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バイオマテリアル




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バイオマテリアルとは

 バイオマテリアル(生体材料)は一般に医療やバイオテクノロジー分野に用いられる材料の総称であり、損傷を受けた生体組織の機能を正常に近い状態に回復させるために用いる材料である。バイオマテリアルの目的はそれを用いる患者の生活の質・クオリティ・オブ・ライフ(Quality of Life: QOL)の向上に寄与することである。現在用いられているバイオマテリアルの例としては、人工股関節、人工歯根(インプラント)、血管拡張用ステント、人工弁、人工臓器、人工血管、眼内レンズ(人工水晶体)、コンタクトレンズなどが挙げられ、医療の現場で用いられるカテーテル、血液パック、組織癒着防止剤などもバイオマテリアルのひとつとして数えられる。また、大学や研究施設における近年の産学連携・医工連携の流れはバイオマテリアル研究にも多大な影響を与え、医学・化学・工学・生物学などの分野にまたがる学際的研究分野として急速な発展を遂げており、高齢化社会に向けた医薬投与システム(Drug Delivery System: DDS)の開発、小規模診療所における診断・検査を目的としたバイオチップの開発、さらには再生医療を目的とした組織工学(Tissue Engineering)における細胞増殖・分化誘導のための足場材料の開発が脚光を浴びており、いずれも21世紀の先端医療を支える必要不可欠な研究対象である。


日本におけるバイオマテリアル研究

 大学・国公立研究機関・企業などでの研究が中心となっており、金属材料学・無機材料学・高分子材料学・化学工学・機械工学・電気工学・生化学・分子生物学・細胞生物学・薬学・病理学・臨床医学・臨床歯学などの幅広い専門分野の人たちでによって研究がなされている。1978年に 日本バイオマテリアル学会 が創設され、医学・歯学・工学・理学・薬学・生物学などをつらねた学際的な研究交流が行われている。学会活動として、年1回 大会(学術講演会)を開催するほか、会誌「バイオマテリアル-生体材料-」を年6回発行している。また、 アメリカバイオマテリアル学会 ヨーロッパバイオマテリアル学会 などの学会との共催で 世界バイオマテリアル学会 を4年に1度開催している。1988年には京都において第3回世界バイオマテリアル学会を主催した。そのほか海外ではカナダ、オーストラリア、インド、中国、韓国にも同様の学会が存在する。国内の関連学会としては高分子学会・日本金属学会・日本歯科理工学会・日本セラミックス協会・日本DDS学会などが存在する。


バイオマテリアルとして用いられる材料

 バイオマテリアルに用いられる素材は多種多様で、主に、貴金属・チタン合金・コバルトクロム合金・ステンレス鋼などの金属、アルミナ・ハイドロキシアパタイト(HA)・カーボン線維・クレイなどのセラミックス、ポリビニル系・ポリアミド系・ポリエステル系・アクリル樹脂・シリコーン系などの合成高分子、そしてタンパク質・多糖類・核酸などの天然高分子が挙げられる。近年では、金属と合成高分子・セラミックスと合成高分子・天然高分子と合成高分子などからなる複合材料の開発も盛んに行われている。


