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花夢島~Flower Dream Island~
1~多次元世界(アナザーワールド)~
ブラックホールの内部にいて無事でいられるはずが無い。だとすればホワイトホールは実現したのだろうか?ならば光すらない空間をどうやって説明する?光が全くな居場所は倣った範囲ではブラックホール以外には無かったはずだ。ならば他にもあったのだろうか?
考えても混乱が増すだけで意味はないことに気付く。俺は目を閉じて思考する。いわばこの場は無限だ。果ても無く終わりも無い。ずっとここにあり続ける。ここから抜け出す術が見つからないなら、ここを拒絶するのではなく同化すればいい。無限の一部となって永遠に在り続ける。覚める事の無い永久の眠りにつけばいい。
俺は思考を停止させ、全身の力を抜こうと息を吐きかけたとき、瞼の奥に目映い光が見えた。それは最初は微弱で仄かな物だったが、徐々に近づいていき眩しいほどに強い光となった。俺は流れるままに見を任せその光へと吸い込まれていく。徐々に体の感覚が戻り自分自身がはっきりとしていく。
白い光に包まれた空間は暫く行くと広大な宇宙空間へと繋がっていた。しかし、何故か自然と息ができる。よく見れば体の周りに半透明の白い膜が蔽っていた。それがなんなのか分からないけどそのおかげで呼吸ができていることだけは感じ取る事ができた。
「そういえば、準はどこに行ったんだ?」
辺りを見回すも準の姿はそこに無い。思わず携帯を取り出してみたが、宇宙空間で繋がるはずが無く当然圏外となっていた。
「でも、きっと大丈夫だろう。準なら何があっても生き残りそうだ」
それよりも今は自分が生き残る事を考えた方がいい。何時までもこうして宇宙空間を彷徨う訳にもいかないだろう。だが、その心配もないような気がした。先程から何処かへ向かうように時々曲がりながら流されている。
「俺にはどうしようもない、か……」
そう思うと何故か唐突に眠気が襲ってきた。俺はそれには向かうような事はせずおとなしく微睡みの中へと落ちていった。
徐々に覚醒していき、体の感覚が戻っていく。ベッドで寝ているかのように暖かくフカフカした感覚に体中が包まれる。
「ふぇ?」
不審に思って上半身を起こしてみる。すると、やはりベッドで眠っていた。知らない部屋で。
「ここ、どこ……?」
ここがどこだかすぐにでも知りたかったが、勝手に出歩く訳にもいくまい。仕方なく何らかのアクションが起こるまで座って待つことにした。
暫く待っていると、障子がゆっくりと開いた。
「あ、気がついたんですね。よかったぁ~」
障子を開け俺の姿を視認するや否やそう言う女性。この家の人なのだろうか。見た感じ俺と同い年ぐらいだろうか。少し明るめの黒髪をポニーテール状にして、更に頭に赤いリボンをつけている。少し紫がかった瞳に整った顔立ち。スタイルも全体的に見ても高校生の平均以上だろう。俺が暫く見惚れていると、彼女はまた口を開いた。
「妹と一緒にお散歩してたら空からゆっくりとヒトが降りてきたんだもん。吃驚しちゃったわよ」
きっとあの白い膜のおかげだろう、俺が無事に地表に降りたてたのは。
「じゃあ、キミが僕を運んでくれたの?」
とてもじゃないが男性の体一人を持ち上げられそうも無いような華奢な体つきをしている彼女が俺をここまで運べるとは思えないし、恐らく妹の方は尚更だろう。
「いえ、運ぼうと思って妹と2人で持ち上げようとしたら勝手にあなたの体が浮いたのでそのまま押して帰ってきました」
微笑みながらそう答えた。いや、まて。人の体がそう易々と浮いてたまるか。きっと何かが――いや、今更超常現象についてケチつけても意味無いだろうな。俺が生きてるのもその超常現象のおかげだし。
「あ、今妹がご飯作ってるんですけど、食べれます?」
そういえば随分と飯を食べてなかったような気がするな。気付いてしまえばもう体は正直だ。俺が口で答えるより先にお腹が返事をした。
「ふふふ、決まりね。立てるかしら?」
クスクスと笑いながら俺に手を差し伸べる彼女。俺はその手をとって立ち上がり、彼女についていきリビングへと向かった。
「あ、起きたんだね。調子はどう?」
リビングに入った途端今度は妹さんから先程と似たような台詞を浴びさせられた。
「ああ、おかげさまで……」
曖昧に返事をする。今俺の脳内はフル稼働をしていた。脳内会議での今回の議題は、どうしてあの少女はメイド服的な服を装飾しているのか、だ。
黒と白色だけで構成されているそれは少女の淡い黒髪と絶妙なコンビネーションを醸し出している。先に白い線の入った黒いリボンで髪を2つにわけツインテールを作っている。顔立ちは姉妹だけあって姉の方にそっくりである。まあ妹の方が幼さが目立つが……。見た感じ小学生の低学年くらいだろう彼女がどうしてあのような服を?
