闇光線

闇光線

太陽が西に沈む頃 前編


その日は、雨が降っていた。誰もいないはずの商店街に一人の男がやってきた。男はすらっとしていて背は高く、真っ黒なコートを風になびかせながら歩いていた。男の指している傘はぼろぼろで、所々に穴が開いていた。男はしばらく誰もいない商店街をぶらつき歩いていたが、ある店の前で立ち止まり、ぽろぽろと大粒の涙を流した。そこは彼の家だったのだ。

家に帰った彼は、いつもつけていた腕時計を見つけ、しばらく眺めていた。そのデジタル時計は3140年1月22日23時59分を指していた。1分経って日付が変わると、男はフッと笑い、「また俺だけの一日が始まった」と悲しそうにつぶやいた。そう、人類は滅亡したのだ。彼は人類の生き残りだった。

彼の名は西崎翔。大企業に勤めているバリバリのビジネスマンだった。 誰もいなくなった東京からここならいるかと思い、帰ってきたところである。
彼は、しばらく眠った後、せっせせっせと用意を始めた。非常食、携帯GPS、発信機、暗視スコープ、集音気など、ありったけのものを携帯の中にある4次元空間に放り込んだ。その携帯をポケットに入れ、家のガレージに入れてあるエアーカーに乗り込んだ。「よし。」そう意気込み、彼はぼろぼろのガレージを飛び出した。

彼は頭はよかったが、運動は得意ではなかった。自分が生き残ったのなら、他にも生き残っているやつが一人ぐらい入るだろう。そんな気がした。反重力作用で動くエアーカーは猛スピードで商店街を突っ切っていった。

「本当は被害にあったのは関東だけで他の場所は皆いたりするのかな」なんていう理想を言いながら彼は中央自動車道に乗った。とりあえず大阪に行けばだれかいそうな気がしたから。

何日間探しただろうか。大阪のどこにも人がいない。死体ぐらいはありそうなのにそれさえない。
大阪の支配者は人間からネズミへと変わってしまったのだ。「ここもいないか。もう大阪は全部回ったな。しっしっ。よってくんな。福岡にでもいってみるか。被害が本州だけにとどまっていてくれたらなぁ。」そう願いながら彼は、山陽自動車道に乗り、福岡へと向かった。
[2]
 「人類滅亡?」
理恵は笑って聞き返した。たった一週間後にそれが現実のこととなっているなんて…

 人類が滅亡してしまってから、しばらくたった後の博多駅は静まり返っていた。九州最大の駅であった面影は全く残っていない。いるといえば、大阪同様にネズミくらいのものだ。ただ、博多駅から数キロ西に向かった所にある一軒家、そこに一人だけ生き残った女子の姿があった。

 3140年現在、人類は更なる文明を築き上げてきた。特に二十一世紀から進歩したものとして、まずはエアーカーが挙げられる。一時は石油の枯渇により、自動車がなくなるという事態に陥るとまで言われたが、空気を燃料にするエアーカーの開発が成功して、今はそのエアーカーが主流となっている。尚、性能なんかはあまり二十一世紀の物とは変わっていない。
 もう一つ例を挙げると、二十三世紀の学者が地面から出るエネルギーを、電磁波として地上に流す仕組みを発表した。その仕組みが生かされているのが、現在の携帯電話の充電である。それで生み出すことの出来る電磁波は、そこまで大きいものでもなかったので、家庭用に使うことは出来なかったが、携帯電話にその電磁波を受信する装置を付けることで、それの充電にのみ電磁波を生かすことが出来るようになったのだ。それにより、携帯電話は自動で充電されるようになった!!
だが、思ったほどに研究が進んでいない分野も多く、例えば宇宙開発なんかは点でダメ。月に一般人が住んでいることなんてないし、宇宙旅行もいくら札束を積んだって出来ない。石油が枯渇しても、エアーカーが出来たおかげで自動車などの問題は大丈夫なのだが、ロケットを飛ばすほどのエネルギーはなかなか手に入らない。これが宇宙開発の進まない理由だ。
大きく進歩した文明、でも、それを作り出した人類は、信じられないくらいあっという間に姿を消してしまった。

