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映し出された動画は、暁が山崎に向かって愛してるとつぶやくところから始まり、二人がキスしてベッドに入るところまでの過程が、編集されて3分ほどに収められていた。ご丁寧に、ベッドの中の暁の表情まで見せてくれている。 圭は動画が映し出された瞬間、驚いてよろけた。衛が腕でその背中を支える。 「大丈夫か?」 衛は画面から目を離さず声だけで尋ねた。圭は頷いて、衛の顔を見上げた。衛の表情からは心情を読み取れなかった。 動画が終わり、自動的にリスタートした。画面では再び暁が山崎に向かって愛してるとつぶやく。 「マモルさん、これ、どう思います?」 圭が画面を見つめたまま衛に尋ねる。衛は圭の背中からはずした腕を胸の前で組むと、口を開けた。 「何とも言えないな、編集されまくってるってことはわかる。何とかして言わせて、そこだけ切り抜いたんだろうな。ただ、アキラ本人があのセリフを言ったっていうのは間違いないな。」 「いえ、マモルさんがどう思ったか聞きたいんです。」 少し声に嫌気が含まれているように思えた。衛はクイッと眼鏡を上げると、圭を見た。 「・・・どういう意味だ?」 圭は、画面の中で山崎が暁の首に手を掛けキスをする様を、表情を変えることなしに見ていた。 「ヤマサキ先輩は、これを見ているマモルさんを僕に見せたかったんじゃないかと思います。」 衛は圭を見つめたまま、意図を量りかねていた。 「ヤマサキ先輩は、結局アキラさんはマモルさんと付き合うことになっていて、僕らはただの寄り道なんだって言ってました。それを僕に確認させたかったんじゃないでしょうか。」 (なるほどな、ヤマサキはニシハラに不信感を抱かせて、俺と引き離したがってんのか。) 衛は組んでいた腕を崩すと、喘ぎ声が聞こえだした動画を停止させ、再び圭を見た。 「で、お前はどう思ったんだ?ニシハラ。」 僕は・・・と言いながら、圭はうつむいたが、もう一度画面の中の暁を見てから、意を決したように衛を見上げた。「僕はそれでもかまわないです。僕は、アキラさんが手に入らなくてもかまわない。傍にいられるなら、それで。・・・いつか、遠くへ行ってしまうなら、それまで傍にいられるように、できるだけのことをするだけです。アキラさんが望むなら、好きじゃない振りするくらいなんてことない・・・ヤマサキ先輩は、やり方を間違えてると思います。」 衛はしばらく圭の眼を見ていたが、フッと力が抜けたように笑うと、圭の頭を撫でた。 「お前なら、あいつを変えられるかもしれないな。」---君が思うほど僕は君のこと好きじゃない・51人物紹介
2006年04月30日
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暁はベッドの上で、再び首輪をつけられぐったりとしていた。夕べ山崎はしつこいほど暁を抱いた。立たない暁のモノを、ねちっこく愛撫した。その行為に暁は何度も嘔吐しそうになり、萎える。山崎はその度に暁をなじり、行為をさらに煽った。悪循環の中、暁は目を瞑り圭の体を思い出す。圭のあえぎ声、いつも前髪が邪魔して見えないイク瞬間の顔、それらを想像してなんとか自分を駆り立てた。山崎に抱かれるごとに圭への思いが募っていくのを感じた。 「圭・・・」 暁はつぶやいて、枕を抱きしめていたが、やがてため息をつくと立ち上がった。汚れたシーツをずるずると引きずってバスルームへ向かう。途中、どろりと内側から山崎が放った精液が流れ落ちてきて、夕べからずっと堪えていたものを、バスルームに走り込んで吐き出した。 「げほ、げほ・・・くそっ」 シャワーで胃液を流すと、バスタブの端に腰掛け、頭から熱いシャワーを浴びた。 どんなに熱いシャワーを浴びても、底からせり上がってくる冷たい水は徐々に身体を冷やしていった。 「平気か?」 圭をなるべく1人にしたくないと、家まで車で迎えに行った衛は、圭の顔を見た途端思わず聞いてしまうくらい、圭の顔色は悪かった。 「ちょっと眠れなかっただけです。もう平気です。」 車に乗り込みながらそう口にした圭の声は、確かに弱々しいものではなかったが。 「家だと眠れないか。院生室に暁の寝袋があるから、それ借りて寝てたらいいよ。」 「・・・それは余計に眠れそうにないな。」 圭の呟きが聞こえず、右にウィンカーを出しながら衛が聞き返す。 「いえ、なんでもないです。今日は教授の手伝いがあるんで、大丈夫です。」 圭は院生室に入ると、暁の机の上に置いてあったノートパソコンがなくなっていることに気が付いた。 「アキラさん、学校に来たんでしょうか。」 圭のセリフと視線に、衛も暁の机を見た。パソコンが置いてあった場所に付箋紙が貼られた1枚のCD-ROMが置いてある。 「なんだ。」 衛はそれを手にとって見た。 [これが証拠だ。山崎] 付箋紙にはボールペンでそれだけが走り書きされていた。 「証拠って何です?」 圭が横から覗いて尋ねる。衛はクイッと眼鏡を上げると、自分の席に着き、パソコンの電源を入れた。 「アキラが、ヤマサキに夢中な証拠なんだと。」 圭は唇に手を当て考えた。 (自分には衛と暁がつきあってるようなことを言っていたのに。なんだろう・・・。) 念のためウィルスチェッカーをかけてからCD-ROMファイルを開けると、中には一本の動画ファイルが収められていた。 衛は、二人で見られるように立ち上がると、圭の横に並びその動画を再生した。 ---君が思うほど僕は君のこと好きじゃない・50人物紹介
2006年04月29日
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原稿が入ってるメディアを持ってくるの忘れました・・・。いつかやるとは思ってたけど、ってか、今まで忘れてこなかったのが不思議だわ。というわけで、明日、明日更新いたしますm(_ _)m
2006年04月28日
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暁が食事の片づけをしている間、山崎は例の部屋にこもっていた。食器を洗い終わりソファでくつろいでるところへ、山崎が部屋から出て近寄ってきた。部屋のドアが閉まる音が、やけに響いて聞こえた。暁が立ち上がると、山崎はゆっくりと暁の首に手を回して、首輪鎖を鍵ではずした。 「こんなものがついてちゃ、楽しめませんからね。」 山崎が目を細めて暁を見上げる。口元には笑みを湛えている。 「いいのか?俺を自由にして。」 片眉を上げる暁を見て、山崎はくすくすと笑った。 「自由?こんなものがついていなくても、あなたに自由はありませんよ。あなたは僕のものだ。そうでしょう?」 暁は一瞬冷たい目で山崎を見下げそうになったが、目を閉じてそれを隠した。山崎は指先で唇に触れ、うっとりと見上げた。 「僕を愛してると言って」 暁は驚いて目を見開いた。 「なんじゃそりゃ、アホらし。」 バカにしたようにハッと鼻で笑った瞬間に、頬に痛みが走った。一瞬何が起きたかわからず、山崎を見降ろすと、2発目が飛んできた。 「言え!それがノートパソコンを持ってくる条件だ。愛してると、僕が欲しいと言え!」 暁はカッと頭に血が上るのを感じた瞬間、頬を押さえることも忘れ、山崎の両手を掴み壁に押し付けた。 「いたっ。」 山崎は背中を壁に強かに打った。暁は奥歯を噛み締め、怯える山崎を長いこと睨みつけていたがフッと力を抜くと、下唇を噛み目を閉じた。 それから真っ直ぐに山崎を見据えて、上唇を舐めると、ゆっくりと顔を近づけた。 「・・・あいしてるよ。お前が欲しい。」 山崎は全身から力が抜けそうになるのを何とか堪えた、全身が打ち震える。欲しかった言葉が手に入った喜びで赤く染まる手を暁の顔に伸ばす。 「いいよ、かわいがってあげるよ。」 暁は山崎が自分を抱くつもりだと言うことがわかって、安堵した。抱かれるだけならなんてことない。 ソファで山崎を受け入れながら、早く終わらせることだけを考えていた。 床から上がってきた冷たい水はすぐ傍まで迫ってきていた。 ---君が思うほど僕は君のこと好きじゃない・49人物紹介