「妹の服装のこと?」
突然横にいた姉の方が話し掛けてきた。しかも随分と的を得た内容で。まああれだけ妹の方を見て固まっていたら誰だって気付くか。
「ああ、どうしてあんな服を着てるんだ?」
すると、妹の方が俺たちの方に歩いてきて説明してくれた。
「男の人は女の人がこういう格好してるのを見ると元気が出るってお姉ちゃんに無理矢理……」
恥ずかしそうに俯く妹さん。まあ人によってはテンションが最高潮に達するかもしれないけど、少なくとも俺はメイド服に萌えたりはしない。不謹慎だがどちらかといえばナース服の方が……
いや、そんな問題ではないな。まあとりあえず抜群に似合ってるのでよしとするか。
俺は妹さんの頭を撫でてやり、声をかける。
「ありがと、おかげで元気が出たよ」
まあ実際には対して変わっていないがいいだろう。こうでも言わないと妹さんがかわいそうだ。
俺がそう言うと妹さんは顔を上げた。少々しかめっ面だけど……
「キミ、私のこと子どもだと思ってるでしょ」
「へ?」
子どもだと思ってるってどういうことだ?意味が分からないんだが……
「私、これでも高校2年生ですっ!」
俺は妹さんの言葉を聞き硬直した。推定140センチ程のこの少女が俺と同い年だと?つまりはそう言ったのか?
「なのに子ども扱いして頭を撫でたり……」
少し落ち着いてきた。つまりは俺が子ども扱いして頭を撫でたのがいけなかったのか。
「悪い、俺が悪かったよ」
多少理不尽な気もしなくも無いが素直に謝ることにした。こういうときは例え相手の方が悪くてもこちらから謝ってしまえばそれ以上ごたごたは起こらなくてすむ。
「まぁ、分かってくれたならいいよ。でもこれからは気をつけてね」
そう言ってキッチンに戻っていった。どうやら機嫌は取り戻したみたいだな。
「ふふ、驚いたでしょう?あの子身体面は全然成長しなくって……。あの子も結構気にしてるみたいだからこれからはできるだけ言わないようにしてあげてね」
それは別に問題はない。が、何だろう。何か俺が暫く此処にいることを前提に話をされているような気がする。
「あの、さっきから俺が暫く此処にいることを前提として話をされているような錯覚に陥るのですが……」
取り敢えず聞いても差し支えないだろうから聞いてみた。まあどうせ勘違いだろうが、それでも妙な引っ掛かりが消えてくれればそれでいいだろう。
しかし、その返答は俺が予想している物とは根本的に違った。
「大丈夫ですよ、錯覚ではありませんから♪」
あー、そうかぁ、やっぱり気のせいじゃないのかぁ~と思ってからノリツッコミでもしようかとしょうも無い事を思ってみたりしてまあそんな感じで脳内で暫く彷徨して最終的には呆然とする事にした。
「・・・・・・」
「どうせ行くあてだってないんでしょ?それだったら別にいいでしょう?」
いや、確かにそうだけど……
「こんな誰だかわからないような怪しい奴を勝手に住ませていいの?」
何か自分自身を貶めてる気が……別にそんな趣味があるわけではないが。
「大丈夫。目を見ればどんな人かは大体分かるよ。キミは悪い人じゃないみたいだしね」
まあ住ませてくれるというなら別に断る理由も無いか。確かに行く当てもないし厚意に甘えることにしよう。知らない町で路頭に迷って死んでいくのもゴメンだしな。まあこれからの生活も慣れるまでは大変そうだがな。
「じゃあ、まあ厚意に甘えさせて貰う事にするよ。その代わり、俺にできることだったら言ってくれれば何でもするから」
それくらいはしなければ悪いだろう。俺は心の中で闘志を燃やす。別に誰と戦うわけでもないが、決意を新たにし頑張ろうと思いはじめた頃、妹さんが夕食の支度を終えたことを告げた。
「そういえばまだお互い自己紹介してなかったね」
夕食を食べ終わったあと、空き皿を前にして妹さんの方が言う。そういえばすっかり失念してたなぁ。お姉さんと妹さんだけで通りそうだからすっかり。
「じゃあお姉ちゃんから自己紹介タイム開始ってことで」
そう言ってどこから取り出したのかおもちゃのマイクを手に持ってお姉さんの口元に持って行った。
「えーと、私は天風 麻衣。17歳で洸鳴学院の3年生です」
更に口を開こうとした麻衣さんに構わずに妹さんが乱入して勝手に自分の自己紹介を始めた。
「それで、私が妹の芽衣でーす。15歳で洸鳴学院の2年生です」
後半をやけに強調する芽衣さん。何か微笑ましい気分になるなぁ。
最後に俺の番がきたので名前と年齢と、一応前の学院での学年も言っておく事にした。