 田代理恵(たしろ りえ)、博多の一軒家に住む生き残りの女子である。
 彼女は、そこそこ裕福な家に住み、何だってある程度の事はこなせる器用さを持ち、器量だって悪くない女子高生である。ただ、ちょっと人見知りなところがある。
「どうすればいいの。」
ここの所、何か呟くとすればそればかりだ。まぁ、話し相手すらいないのだから仕方ないだろう。それに加え、お腹が減っているから、あまり何もしたくないのだ。
 家にあった食糧も尽きてきた。もう、少しの缶詰が残っているだけだ。
「………」
数日前から降り続いている雨も、だいぶ小雨になってきた。このままでは何も始まらない、でも歩き出す気にはならない。彼女は再びソファにもたれかかり、呟いた。
「このまま、死んでしまおうかな?」
彼女は、もう孤独に押し潰されそうになっている。それを分かってくれる相手もいない孤独な世界となってしまった。この地球は!!
[3]
 まったくばかげている、と岸川省吾はため息をつくばかりだった。
航空自衛隊春日基地の若きパイロットであった彼はいつもの訓練飛行を終え仕事をしたあとは家に帰り妊娠4ヶ月目の妻のお出迎えを受けた。
 そして朝起きたら―この有様だ。まず妻の姿が消えていた。危険を感じた彼は警察に電話するが全く繋がらない。そもそも電話自体が機能しなかった。彼は家の中、周辺を声を荒げて探し回ったが、結局成果はなかった。
 「咲!」妻の名前を絶叫しながらあたりを走り回った。途中おかしいことに気付く―人の気配がしない。都市部のほうからくるはずの喧騒もまるで嘘のようだった。
 車で警察署へ向かう途中信じられない光景が続いた。誰もいない。死んだ車が道にあふれかえっていて都市全体が遺跡になってしまったようだった。
 警察署へ行くのはやめた。結果はすでに見えている。

 ひとまず落ち着いて対処しないといけない。雨が降り始めた。
 彼はとにかく動こうと思い街を探索したが無意味な行動だと知ったときはすでに夕方。雨もそろそろやんできた。
 突然妻がいなくなり、人がいなくなり、ひとり取り残された。これは戦争か?兵器の進化は止まることを知らないが、こんなのは戦争のわけじゃない。じゃぁ、なにが起こったのか?
 偉大な神々が行った黙示録。何かの間違いで取り残された俺。やが真の者たちがこの星を統治し―危険な考えはやめろるんだ、省吾。危ない、俺は疲れきっている。
一人冷たいパンの夕食を済ませて死んだように眠った。

 翌朝、彼は無駄かなと思いつつも戦闘ヘリでの捜索に踏み切ることにした。ヘリが機能すれば、の話だが。
 基地までの道をのろのろと進み、今は誰もいない春日基地のコンクリートを踏んだ。
 駐機場までいくと航空機たちはそのままになっていた。なれた手つきでヘリを始動させる。いい調子だ。
 空から大都市福岡をみた。そのとき一台の車が走っていた。
[4]
ブルルルルルルルルルル・・・・・・・・・・・・・・。
「うわっ!誰だ!?」翔は銃を構えた。
「どうせ誰もいないか。」といいながら、しまった。
ブルルルルルルルルルル・・・・・・・・・・・・・・。
やっぱりどこかから音がする。
この音はものすごく久しぶりに聞くような気がする。そうだ。ヘリだ。ヘリコプターの音だ。
「何だヘリか。・・・・・・ってヘリ?」ずんずんとヘリが高度を下げてくる。「お~い」翔はエアーカーを下りて手を振った。やがてヘリは翔の目の前に降り立った。ドアが開き、中から出てきた自衛隊員、岸川省吾と目が合った。そして二人同時にこういった。「助かった~。」

「なるほど。あなたも自分しか生き残っていないか調べに着たんですね。」
「とりあえず他にも生き残っていないか調べましょう。上空からならほぼ街中見て回りましたし。」
「どうやって調べるんです?」
「そりゃぁ、地道に。」
「やっぱりですか。」二人は一軒一軒見て回ることにした。

「そういえば、あなたはどこからいらしたんです?」
「神奈川のほうから。」
「神奈川?!遠くからいらしたんですね。」
「私の見た限り東京と大阪はもう完全にアウトですね。」
「そうですか。」翔には省吾の顔が少し悲しそうな顔をしたように見えた。
「とりあえず、福岡は僕が生き残っていたのですから県内には誰かいそうですからね。博多駅にでも行って見ます?」
「そうしましょうか。」

二人は博多駅へと向かった。
[5]
エアーカーで博多に向かう二人、省吾の顔は一向に晴れる気配がない。
「どうしたんだ?」
翔は思い切って尋ねてみた。しかし、
「何でもない。」
という声が返ってくるだけだった。

 理恵は携帯電話の画面に映る、由梨の姿を見ていた。数週間前の、彼女との会話を思い出した理恵は大粒の涙を流していた。

 数週間前のある日、いつもどおりに理恵は家を出て高校に向かった。博多駅へは自転車ですぐで着く、そこから電車でたった二駅、名前の通りで本当に恵まれているなと思う。
 教室に入ると、由梨の姿が見えた。彼女は理恵にとって唯一無二の親友である。
「おはよう。」
声をかけられた由梨は手を止めて挨拶を返した。
「また、漫画を描いているの?」
由梨は漫画家を目指しているらしい、それでよく少女漫画の雑誌に投稿しているそうだが、「がんばりま賞」以外に名前が載っていたことはない。
「まぁね、来月に投稿するのも大詰めだから。完成したら見せてあげるよ。」
 二人は、共に人見知りで、あんまり友達がいない。理恵と話し終えた由梨は、すぐに目線を紙に向け作業に取り掛かる。その姿を見た理恵は、そっと微笑んで立ち去った。
 昼休み、理恵は由梨に尋ねた、
「新作はどんな話なの?」
「ずぃんゆいにぇにゅにょー」
口に物が入っている時に話すものではない。
「何て?」
由梨は口にある物を飲み込んだ。
「人類滅亡。」
「人類滅亡?」
理恵は笑って聞き返した。たった一週間後にそれが現実のこととなっているなんて知らずに。
「今回は絶対にいける。」
由梨が自信気に言っているのが余計に可笑しく、更なる大笑い。
「笑わないの、夢は大きく持たなきゃね!!」