2006年04月27日
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山崎は駐車場に車を止めると、暁のバイクが止まっていることを確認してニヤリと笑った。自然と歩幅が広がる。エレベーターのドアが開く時間も長く感じられ、半分しか空いてないうちに体を外に出した。指紋を押してドアを開ける。 「あ、おかえり。」 リビングに入った瞬間にキッチンから声がかかり、山崎はギョッとした。 「た・・・だいま。」 無意識のうちに答えてしまい、気付いて顔が赤くなる。 「腹減っちゃって、冷蔵庫の中適当にあさって作ってるんだわ。お前の分もあるからシャワー浴びてこいよ。」 暁の明るい物言いに不振がりながらも、山崎は例のリビングの奥の部屋に鞄を置きに入った。 (鍵はかけられてないみたいだな。) すぐに閉じられたので、中を見ることはできなかったが、暁はフライパンを操りながら横目でそれだけは確認した。 山崎がシャワーを浴びている間に、部屋に近づき、耳を澄ませた。微かに衛からの着メロが聞こえた。 「やっぱあいつ、持ち歩いてるのか・・・」 暁はそうつぶやくと、長く伸びた鎖を恨めしく見つめた。 向かい合って食事を取りながら、山崎はチラチラと暁をうかがった。暁はテレビを見ながら、まるで自宅にいるかのように、ときどき笑ったりしてくつろいでいる。 「あのさ。」 テレビに集中していると思っていた暁から声をかけられ、山崎は思わず「はい」と言って背筋を伸ばしてしまった。心の中で舌打ちする。暁は、山崎のそんな様子を気にするでもなく続けた。 「昼間、相当暇なのよ。俺のこと帰す気無いなら、俺のノートPC持って来てくんない?」 暁は、フォークを口に運びながらなんでもないことのように切り出したが、内心断られるのではないかと緊張していた。手が震えていないかと心配だった。山崎はそんな暁の心の内には気づかず、これは好都合とばかりにニヤついた。 「いいですよ。そのかわりやって欲しいことがあるんです。」 ---君が思うほど僕は君のこと好きじゃない・48人物紹介
2006年04月26日
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暁は山崎が出て行き、自由になってすぐに動き出した。まずは衛に連絡を取ろうと、携帯を探した。鞄をあさったが見つからなかった。 「まあ、犯人としては当然だよな。むしろ駐輪場に捨ててきた方が賢明だったのか・・・バカだな、俺。」 頭をガシガシとかくと、気持ちを切り替えるように、短く息を吐いた。次に首輪をはずそうと試みたが、手錠と同じように鍵がかかっていて外れそうになかった。首という位置がさらに物事をやり難くしていた。仕方なくあきらめ、家捜しを始めた。 「ケイの証拠を見つけ出して隠滅するか、対抗できるヤマサキの弱点を見つけるかだな。」 暁はそうつぶやくと、2LDKの部屋を見渡した。暁が動ける範囲は寝室とリビングの一部、キッチン、風呂、トイレだった。リビングの奥にあるもうひとつの部屋と、玄関、テラスにはちかづけなかった。 冷蔵庫を開け、適当に腹ごしらえすると、キッチンを一通り見て回った。キッチンには冷蔵庫、シンク、コンロに備え付けの戸棚があった。すべて隅から隅まで、裏側までチェックしてみたが、何も見あたらない。トイレに入ってトイレのチェック、シャワーを浴びて風呂場のチェック。タオルを一枚一枚広げてみたが、何も出てこなかった。 リビングのフローリングを叩いてチェックしているときに来客を知らせるチャイムが鳴った。一瞬助けを求めるチャンスだと思ったが、出かけ際山崎が言っていたセリフを思い出し、断念した。 「結局のところ、ケイの問題を何とかしなくちゃ、ここを抜け出しても意味がないってことか・・・」 暁はチャイムを無視して作業を進めた。 さらに2時間ほどかけてくまなく見て回ったが、役立ちそうなものは何も出てこなかった。 「あの部屋には何かあるんだろうな。」 リビングの奥のもうひとつの部屋のドアを見つめた。鎖が届くぎりぎりまで寄って、足を伸ばしてみたが、足の指先がドアノブに微かに触れる程度しか届かない。それでも必死で伸ばしてそれでも必死で伸ばして何度かチャレンジしてみる。 「いって!・・・つった・・・」 無理な体勢で無理やり伸ばしたせいで、足の裏が吊った。リビングの床に横になって、足の裏を延ばしながら天井を見上げる。天井の角にカメラが付いていることに気付いた。 (部屋の中にまでカメラか・・・俺なにしてんだろ・・・逃げようかな) 目を瞑ると圭の笑顔が思い出された。またチャイムが鳴った。 「くそぅ!もう!何で俺はほっとけないんだ!」 うつぶせになってチャイムが聞こえないように耳を塞ぐ。 「・・・懐柔策しかないかな・・・」 暁はつぶやいた途端、冷たい水が床から上がってくるような感覚にとらわれ、眉を寄せて目を閉じた。---君が思うほど僕は君のこと好きじゃない・47人物紹介
2006年04月25日
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圭は院生室のドアを閉めるとその場に立ち尽くした。片目からポロリと涙が落ちた。 (なんだろ・・・これ) それを認識した途端、寂しさが一気に込み上げてきた。 「うっく・・・」 圭は思いがけないショックを受けていた。衛と暁が関係を持っていたことにではなく、相手が衛だろうとそうでなかろうと、暁が自分の傍からいなくなることを想像して、ショックを受けている自分にショックを受けたのだ。 (今まで、ずっと独りで生きてきたのに。ずっと独りで何ともなかったのに、ずっと独りでよかったのに・・・) 圭は、頬に触れる暁の指の感触や抱きしめられた肌の温かさに、いつのまにか安心感を得るようになっていた。 「もう・・・・」 唇を噛み締め、涙がそれ以上溢れてこないように硬く目を瞑った。 「あいつ、アキラさんのこと好きだったなんて・・・知らなかった。」 加藤は背中に手を置いて、壁に寄りかかってうつむいた。衛は眼鏡をクイッと上げると、背もたれに腕をかけ、加藤を見上げて言った。 「・・・どうだろうな。アキラにコケにされて、意地になってんじゃないかな。」 「うん・・・あいつ、今まで手に入らなかったものなかったからな。」 加藤は今しがた山崎が出て行ったドアの方を見た。 「相談されてたら、協力してやったか?」 衛が少し意地悪く聞いた。加藤は一瞬、衛の方を向いたが、すぐに自分の足元を見るとフッと笑った。 「さあ、どうだろ・・・もうわかんないや。」 「あいつも何やってんだかね・・・」 衛は、一向につながらない暁からの着信がないことを、もう一度確認すると、携帯をパタンと閉じ、立ち上がった。 ---君が思うほど僕は君のこと好きじゃない・46人物紹介
2006年04月24日
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ライブがあるので東京行ってきます。なので更新は月曜日になるかと。日曜日の夜できるかもしれないけど、期待させといてできないと悪いので、月曜日で!アディオス!
