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楽園のサジタリウス3 十三
――それより時間は少し遡る。
土砂崩れのような音、鉄と鉄がぶつかり合う音、獣の叫び声も狭い峡谷は反響して一機とマリーの元へ届けたが、今のところ音だけで実害はなかった。
もっとも、恐怖とパニックを煽るだけならそれだけでも十分過ぎたが。
「あああああどうしよどうしよ、よりによって親衛隊とぶつかったときにこんな大群来るなんて、ていうかあいつらがあんなにおびき出したのね、畜生畜生! 罠はあいつらがぶっ壊したし、これじゃ退治できないじゃない! こっちの《ゴーレム》じゃどうすることも……ああああぁっ!」
なんて喚き散らしながら、マリーは周囲を走り回っていた。それも頭をかいてオタオタと典型的なパニック状態で。それを一機は冷めた目で見ている。人間自分よりあわてている人間が傍にいると逆に冷静になるものなのだ。
「……俺がさっき言った予想、完全に当たったな。喜んでいいんだか悪いんだか」
無論、悪い。状況はさっきよりはるかに酷くなっている。
もうマリーを逃がすどころか、自分の命すら危うい。あの魔獣の怖さは殺されかけた自分がよく知っている。すぐに逃げるべきだが、敵がどこにいるのかもわからない。
そして、親衛隊の連中はどうだろうか。前回は皆武装していたし、開けた場所だった。ところが今は深夜で大半は寝ていたはず、場所もこんなところでは狭くて戦いづらいはず。あっちもやばいに違いない。あいつらはシルヴィア王国きっての親衛隊、なんて言葉は真実を知ってしまった今意味がない。
やばい、どうにかしないと。そう頭に浮かぶものの、何も思いつかない。
だが、一機が感じていたのは恐怖ではなく、苛立ちであった。
「……くそっ!」
ドン、と横にあった金属製の物体を拳で叩いた。さして鈍い音もせず、揺らすこともなかった。一機の無力さを証明するように。
呪わしかった。自分の無力さが。あっちの、絶望の国(ナイトメアワールド)にいた頃と何も変わらない自分が。
無用だった。自分の存在、自分の必要性。何もない世界だった。だからこそ、求めた。自分の力が必要とされる世界を。願った。己の能力を生かせる場所を。そして手に入れた。はずだった。
だというのに――情けないとしか言いようがない。結局自分はどこに行っても役立たずのままらしい。
「――いや、んなこた知ったことじゃない」
一旦頭を冷やす。うなだれた胸元には、あのペンダントがぶら下がっていた。脳内に浮かぶ、ヘレナや麻紀、グレタたち親衛隊の姿が一機の胸を締め付ける。
自分のことなどどうでもいい。カラッポな男の何もないプライドなど、知っている者達が危険にさらされている現状に何の意味があるのか。初めて己の無能を嘆くより、他人の身を案じた気がした。
「なんとか……なんとか……」
なんとかしないと。なんとかしなければ。いくら気ばかり焦っても、名案が出るわけもなく。一度も信じたことのない神に祈り、血がにじむほど握った拳でもう一度金属製の物体を叩く。――と、そこで一機は、自分がさっきから何を殴りつけてたか気付く。
「……ん?」
魔神。FMN。五十年前のグリード侵攻で伝説となった機体。そして、整備は滞りなくされているものの何故か動かない。
「……なあ、マリー」
「ええいこうなったら、このピストルであの旅人が言ってたテッポーダマを!」
「そいつヤがつく職業だったのか? そんな小型の銃があんなデカブツに効くもんか。いいから話聞け」
「何よっ! 今こっちは忙し」
「《サジタリウス》、動かせないかな」
「……は?」
思わずマリーは銃をポロリと落とし、また暴発させてしまう。
「だぁう! だから危ねぇっつーの! 拳銃持ってる時は気をつけろ!」
「い、いやいや、あんた何言ってんの? 動かすって、だからそいつは動かないって何度も言ったじゃない! 第一、動かすって操縦者もいないのよ、いったい誰が……」
「俺だよ」
「はい!?」
さっきまでとは違う意味でパニックに陥ってるマリーは面白くて一機は笑いそうになるが、時間が無いのでそのまま続ける。