 夜九時、由梨は自宅で勉強を始めた。その日は、異常な程に宿題が多かったのだ。
 そして、深夜十二時、宿題を終えた彼女は二本の紐、いや二本のミサンガを取り出した。由梨から聞いた話によると、これが切れたら願いが叶うらしい。それで、由梨とペアで着けようと思い、編み始めたのだ。一本は既に完成しているのだが、まだ着けていない。やはり、二人一緒に着けたかったからである。
「よし、こっちも大詰めだ。」

「ねぇ、もしも願いが叶うなら何てお願いする?」
一週間後の学校で、由梨へ唐突に尋ねた。
「私の漫画が賞をとること。」
普段から思い続けているのか、即答であった。そんな前向きな由梨が、理恵は好きであった。ペンを動かし続ける由梨の手元を、理恵はずっと見つめていた。

「出来た~。」
理恵はミサンガを手に持ち、大きくのびをした。その夜、ミサンガがついに出来上がったのだ。その後、彼女は完成した安心感からか、椅子に座ったままでぐっすり眠ってしまった。
 翌朝、理恵が目覚めた。
「あれっ、椅子に座ったまま寝ちゃったのか。」
そして、目の前を見るとミサンガがない。机の下にもなければ、カバンの中にも入っていない。そもそも、カバン自体がない。
「あれっ、何処だろう?」
もしかして、父が持っていったのだろうか?父はカタカナの物が大嫌いなのだ。
「嘘っ…」
リビングにも寝室にも両親はいない、それどころか、家中がもぬけの空ではないか。
 家を飛び出して、博多駅に向かおうとした。助かった、自転車は残っている。しかし、ペダルを漕ぐだけ無駄、博多駅に着いても誰一人いない。電車だって動いていなかった。
「由梨…」
博多駅から方向転換し、由梨の家へ向かった。彼女の家には一度しか行ったことがないが、記憶力には自信がある。
 一時間くらいかかった、それでも由梨の家に辿り着いた。チャイムを鳴らそうとしたが、手が悴んで動かない。こんな真冬なのだから仕方ないであろう。そして、チャイムを鳴らしたが、やはりいなかった。唯一の友達を失くしてしまった、そんな気がして仕方なかった。理恵には、もう漕ぎ出す気力は残っていなかった。

 それでも、携帯電話の画面には由梨の姿がある。私は一人じゃない、これがあるだけでそう思えた。
 プチン、そう思った途端に電源が切れた。
[6]
一人の男が寝室で寝ている男女にゆっくりと近づいていく。手には注射器のようなものを持っていた。男女は何も気付いていない。やめろ。逃げるんだ。このままでは―

 目が覚めると省吾は汗をしたたらせ上半身を起こした。隣のソファには翔が寝ていた。あれは何かの夢だが妙に現実味がある。今は夢のことなど考えてる場合じゃない―今のばかげた状況を考えろ。
 時計を見るとA.M 8:00 となっている。この世界で時計など意味があるのだろうか?
 二人は活動拠点として博多中心地のホテルを利用していた。ここで寝泊りすると決め、入ろうとしたとき自動ドアにぶつかった―開かないのは当たり前である。省吾はストレス解消とばかりに銃をぶっ放した。あっけにとられる翔を置いて一人ソファに倒れこんだ。
 ここまでの捜索の成果は皆無だったが、ひとつだけ妙なものを拾った。
 アップル社製の最新鋭ノートパソコン<ザ・ワン>である。
 パソコン自体は不思議ではないのだがこのパソコンはなんとインターネットに接続できた。だがつながるのは北米航空宇宙防衛軍(NORAD)や国家安全保障局(NSA)、公安調査庁などの各国の軍事・諜報機関のHPと無数にあると思われる、記号と文字の羅列のページだけだった。
 この状況を理解するてがかりのはずなのだがまったく無意味のようだった。

