再出発日記

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2006年02月11日
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晴子情歌(上)
「晴子情歌」新潮社 高村薫
東北政治家の名門の家の傍系の娘・晴子は突然自分の娘の頃からのことを、東大を出ながらも遠洋漁業に従事する船乗りになった息子に宛てて、300日の間手紙100通も書き送る。

大正生まれで、東京の教養主義の雰囲気で育ち、東北の厳しい労働のなかで青春を送ったあと、東北政治家の弟の元に強制的に嫁がされ、政治家の外子をはらむ。それでも、そのなかで、みずみずしい少女はいたし、凛々しい女性はいたし、したたかな女はいたのである。

晴子は1919年生まれ。私の母は1934年生まれで、この当時の15年違いというのは現代の2~3倍の開きがあるし、東北資産家の遠縁と水呑百姓の娘とでは、天と地ほどの開きがあるから比べるなんて出来ないのではあるが、この小説を読んでいる間、ずっと55歳で死んでしまった母のことを考えていた。影之がこの手紙に出会ってはじめて母親のいろんな面と昭和という時代を感じたように、私は母の死に出会って初めて彼女に青春があったことを知った。戦中戦後にかけての彼女の悲しみと喜び。初めて父が語る母の若い頃のほんの一言か二言で、私は長い長い活動写真のように彼女の人生が見えてしまった。

高村薫もこの小説を書く前に肉親が次々と死んでいる。しかし、書いたのは決して彼女の母親の半生ではない。しかしそういう形でしか、亡くなった者に対して決着をつけることが出来ない。という作家の「業」というものはなんとなく分かる。





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最終更新日  2006年02月12日 02時50分22秒
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