「俺が乗るって言ったんだ。《サジタリウス》は見た目通り砲撃戦専用機。この口径からして砲弾は十五センチは下るまい。あの化け物ウサギの強度なんか知らんが、これだけの大口径なら十分過ぎるだろう。何匹いようが、圧倒できるさ……ところで、なんだその「おっしゃってることさっぱりわかりません」みたいな顔は」
「いや実際わかんないし! こいつがどんなものかなんて知らないけど、動かないものが役に立つわけないでしょ!? どうしてそんなに乗ろうなんて……!」
「やってみなきゃわからん。とにかく乗せろ」
「ちょ、無視しないでよ! だいたいあんた新人なんでしょ!? まともな訓練してない人間がMN操縦するなんて無理よ! どうしてそこまで……!」
「知るか」
きっぱり、言いきった。続ける台詞は力も勢いも無く、ため息を吐くように弱々しかった。
「無茶なのはわかってる。できないかもしれんし、動かせても化け物どもに返り討ちにされるかもな。それ以前に、俺の力がなくたってあいつらが魔獣を倒す可能性だってある。徒労に終わることもあり得るさ。どっちにしろあいつら感謝するどころかボコボコにされるだろうな……ただ」
なんとなく、ネックレスを胸から出し、銀細工をぶらぶら揺らす。それを見ていると、何故か心が安らぐ気がした。
「このまま何もせず――ただ終わる。俺にとって最悪の結果で終わるってのは――嫌だ。どんだけ無残な結果になっても、それを防げるかもしれないなら、それに賭けたい。自分には関係ないってほざくには……あいつらと関わり過ぎた」
そう、理由はなかった。
ただ、できるならばしたい。可能ならば力を貸したい。そんな衝動的なことだった。
「…………」
言葉を失ったマリーを無視して、搭乗口を探す。前は横に倒れていたから乗れたが、どこかから登る手段があるはず……
ぐい、とシャツの裾を引っ張られた。振り返ると、目を逸らしたマリーが指さしている。
「……あそこにあるでしょ、ラッタル」
言われて視線を向けると、装甲の表面にたしかにラッタルらしきものがある。これで上り下りするのか。
「ありがと……って、いいのかよ」
「……好きにしなさいよ。どうなっても知らないけど」
こちらに絶対目を向けないマリーは、何かを耐えているようだった。気にはなるが、時間がないので会えて無視することにした一機はラッタルを登ってコクピットにたどり着いた。
「ええと、たしかここら辺にハッチが……あった! そんでもって……うし、開いた!」
なんとか飛びこむようにコクピットに入り込んだ。整備はきちんとしているというのは本当で、五十年前の中古品にもかかわらず数日前に乗った《エンジェル》と変わりない内装だった。
「おお、きちんと透けて見える……おい、コクピットにシートベルトとかないけど、どうやって体固定するんだ?」
「コクピット? シートベルト? よくわかんないけど、MNは専用の鎧があって、そこに窪みがあって席と接続することになってるの。鎧着てる暇ないから、ロープででもくくってなさい」
そう言ってマリーはロープをぶん投げてきた。一機がシートを確認すると、なるほどたしかにフックみたいなのがある。正直MNの揺れは体験済みなのでロープではかなり不安だが、贅沢は言ってられない。
とにかく今は動かすことが重要と、一機はシートに座る。思考制御なのだから、とりあえず心を落ち着かせ、目を閉じてみた。
「MNはね、動かすっていうより、一体化するとか自分がMNになるって感覚でやりなさいよー」
「あいよ」
教えられたとおり、シートに触れている部分から神経を伸ばすイメージで意識を集中させる。前に試した時まったく動かせなかったことは頭の隅に追いやり、とにかく動かそうと必死になった。
だんだんと、意識が遠のいてくる。いや、意識があるが、広がったというか開けたというか、急に背が伸びた気がしてきた。自分がどんどん大きくなっているような感覚に身を委ねていると……
突然、右腕に風穴が開いた。
「……!?」
異変はまだ続く。一機の肉体に重しがのしかかった、いや、体重が激増した。自重に潰されるという異常を味わっていると、足の裏が平たくなり、ウジやらミミズがまとわりついている不快な感覚がきた。さらに背中に背負った荷物から伸びたものが腕に突き刺さり――
「う、うわぁ!」
たまらず目を開け、MNのコクピットから飛び出した。いきなり落下してきた一機にマリーも目を白黒させる。
「ちょ、だ、大丈夫!?」