 翔を起こそうかと思ったとき外のほうで人間の叫び声がした。
「おぉぉぉぉぉぃいぃぃぃ!!!!誰もいねぇのかぁぁぁぁ!!!嗚呼嗚呼嗚呼!!!!」
「だーーーーーれもいない!!!!!だれも!!!いないいなっぁあぁ嗚呼嗚呼!!!!」
 人目で狂人とわかる。だがその男―年齢は20代前半だろうか―は小脇にノートパソコンを抱えていた。恐らく種類は―<ザ・ワン>
 勇気を出して彼に声をかけながら近づいていこうとする。ポケットに拳銃のふくらみがあるのを確認しながら。
「おい!お前!ここだ!どこから来たんだ!?」
「あっ?・・・・・・・」
「大丈夫だ。落ち着いて俺の話を聞け。俺は航空自衛隊春日基地・岸川省―」
「ひ、ひとだ!人だよ!!人がいるんだ!僕はなんだ!?そう!人さ!」
「(コイツ・・・元から狂人じゃないのか。しかしノートPCを持っている)・・・よし、とりあえずホテルに行こう。そこにもうひとりいる」
「ホテル?ホテルってラブホかい?あんたも・・・ホテルで寝るんだね。寝たいなぁ」
 どうにかして彼をホテルまで連れて行き、翔を起こして彼を調べた。
 運転免許証から彼は園山総一郎(23)とわかった。住んでるのは博多から2駅ほどのところのようだ。
 よく見ると名刺―この時代では考えられないが―を持っていた。粗末な名刺には
『インターネットセキリュティエンジニア 園山総一郎』
とあった。こんなやつが?もともとは普通だったのだろうか・・・。
 そして気になるのは彼のPCだった。園山が寝ている隙にPCを抜き去りPCを調べた。
そこにはひとつのソフトウェアしか入っていなかった。

『解除ソフト』


 理恵はなぜその男についていってしまったのだろうと考えた。初めて人を見たとき感激のあまりすぐに飛びつきたくなったが、よく見ると彼は狂っていた。それでもついていけば何かあるかもしれないというわずかな希望を抱いて中心地まで来てしまった。
 勿論、気付かれないようにそっとついてきたつもりだ。
 そこで理恵が見かけたのは狂人を必死でなだめようとする立派な体格の男の人だった。あの人は大丈夫かもしれない。
 理恵は足を踏み出した―
[7]
「あっ、あの~」理恵は勇気を出してその人に声をかけた。
「はい?あれっ、もう一人いたのか。よかった。で、君、名前は?」
「田代理恵です」
「はいはいどうも。俺は航空自衛隊春日基地・岸川省吾だ。よろしく。で、君はどうしてここに?」
「ずっと部屋の中にいたので、ちょっと外の空気を吸おうと思って外に出たら、その人がゆらゆらと歩いていたんです。で、追いかけて声をかけようとしたら、急にその人が騒ぎ出して、走っていったものですから。」といってその大いびきをかいて眠っているパソコンエンジニアを指した。
「そうか。はぁ、こいつがまともならなぁ。」
「そもそもこの解除ソフト、何の解除ソフトなんだ?」翔がカタカタとPCを打ち鳴らしながら言った。
「とりあえずこの馬鹿みたいな状況を解除するソフトだったらいいのに」
「はは、そうだといいですね。」
そんな冗談をかましているうちに頭の上まで太陽が来てしまった。

「さて、今、ここには、4人の人間がいる。俺とこの西崎翔は今生存者を探しているんだが、お前たちも来るか?って言ってもこいつは気が狂ってるし連れて行くしかないが、君はついてくるか?」
「もちろん!」
「ほう。ずいぶんと乗り気じゃないか。」
「探したい人がいるんです。」理恵の声のトーンが少し落ちた。
「まあ何にしろ、とりあえず行こうか。」
「はい!」
4人はエアーカーに乗り込んだ。

結局、その日は園山と理恵以外は見つからなかった。
「今日はここで寝泊りだ。」といって車を止めたのは、昨日泊まったホテルとは比べ物にならないほどボロッちい建物だった。人を探して中心地を離れてしまったからだ。
ボロボロの看板には「民宿 黒猫」と書かれてある。
「なんだか不吉ですね。」理恵は少し抵抗があるようだ。
「野宿よりはましだろ。」省吾が園山を担いで中に入っていった。
ホテルと違って自家発電ができないので、エアーカーの頭を突っ込んでライトをつけて電気の代わりにした。
翔、省吾、理恵の3人はエアーカーの目の前で寝た。
園山がまた騒ぎ出すといけないので、園山は障子一枚はさんだところに寝かした。

午前3:30、皆がまだ夢の中にいる頃、園山がむっくりと起きだした。
[8]
 朝七時、翔が目を覚ますと、残り二人は既に起きていた。
「おはようございます。」
理恵はなかなか礼儀正しい。
「おい、起きろ。」
そして翔は園山が寝ている障子を開けた。ところが、そこには誰もおらず、彼が置いて持っていたカバンが残されていただけであった。
「どうなっているのだ。」
省吾は思わず呟いた。だが、その呟きは掻き消された、翔が壁を壊す音によって。
 翔は精神的なストレスが溜まっていた、人がみんないなくなってしまったのだ、当然であろう。そこで、やっと見つけた人間に逃げられてしまったのであるから、怒るのも仕方ないのは仕方ない。だからといって、民宿を蹴り大穴を空ければみんなから退かれてしまう。彼自身、大穴が空いたことに驚いているが、もっと驚いたのは理恵である。一方の省吾はそこまで驚いている様子ではない。
「さて、園山を捜しに行こうぜ。」
そう言った省吾を除く二人は、呆然として動こうとしなかった。