2006年04月21日
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衛はこれ以上何かあっては困ると思い、圭を先に院生室に帰した。それから、山崎をミーティングルームの奥の席に座らせると、入り口に近い席に向かい合って座った。加藤はまるで門番のように入り口付近の壁に寄りかかって立っていた。 「夕べ、アキラがお前のところに行っただろう。」 衛が切り出すと、山崎はニヤリと笑った。 「ええ、来ました。一晩ずっと一緒でした。」 山崎の表情で、暁が手を出したと勘違いした衛は、またあいつは。と言って人差し指でこめかみを押さえ、ため息をついた。 「今度はどんな理由つけたんだよ・・・」 「は?」 衛の独り言が聞き取れず、山崎が聞き返した。 「いや、なんでもない。」 衛は眼鏡をクイッと上げると、テーブルに肘をかけ、両手を組んで口に当てた。その姿勢で牽制するように山崎を見た。山崎は背もたれに寄りかかると足を組んで、負けじと下目に衛を見た。 「お前勘違いするなよ?あいつがどんな理由をつけたか知らないけど、本気じゃないからな。」 山崎は横を向いてフッと鼻を鳴らすと、流し目で衛を見た。 「アキラさんは僕のものですよ。あなたには渡しません、マモルさん。」 山崎のそのセリフに加藤はギョッとして組んでいた腕を崩した。 「お前、何言ってんだよ。意味わかんねぇよ。」 加藤のバカにしたような物言いに、山崎は加藤に向き直って目を吊り上げた。 「お前には関係ないんだよ!アキラさんは僕にメロメロなんだ!」 「メロメロってお前・・・いつの言葉だよ。」 加藤は眉を上げ、あきれ返ったたような力の抜けた顔で山崎を見た。 「突っ込むところはそこかよ。」 山崎が立ち上がって加藤に向かっていく。加藤もそれに応戦する。 「他にどこがあるんだよ、てめぇのケツにでも突っ込めってか?何なんだよお前!」 「ストーップ。」 お互いに掴み合いそうになったところに衛が割って入った。そして加藤の額を指で軽くはじいた。 「暴走を止めるはずのお前が、けしかけてどうする。」 加藤は2,3歩よろめく様に下がると、ストンと壁に寄りかかった。目の前で山崎がおかしくなっていく様を静観することができなかった。悔しさのような、怒りのような説明の付かない感情が湧き上がってくるのを目を閉じて堪えた。 「お前もアキラを買いかぶりすぎるな。あいつはお前が期待しているような奴じゃない。」 山崎は衛に掴まれた腕を振り払うと、両手で髪をかきあげた。 「ヤキモチですか、マモルさん。みっともないですね。・・・いいでしょう、アキラさんが僕に夢中なことを証明してみせますよ。」 山崎は、衛を睨みつけながら感情を無理やり噛殺したような棒読みのセリフを吐くと、加藤とはいっさい目を合わさずに部屋を出て行った。加藤も顔を逸らせたままだった。---君が思うほど僕は君のこと好きじゃない・45人物紹介
2006年04月21日
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山崎は、99%圭はこちら側に着くと確信していた。衛さえ二人でどうにかしてしまえば、切り札を持っている自分に、暁と圭を引き離すのは簡単なことだと考えていた。 「付き合いも長いみたいだし、このままじゃアキラさんはそのうちマモルさんのものになっちゃうと思わないか?」 圭は小さくため息を吐くと、自分の頬を手のひらでこすった。圭の顔つきが変わり、山崎は望んだ答が聞けるとにわかに色めく。 「・・・アキラさんは、誰のものにもなりたくないし、誰も自分のものにはしたくないと思う。」 圭の返答に山崎は肩透かしを食わされた気分になった。しかしすぐに自説を弁護する。 「今はそうかもしれないけど、そのうちあいつら落ち着くって。決まってるんだ。だからアキラさんも安心しちゃって、遊んでんだ。ちょっとした寄り道に過ぎないんだって思われてるよ。あいつらを引き剥がせば、こっちを向いてくれる・・・かもしれないじゃん。」 山崎は興奮して少し早口になったが、それに気付いて、最後は少しトーンを落とした。そして落ち着くために、両手で髪をかき上げ、コーヒーを一口飲んだ。 「僕、興味ない。」 圭はストローでジュースを飲むと、言い捨てた。山崎はそれを聞き奥歯を噛み締めた。 「このままじゃ、すぐに捨てられるんだぞ!」 圭は自分の涙をぬぐうように、紙コップの水滴を袖口で優しく取り去ると、山崎を真っ向から見据えた 「僕は、ヤマサキ先輩が考えてるほど、アキラさんのこと好きじゃないよ。アキラさんを僕のものにしようなんてちっとも思ってない。」 山崎は絶句した。圭は黙ってしまった山崎を見て、オレンジジュースを吸い込むと、帰ると言って立ち上がった。山崎は藁をもつかむような気持ちになって圭の腕を掴んだ。 「じゃあなんで寝たんだよ。」 圭は、悲壮感さえ漂わせる山崎の顔を上から見下ろすと、ゆっくり瞬きをした。 「別に、理由があったから。それだけ。・・・ヤマサキ先輩こそ、しつこいと嫌われるよ?」 最後の一言に含まれる悪意に、圭は自分でも驚いた。 「・・・こいつ!」 山崎が、掴んだ圭の腕を突き飛ばした。圭が後ろのガラスに突っ込みそうになる。 「やめろっ。」 衛がすばやくガラスとの間に立って圭を支えた。すかさず加藤が山崎を後ろから羽交い絞めにする。山崎は衛の顔を見ると、にがにがしく舌打ちをした。 「とにかく人のいないところで話そう。これ以上目立ってもしょうがない。」 衛はざわめき始めたカフェを見渡すと、先に山崎と加藤を促し、圭の頭を撫でて背中を押した。---君が思うほど僕は君のこと好きじゃない・44人物紹介
2006年04月20日
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「うわっ」 山崎がゼミ室のドアを開けると、加藤があからさまに驚いた。 「何だよ」 山崎はその様子を見て、不機嫌そうに一瞥した。 「いや、だって、ずっと連絡取れなかったし?何か行動も不穏だったし。」 「不穏って何だよ」 山崎が思わず笑うと、加藤はほっとして近づいた。 「マモルさんがニシハラんちの近くでお前見たって言うからさぁ、俺らニシハラんち行ったりしたんだ。今日お前来なかったら、家まで行こうかって思ってたんだぜ?」 衛の名前を聞いて、山崎がまた不機嫌になる。 「そのニシハラ呼んできてよ。」 山崎は椅子にドッカと座ると、鞄の肩掛けを指でもてあそびながら加藤を見ずに言った。 「ニシハラ?何の用だよ・・・なあ、何があったんだよ。俺には話せねーの?」 加藤が隣にしゃがんで、山崎を見上げる。山崎は下目で加藤を見つめたが、すぐに目を逸らすと立ち上がった。 「行きたくないならいい。自分で行く。」 そう言って山崎は、加藤が何か言う前に部屋を出た。 山崎は同じ建物の2階にある院生室に着くと、在室のプレートを確認した。好都合なことに西原のプレートだけが在室中になっていた。衛はまだ来ていないようだった。ノックして圭からの返事を確認してドアを開ける。 「ニシハラ、話あるんだ。カフェ付き合えよ。」 「ヤマサキ先輩・・・」 圭はここ2,3日の山崎の行動と噂で少し警戒していたのだが、こう真正面から来られては避けようがなかった。 (携帯・・・用意しておけば良かったかな。) ちらりと思ったが、いまさらどうしようもない。唇を噛むと覚悟を決めて山崎についていった。 「何飲む?」 山崎が財布から小銭を取り出しながら圭に尋ねた。 「いや、いいです。」 圭は両手を振って小さな声で答える。 