あわてて駆け寄るものの、幸い一機はケガを負ってなかった。ただし全身汗まみれで、息を荒々しく吐いているが。
「はあ、はあ……いやいや、大丈夫、問題ない」
「だから言ったじゃない、無理だって! こう気持ち悪いというかなんというか……とにかくできないってこれでわかったでしょ?」
「いんや――問題ないって。やっとわかったよ、何で誰もこいつを動かせなかったのか」
「え?」
「簡単な話だ。こいつが……《サジタリウス》があまりに人間離れしすぎてたからさ」
体感してみて文字通り身にしみてわかった。全ては《サジタリウス》の異形さが原因だったのだ。
思考制御、擬似的に意識をMNと一体化させるというのであればその機体は人体に似れば似るほどいい。当たり前の話だが操るのは人間なので、同じならば同じであるほど同調しやすいはずだからだ。
しかし《サジタリウス》は右腕には大砲搭載、装甲は通常の数倍近く、足の裏なんか履帯となっていて人間なのはおおよそのフォルムだけ。そんなのと一体化したら、異物感で気持ち悪くなるのが道理だ。四十五年間動かせなかったのもそこだろう。
多分、五十年前これのパイロットしていた人物はアマデミアンで、戦車兵とかだったに違いない。それならばなんとかイメージできるはずだ。
それを説明すると、さすがに機械オタクだけあってだいたいは理解したらしい。少し言いづらそうにしていたが、意を決してマリーは口を開いた。
「人間離れって、そんなんじゃ操縦できないじゃない。やっぱり無理だって、あんた諦めたほうが……」
「いいや、可能だね」
え、と目を見開くと、そこでマリーは初めて気付いたようだ。
数メートルから転がり落ちてさっきまで青くなっていた一機の顔が、醜いほど歪んだ笑みになっていることを。
「くくく、なるほどなるほど。やっぱこいつは《サジタリウス》だよ。まるで俺にあつらえたみたいじゃん」
「な、何? ちょっとキモいんだけど、頭打った? ていうか打ってるわよね、血出てるし」
精神が高揚していた。鉄の匂いが一機を燃え上がらせ、口に入った塩分が活性剤となる。
「いやそれあんた血流れて口に入っただけだから! てか出血量やばくない!? ちょ、だから登っちゃだめだって!」
ぎゃーぎゃーわめきたてる女を無視して再び《サジタリウス》に乗り込んだ。マリーがやかましいのでハッチを閉じてからまたシートに座って目をつむった。
「一機! やめなさいって! 無理だってわかったんだからやめときなって! できないものをどうして……!」
「できるって。可能だよ。俺なら……いや」
一旦言葉を切ると、唇をなめ、ニヤリと笑う。
「『週末の悪魔』シリア・L・レッドナウにはこの程度のこと、余裕なんだよ」
外でキョトンとしたであろうマリーを無視して、一機は瞑想に入る。
先ほどと同様に、神経を伸ばすイメージで。より強く、より早く。
やがて、またあの不快感がやってきた。右腕が、足が、肩が、頭が、全身が異形へと変質していく。それは一機に恐怖を与えたが、等しく快感をもたらしていた。
――なんであの日、麻紀にはできたMNの操縦ができなかったか。もう、わかる。
MNの操縦方法を聞いた時は、単にあいつが弓道部だったからとか体力的なものかとか思っていたが、違う。もうどうしてだかはっきりわかった。
単純に、一機に動かす気がなかっただけだ。
あの時、完全に臆していた。命の危機が迫っているというのにまたしても精神的に退いた、逃げだしていた。だからこそMNの指先一つも動かせなかったのだ。ヘレナたちが助けてくれたからいいものの、心底呆れかえる男である。自分のことだが。
だけど、今度はそのヘレナたちがピンチという有り様。もう自分を助けてくれる人間はいない。逃げる場所もない。せいぜいがあの世ぐらいだろう。
だが、死に逃げるわけにはいかない。いや、逃げたくない。
「くく、くくく……」
全身を銅線か何かがはいずり回るような感覚に一機は苦悶の表情を浮かべるが、今度は飛び上がったりせずひたすら耐えている。
自分の命だけなら別にいい。こんな男の腐ったようなの一文にもならないし、腹の足しになるならむしろ貢献すべきかもしれない。
でも、かかってるのは自分だけでなく、あいつらの命も。そう思うと、いくらきつくてもやめる気にならない。