 翔は省吾と共に、民宿付近の公園に来ていた。残念ながら、ここにも園山はいないようである。理恵は付いてきていない。民宿で一人、休憩していた。理由は単純、翔が怖くなったからである。
 やっと自分以外の人がいた。会った時はそれだけで嬉しかった、でも今は恐怖の方が勝っている。
必死に由梨のことを思い出す、孤独から抜け出したという幻想に陥るにはそれしかなかった。彼女にはそれしかなかった。
[9]
 二人は2台のノートPCがないことに気付いていなかった。結局は理恵が気付くことになるがそのときすでに二人は窮地に陥っていていたことなど知る由もなかった。

 園山は狂ったように―実際狂いかけている―走りながらできるだけわかりにくそうな場所を探していた。人はいないのだから隠れる場所は山ほどあるのだがそれに気付きそうにもなかった。
 あるホテルの裏口から(鍵が開いていた)はいって7階の一室の電子ロックを奪った銃で吹き飛ばしてベッドに倒れこんだ。
 脳のまだ正常な部分が必死に目的を遂行しようとしていた。汗をかなりかいているがそんなことは気にしていられなかった。自分が持っていたほうの<;ザ・ワン>をの解除ソフトを彼らの持っていたPCに送信する。
 そしてあらかじめ記憶させられていた作業をする。数字と記号と文字の羅列のページが次々と解読されていく―やがてそれはひとつのプログラムの構造となった。それと同時に別のプログラム―<;アナザープラネット>が構築された。
 頭がガンガンして園山は今にも倒れそうだった。やりのけたのか?違う俺はこんなことは知らない。でもやった。なぜだ?どうなってる?自分を追い詰めれば追い詰めるほどに脳が悲鳴を上げた。
 自分の持っていた<;ザ・ワン>に方位自身の画像が現れた。なんだこれは、何の意味がある?
 だめだ。絶えられない。いっそのこと頭をふっ飛ばしてくれ―そのとき銃の存在に気付いた。それをつかもうとするが意識が朦朧とし、手が震えてつかめない。激痛に身を捩じらせ、絶叫した―
 外へ外へ―全面ガラスになっている道路に面した壁へ突入した。ガラスは耐えられなくなり―必然的にガラスはわれ、彼自身がガラスの破片と共に道路へ身を躍らせた―
 彼の<;ザ・ワン>は何かを送信し始めた。それは2時間近くにわたって送信されることになる。
 表示された文字はシンプルなものだった。

 『GAME OVER』


 そのとき、合衆国政府の各機関のコンピューターは<;アナザープラネット>なるプログラムの攻撃を受けた。これほど宇宙に進出した時代ではどこから来たのか特定できない―
 防衛プログラムが全く役に立たない―最悪なのは核発射のコントロールができないこと。この非常事態は想定外だった。やがてそれは人々の生活にまで影響し始めた―交通機関、金融、大会社のデータ―混乱は目に見えていた。一体誰が?なぜ?答えられるものはいなかった―5人を除いて。
[10]
翔と省吾の二人はいらいらしていた。理恵が見つかってから誰も見つけていない。園山をせっかく見つけたのに、逃げられた。
「とりあえず園山を探すか。」といって省吾はベンチから立ち上がった。
「はぁ」翔はため息をつき、省吾についていくように立ち上がった。
理恵のことが二人とも心配だったが、午前中は人を探すことにした。二人は、公園を後にし、市外地へと向かった。大切なことを残して。
二人はマンションが立ち並ぶ大通りへ出た。いつも通りのきれいな道路である。二人は大通りの真ん中を歩いて生き残っている人間を探していた。二人は共通の疑問を抱いていた。
もし、これで人が見つかっても、そこからどうする。ともに命が尽きるのを待つというのか。もしそうだとしたら、今、別に探さなくてもいいのではないだろうか。どうせ死ぬのだから、今でも後でも一緒なのではないだろうか。

バリーーーン!ガラスの割れる音がした。

「どこからだ。」省吾がキョロキョロしながら言った。
「あそこだ。」翔が声を震わせながら言った。
そこには血まみれになってのた打ち回っている園山の姿があった。
「おい!どうした!何があったんだ!」省吾がそう叫びながら近づいた時にはもう園山は息耐えていた。
「あそこの窓が割れたんだな。」翔が7階の窓を見上げながら言った。
「あそこで何かあったんだな。」裏口から入った二人は7回の部屋へと向かった。

その二人の姿をパソコンのモニターで見ながらケタケタと笑っている人間がいた。
[11]
「由梨…」
もう、ピクリとも反応しない携帯電話を握り締めて呟く理恵。不意にくしゃみが出た。
「うぅ、ここ寒いな。」
彼女は立ち上がり、暖房を付けようとした。しかし、電源が入らない。
「そうか、電気が通ってないのか。そうだよね、私達しかいないんだものね…由梨、一体、私はどうすればいいの。一人じゃ何も出来ないよ。」
悲痛な叫び。冬の寒さは、理恵の体だけでなく、心までも蝕んでいた。

