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れですも色々
本棚左4段目。
司馬遼太郎という名は勿論ごく若い頃から知ってはいた。
次々とベストセラーを出し、何作も大河小説の原作にもなった。
しかし、なんと言ったらいいか若者特有の不可解な反抗心というのだろうか、一度も読んだ事がなかった。
始めて読んだのはもう30代になってから。
入院する事になり、病院でゆっくり読める本を探しに古書店に行った時に、文庫版のなるべく長いシリーズを読もうかという軽いきっかけだった。
「街道をゆく」1~43巻 朝日文庫、朝日新聞社
この内38,41,42,43巻が単行本、他は文庫版。
上述の通り、最初に買った司馬本。
文庫版の2~7と11~14が古い文庫版で、これらを入院時に持っていった。
腰痛で3週間ほどの入院だったので何度も読んでしまい、退院してから結局全部買い求めた。
年齢的にもこういう読み物が沁みるようになっていたのと、入院という環境がこの本の内容に見事に合っていたのだろう。
その一年後、今度は癌で入院する事になった時も全部抱えていった。
どの巻のどこから読んでもすんなり入ってゆけて、しかも文章の平易さと内容の濃さの絶妙なバランスがすごい。
どれもいいが、特にお勧めなのは40巻「台湾紀行」。
何度読んでも泣いてしまう。
「ある運命について」中公文庫版
比較的新しい短文集。
エッセイというには余りにも内容が重厚で、章ごとに一冊ずつ1000枚ほどの小説になるのではないか・・と思うくらいの素材が無造作に纏められている。
司馬の本をある程度読んでいないと、話題の飛び方に戸惑うかもしれない。
「アメリカ素描」新潮文庫版
昭和60年4月1日~5月19日 第一部
昭和60年9月28日~12月4日 第二部
として読売新聞に連載されたもの。
私はこの本で「文明」と「文化」の違いを明確に知った。
また司馬が年齢のせいだけではなく、二度とアメリカという国に行かなかった訳も理解できる。
司馬が求めているものがこの国には未だ無かったのだろう。
「歴史と視点」新潮文庫版
非常に短い短文集ではあるが、中身は濃い。
ある種の慎みから触れる事をしなかったであろう司馬の天皇観を垣間見る事ができる。
また、太平洋戦争、それ以前のノモンハン事件に関しての当時の軍部に対する怒りが伝わる作品。
「東と西」朝日文芸文庫版
出版は比較的新しい対談集だが、対談日時は多岐に渡っている。
文庫版のあとがきは1995年2月で、最後は開高健への弔辞になっているのが何ともいえない。
「歴史と小説」集英社文庫版
短文集としては初期のもの。
巻の最後に司馬自身の歴史の見方を述べていて、これが司馬についての批評をする場合のスタンダードになっているようだが、私はそれほど単純には考えていないと思っている。
あの述べ方は非常に自重したものであり、かつまたこれを書いた時の司馬の年齢を考え合わせて見れば、その後の視点の変遷に評論家は気がつくべきだ。
「西域をゆく」井上靖と共著 文春文庫版
NHKで放映された「シルクロード」の一端として1977年8月~9月にかけて取材した時の模様を著名な作家2人で振り返っている。
時代説明を簡単にすると当時の中国はまだ毛沢東時代であった。
やむを得ないのかもしれないが、脚注がちょっとうるさい。
この本を買おうなどという人間はそれほど詳細な脚注説明は必要ない。
判らなければ自分で調べればよいのだ。
教科書ではないのだから。
「日本人を考える」文春文庫版
対談集。
今となってみると、司馬を含めて対談者の殆どが物故している。
富士正晴との対談は絶品。
対談日時の大半は昭和45年、「左翼思想全盛期」である。
しかし安易に時代思想?に流されない本質を見出そうという意図を感じる。
「国家・宗教・日本人」井上ひさしと共著 講談社
活字の大きい単行本は何か損をしているような気がして買いにくいが。
これは例外だった。
対談集としては司馬の最晩年のもの。
職業右翼などがお題目のように唱える「憂国」という言葉は実は司馬のような本物だけが使用を許されるべきなのだと思わされる。
「殉死」文藝春秋
乃木希典についての本。
初版は昭和42年なので、刊行当時は色々な批判に晒されたようだ。