「俺は周防院 湊。芽衣さんと同じで15歳。此処に来る前は聖アルカナ学院って所の2年生だった」
もしも知っていてくれればもしかしたらココは地球かもしれない、そんな淡い希望が一瞬頭を過ぎったが、それも2人の知らないという一言で打ち消された。
「そういえば、最初空からゆっくりと落ちてきたのは何でなの?」
「後はココまで運ぼうとした時に体が浮いていた事も。まあ湊くん自身も分かってないみたいだったけどね」
2人から質問を浴びる。それよりも分かってないって分かってるならわざわざ聞かないで下さいよ。
別に質問の内容に正直に答えても差し支えはないだろう。
「俺が答えられる範囲で答えると――」
俺は今日遭った事を余すことなく説明する。2人はそれを笑うことなく真剣に聞いてくれた。
「やっぱり、あったんだ……もう一つの、地球……」
芽衣が小声で何かを呟いた。然し、それはくぐもっていて俺に届く事はなかった。
「湊くん、ブラックホールに入ってホワイトホールから出てきたんですよね?」
麻衣さんが何かを考えるように尋ねてきた。
「うん、多分そうだと思うけど……」
最初から全てを見ていたわけでないし、もしかしたらブラックホールに吸い込まれたかさえも怪しい。多分あの状況で逃げられるはずはないと思うが。
「前に本で読んだことがあるんですけど、ブラックホールとホワイトホールは2つの世界を繋いでいるワームホールで、選ばれた物だけがそこを通る事ができて、更に地上まで安全に運んでくれる、と書いてありました。まあ信憑性の低くて妄言だと言われてた本なんですけどね」
「でもそれも強ち間違いじゃないかもね。実際こうして実例がいるわけだし」
しかしその説明だけじゃ色々と謎は残るな。だが、その本を読めば何か分かるかもしれない。
「なあ、麻衣さん。その本ってあるかな?あれば読みたいんだけど……」
戻る方法は何と無く分かったが、個人的にその本に興味がわいた。作者がどうしてそんなことを思ったのか、もしかしたら自分と同じだったのではないか、そんな考えが頭を馳せていた。
「うん、でも今日はゆっくり休む事。明日出してきてあげるから」
できれば早く読みたかったが、俺の体を気遣って言ってくれてるわけだし、厚意を裏切るのも厚かましい。我慢する事にしよう。
そういえば、自分の説明ですっかり忘れていたが、ココはどこなんだろう。日本語通じてるし、まるで日本だ。
「そういえばさ、ココってどこなの?今思えば普通に日本語とか通じてるし」
数限り無い星の中で生命体が生存している確率でさえあまり多くはないだろうが、さらには外見的特徴がそっくりで更に言語まで共通している生命体がいる確率なんてそれこそ天文学的数字じゃないだろうか。
然し、その疑問も麻衣さんの返答で何と無く納得してしまった。
「ここは日本ですよ。地球と言う星の」
一瞬驚きかけたが、驚くまいと堪えてみた。意味はないのだが。
「きっとここは湊くんのいた地球と対になってる地球じゃないかしら」
そう言って、麻衣さんは立ち上がりペンとノートを持って戻ってきた。そして、ノートに図を書いていく。中心にカタカナのハを上下逆さにしてくっ付けたようなものを横向きにして中心に書き、その左右に円を書く。
「こっちの左側の地球が湊くんのいた地球。右側がここだとして、左側と右側はこのワームホールでしか繋がっていない」
そう言ってペン先で中心に書かれたワームホールらしきものを突付く。
「世界はこの2つの宇宙によって成り立っていてワームホールを中心として左右対称に星々が在るっていう説が例の本に書いてあったの。さすがに左右対称かどうかは別として対の存在はあると思うんだ」
しかし、こうして色々と話を聞いていれば元の地球に戻るのは容易い気もしてきたなぁ。問題はこちらの地球での技術がどれだけ進んでいるか。
希望の光は途絶えていない。そして、更には準もこの地球に来ている可能性が高いことも分かった。左右対称説が正しいのなら人が生きられる惑星は地球だけのはずだ。ただ、技術の進み具合次第では他の惑星の可能性もありうるが、そうならば俺にだっていけるはずだ。それにケータイだって通じるだろうしな。
俺はこれからすべき事を頭の中で整理しながらもワクワクとした気持ちはさらに拡大していった。少なからず第2の地球での生活も楽しみでもある。
順に2人の顔を見る。これからこの2人と一緒に暮らしていくことになるのか。俺は予想だにしなかったこの新たな生活に期待の胸を寄せていた。
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