「いいから!遠慮するなって。」 山崎はやけに明るい声で勧めた。圭は心の中で首をかしげながら、じゃあ、オレンジジュースと答える。山崎は一番大きいサイズのオレンジジュースと自分にコーヒーを頼むと、二つとも受け取って、圭に席に着くように促した。 「お前さ、アキラさんのこと、どう思ってるわけ?」 座ってオレンジジュースを一口飲んだところで山崎にそう尋ねられて、圭はジュースを噴出しそうになった。 「どうって・・・先輩として尊敬してますけど・・。」 圭が口を押さえながら答えると、山崎は片眉を上げた。それからコーヒーを横に退け、身を乗り出すと、周囲を気にしながら小さな声で言った。 「でも寝たんだろ?」 圭は今度こそ噴出した。ポケットからハンカチを取り出して口の周りを拭きながら、どう答えていいものかわからず、真っ赤になって目を白黒させた。その様子を見ながら山崎はやっぱりねとつぶやいた。 「じゃあアキラさんがマモルさんとやってるのも当然知ってるよな。」 山崎の含みを持たせたようなその言葉に、圭は固まった。 「・・・知らなかったんだ。」 山崎はため息と共に背もたれに背中をつけ寄りかかった。それから爪を噛むと、フンと鼻で笑った。 「たぶんマモルさんはお前とアキラさんのこと知ってると思うぜ。アキラさんがお前にマモルさんとのこと言わなかったのはなんでだろうな。」 圭は何も言わなかった。紙コップに付いた水滴が連なって落ちていくのを、ただ眺めていた。 山崎はそんな圭の様子を横目で見ると、口端を上げた。そしてゆっくりと腕を出し、身を乗り出すと、圭に顔を近づけた。 「なあ、二人で組んであの二人を引き離さないか?」---君が思うほど僕は君のこと好きじゃない・43人物紹介
2006年04月19日
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暁はカーテンの間から刺す日の光に目を覚ました。 「まぶし・・・ケイ?」 暁は朝日を浴びて、遮光カーテンの無い圭の家だと勘違いした。 「やっぱりニシハラともそういう関係だったんですね。無防備すぎますよ。」 暁は聞きなれていない声にギョッとして飛び起きようとしたが、手首に激痛が走り元の体勢に戻った。 (何だ・・・?) 顎を突き出して上を見ると、ベッドにくくりつけられた自分の手が見えた。手首には血が滲んでいる。恐る恐る横を見ると、椅子の背もたれを前に抱えて座り、上から見下ろしている山崎と目があった。 「おはよう、アキラ。」 「てめえ、どういうつもりだ。」 山崎は立ち上がると、椅子を机に戻しながらおかしそうに笑った。 「夕べ言ったでしょう?あなたを僕のものにしたんですよ。」 ふざけるな!と言って暁は自由になる足を山崎に向けて振り上げる。山崎はそれを咄嗟に避けると、暁の顔を平手で打った。 「僕に危害を加えるとニシハラは大学に居られなくなるんだからな!」 山崎は肩で息をすると、自分を落ち着かせるために、乱れた髪を手櫛で整えた。 「それにしても、ニシハラだけでなく、マモルさんとも関わりがあったなんて、節操無いですよ。」 衛の名前を出されて、暁が目を見開く。山崎は笑みを浮かべると、再び暁に顔を近づけた。 「夕べ、気持ちよくなったときに名前を呼んでましたよ。」 その言葉に暁は総毛だった。 「何をした」 山崎はクスリと声に出して笑うと、指で暁の顔の輪郭をなぞった。 「まだ何も。ちょっと気持ちよくさせただけですよ。意識の無いあなたを無理やりしてもつまらないですからね。」 山崎の指が唇に触れるのを、顔を逸らせて避ける。 「・・・こんなことして、ただじゃ済まないぞ。」 あからさまに怒りを表した目で見上げるが、山崎は眉を少し上げるだけでそれを流した。それから暁から手を離すと、机の引き出しから何かを取り出した。 「僕はこれからでかけます。このままの格好ではトイレにもいけませんからね、手錠を外してあげますよ。」 そう言って山崎は、引き出しから取り出したものを暁の首に取り付け、そこから伸びた鎖の先をベッドに装着した。 「・・・俺は犬かよ」 首輪を付けられた暁は、怒りを通り越してあきれたような声を出した。山崎はそれには答えず、ベッドに括り付けた紐を解き、手錠の鍵を外した。 「トイレや浴室まで行けるはずです。ただし、玄関までは届かないようになってますから。食べ物は冷蔵庫の中に入ってますのでご自由に。・・・これで大抵のことは出来るはずです。」 「お前を殺すこともな。」 暁は立ち上がると山崎の首に手をかけた。山崎は一瞬目を見開いたが、すぐに口端を上げてみせた。 「僕からの連絡が途絶えたら、僕の仲間がニシハラを襲う手はずになってるんです。彼の家のマスターキーはそいつが持ってます。」 暁は、山崎の守備のよさに舌打ちすると、両手を挙げて降参のポーズをとった。山崎はその姿を満足げに見ると、にっこりと笑った。 「いい子で待っていてくださいね。」---君が思うほど僕は君のこと好きじゃない・42人物紹介
2006年04月18日
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山崎はリビングに行き、暁の鞄を漁って携帯電話を探した。鞄の中で光る携帯を取り出し、今来たメールをチェックする。 [ヤマサキの家?こんな時間に何しに行くんだ?] 相手は衛だった。山崎は過去のメールを辿った。携帯に残されているメールの7割以上が衛からのものだった。圭からのメールは1通も無い。 「ちっくしょう!」 山崎は携帯を放ると、寝室に走り込み暁に飛びかかった。 「この淫乱が!畜生!畜生!」 山崎は暁にまたがりその首に手をかけた。怒りに任せてその首を両手で絞める。 「・・・かっ・・・」 衛の顔が見る間に赤くなる。無意識に逃げようともがくが、両手が縛られていて動かせない。手錠が当たって手首に血が滲み始めた。 ピルルッ その時再びメールが届いた。 山崎はハッと我に返り手を離した。肺に急に空気が入り込み、むせ返る暁を背後に自分の手を眺める。それから咳き込みながら身体を丸め、苦しそうに喘ぐ暁の姿を見て全身が震えだす。 「あ―――――――――――!!!」」 やり場の無い怒りを発散させるかのように、山崎は寝室を飛び出すと、リビングのあらゆるものを蹴り倒した。 「なんでだよ!なんで・・・」 山崎は部屋の真ん中に倒れ込むと、そうつぶやきながら頭を抱えてうずくまった。 やがて大きく息をして気持ちを落ち着かせると、腕を伸ばしてさっき放った携帯を取った。床に寝転がったまま受信メールを開く。 [大丈夫か?まだ起きてるから、話し終わったら来いよ] 携帯を胸にあて、目を瞑って沸き起こりそうになる感情を鎮める。深呼吸すると、メールの返信ボタンを押した。 [大丈夫。今日は疲れたから帰るよ] 送信すると、了解と言う返事がすぐに返ってきた。山崎はもう一度深呼吸をすると、携帯をテーブルに置き、寝室に戻った。 暁は身体を丸めたまま、眠っていた。山崎は近づいて呼吸を確認した。それからジーンズと下着を脱がせると、新しい下着とスウェットを履かせた。 椅子に座りスースーと寝息を立てる暁の顔を眺めながら、爪を噛んだ。 「・・・あなたは僕だけのものだ。」---君が思うほど僕は君のこと好きじゃない・41人物紹介
2006年04月17日
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仕事がまだ終わらないので、今日アップ無理!楽しみにしてくれてる方ごめんなさいーーーーーひらにひらに。明日!明日こそ必ず!!
