気がつけば、思い出し笑い

ショートストーリー3



 ひさしぶりにかわいい女の子に出会った。
 2週間前に新しいバイトの女の子が入った。
 それまでは、僕の母親くらいの中年の女性とシフト上いっしょになることが多かったのだが、そのオバサンが賞味期限切れで廃棄処分にしなければならない弁当やパンなんかをこっそり家に持ち帰っていたのがバレて、首になってしまったのだ。
 おかげで 今はバイトに行くのが楽しくって仕方がない。

 ミナちゃんは19歳の短大生。バイトはこのコンビニが初めてだというが、なかなか優秀で、コンビニバイト歴2年の僕が気づかないようなこともいち早く気づいて、ささっと動く。
 実は3ケ月前に つきあっていた彼女に二股をかけられたあげく、ふとしたことからもうひとりの男の存在に気づいた僕が元カノに詰め寄ると、謝るどころか、逆ギレされて、“そこまで言わなくてもいいんじゃないか”ってくらい人格否定されてフラレてしまったのだ。以来、なんとく女性不信に陥っていた僕であった。

 それなのに!見た目は雑誌の読者モデルみたいにかわいいけれど、けなげにこんな郊外のコンビニなんかで働くミナちゃんにきゅんっとしてしまった。ほんと、恋って予想つかないよな。

 今日はラッキーなことに2人きりのシフトだ。
 とは言っても、僕は夜8時から朝5時までの深夜勤で、ミナちゃんは夜10時にはあがってしまうので実際は2時間しか一緒にいられない。そしてこの2時間が意外にも忙しい。でもオーナー店長も休憩をとる時間帯なので話こそ満足にできないながらも、僕は2人の空気を楽しんでいた。

「あれ なんか おかしいな」と感じたのはミナちゃんが何度も
同じ質問を繰り返すせいか、派手におでんの鍋をひっくり返した時だったか、はたまた シャンプーを買ったお客さんに「あたためますか?」と聞いたからだろうか。
 なんだか、今日のミナちゃんは最初からぼーとして 心なしか顔も赤い。

 「熱 あるんじゃないの?」
 「うち、体温計ないから わかんないんです」そう答えながらも、ミナちゃんは今にも倒れちゃいそうだった。
 大丈夫だと言い張る彼女を説き伏せ、僕が勝手に帰宅させたことに店長は大不服らしく、何度も嫌味を言われたが、僕の頭のなかは別のことでいっぱいだったのでどうでもよかった。

 バイトからの帰り道、僕は腕になかに ビタミン剤と女の子向け強壮剤(○ンケルとか リアル○―ルドじゃなくて)、そして小さな花束を抱えている。笑っちゃうくらい古典的だけど「お見舞い大作戦」なのだ。もちろん下心ありありだ。
 そして、ミナちゃんの部屋に近づくにつれ高鳴る胸の動悸と格闘する自分を持て余している。
 自転車のブレーキとか、どこかの台所で食器がふれあう、早朝のいろんな音を聞きながら僕はミナちゃんの部屋のドアノブにそっとお見舞いをひっかけた。
 帰り道はスキップしてしまいそうな気持ちをぐっと抑え、少し早足で帰った。すれ違う小学生と同じくらいのスピードで。


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