クロクロ日記

クロクロ日記

研究所からの情報提供(北村三郎先生)



    研究所からの情報提供(平成18年1月15日発行分)

「ジュニア成人」と「シニア成人」

「ヒトの教育の会」(井口潔会長)のフォーラムがアルカディア市ヶ谷(私学会館)で開催されました。
井口潔先生は長年、九州大学医学部の外科医として癌の治療に携わってきました。そして井口先生は20年前、九州大学を定年退職するときに、現在の教育が抱えている問題の本質に気づき、大きな転身をはかりました。
「老婆心録」は井口先生が25年前、九州大学医学部を退職するとき、後輩に向けて書き残したものです。
そして村井実先生(慶応大学名誉教授、教育哲学)と協力しながら「教育のあるべき姿」を訴えてきました。
私のテーマ「職場風土改革」の目標は「社員の成長を促す職場環境をつくる」ことにあります。
5年前、私の「風土改革」の考え方と井口先生の「教育改革」の考え方の底流に流れている思想が共通しているように感じましたので、以来、井口先生の考え方を勉強してきました。
井口先生の主張の論点は以下のようなものです。
生物学的には人間は霊長類ヒト科に分類される生き物である。赤ちゃんはヒトとして生まれてくる。このヒトである赤ちゃんを乳児期、幼児期、少年期という大切な時期に教育によって「人間化」しなければならない。教育とはヒトの人間化を助けることである。
人間の能力には「生得的能力(感性)」と「習得的能力(知性)」がある。
「生得的能力(感性)」は遺伝により祖先から受け継いでいるものである。この能力は潜在的で眠った状態なので、親が生後すぐにしなければならないことはその「生得的能力(感性)」を甦らせることである。一方、「習得的能力(知性)」は論理的に学習によって誰でも習得できる能力であり、職業教育はその代表である。
「生得的能力(感性)」は個性的、測定が困難、実利とは無縁、時間・空間を超越して時代が変わっても変わらないという特性がある。いわば「生きる力」である。
一方、「習得的能力(知性)」は測定可能、経済を生み、論理的・現実的で時代とともに激しく変化する。いわば「生きるための手段」である。
学校教育で子どもの評価をする場合、感性の向上は測定が難しいので、評価をしない。いきおい知性評価、学力評価に傾いてしまう。そして「生きる手段」に関わる能力を重視し、「生きる力」はいつの間にか軽視されるようになる。
井口先生は心の成長の仕組みを、第1期(3歳まで)、第2期(4歳ー10歳)、第3期(11歳ー20歳)、第4期(社会現役)、第5期(高齢期)にわけて発達段階に応じた成長のメカニズムを医学的に説明しています。
乳児期、幼児期、少年期の発達段階に応じた教育については「三つ子の魂、百まで」、また江戸時代には「三つこころ、六つしつけ、九つことば、十二ふみ(文)、十五ことわり(理)で末決まる(江戸の繁盛しぐさ)」が伝承されており、その通り実践されていたと伝えられています。
私は企業、行政、労組、協同組合などの組織人の教育に関わっていますので、上記のうち、第4期(社会現役)、第5期(高齢期)に関心を持っています。ここでは第4期(社会現役)に関しての井口先生の考え方を「ヒトの教育(小学館)」から引用します。
第1期から第3期までのプロセスをしっかり歩んだ人は社会に出てから、自己発見の道を歩むようになる。実社会で自分を見失わないでで、必死で志を遂げようとする生き方の人を「シニア成人」、わかってはいるが要領よく生きている人を「ジュニア成人」としましょう。「ジュニア成人」はアイデンティティーモラトリアムともいうべきもので、定年後は自分というものがないから淋しい人生になりますが、「シニア成人」は健康に恵まれれば尊敬すべき高齢者になります。人生半ばにして、本当の「シニア成人」として出直そうと決心すれば、大脳辺縁系の「生きる力」には正のフィードバックがかかりますので、人生で手遅れということがありません。メリトクラシー(学歴社会)が崩れ始めた現在、人生半ばにして志を見直して納得のいく人生に立ち上がる社会人を期待します。
組織には多くの「ジュニア成人」が存在しているのを実感しています。そういう私も「ジュニア成人」から「シニア成人」への転向組なので、井口先生の考え方にはおおいに納得しています。井口先生の「人生に手遅れはない」には本当に励まされます。
ところで「ヒトの教育の会」はとても面白く楽しい会合でした。井口潔先生の基調講演、村井実先生のお話、パネルディスカッション、コンサート、パーティーなど、いろいろな趣向がありました。コンサートでは井口先生(ピアノ)と劉薇さん(バイオリン)がモーツアルトのソナタを共演しました。85歳の井口先生がモーツアルトを弾くのをまじかに見て「人は成熟するにつれて若くなる(へルマンヘッセ)」を皆、実感したようです。パーティでは奄美の名瀬市から参加した三浦一広さんの合気拳法を見せていただきました。指先だけで大きな男性をコロリと投げ飛ばす達人のワザには驚きました。三浦一広さんはパネル討議で「私は武道家よりも舞踏家に見られることがよくあります。若い頃はよく保護されましたが、今は青少年の保護司になっています。」という自己紹介があり、周りの空気が和んだ感じがしました。今年中に奄美のゆずり葉の郷を訪れてみたいと思っています。
この「ヒトの教育の会」には誰でも参加することができます。一人でも多くの皆様のご参加をお待ちしております。















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