 七階の扉を開いた、翔と省吾。そこには一台のパソコンが置いてあった。
「電源、入るのかな。」
冗談のつもりで省吾は電源を入れた、すると、いきなり起動してしまった。これには張本人も驚いている。だが、そこから先に進むにはパスワードが必要な様子であった。

 ウィーン、監視カメラが彼等の姿を捉える、その映像を見て再び笑った人間。同じ人間であるにも関わらず、局面は正反対であった。
[12]
「おい・・・パソコンに何か出ているぞ」
二人は2つのパソコンに目をやった。片方には方位磁針の画像、もう片方は数字と記号の羅列が滝のように流れ続けている。
「まさか・・外部と連絡を?」
省吾の目にかすかな希望がよぎった。このパソコンは状況を打開する手がかりになるはずだ―もうなんにでもすがりつくしかなかった。
翔は砕けたガラスに目配せをしたが、すぐにパソコンに視線を戻した。
「こっちの方位磁針はどういう意味なんだ?だってこれじゃぁただの画像だぜ」
省吾はとりあえず適当にキーをたたいた。エンターを押すと画面の下に
『パスワード』
と表示され、入力できるようになった。
「くそったれ!映画じゃないんだぞ!まったく―」
罵る省吾だが翔は深く考え込んでいた。映画?もしや―

 しばらくすると方位磁針のほうにある画像が現れた。


翔が驚く。「な、なんだこれは!?」
「あっ!これは友人のTが好きな奴じゃないか。いや、Tっていうのはちょっと諸事情で名前を隠さなくてはいけなくては(汗)・・・くわしくは蒼波に聞いてくれ」
「誰だ?蒼波って」
「なんでもない・・・とにかくコレは何かのヒントだ」
「大丈夫か?汗をかいてるぞ」
「ちょっとかわい・・・違う違う!確か名前は○○だっ!」
「なんでかくすんだよっ!」
翔を無視した省吾はキーをたたき始めた。


 彼は5人の1員だった。疑問を感じ始めたのは半年前。これは入念に計画され、誰にもわかるはずがなかった。この計画を潰さなくては―それに自分は安全でなければならない。
 エンジニアの彼は送り込んだ3人が気付いてくれることを願った。無論、甘い期待などしていない。1年、いや2年かかるかもしれない。だけど何もしないよりはましだ。
 方位磁針を入れるのは危険な設定だが、プロである彼は巧妙にプログラムに組み込むことに成功した―気付け。ひらめくんだ。
 彼は美しい星空を仰いだ。
[13]
パッと2つのパソコンの画面が切り替わった。さっき省吾がパスワードを打ち込んだほうのパソコンは、
普通のデスクトップ画面になっていた。そしてさっき、方位磁針の画像とパスワードのヒントとなった○○の画像が出てきたほうのパソコンのほうは本当の方位磁針のようにゆらゆらと動いてある方位を指して止まった。省吾がゆっくりとパソコンを回し、北にさすようにした。

理恵はしばらくの間ずっと携帯電話を握り締めていたのだが、日が半分ほど沈むとき、
あることに気がついた。
「パソコンがない・・・・・・・・・」おそらく園山という人が持っていったのだろう。
このことを二人に知らせないと・・・・・・・・。しばらく悩んでいたが、彼女は覚悟を決めた。
理恵は唯一の持ち物であった携帯電話をギュッと握り締め、民宿を出た。

「あれ?」翔はあることに気がつき、方位磁針のついたパソコンを持ち上げ園山が飛び出した窓に近づいた。「どうしたんだ?」もうひとつのパソコンをいじりながら省吾が聞いた。
「太陽が、西に沈んでいない・・・・・・・・・。」
「へ?」
「この方位磁針では、北はあっちだろ。ていうことは、西はこっちだろ。」
「はあ」
でも、太陽は北西の方向の沈んでいるんだ。」
「は?」
太陽の位置がずれたんだろうか。それが人類滅亡の理由だろうか。翔はしばらく方位磁針とにらめっこをしていた。

「あれ?」今度は省吾が何かに気づいた。彼はインターネットで自衛隊のサイトを見ていた。
その最終更新日が昨日だったのだ。
省吾はほかのブログを見たが、やっぱり今日や昨日に更新されている。
おかしい。こんなに探しているのに見つからないのに、インターネットは更新されている。
省吾は自分の名前を検索してみた。
すると、120000もの数が引っ掛かった。
『岸川省吾さん、西崎翔さん、田代理恵さんの3人がほぼ同時刻にいなくなるという不可解な事件について警察は、失踪事件と見て捜査を進めている』

「おい。」二人は同時に話しかけた。
「ここは地球じゃないのかもしれない。」省吾が先に言った。
「俺もそれを言おうとしてた。」
「ていうことは、人類は滅亡していないということだ。」
この結論に二人は少しうれしくなった。

