シンデレラ・6


 ところがある日、「ラザイエフ商会」に、見慣れない訪問者が現れました。「クラウス」と名乗るゲルマン系の青年でした。

 「ラザイエフ商会」に現れた「クラウス」と名乗る青年は言葉の端々にプロイセン訛りがありました。

 そういえば王子様にもちょっと訛りがあったっけ・・・、いやいや、それにしても一体何の用だろう・・・?妙にもじもじして、咳払いと深呼吸ばかり繰り返しているけど・・・?

クラウス:「イリ-ナ・ラザイエフ!きき・君を迎えに来
     た!!ぼぼぼぼ・僕と一緒に・・・」

シンデレラ:「ちょっと待って下さい・・・、あのどちら様
      でしょう?それに10年以上も呼ばれたことが
      ない私の本名を何故・・・?」

クラウス:「2年前にリンゴの苗木を12本、ここで用立て
     てもらった時に君を見た。名前は隣のメドヴェ-
     デワって(舌噛みそうな)お婆さんに聞いた」

 そうか・・・、忙しくしてたから記憶にないけど、継母から近くのリンゴ農家に買い付けに行かされたっけ。でも・・・“クラウス”って名前には何か聞き覚えが・・・、それにどこかで逢ったことが・・・あれ・・・もしかして!“クラウス・ヨハンセン王子!!?”まさか!!散切り頭になってるから全然気が付かなかったけど間違いない!(〇o〇;)じゃあ、市井の民で意中の人っていうのは・・・え~!?

クラウス:「突然のことで驚いたと思う。でも、僕の話を聞
     いて欲しい。僕は自分らしく生きる為に王位継承
     権を返上して来た。王位は継がない」

イリ-ナ:「どうして?それに次の王様は?」

クラウス:「姉婿のミュンヒハウゼン公爵に譲って来た。父
     上は猛反対だったけどね。理由を言ったら「勘当
     だ-!」って・・・。でもスッキリしたよ」

イリ-ナ:「理由って?」

クラウス:「いや・・・だから・・・さ・・・さっきから」

イリ-ナ:「あっ!」

 そうか、舞踏会のあの日「王侯貴族の子供の人生は親が決める」「全てを捨てる覚悟があれば」って言っていたのはこのことだったんだ・・・。でも・・・、

クラウス:「それとも王子じゃなくなった僕とは来られない
     かい?」

 強欲で尊大な父王に似ず、穏やかで、下々にも優しい王子を慕う人は多い。自分もその一人だった。でも舞踏会に行きたかったのは「皇太子妃」のイスが欲しかった訳でも、王子に自分を売り込みたかった訳でもない、といったら嘘になるかな?ちょっとはそういう期待もあったかも・・・。
 ただ、辛い毎日を送っているから、せめて一時だけでも着飾って、夢の様な時間を過ごしたかっただけ、というのが本当かも知れない。
 ところが、昨日まで雲上人だった王子様が市井の民になって目の前にいる・・・どうするシンデレラ・・・いや、イリ-ナ・ラザイエフ!?

つづく



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