バイオマテリアルに必要な特性

 バイオマテリアルに必要な基本的特性は、生体適合性、物理化学特性、機能特性、成形加工性・生産性に分かれる。
 生体適合性とは広義に用いられる言葉であり、具体的には生体組織や細胞に対して炎症反応・免疫反応・血栓形成反応を起こさない生体不活性を有する材料という意味である。また、生体組織・細胞に対して毒性を持たないという意味も含んでいる。通常、生体は体内に異物を認識すると上述の生体反応を不可避に起こし、生体を防御するシステムがものの見事に確立されている。しかし、バイオマテリアルにとってみれば生体から異物と認識されては必要な機能を果たすことができない。ゆえに、人工臓器・生体埋植材料(インプラント)にとって生体適合性は必要不可欠な特性であり、また、生体分子と接触するバイオマテリアルすべてに求められる特性であるともいえる。現在もバイオマテリアルにとって生体分子との界面(バイオインターフェース)における生体反応を制御することは重要なバイオマテリアル研究課題のひとつとなっており、全世界的に活発な研究が行われている。
 物理化学特性とは材料の力学特性・熱特性・光学特性・化学安定性・形態を指し、所望のバイオマテリアルとして必要な物性を有するという意味である。生体とバイオマテリアルとの間の力学特性の違いがあると生体と材料との境界面において応力集中を発生させ、生体へのダメージやバイオマテリアルの劣化を誘発する。したがって、人工血管ならば人工血管に応じた引張り強度・弾性・延性を有する必要があり、骨材料には骨材料に応じた引張り・圧縮強度が必要となる。それに加えて、膨張・収縮といった繰り返し運動によって材料が劣化したり疲労破壊をしたりしない物理特性も重要となる。化学安定性とは生体内環境下においてバイオマテリアルが酸・塩基反応や酸化反応を引き起こさないという意味である。
 機能発現性もまたバイオマテリアルの目的に応じて必要な機能を発現するという非常に広義であり、具体的には血液適合性・生分解性・接着性・生理活性・刺激応答性・薬物徐放性・情報検知伝達性などが挙げられる。


機能性バイオマテリアル

 近年の高分子化学の発展に伴い、血液適合性・生分解性・刺激応答性・薬物徐放性・情報検知伝達性といった機能性バイオマテリアルの研究も急速に進んでいる。
 血液適合性とは血液と接触した際に血栓形成を誘発しない材料表面を有することである。血液が異物と接触すると血液中のタンパク質が異物表面に吸着し、それが引き金となって血栓形勢反応が<誘発される。血栓形成はカテーテルや人工血管・透析膜を詰らせるばかりでなく、材料表面から剥がれた血栓が血液によって脳に運ばれると脳梗塞が起こり患者を死に至らしめるため、バイオマテリアルにとって克服しなければならない重要な課題である。これは人工心臓など血液と接触して用いられる人工臓器が解決しなければならない課題のひとつである。血液適合性を有する様々なバイオマテリアル表面設計が行われてきたが、現在では、ポリエチレングリコール(PEG)と呼ばれる高含水率溶解鎖をもつ表面と、2メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)と呼ばれる生体膜と類似のリン脂質極性基を有する表面が血液適合性を有する代表的なバイオマテリアルであるが、長期にわたって生体内で完全に血栓形成を起こさない材料表面はいまだ得られておらす、今も研究が行われている。
 生体内において自動的に分解する生分解性ポリマーは組織工学におけるバイオマテリアルとして応用されている。代表的な生分解性ポリマーとしてポリ乳酸(PLA)が挙げられるが、これは生体内において加水分解と呼ばれる水との分解反応によって高分子が徐々に分解され、最終的には低分子となって腎臓から尿とともに体外に排出され消失する。この生分解特性を利用して、組織工学では組織再生を目的とした細胞の接着・増殖・進展のための足場としてポリ乳酸を用いる研究が進められている。
 温度・pH・光などの外部刺激に応答する刺激応答性ポリマーのバイオマテリアルへの応用研究も盛んに行われている。刺激応答性ポリマーは時にスマート(頭のよい)ポリマーとも呼ばれており、なかでも温度応答性を有する代表的ポリマーであるPNIPA(ポリNイソプロピルアクリルアミド)に関する研究が盛んに行われている。このPNIPAは32℃以下では親水性、32℃以上では疎水性を示すユニークなポリマーであり、細胞培養皿などに応用されている。これは、通常細胞培養を行うと細胞が培養皿と接着するため培養した細胞を剥離させるにはタンパク質分解酵素であるトリプシンを用いる必要がある。しかし、PNIPAで修飾した細胞培養皿を用いると、37℃で細胞培養した後32℃以下に温度を下げるだけで細胞を簡単に剥離することができるために、細胞が産生したタンパク質などの生理活性物質を破壊せずに回収することができるため大変有用なのである。また、PNIPAを化学的に3次元架橋したPNIPAゲルは32℃において体積相転移現象を示す。体積相転移とは水が水蒸気に変わるときのように不連続に体積が変化する現象のことをいう。PNIPAゲルもドラッグデリバリーシステム(DDS)や細胞培養などのバイオマテリアル研究が行われている。


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