理恵も博多駅につき、床にはめてある大きな方位を書いたパネルを見て、その結論にたどり着いた。
「由梨・・・・・・・」彼女は涙を流して喜んだ。

だが、3人は大きな壁にぶち当たった。
「これからどうする?」

省吾だけは希望の光を持っていた。先のニュースサイトで行方不明になっていたのは3人だけだった。
園山がいなかったのだ。
[14]
 翔と省吾はホテルを出て、旅館に戻ろうとした。
「よし、行こうぜ。」
翔は呼びかけたが、どちらも歩き出そうとしない。
「…道、覚えてない?」
「翔もですか。」
絶望かと思われたが、目の前に周辺地図が立てられていた。
 救いを求めるかのように(実際そうなのですが)翔は地図へまっしぐらに向かった。それによると、このホテルは福岡市博多区に、旅館「黒猫」は糟屋郡志免町にあるようだ。
 地図を確認して、旅館へと向かった。

 旅館はもぬけのからであった、面には置いて行ったエアーカーがしっかりあるのだが、中で待っているはずである、理恵はいなかった。
「くそっ、何で。」
翔がまた壁を蹴ろうかとも思ったが、まだ理性があったので止められた。
「で、どうするのだ?」
「とりあえず、理恵を探すしかないのではないか?徒歩なのだから、そう遠くまでは行っていないだろうし。」
「いや、園山の捜索に結構な時間がかかっている。かなり遠くに行っている可能性も否定出来ない。」
「そうか、でもとりあえず虱潰しで…ハックション。」
省吾が派手にクシャミをした。
「寒いな。」
省吾は少し震えている。
「暖房でも入れるか?」
翔はエアコンの前に来て気付いた。
「そうか、俺等しかいないから、電気が通っていないのか。」
「そうか…」
確かに寒い、さっきのホテルは暖かかったのに…あれ、さっきのホテルではパソコンも起動していたよな…翔は眉間に皺寄せて考えた。そして、何となくポケットから携帯電話を取り出した、電源が切れている…
「そうか、この世界は人工的に作られた偽の日本なのだ。」
省吾は翔を見た。
「それ、さっきも言っていただろ。」
「これを見ろ。」
翔は携帯電話を見せた。
「これがどうした?」
「地球では、地面から携帯電話充電用の電磁波が出ているから、携帯電話の充電が切れることはない。」
「そうか、でも人工的って誰がそんなことを。」
その問いに、翔は待ってましたとばかりに答えた。
「誰かは分からない、でも何処にいるかは分かる。」
「何処だ?」
「福岡市博多区を管理する発電所だ。」
「!!」
「3140年現在、電気の供給は市町村単位で行われている。ここ、糟屋郡志免町では電気の供給が行われていない、でも福岡市では行われていた。つまり、福岡市の発電所を操作している者がいるということだ!!」
「なるほど、つまりその操作している奴が。」
「犯人というわけだ!!」
「翔、すごいな。で、その発電所は何処?」
二人の間に沈黙が起こった。
「虱潰しで。」
翔が出した苦肉の策である。もっとも、この辺りに土地勘のない彼等には、何処を潰すべきかも分からない可能性があるのだが。
[15]
PCにメールが転送された。こんな機能などあったのか?
『発電所 ジェームズ・アドラー』
そこに現れた英語を見て二人は困惑した。まるで二人の考えを読んでいるかのようだ・・・。
「・・・だけど、コレで俺たちは取り残されたってことじゃなくなるよな」
「確かに。とにかく行くしかない。あの高校生はもう放っておく。・・・時間がない」
翔はそんな冷徹なことはしたくなかったが今は文句は言えない。
発電所の場所は地図でわかるはずだ―二人は誰も通らない道路を突き進んでいった。


 「地球外に向けて惑星間メールが発信されました。コレをコード・シエラとします。位置は特定中です」
NSA(国家安全保障局)の情報将校が言った。発信者は自分が怪しいといわんばかりのアホだ、と彼は思った。
 ちょうど長官がオペレータールームに急いで入ってきた。
「全くどうなってる?大統領は?」
「エアフォース・ワンにいます。現在発信源不明の惑星間メールを調査中」 
「よし、バカなテロリストだな―」
「探知!ノートパソコンから発信されているようです。発信源は・・・ロサンゼルス」

 ジェームズ・アドラーは急いでPCを閉じた。恐らくNSAに探知されただろう。だが構わない。4人がが自爆テロを起こす前に自身もろとも捕まえられたい―変な言い方だが言いようがない。
 「何をしてた?」 憎きクソッタレ熊のクレイ・ノートンが凄みを利かせ、銃を構えていた。
「何だ?第二次攻撃プログラムのチェックだが」
そんなものをする前に貴様らはFBIにつかまるのだ。バカめ。
「次に怪しい行動をしたら殺す、いいな?」
[16]
翔と省吾は発電所に向けてエアーカーを走らせていた。
「しかし理恵はどこへ行ったんだろう」
「ったく、またかよ」翔はまだいらいらしている。
「ん」省吾がポケットの中から箱を取り出した。そこには大きく「WILD SEVEN」とかいてあった。
「え?」翔は少しびっくりしたようだ。
「なぜ僕がヘビースモーカーって?」
「本当はタバコすったほうが頭働くでしょう。さっきまでタバコすってなかったでしょうね。どうぞ。」
「ありがとうございます。」翔が1本取り出した。
内蔵の空気清浄機をつけ、翔は車をとばした。

