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Ph.Dの「維れ日に新たなり」
コンタクトレンズについて
修士時代にコンタクトレンズ材料の研究をしておりました。まあ主にレンズ材料に関する研究です。というわけでコンタクトレンズについて私が知っている知識を皆様に還元します。
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コンタクトレンズとは
コンタクトレンズとはいうまでもなく視力を矯正するための道具であり、めがねと同等の役割を果たす。眼鏡に比べて見栄えが良いことから、若者の近視患者の装用率が高い。さらに、眼鏡よりも視野が広いこと、雨などの天候に左右されない、スポーツをするのに適しているなどのメリットもある。また、近年ではカラーコンタクトなどファッションを主目的とした装用者も増えている。
コンタクトレンズ装用人口は全世界でおよそ1億2500万人、地球人口のおよそ2%であるとされている。国別に見ると米国が最も多く、およそ3800万人、次いで日本の1400万人というように先進諸国での装用人口がその大半を占めている。今後も発展途上国での装用人口の増加、また、高齢者の装用人口の増加が予測されている。ちなみに欧米ではソフトレンズの装用者が多いのに比べて、日本ではハードレンズの装用者が多いという特徴がある。
コンタクトレンズ開発の歴史
コンタクトレンズの原理は今からおよそ400年前の1508年にイタリアのレオナルド・ダ・ヴィンチが発見したとされている。ダ・ヴィンチはガラス製の洗面器に顔を漬けた際にレンズ作用があることを発見した。しかし、実際にコンタクトレンズを作製し、実用化されたのは1887年になってからのことである。ドイツのアドルフ・フィックによって初めてガラス製のコンタクトレンズが作られたが、レンズが大きく、装用時間も限られたものであった。1936年になると、ウィリアム・ファインブルームによってポリメチルメタクリレート(PMMA)と呼ばれるプラスチック製の軽量でかつ装用感の良いレンズが開発された。その後、1960年代までレンズの改良が加えられ、工業的にも大量に生産されるようになった。またPMMA製のレンズは眼内レンズ(人工水晶体)としても用いられた。ちなみに、PMMAは第2次世界大戦中に戦闘機のシールドとして使われていたが、ある時墜落した飛行機のパイロットの体にPMMAが入たにもかかわらず人体に害を及ぼさないということから、PMMAの生体適合性が偶然に発見されたと言われている。
こうしてPMMAレンズは実用的なコンタクトレンズとしての道を切り開いたわけであるが、その一方で酸素透過性がないという欠点も抱えていた。通常、角膜には血管が存在しないことから、大気中の酸素が涙液を通して角膜に供給される。しかし、酸素透過性の低いコンタクトレンズを装用した場合、角膜と涙液との間に存在するレンズが酸素透過を妨げてしまい、角膜細胞は慢性的な酸素不足に陥り、異常をきたす。現在に至るまでのコンタクトレンズ材料の開発の歴史はまさに酸素透過性をいかに高めるかという開発の歴史であったと言える。特に1970年代後半から1990年代にわたってコンタクトレンズの酸素透過性を高める研究が盛んに行われた。レンズの素材の酸素透過性はDk値(P値)で評価され、その単位はbarrer(=10^-10 cm^3[STp]/sec cm^2 cmHg)で表される。また、レンズ自身に関しては、レンズ素材の酸素透過係数Dkをレンズの厚みtで割った酸素透過率Dk/t(単位はbarrer/mm)で評価されることが多い。ちなみに裸眼と同等の酸素透過率を得るためには87~125barrer/mmの酸素透過率を有するコンタクトレンズが必要であるといわれている。1970年代には、メタクリロイルオキシプロピルトリストリメチルシロキサン(TRIS)と呼ばれるシリコーン系の材料が開発され、MMAに混入させることで10~30barrersの酸素透過性を有するRigid Gas Permeable(RGP)レンズが開発された。近年ではフッ素系のヘキサフルオロイソプロピルメタクリレート(HFIM)が導入され、力学強度と酸素透過性(30~160barrers)が強化されたRGPレンズが7日間用レンズとして販売されている。しかし、レンズか硬いことによる装用感の悪さは依然として問題である。
一方、ソフトコンタクトレンズ開発の歴史は1961年に遡る。チェコスロバキアのオットー・ウィッチターレによってポリヒドロキシエチルメタクリレート(PHEMA)が開発されたことがソフトコンタクトレンズという新たな道を切り開いた。現在、市販されているソフトコンタクトレンズの大半もこのPHEMAが主成分である。このPHEMAはおよそ38%の水分を含み、柔軟な材料であることからハードレンズに比べて装用感がよいレンズを作ることができるわけである。しかし、ハードコンタクトレンズと同様にソフトコンタクトレンズにおいても酸素透過性の低さが問題であった。レンズ素材の酸素透過性は含水率を高めることで改善されることから、各企業においてメタクリル酸(MA)やNビニルピロリドン(NVP)、グリセリルメタクリレート(GMA)をPHEMAに加えるといった素材開発が盛んに行われた。こうして改良されたレンズ素材の酸素透過係数は8~40barrersである。また同時にレンズの厚みを薄くすることで酸素透過率を高めるというレンズの形状に関する研究開発も同時平行で行われてきた。ただし、レンズの薄化は力学強度の低下を招くことから、ある程度の限界がある。さらに、ソフトコンタクトレンズにおいては涙に溶けているタンパク質や脂質によるレンズ汚染という問題も大きいため、長時間の装用には適さない。たとえ目に問題が起きても装用感が良いことから目の異常に気付くのが遅れるという問題もある。そこで、近年では各社ともにレンズ作製時のコストを削減することによって、1日使い捨てレンズを実現させ、大きな成功を収めている。
近年、第2のソフトコンタクトレンズとしてシリコーン素材を用いたレンズがソフトコンタクトレンズとして大きな注目を集めている。これは睡眠時も装用できる連続装用ソフトコンタクトレンズである。その始まりは1977~78年に3つの企業からそれぞれ別々にポリシロキサンハイドロゲルを用いた力学強度と酸素透過性とイオン透過性をかねそなえたレンズが開発されたことである。しかし、このレンズ最大の欠点は素材表面の疎水性(撥水性)であった。
つづく
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