再出発日記

再出発日記

PR

フリーページ

お気に入りブログ

『疑史世界伝』 1 New! Mドングリさん

源氏物語〔12帖 須磨… New! USM1さん

ポピュリズム?? New! 七詩さん

モダン・トーキング New! はんらさん

イ・ウォンテ「対外… シマクマ君さん

カレンダー

2007年02月21日
XML
「野上弥生子短篇集」(岩波文庫)
臼杵の町 である。私はそこで野上弥生子記念館を訪ねたあと、そう大きくない臼杵を散策し、雨で濡れた石畳を歩き、武家屋敷の細い路地を抜けていった。(PCの故障で写真データがすべて消滅したのがかえすがえすも残念だ)

野上弥生子はこの短編集の「明月」の中で母親の骨を拾いに火葬場に行く路をこのように描写している。
町を抜けて昔の士族屋敷の続く静かな通りにはいると、桜や、桃や、杏子や、椿の花が一軒一軒に咲いていた。以前「カリガリ博士」の映画で狭い板ばかりの町を見たとき、この一廓がふと思い出されたのであるが、路というよりも、もろい灰石の丘陵に穿たれた、屋根のない、急な、曲がったり折れたりした隧道に近かった。岩盤の路面に雨で叩き落された淡紅の花片も、迸り流れる小溝に渦巻く真っ赤な椿も、汚れがなく、土地の傾斜なりに並ぶ古風な武家の邸門や、白壁の塀や、女竹の端々した厚い垣根とともに目が覚めるほどに鮮麗であった。(245P)
‥‥‥(^_^;)私の下手な写真よりもよっぽとイメージがわいたと思う。現在もほぼこのままだと思う。今から思えば、まるで箱庭のように美しい町だった。

その町の造り酒屋の二階で古典に親しみながら、当時の最先端へ、東京への夢を膨らませていた15歳の少女は、1900年に上京し、ほぼ20世紀の末まで生きる。

この短編集を読んで驚いた。ひとつひとつの文章が全く古臭くないのだ。「明月」の発表は1942年1月だが、女友達が三人集まって打ち明けるとっておきの怖い話「死」は1914年の作品。これも文章は「明月」と全く同じ現代文であり、現代人が読んで<注>を必要とするような所はなく、事実無い。

文体が新しいだけではない。作者の視線が現代的なのである。
「哀しき少年」は1935年(昭和10年)の作品。
小学生の隆は少し変わった少年だと思われていた。数学以外はなぜか勉強しようとしないのである。 「僕いやなんだ。先生でたらめを教えるんだもの。」 「修身ではいつも叱られているか、あてつけられている気がした。歴史でみんな楠木正行にならなければいけないと激励されると、隆は困ってしまった。彼には正成のようなお父さんはいなかったし、顔さえ覚えていないのだから。しかし手を上げてそういったら、睨みつけられた。」(147P) 隆はその後中学に入り、軍事教練の授業から逃げだす。それだけの小説である。それだけだけど、そんな小説を1935年に書いていることに驚きを禁じえない。実は、読んでいるときはずーとこれは戦後の作品だと思っていた。

「山姥」(1941年)は、北軽井沢の「鳥の巣のような小っぽけな家」の別荘でのエッセイ風な小説。最後に彼女は昨日書いた日記の「万物は流れる」という言葉の続きを考える。


と書きそえた。それは例の愚痴であった。それから一生懸命気の利いたことを書くつもりで、
   その流れにたちて、もの想う葦よ。-
と書いたが、その先をどう続けてよいかわからなくなった。それにおそろしく眠かったので、
   賢くなれ、一本、一本、ただ賢くなれ。
   この世界をよきもの、美しきものにする方法は、
   それ以外にはない。
 彼女はこんなことを乱暴に書いてペンを措き、床にもぐりこんだ。とろとろとする枕に、大きな、冷たい血なまぐさい宇宙が、音を立てて流れ込んだ。森の下の渓流が夢に入ったのである。」(214P)





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2007年02月21日 22時34分47秒
コメント(4) | コメントを書く
[07読書(フィクション)] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

キーワードサーチ

▼キーワード検索

コメント新着

ヒフミヨは天岩戸の祝詞かな@ 自然数の本性1・2・3・4次元で計算できる) ≪…三角野郎…≫は、自然数を創る・・・  …
永田誠@ Re:アーカイブス加藤周一の映像 1(02/13) いまはデイリーモーションに移りました。 …
韓国好き@ Re:幽霊が見えたら教えてください 韓旅9-2 ソウル(11/14) 死体置き場にライトを当てたら声が聞こえ…
韓国好き@ Re:幽霊が見えたら教えてください 韓旅9-2 ソウル(11/14) 死体置き場にライトを当てたら声が聞こえ…
生まれる前@ Re:バージンブルース(11/04) いい風景です。 万引きで逃げ回るなんて…
aki@ Re:書評「図書館の魔女(4)」(02/26) 日本有事と急がれる改憲、大変恐縮とは存…
北村隆志@ Re:書評 加藤周一の「雑種文化」(01/18) 初めまして。加藤周一HPのリンクからお邪…
ななし@ Re:「消されたマンガ」表現の自由とは(04/30) 2012年に発表された『未病』は?
ポンボ @ Re:書評「図書館の魔女(4)」(02/26) お元気ですか? 心配致しております。 お…
むちゃばあ@ Re:そのとき 小森香子詩選集(08/11) はじめまして むちゃばあと申します 昨日…

バックナンバー

・2024年11月
・2024年10月
・2024年09月
・2024年08月
・2024年07月
・2024年06月
・2024年05月
・2024年04月

© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: