?
正気か?



「私、歌えます。」と遠慮がちに如月さんがまたぴょこんと小さく手を挙げた。
「おーじゃーいっちゃおう!」と健也は機械を操作して曲を入れた。


はたして如月さんも歌はプロ並みだった。



「歌上手いね!」と僕が感心して如月さんに話しかけると如月さんは申し訳なさそうに「そんな事ないです…」と謙虚に否定した。



「いや、でも声量もあるし。 ボイストレーニングとかしているの?」僕は酔いが回ったのだろう饒舌に如月さんに質問をした。



「いや、たまにストレスとか溜まった時に一人でカラオケボックスで歌ってストレス発散しているんです」



そうなんだ、と言いつつも僕はこんなキレイな女の子もストレスが溜まるんだと少し驚いた。



僕は可愛い女の子は「トイレに行かない」「ご飯はチョコレート」だと信じて疑っていなかった。
これからは少し考え方を改めなくてはいけないと思った。



マイクが一巡した後、健也が僕をトイレに誘った。
トイレでは「そろそろだな。」と健也が神妙な顔つきで言葉を発した。
「なにが?」と僕はアルコールの酔いと「ケツメイシの涙」を歌った後の気持ちの良さから頓狂な声で聞き返した。



「ホテルですよ、ラブの方。」健也は遂にその言葉を発した。



天空の城ラピュタの「バルス」と同じくらいの破壊力を持つ言葉だ。
僕は今日は楽しく朝まで飲んで、何回か同じような飲み会や忘年会や新年会やBBQや海へ行って場数をこなしてお互いの気持ちが高まってから…とおもっていたのだけれども。 健也は厳しい目つきでこちらを見ると「今日しかない。」と言った。



僕は何のことか最初分からなかったけれど健也は切々と話し始めた。



「来年になったら如月さんはフランスに一年間だけ留学するそうだ、年末の今日に飲み会を開いたのも幸一が童貞を捨てるためでもあるし… なにより如月さんのためだったんだ。」



僕は眩暈を感じた。
一年間、長いよな。
受け入れ難いよな。
でも本人の意思ならば僕がとやかく言う問題ではない。
受け入れよう。
僕は決心して健也に



「途中で如月さんとカラオケボックスから抜け出すから、如月さんと僕の料金は今払っておく。」と言った。



すると健也は「ばーか、お前らから金なんか取れるかよ。 それよりホテルの場所は分かるか? 道玄坂を上がったエンジェルっていうホテル…



もう予約してあるから」



「はっ?!」僕は健也の手際の良さに舌を巻いた。


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