2006年04月16日
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今からオールでカラオケなんで(いくつだ、お前は明日の更新は無理と思われます。。。すまそ。
2006年04月14日
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山崎はどこから手に入れたのか、暁の両腕に手錠をかけるとさらに紐でベッドにくくりつけた。 暁はピクリとも動かずに眠りこけている。山崎は暁の顔をそっと撫でると、眼鏡をはずして唇に顔を寄せた。 「アキラさん」 頬をすり寄せると暁の名をつぶやきながら顔中にキスを落としていく。目の前にいるのが暁であることを確認するかのように、指でパーツごとの輪郭をなぞりうっとりと眺める。それからゆっくりとシャツの中に手を潜り込ませる。両脇をなぞると暁がくすぐったそうに身をよじった。山崎はクスリと笑うと、一気にシャツをまくり上げる。舌を這わせながら身体を上にずり上げて行く。胸を何度か舐め上げると、簡単に立ち上がった。吸い上げ硬くすると、舌先で啄ばんだ。 「ん・・・」 暁の口が半開きになる。山崎は一瞬意識が戻ったかと思い、顔を上げたが、暁の目は閉じられたままだった。それを確認すると、再び目の前の突起を舌で転がし始めた。暁の身体を撫で回しながら、徐々にその手を下ろしていく。一瞬でも離れたくないかのように顔を上半身に埋めたまま、手だけでジーンズのボタンを外していく。 「アキラさん・・・アキラ」 山崎は手の震えを押さえるために長いため息を吐くと、顔を上げてジーンズを下着と一緒に静かに下ろした。 「・・・やっと手に入れた。」 暁の半立ちのモノを山崎は愛しそうに手のひらに包み込むと、ゆっくりと動かした。 「ぅあっ・・・」 暁が腰を浮かせて逃げようとする。山崎は両腕で腰を抑えると、今度は空いている口にそれを含んだ。 「あっ、あ・・・」 暁は唯一自由になる首を左右に振って、襲ってくる快感を抑えようとする。山崎はその表情を満足そうに上目遣いに見上げると、さらに深く咥えた。 「やめ・・・マ、モル」 「・・・マモル?」 山崎は驚いて暁の顔を覗いた。 (ニシハラじゃなくて、マモルさん?) 山崎が混乱していると、暁の携帯がメールの受信を知らせた。---君が思うほど僕は君のこと好きじゃない・40人物紹介
2006年04月14日
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「な・・・に?」 暁は山崎の発言に言葉を失った。 「簡単でしょう?あなたが僕のものになればいいんです。」 山崎は再び写真を突きつけた。暁は何を言われているかよくわからなかった。唾を飲み込もうとしたが、からからでうまく飲み込めなかった。目の前に置かれた冷めかけのコーヒーを一気に飲み干す。 「お前と付き合えって言うのか?」 コーヒーの苦味に顔をゆがませる。 「まあ、そういうことです。」 山崎は胸ポケットからタバコを出すと、火をつけ大きく吸い込んだ。 「お前だってこんなことをして、ただじゃすまないだろう?」 暁はテーブルに手を付いて、写真と山崎を交互に見た。山崎はニヤリと笑ってみせる。 「言ったでしょう?拾ったんです。僕がニシハラの鞄の中から部屋の鍵の型を取って、マスターキーを作成して、それで部屋に侵入しあちこち物色したなんて証拠はどこにもないんです。」 山崎は天井に向けて煙をフーッと吐いた。 「・・・マスターキー?」 暁は頭に手をあて今起きていることをまとめようとした。 (ケイにそのことを早く知らせて、鍵を作り直させなくちゃいけない。この条件を飲んだとしても、ヤマサキは潔く鍵を渡すとは思えない。教授の援助のことだけでなく、鍵も敵の手の内にあることになる。・・・いや、鍵はむしろヤマサキにとって不利になるんじゃないか?こいつがマスターキーを持ってることがわかれば証拠になる・・・。) 暁は今どう出るのがベストなのか考えようとしたが、頭が痺れてうまくまとまらない。疲れているせいか急に眠気が襲ってきた。 「それで、お前は満足なのか。」 閉じそうになる瞼を懸命に開けて睨みつける。 「・・・それだけでは、満足しませんよ。」 もちろんね。と言って、山崎は吸っていたタバコを灰皿に押し付けると立ち上がり、暁に近づいた。 「どうして・・・」 暁はとうとう力尽きてソファーに倒れこんだ。 「どうして?それは僕が大量の睡眠薬をコーヒーに入れたからです。って、聞こえないか。」 山崎は眠りこけた暁を上から見下ろすと、指先でそっと頬に触れた。---君が思うほど僕は君のこと好きじゃない・39人物紹介
2006年04月13日
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着いたところは学校から車で西へ40分ほど行ったマンションだった。駐車場には高そうな車がたくさん停めてあって、暁はヒュイッと口を鳴らした。 「ずいぶん金持ちなんだな。」 車から降りた山崎はその質問には答えず、バイクを自分の車の横に着けるように指示した。入り口でオートロックを解除してからエントランスを通り、エレベーターに乗り込んだ。どうやら目的地は7階のようだった。 (こんな夜中に、実家ってことはないよな。ってことはここが加藤の言っていた、母親が買い与えた勉強部屋なのか。・・・まるで要塞だな。) エントランスのオートロックに、あちこちに設置された監視カメラ。外からの侵入を防いでいるようだが、暁は逆に中の住人が雁字搦めにされているように思えて仕方が無かった。山崎がパネルに指を当て、指紋で鍵を開けた。中に入ると、いきなり広々としたリビングが広がっていた。 「お邪魔します」 暁が小さくつぶやく。山崎はその辺に座っててくださいと言うと、キッチンに入って行った。暁はきょろきょろと辺りを見回すと、ベランダから景色を眺めた。7階だと眺めがいい。道路脇の電灯に沿って目を動かす。山崎の後を追いかけながら、道順は覚えたつもりだが、ここの位置を確認しておきたかった。闇にまぎれてしまっているが、いくつか目印になりそうな場所をチェックした。 「まあまあの夜景でしょう。」 後ろから声がした。振り向くと、飲み物を運んできた山崎がテーブルにカップを置き、ソファーに座るところだった。 暁が机を挿んで向かい側に座ると、山崎はインスタントですが、と言ってコーヒーを差し出す。暁はそれには手をつけず、さっさとここへ来た目的を切り出した。 「見せたいものって何だ。」 山崎はその暁の行動を見て、ニヤリと笑うと、コーヒーを一口飲んで立ち上がった。それから奥の部屋から3枚の写真を持って戻ってきた。 「これです。」 山崎がその写真を摘まんで暁の目の前に突きつけて見せた。通帳の見開きページを写真に収めたものだった。暁は山崎の手から写真を奪うようにして取った。1枚目は毎月決まった日に決まった金額送金されているページで、ときどきカードで小額ずつ引き出されていた。2枚目は4月の頭にまとめた額送金されているページで、これは全額すぐに引き落とされていた。どちらも送金者は同じ名前で、暁のよく知った人物と同じ名前だった。3枚目はこの通帳の表紙、つまりこの通帳の持ち主の名前が記されているところを撮ったものだった。 暁は写真をテーブルの上に放ると、ソファにドサリと寄りかかり腕を組んだ。山崎は写真をテーブルの上に並べると、満足げにじっくりと眺めた。 「これがどういう意味だかわかりますよね。暁さん。」 山崎が写真の一枚を取って暁に振ってみせる。 「どこで手に入れた?法律に触れるんじゃないのか。」 暁は負けじと挑むように山崎を睨みつけた。山崎はさもおもしろそうに笑った。 「拾ったんですよ。ニシハラの家の引き出しの中にあるはずの通帳の写真をね。」 それからまたコーヒーを一口飲むと、膝の上で手を組み、身を乗り出した。 「僕はね、暁さん。マスコミに公表する準備が出来てるんです。最近こういう事件多いですよね。大学教授が気に入った学生に、個人的に援助金を払う。しかもその学は決して小額ではない・・・その裏には何があるんでしょうねぇ。」 通帳の持ち主は圭。送金者は暁たちのゼミの教授の名だった。 「裏なんかないだろう。優秀な学生に援助をする。それだけだ。」 暁は腕を組んだまま体勢を変えずに言った。山崎は背もたれに両手を広げると、足を組んで仰け反った。 「事実なんてどうでもいいじゃないですか、マスコミはこぞってあることないこと書きたて、世間を騒がせてくれる。この写真の曖昧さはとてもいい肌理だ。」 山崎は3枚の写真をかざして目を細めた。 「・・・何が目的だ。」 暁が低い声で山崎が欲しかったセリフを吐いた。山崎は獲物が罠にかかったとばかりに色めきたった。それでも無理に感情を押し殺した声で言った。 「僕の目的は、あなたです暁さん。僕は、あなたが欲しい。」---君が思うほど僕は君のこと好きじゃない・38人物紹介
2006年04月12日
