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2021年06月28日
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「塔のある家」萩尾望都作品集2 小学館

最近、70年代始めの萩尾望都についていろいろ学んだので、改めて読み返してみた。おそろしい。20歳ほどの女性が、ほんの数十ページの中に「世界」を描き、その終わりを恐れ、その愉しみを謳歌していた。

この短編集、全て素晴らしい。短評を載せる(本書には原稿完成時の記録しかない。他の資料から初出時の記録も載せる)。

⚫︎「モードリン」(1969年5月作成、週刊少女コミック71年7月18日号以下「週少」40p)
講談社「なかよし」の没原稿。心理ミステリである。大好きなウィルおじさんの殺人を目撃したモードリンが、「秘密」を知ったことで大人になった気分になるが、ある日その事がわかったウィルはモードリンを殺そうとし‥‥。この時代、少女マンガでこんな見事なミステリ‥‥。

⚫︎「かたっぽのふるぐつ」(70年12月作成、「なかよし別冊」71年4月、31p)
誰も評価していないが、ほぼ完璧な公害批判マンガ。名作だ。それを、小学生5年の教室の出来事として描き切っている。
スモック警報がでるような町で、仲良しのシロウとユウは、社会科で「公害」を討論した。その夜、シロウは工場に勤めている父親に聞くと最新機械を入れたから身体に害はないと説明された。それをしっかりモノのヨーコに聞くと、「実際には公害はあるじゃない。まだいい機械はできていないのよ。でも町の発展のためには仕方ない」という。これを「原発」に換えても、そのまま現代に発表できる。いや、現代誰も、少女マンガでこんな「原発マンガ」なんか描いていない!萩尾望都が2011年7月発売のマンガで、いち早く福島原発事故を描いた(「なのぬはな」)のは、決して偶然ではない。
(70年当時は「公害」は未来の見えない大問題だった。私の地域の水島も同じ問題を抱えていた。いっとき幼いわたしは、やがてはわたしの町まで公害の煙がやってきて住めなくなるんじゃないか、と兄にようやく伝えて泣き始めた事がある。)

ユウは夢をみた。

の」「石油コンビナート怪獣がごうごうとやってくる」‥‥彼は逃げ遅れる。様子を伺うと、アイツは町の真ん中に腰を据えて世界を終わらしてゆく。‥‥「ロケットでわずかな人々が月へ逃げた」「月から見ると地球はよごれて真っ赤だった。充血した目みたいにさ」‥‥
この夢の話をした数日後、ユウは公害のために亡くなるのである。ユウの姿は、やがてポーの一族の「小鳥の巣」で、エドガーたちがやってくる前に亡くなったロビン少年にソックリだ。

またはその構造は、もうまるで、その後の萩尾望都のSFの原型でもある(cf.スター・レッド、銀の三角)。これを大泉に越した直後に描いている。福岡の大牟田の炭鉱町の空気を敏感に感じ取り、それを昇華して公害問題も勉強して、こういう小学生問題に作り替え、新しい環境で一気に仕上げたのだろう。‥‥けれども、「なかよし」読者には受けなかった。現代も評価されていない。他にも名作は山ほどあるので仕方ないのだけど‥‥。

⚫︎「ジェニファの恋のお相手は」(71年1月作成、「なかよし」4月号、30p)
60歳おばあちゃんと17歳堅物少女との「とりかへばや物語」。えっ、この内容がたった30p?

⚫︎「塔のある家」(71年2月作成、週少3月、30p)
大泉時代に本格的に作った作品で、週刊少女コミックに載った短編。ヨーロッパを舞台にした、幼い頃は塔の3人の妖精が見えた女性の、半生。

⚫︎「花嫁をひろった男」(71年3月作成、週少増刊4月号、31p)
コメディタッチのサスペンス。明るいし、天然な女の子も出てくるけど、人は3人殺されている。コイン入れて体重測るのと同時に「今日の運勢」まで出てくる機械、この時代あったのかな?「たいへんラッキーなひろいものをします」と出てくるけど、この花嫁、3人も婿を殺している可能性がある、というところから始まる物語。上手いなあ。

⚫︎「かわいそうなママ」(71年3月作成、週少別冊5月号、30p)
萩尾望都版「恐るべき子供たち」。知る人ぞ知る傑作。これを母の日特集の別冊で掲載する小学館も、恐るべし。


この短編集でキチンと覚えていたのは実はコレだけだった。人も殺されないし、恋も実らないし、外国じゃなくて純粋日本だし、でも今でも読んであゝ日本の情緒だなぁと感心する。それでも、小学一年生の浴衣を小袖のように被って提灯下げて持って行ってしまった女の子のエピソードのコマや、ラストページの時間が溶け出したような描写は、まさしく萩尾望都なのである。

この短編集だけでも、このバラエティ!!大泉時代、最初の半年間の作品。

最初、萩尾望都のファンだった竹宮恵子が、やがて同部屋の物静かなこの同年代の作家を恐れ、妬んでいくのもわかるし、小学館の編集者が毎回出てくる作品の、引き出しの多さ、完成度の高さに、「一切注文をつけない、全て無条件に掲載する」という方針を立てたのもわかる気がする。





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最終更新日  2021年06月28日 09時36分13秒
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