今頃日露戦争当時の将軍を書くのか。
乃木はそんな軍人ではない。
左右両派からの非難を承知で書いたのだろう。
また、これを書いた事によって「坂の上の雲」ができたのだろう。
「この国のかたち」1~6巻 文藝春秋
これもある程度の歴史認識がないと理解が難しいかもしれない。
だが本当にこれが司馬の遺言なのだと思う。
「ロシアについてー北方の原形」文藝春秋
3段目に書いたが、「菜の花の沖」で途中脱線しかけたものを纏めたというか1冊できてしまったという本。
書いた当時は「ソ連」であった国が現在は「ロシア」になってしまっている。
しかもこの本の中身もともすればモンゴルに脱線しかけているのは何となくおかしみがある。
「風塵抄」1~2巻 中央公論社
今の日本の施政者、議員全員に読ませたい本。
また私は本を買うときには中身重視で、中身さえ無事であれば余り装丁などには拘らないのだが、この本の装丁はいまどき珍しい大和絣でされている。
司馬の意向だそうだが、その気持ちは本当に理解できる。
日本人なら読んでおけと言いたい本。
「司馬遼太郎全集32」文藝春秋
本当はこの全集は全部欲しい。
しかし置き場所とお金の関係でそうもいかず、無念に思っている。
この32巻は評論、随筆、年譜が欲しくて買った。
「司馬遼太郎の跫音(あしおと)」中央公論平成8年9月号増刊
「文藝春秋平成8年4月号」
「司馬遼太郎の世界」文藝春秋平成8年5月臨時増刊
司馬の死後、各出版社から相次いで出された追悼特集。
何故生きているうちに真摯に司馬と向き合い、その意向を出版しなかったのだ という怒りは置いておいて。
司馬遼太郎という作家は不思議な事に生存中は殆ど評論の対象にされなかった。
余りにも偉大だったのか、出版社の意向なのかは不明だが。
どこかに司馬自身の言葉として
「司馬遼太郎の名前を使わずに色々書いてみたい」という趣旨の発言があった。
むべなるかな。
「明治という国家」日本放送出版協会
ここだけの話だが、私もこういう主題のものを書いてみたいという野望があった。
しかし、これを読んでその気は全く無くなった。
歴史を考えるという事は、結局小はおのれ自身を、大は国家を考える事になる。
しかも視点に「私」が入らず「公」である事も必要になる。
「昭和という国家」NHK出版
司馬にはノモンハン事件を書いてほしかったと思うのは私だけではなかろうが、結局膨大な資料を集めただけで、書かなかった。
これは多分その代わりになるものだろう。
私自身もこの時代の特に軍部を扱った本を読むと暗澹とした気持ちが晴れず、非常に精神衛生に悪いが、それをより近い時代に生きた司馬なら何倍にも感じるのは当たり前である。
しかし、今の時代の特に中央官僚には昭和前期の軍部に近い体質が依然としてあるのも事実である。
集団合議制による最高責任者不在、責任回避者が一番出世する不可思議さ。
本来の有能さよりも学閥、試験が優先する制度。
創造する能力よりも事務処理の巧みさが優先される・・・など。
あまりにもそっくりで気持ちが悪くなる。
昭和前期の軍部は崩壊したが、旧内務省を中心とする官僚制度はより強固に生き残った。
昭和後期までのような成長時代であれば無能な者でも国家は運営できる。
しかし、これからの未曾有な時代を旧態依然とした制度から生まれた者に果たして国家運営ができるのだろうか。
黙っていても何かが生産され、消費される時代ではない。
国家として生き抜くには、何よりも創造力が必要とされる時代なのに、肝心の者たちがその意味で無能ではどうしようもないではないか。
「アジアへの手紙」集英社
各界人への司馬の書簡集。
あとがきを書いている人間は正直私の意には沿わないが、まあそんな事はいいとして。
およそ政治的な活動とは無縁と思っていた司馬が、「金大中」氏の助命嘆願書簡を当時の総理大臣と外務大臣に送っていたとは驚いた。
月日が経ち、当時の韓国の死刑囚はその国の大統領にのぼりつめた。
歴史とはこういうものかもしれない。
他に散らばっている司馬本があればまた書くかもしれませんが、今の所本棚に納まっているものだけです。
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