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ここのところ夜中まで詰めて作業をしていた暁は、その日も夜中まで1人院生室に残って作業をしていた。ひと段落付いてノートパソコンを閉じた時は既に午前2時を回っていた。あくびをしながら院生室の鍵をかけ、非常灯だけが点いた廊下に出た。歩き出そうと振り返った瞬間眠気がふっとんだ。 暗闇の中に山崎が立っていた。 「何してるんだ、お前。加藤が心配して探してたぞ。」 「アキラさん、見せたいものがあるんです。」 山崎は暁の言葉をまるっきり無視して口を開いた。 「こんな時間になにもないだろう。明日改めて来いよ。」 暁は目を合わさないようにして早口で告げると、歩き出した。 「ニシハラのことです。僕を無視すると、彼のためになりませんよ。」 暁は立ち止まって振り返った。闇の中でニヤリと笑う山崎の表情を見て、背中に何か這うようなものを感じた。 「ついてきてください。」 山崎は歩き出した。暁は黙って付いて行くしかなかった。 「見せたいものは家にあるんです。さ、どうぞ。」 山崎に車に乗るよう促されて、暁は躊躇した。 「学校に、持って来られないものなのか?」 暁の拒絶に山崎はクスリと笑う。 「僕はかまいませんけどね、見られて困るのはニシハラですよ。」 「本当に、こんな時間に出向く価値のあるものなんだろうな。」 暁は山崎を少し上から見下ろして、脅しをかけたが、山崎に効果はなかった。 「それを決めるのはあなたです。僕は提案しているだけ。僕は彼が学校に来られなくなるような事態になっても全くかまわないんですから。」 山崎の態度の余裕さが、これがはったりではないことを匂わせていた。どうします?と山崎が下から暁を見上げて言った。 「わかった。ただし、自走させてもらう。バイク取ってくるから待ってろ。」 暁の答えに、山崎は口端を上げると、どうぞご自由に、と言って車に乗り込んだ。 暁はバイクを取りに行きながら、衛に連絡をつけようか迷ったが、夜中の2時半と言う時間が電話することをためらわせた。これから山崎の家に行くというメールを手早く衛の携帯に送ってから、山崎の後を追った。---君が思うほど僕は君のこと好きじゃない・37人物紹介
2006年04月11日
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山崎はそれから一週間学校に現れなかった。加藤は携帯に連絡を入れたり、家を訪ねたりしたが、山崎を捕まえることはできなかった。 衛は校舎に入る直前の交差点で右に指示器を出しながら信号が青になるのを待っていた。何気なく見たバックミラーに山崎の姿が映った。目視で確認するために振り返ったが、信号が青に変わり、後ろの車にクラクションを鳴らされたので、しかたなく車を出した。途中で引き返してみたが、山崎の姿はもう見えなかった。 「たしか、あの小道はニシハラのアパートに続いてたよな・・・」 衛は車を脇に止め携帯を取り出した。 10分もしないうちに、暁と圭が衛の車がある駐車場までやってきた。 「ヤマサキの携帯に電話してみたんですけど、やっぱりでませんでした。あいつんちは正反対ですから、そんなところを歩いてるのは変です。」 暁から内線で連絡をもらい、追いかけてきた加藤が車に乗り込みながら報告した。 「まあ俺の見間違いかもしれないし、一応様子見とけば安心かなと思ってな。」衛は車を圭の家に向けて走らせた。 圭は自分の部屋に入り部屋を見渡してみたが、今朝と特に変わったところはなかった。押入れや、通帳などの入った引き出しを見てみたが、なくなったものなどもなかった。 「お前、通帳と印鑑は別の場所にしまっとけよ。本当に泥棒が入ったらいっぱつだぞ。」 暁が両方とも同じ引き出しに入っているのを見て圭の頭を軽く叩いた。どうも圭には危機感と言うものが足りない。とぶつぶつ言いながら加藤を見てギョッとした。 「お前はなにしてるんだよ。」 加藤はコンセントのソケットを外そうとしていた。 「盗聴器を仕掛けられてないか確認してるんです。」 マジかよ・・・。3人は呆気に取られたような顔で作業を進める加藤を見た。 「ヤマサキってのはそこまでするような奴なのか?」 衛が眼鏡をクイッと上げるとしゃがんで加藤に目線を合わせた。加藤は床に胡坐をかいて、外したソケットの裏側をチェックしながら答えた。 「あいつんちは、じいちゃんばあちゃんも健在で、大人6人に対して子どもはあいつ1人。望めば何でも手に入るような環境で育ってきたんです。特に母親がすごくって、高校のときに勉強部屋が欲しいっていうあいつに、近くのマンションの部屋を買い与えっちゃったくらい。そんなだから、自分の気に入らないことがあったら捻じ曲げてでも自分の思い通りにしようとする傾向にありますね。・・・今回なにがあったか俺は知りませんけど、あいつが黙って反省しているとは思えないです。」 加藤の言葉には明らかに怒りが含まれていた。それは山崎に対するものなのか、母親に対するものなのか、それとも他の何かに対するものなのかはわからなかったが。 「わかったよ、お前が納得するまで調べたらいいよ、いいよな?ニシハラ。」 衛は加藤に向かってそういうと、同意を求めるように圭を振り返った。圭はコクコクと無言で頷くと、少し青ざめた顔で印鑑をしまうための別の場所を探し出した。 結局1時間ほどかけて、加藤が納得いくまで調べつくしたが、何も出てこなかったし何もなくなってはいなかった。---君が思うほど僕は君のこと好きじゃない・36人物紹介
2006年04月10日
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加藤は最近山崎の様子がおかしいことを気にしていた。実験の計画を具体的につめなくてはいけない段階に来ているのに、話し合いの間中、心ここにあらずと言う感じで何か考え込んでいるし、約束の時間に姿を現さず、連絡がつかないこともちょくちょくあった。 衛さんに実験計画書を見てもらった次の日、山崎は暁さんと2人で話があるからと言って加藤が着いて行くのを拒んだ。あの時のことを山崎は加藤に何も話さなかった。 「アキラさんと何かあったのは確かなんだ。衛さんなら絶対に何か知ってるはず。」 加藤は衛に相談しようと院生室に向かった。 院生室の近くまで来た時、山崎が院生室の前に立っているのが見えた。 (山崎も院生室へ行くところだったんだ。院生室に行けるなら大丈夫なんだ。) 加藤は少し安心して、声をかけようとしたが、きょろきょろと周りの様子を探る山崎の動きを不審に思い、あわてて隠れた。そっと物陰に潜んで様子を見ると、山崎はノックもせずに院生室に入って行き、3分くらいですぐに出てくると、逃げるようにして走り去った。手には手袋をはめていたように見えた。 「何してんだ?」 後ろから急に声をかけられ、加藤は驚いて振り返った。声の主は衛だった。 「お、脅かさないでくださいよ。」 加藤は心臓に手を当てると、安堵のため息を吐いた。 「お前、あやしいぞ。」 衛の観察するような視線に気づくと、加藤は衛の腕を掴んで訴えた。 「あやしいのは俺じゃなくて、ヤマサキですよ。そう!ヤマサキがおかしいんです!」 加藤は最近の山崎の様子と、今の出来事を衛に手早く話した。 2人は一緒に院生室の様子を見に行った。 「5分で済む用事だからと思って、鍵閉めずに出て行ったんだ。まずったなぁ。」 暁は一通り部屋を見渡すと、何か変わったところが無いかチェックした。 「特になくなったものもないみたいだし・・・尋ねて来たけど誰もいなかったから、そのまま帰ったんじゃないか?」 暁は片手を腰に当てたまま、加藤を振り返った。 「でも、誰かいるかどうかなんて見ればすぐわかることだし、待っている気なら3分で出てきたりしないでしょう。」 「・・・お前、意外と友だち甲斐の無い奴だな。」 衛は腕を組んで背中を曲げると、真っ向から疑ってかかる加藤をからかうように見た。 「アキラさんとニシハラは?」 加藤は衛のからかいを無視すると、暁と圭の机を交互に見て尋ねた。どうにも胸騒ぎを抑えることが出来ない。 「アキラはまだ来てないし、ニシハラは教授のところで仕事してるよ。」 「あの鞄は?」 加藤は圭の席の横に鞄が置いてあるのを見つけると、近寄った。衛は矢継ぎ早に質問してくる加藤を見て、しょうがないなと言うふうに天井を仰ぐと加藤の傍に寄った。 「そりゃニシハラのもんだけど、金目のものは持って行ってるだろ・・・っておい。」 いきなり圭の鞄を開ける加藤に驚いて、衛はあわててその肩を掴んだ。 「・・・財布は入ってますね。札も入ってるし、免許証もある。」 「お前・・・」 ずかずかと鞄を開けただけでなく、財布の中身もチェックし始めた加藤に衛はあきれた。 「俺、マジで心配なんです。あの3分の間にヤマサキのやつ、何かしたんじゃないかって。」 真剣な加藤の横顔を見て、衛はため息をつくとわかったよと言って掴んでいた肩をポンポンと叩いた。 「でもとりあえず勝手に漁るのはやめよう。あいつらに持ち物の確認をしてもらうし、ヤマサキの動向には気をつけるように言っとくから。」 加藤は頷くと衛に促されて立ち上がった。 結局本人たちに確認してもらったが、なくなったものは無かったので、加藤の取り越し苦労ということでこの事件は一応納まった。---君が思うほど僕は君のこと好きじゃない・35人物紹介
2006年04月09日
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人物紹介にマモルちんupです。んー、禿げ?w 前髪短すぎた!