理恵は二人を探し、駅前に出てきた。翔の白いエアーカーが音もなく前を通り過ぎた。
「あっ・・・・・・・」どうして気づいてくれないんだと思ったが、二人の進行方向を見ればどこに行くかは容易に想像がついた。その道の先には小さな商店街と発電所しかなかった。
「発電所だ!」理恵は走り出した。
が、発電所のまん前(本当は発電所の裏側であったのだが)で大きな箱を見つけたので立ち止まった。
その中には何百本というタバコと手榴弾、閃光弾、レーザーガンにロケットランチャー・・・・・・・・
見たこともない凶器にただただ唖然とするばかりだった。
理恵は怖くなってバタンと閉めてしまった。
[17]
 発電所の鍵は開いていた、不用心と言えばそうだが、誰も来るはずないのであるから、そうは言えないかも知れない。でも、そこに人はいた。もちろん、翔と省吾である。
 二人は発電所の中へ入った。奥まで行くと、思った通りに誰かが発電機を操作している。だが、ここで二人は気付いた、これからどうすればいいのだ?警察もいない、自分達で立ち向かうのは安全が保障できない…しかし、二人は無言のままうなずいた。どうせこのままでは何も始まらない、諸悪の根源をしっかりと絶たなければいけない。二人は、操作している奴に向かい、走って行った。
 操作していたのは四十くらいの目つきが悪い男であった。襲われるのには慣れているのか、後ろから足音が聞こえた瞬間に彼は拳銃を取り出した、二人は硬直してしまった。
「誰だ御前等は!!」
威厳のある声が発電所内に響いた。その時、そそくさと逃げるような音がしたのには誰も気付かなかった。
「俺達を、地球からここに連れ出したのはあんただろ、ふざけるな!!」
翔は返した。男は少しも動揺せずに、
「それは違う。」
と答えた。
「私は園山だけを連れてきたつもりだったのだが…やはり、機械はあてにならぬ。」
「人の人生を狂わせといて、全く反省なしかよ。あんたは本当に人なのか?」
「あぁ、人間以外の何だというのだ?正義の心などという空想を、みんながみんな胸に持っている必要はないであろう。」
「あんたには、良心っていうものがないのか!!」
「もちろんあるさ。ただ一つの行為を見ただけで、人の全てが分かるとでも思っているのか?」
男へ果敢に言い合う翔に対して、省吾は呆然とした。
「とにかく、御前達のことは想定外だ。悪いが消えてもらおう。」
そう言う男を翔は睨み付けた。
「まずは御前からだ。」
翔は拳銃を向けられた、それでも睨み付け続けた。引き金を引こうとする姿が近くに見えてきた。翔はその眼を開き続けていた。
 ドーン。発電所内に銃声がした、翔の眼はまだ開いている。だから、翔には見えていた、男が倒れいく姿を。男が 倒れた下に血溜まりが広がっている、翔はついに目を伏せた。
 翔はしばらくして、目を開いた。男はどう見ても死んでいる。
「省吾。」
そう言われた省吾は、やっとこの事態に気付いたようだ。
「死んだのじゃなかったのか?」
「死んだのは、この男だよ。」
しばらくして、やっと省吾が理解をした。
「で、何で男は死んだのだ?」
翔は首を横に振る。
 二人は立ち上がった。よく見ると、男の物と思われるパソコンが起動してある。
「地球の人に連絡なんてつかないよな。」
翔は、駄目元でメールボックスを開く、すると地球へ転送されたメールがいくつか見つかった。
「もしかして、地球と連絡が取れるのか?」
二人は希望を持ち、省吾が勤める春日基地へとメールを転送した。
 翔は何となく外へ出たくなった。故に、メールの番は省吾に任せて発電所から出ようとした。その時、何かを踏んだ。
「何だこれ?」
省吾がやって来た、
「これは、レーザーライフルだよ。」
彼は自衛隊である。そして、付け加えた。
「誰かが、これで男を撃ったのじゃないかな?」
翔は呟いた、
「理恵?」

 理恵は当てもなく走っていた。標識を見たところ博多区内であるようだが、この辺りに土地勘は全くない。
 撃ったのは理恵、二人を追って発電所に入ると、二人に危機が訪れていた。だから、さっき見つけた箱からレーザーライフルを取り出した。
 助けなくては、そんな気持ちで撃った。その瞬間、我に返った。
「私は殺人犯なのだ、殺人犯なのだ。」
彼女は泣きながら逃げ去った、何処へという当てもなく。
 彼女は走った。前すらも見ずに走った。彼女が見ていたのは絶望、それだけであった。


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