2006年04月07日
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「あーおなかいっぱいだー。」 圭は暁がありあわせの材料で作ったパングラタンをベロリと平らげると、そのまま両手を広げ、後ろにゴロンと寝転がった。 「太るぞ。」 暁は帰りがけにコンビニで買って来たビールの缶をプシュッと開けた。そのままグビリと一口飲む。 「いいから、アキラさんもこうしてよ。」 圭は自分の横のスペースをポンポンと叩いて寝転がるように促した。暁はビールの缶をテーブルの上に戻し、テーブルを部屋の端に寄せると圭の横に同じようにして大の字になった。圭が手を伸ばして長く継ぎ足した電気の紐を引っ張った。 真っ暗な部屋の中にカエルの声だけが響く。月明かりもなく、目を閉じても開いても同じような闇が広がっていた。不意に圭の手が暁の手に触れた。暁はそれを握り返す。 「小さい頃、僕はとても口下手で、気持ちをうまく言葉に変換できなった。」 今でもそうなんだけど、と言って圭は笑った。笑ったことが手の振動で暁に伝わってくる。 「学校で先生に怒られたり、友達と喧嘩したりしたときは、独りで泣いて部屋に閉じこもってた。そんな僕を父さんはよく近所の山に連れて行ってくれたんだ。真っ暗な闇の中、二人で草むらに寝そべった。月明かりはなくて、空には満天の星空が広がってた。闇の中で本当に独りぼっちになったような気がして、360度星空に囲まれると、自分がどこか違う世界へ行ってしまったんじゃないかって錯覚を起こすんだ。」 圭が空いた手を天井に伸ばしたのが気配で伝わった。暁も満天の星空を想像する。 「父さんは僕の手をぎゅっと握ってくれた。その手の温かさだけが、傍に誰かいる、独りぼっちじゃないってことを伝えてくれたんだ。」 圭が身体を傾けてこっちを向いた。暗闇に慣れてきた目が圭の輪郭を捕らえ始めた。 「今でも、こうやって闇に包まれながら、あの満天の星空を思い出すと、全てのことが何かどうでもよくなってきちゃうんだ。」 目の白い部分が見えなくなったことで、圭が目をつぶったのがわかった。 「良い父さんだな。」 暁は過去形を使わなかった。 「うん」 圭が白い歯を見せて笑った。暁は横を向いて腕で頭を支えると、改めて反対側の手で圭の手を握った。 「親父さんの話、もっと聞かせてくれよ。」 2人は暗闇の中、眠くなるまで父親の話をし続けた。---君が思うほど僕は君のこと好きじゃない・34人物紹介
2006年04月07日
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ミーティングルームの中で、山崎は呆けたように一点を見つめていた。衛が部屋に入ると、怯えたようにビクッと肩を震わせた。 「・・・大丈夫か?」 衛は、暁が座っていた席に座ると山崎の様子を伺った。山崎は色を失った目で、膝の上で組んだ自分の手を見つけると、ぼそっとつぶやいた。 「アキラさんを怒らせてしまった。」 衛は腕を机に乗せると両手を顔の前で組んで身を乗り出した。 「あれはあいつの防御反応なんだ。追い詰められたから突き放した。別にヤマサキのこと、嫌いになったわけじゃないと思うぜ?あいつは追いかけられると引くタイプなんだよ。」 山崎は姿勢も視線も崩さない。 「だからって、俺なんかが引いたところで、追いかけてくれるわけがない。忘れられるのがオチだ。」 確かにな、と衛は思った。正直言って衛が山崎にかけてやる言葉はこれ以上なかった。 「・・・あいつと、俺と、何が違うって言うんだ。」 山崎の目が微かに揺れた。突きとめてやる。そう言って山崎は立ち上がった。 「おい」 衛は何か不穏なものを感じて声をかけたが、その声は彼には届かなかった。---君が思うほど僕は君のこと好きじゃない・33人物紹介
2006年04月06日
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院生室に戻ると、暁は出しっぱなしにしていたマットを黙って片付けた。胃の辺りを黒い霧のようなものが満たしていくのを感じて、無意識のうちに右手でそこに当てた。 「コーヒー、冷めちゃったけど・・・飲む?」 圭は入り口で、両手にカップを持ったままの姿勢でつっ立っていた。暁はそっちには視線を向けずに首だけ振った。口を開けば、誰それかまわず傷つけそうで怖かった。 圭は、暁が首を振ったのを見て視線を落とすと、両手のカップを見比べて左手のカップを口に運んだ。 「げほっ・・・にが。」 圭がむせたのに驚いて、暁は反射的に圭を見た。 「そんな無理に飲まなくったって。」 圭は苦味に顔をゆがませたまま、だってもったいないから、とこぼした。暁は短くため息をつくと、左手のカップを取って一気に飲み干した。 「これでいいだろ?」 空になったカップを机の上にタンッと置き、自分の鞄を掴むと肩にかけた。圭は右手のカップも差し出す。暁はチョイッと左眉を上げると、空いている衛の席を黙って指差した。それから、圭がそこに右手のカップを置くのを確認して、床に放って置いたヘルメットを掴んだ。 「バイク、乗るの?」 圭が心配そうに暁を見上げる。 「乗らなきゃ帰れないだろ。」 吐き捨てるように言うと、ドアに向かって足を進めた。圭は後ろから掴みかかるようにして、ヘルメットを暁から剥ぎ取った。 「僕、おなかすいたんだけど!」 だからなんだよと強めに言ってヘルメットを取り返そうと手を伸ばす。圭はさらにそれを自分の後ろに隠した。 「いい加減にしろよ、俺は怒りたくないんだよ。」 暁は怒りを無理やり押し殺したような、低い響く声で圭を脅した。圭は後ろ手にメットをぎゅっと握った。 「アキラさんなんかが怒ったくらいで、僕は傷ついたりしない。」 口を真一文字に結ぶと、負けじと暁を睨みつける。暁は怒りを含んだ目で圭を見下ろしたが、圭の瞳が揺らぐことはなかった。 しばしの睨み合いの後、暁の方が先に視線をはずすと、短く息を吐き、わかったよとつぶやいた。圭はぱっと顔を輝かせると、ヘルメットを持ったまま、入り口付近に置いていた鞄とヘッドフォンを掴んだ。それから笑顔で暁を外へ促した---君が思うほど僕は君のこと好きじゃない・32人物紹介
2006年04月05日
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白部分ウプしましたー。よかったら戻ってお読みくだチャイナ。君が思うほど僕は君のこと好きじゃない・27
2006年04月04日
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衛がコーヒーメーカーからできたてのコーヒーをマグカップに注いでいるところへ、圭が入ってきた。 「うわっ。びっくりした。」 ドアを開けた目の前に人がいたので、圭は文字通り飛び上がった。衛はその様子を見てひとしきり笑うと、ヘッドフォンをはずして胸を押さえている圭にマグカップを二つ、上の部分を覆うように掴んで差し出した。 「いいところに来た。靴を脱ぐ前に、これ、隣のミーティングルームに持って行って。」 圭は、あ、はい。と返事をすると、鞄とヘッドフォンを床に置いてから、取っ手の部分を受け取った。衛が手を伸ばしてドアを支えてやると、圭はソロソロとこぼさないように運んで行った。 「待てよ、両手が塞がれている状態でどうやってドアを開けるんだ?」 衛はいったんドアを閉めたが、急いで靴を履くとドアを開けた。案の定、圭はミーティングルームの前で固まっていた。 「おお、悪い」 声をかけると、圭が衛のほうを向いて首を振った。 「?」 なんだか様子おかしい。衛が近寄ると、ミーティングルームから山崎の声が聞こえてきた。 「俺、本気なんです。暁さんのことが好きなんです。」 何を言われているか理解できず、ポカンと口を開ける暁に、山崎は、堰を切ったように次から次へと言いたいことを畳み掛けた。 「始めは贔屓されていることが嫌なんだと思ってたんです、でも、アキラさんが誰かと一緒にいるのが嫌なんだってことに気づいたんです。最近ずっとニシハラと一緒にいて、アキラさんは今までと同じように俺と接しているつもりかもしれないけど、前は約束をすっぽかすなんてなかった。ずっと一緒にいて欲しいんです。誰かと一緒にいるところは見たくないんです。」 「ちょ、待て。」 暁はやっと何を言われているかわかって、立ち上がって興奮する山崎の肩を押して、とにかく座らせようとした。しかし、一度頭に血が上ってしまった山崎は止まらない。 「アキラさんはニシハラのこと、どう思ってるんですか?付き合ってるんですか?俺なんか相手にならないですか?」 「あーあ、こりゃだめだな。」 外でこのやり取りを聞いていた衛はため息をついて、クイッと眼鏡を上げた。 「暁にこの攻め方は間違ってるな。相手が熱くなればなるほど、暁は冷めてくんだ。」 そう言って、衛はちらりと圭を盗み見た。圭は何も言わず無表情でドアを見つめている。 「落ちつけって。」 暁は山崎の頬を軽く叩いた。山崎はハッとして暁を見上げたが、暁の眼を見るとゾクッとして一歩下がった。 「俺のプライベートはお前には関係ない。慕ってくれるのは嬉しいが、行き過ぎた好意には答えられない。今度から俺に用があるときはカトウと二人で来い。」 暁の冷たい視線に、山崎は頭が痺れたような感じがしてペタンと座り込んだ。暁はそのままボールペンと裏紙を手に取ると、無言でミーティングルームを出た。 「あつっ」 ドアを勢いよく開けると、目の前にいた圭は、驚いて手に持ったコーヒーをこぼした。 「あ、悪い。」 思わず暁が手を伸ばすと、圭はビクッとして身を引いた。暁は圭の揺らいだ瞳で、自分が山崎に何を言ったかを自覚した。ツーッと嫌な汗が背中を伝う。暁はゆっくりと左手で自分の顔を覆った。その様子を見て、衛が暁の肩を優しく叩く。 「ヤマサキのフォローは俺が入れとくから、お前はもう帰れ。今日は疲れてるんだよ。」 それから、圭に向かって悪いけど付いててやってと言うと、ミーティングルームに入って行った。---君が思うほど僕は君のこと好きじゃない・31人物紹介
2006年04月03日
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次の日の夕方、昨日より少し早い時間に山崎は院生室に一人でやってきた。ドアをノックする音に返事をしたのは、衛だった。山崎はおずおずとドアを開けて顔を見せると、あの、アキラさんは?と弱々しい声でたずねた。 「おい。」 衛は床に転がっている塊を蹴った。 「てっ。」 机の下で、床に銀マットを敷いて眠ていた暁は、びっくりして飛び起きて机に頭を打った。 「てめぇ、今蹴って起こしたろ。」 机の下から這い出してきた暁は、はねた髪の毛を手で押さえつけながら、衛を睨んだ。 「お前はそれくらいしないと起きないだろ。時間だよ。」 衛はそういうと、視線を入り口に向ける。その視線を追うと、先で山崎がペコリと頭を下げた。 「おお、悪い。すぐ行くからミーティングルームで待ってて。」 暁は立ち上がって、もう一度頭を手で撫でつけると、4色ボールペンと裏紙を2,3枚引っつかんで山崎の後を追う。 「あ、マモル。コーヒー二つね。」 出て行く直前に衛に向かってウインクすると、返事を待たずにドアを閉めた。衛はチッと舌打ちしながらも、コーヒーを淹れる為に立ち上がった。 「昨日はごめんな。今日はカトウは一緒じゃないんだ?」 暁は机を挟んで山崎の向かいに座ると、ボールペンを右手でクルクルッと回した。はい。と答えた山崎は、いつになく緊張の面持ちで、膝に手を置いたままピシッと背中を伸ばしていた。 「えっと、実験の計画見る約束だったよな?」 暁はボールペンでポリポリと頭をかくと、覗き込むようにして山崎を見た。 「それは昨日、マモルさんに見ていただいたので・・・」 「あー・・・、ホント、ごめんな。」 暁はまいったなという顔で、笑ってみせた。 「あのっ、今日は、言いたいことがあって・・・来ました。」 声が裏返るんじゃないかと思うくらい力の入った感じで言われたものだから、暁はちょっとびっくりして目を見開いた。 「あ、うん。聞くよ?・・・どうした?」 山崎は思考に口が付いていかない感じで、2,3度パクパクしてから、真っ赤な顔をして切り出した。 「俺、昨日、衛さんに言われて、気づいたんです。」 「うん?」 暁は、またあいつはなんか余計なこと言いやがったなと思い腕を組むと眉を寄せた。---君が思うほど僕は君のこと好きじゃない・30人物紹介
2006年04月02日
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暁が学校に戻ったとき、衛はちょうど帰り支度をしていた。 「おんや。」 何も言わずに席に座る暁に近づいて、鼻をクンクンさせる。微かにシャンプーの匂い。 「なんだよ。」 暁は面倒くさい奴に見つかったという顔をして、衛を睨んだ。 「べっつにぃ。」 衛はフフンと鼻を鳴らすと、自分の席に戻り鞄を取った。 「ああそうだ。」 衛は昼間、山崎たちが来て、暁のフォローをしてやったことを話した。 「明日また来るってよ。」 暁は約束をすっかり忘れていたことに自己嫌悪し、机に突っ伏した。 「すまん・・・」 衛は耳元でひとつ貸しな。と囁くと、暁の頭を指ではじいた。 「今日は疲れているようなので?許してやるけど。」 暁は衛のにやけ面を目だけで睨むと、わかった覚悟しとくよとつぶやいてため息をついた。 その晩、暁は久しぶりに人の記憶に関する論文をまじめに読んだ。圭は、あのプログラムにいったい何を求めているのか。何を足してやったらあのプログラムと友だちになれたと感じるのか、それを実現してやりたいと思った。
2006年04月01日
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