恐らく、できなかったとしても、ここでやめる方がよっぽど後悔するだろうし――
「――試した連中は、《サジタリウス》を同調、いや、理解できなかったんだ。だから操縦できなかった。だけど俺ならできる。だって――」
血で汚れた顔を腕でぬぐい、もう一度哄笑する。
「このシリア・L・レッドナウ、戦車の動きなら誰でも知ってるんだよ」
そう一機――鉄伝最強プレイヤーの一角『週末の悪魔』の片割れは、大出血人間には思えぬほど力強く宣言した。
最初に《サジタリウス》に乗ったパイロット、恐らくアマデミアンの戦車兵か何かだった彼以外操れた者はいない。一機はそれを、試したのが非アマデミアンかアマデミアンでも一般人だったからだと踏んでいた。
故に、履帯がどうやって動くとか、大砲の構造などが理解できなかった。だから余計に異物感が強かったし、ある程度同調したとしても動きを再現することができず結局起動させるなんて無理だったに違いない。戦車どころか自動車もない世界にそれを求めるのは酷というものだろう。
しかし、一機は違う。
四年近く履帯駆動のロボットを(二次元だけど)操り、戦車や大砲の知識を吸いまくったオタク魂(スピリット)は、文字通り身に刻まれている。実物を動かしたわけではないが、想像など容易だ。
『炎の魔神』、否、もはや《サジタリウス》と呼ぶべきこの機体は自分を待っていた、そう一機は信じていた。何の根拠も理屈もないが、今の一機を突き動かす動力源はそれだった。
「……楽園へご招待、か。楽園と言う割にはずいぶん変な世界へ連れてかれたが。しょっぱなから化け物に顔舐められるはのぞき魔扱いされるわ踏みつぶされかけるわ死にかけるわ」
呟いている中で、同調をどんどん高めていく。大きな輪と化した足は履帯の一枚一枚まで、砲身と化した右腕は先のライフリングまで。脆弱な自分の肉体から、最強の魔神へと転じていく。
「でもここんとこ、楽しく思えてきたんだ。楽園には程遠いが、悪くはないって……だから、こんなところで潰されてたまるか。失ってたまるか」
やがて、機体全てに神経が通ったイメージができた。だがいくら念じても動く気配はない。かっと目を開き、一機は叫んだ。
「魔神だとかFMNだか大層な名前だが……こんなところで寝てるだけの代物がぁ、偉そうにふんぞり返ってんじゃねえや! 俺の、俺の居場所を守るために、動けや《サジタリウス》ぅ!!!」
咆哮が、谷全体に響き渡り、その場にいた全ての生命体に叩きつけると同時に、
ゆっくりと、世界が揺れた。
「お、うお?」
地震かとあわてた一機だったが、よく見ると動いたのは一機自身だった。
正確には、一機の乗っている《サジタリウス》だが。
「え? え……?」
よくわからず、なんの気なしに目をこすろうと右手を上げようとしたら、右手は上がらず、変わりに《サジタリウス》の砲身(みぎうで)が動いた。
驚いて顔を上げようとすると、ガコンという鈍い音がして《サジタリウス》の首が動く。マリーの絶句する表情がコクピット越しに見えた。
「こ、れ……」
信じられず、足に力を込める。ゆっくり、初めて歩くように、一歩に神経を集中させ。
ドシンと、そのメタボな体格に似合った重厚な音がした。一機の足元にある《サジタリウス》の右足は、たしかに一歩進んでいた。
「は、はは、ははは……」
理解が届いてなかった一機の頭に、実感が生まれると、歓喜に震え叫ぶ。
「はーはっはっはっはっは! ひゃーはっはっはっはっは! やったぜおらぁ! どーだどーだ! 『週末の悪魔』の底力思い知ったか! あっはっはっはっは!」
(うっさいわよ一機!)
「おわっ!」
出血といろいろ溜まっていたフラストレーションが吹っ飛んでテンションがMAXレベルに上がっていた一機だが、突如声をかけられビビる。マリーだろうが、コクピットからは姿が見えない。
「あれ? ど、どっから声したんだ?」
(外からじゃないわよ、操縦席の前に小さい箱あるでしょ? そっから)
「おおこれか。お前いくら俺より小さいからってこんな小さな箱に入れるってびっくり人間か。テレビで人気者になれるぞ」
(なわけないでしょ! その箱の中には、『ジスタ』って霊石が……ええと、しにかく遠くの人と話せる石が入ってるの! MN間ではこれで話すのが基本! わかった!?)
そういえば、麻紀とMNに乗った時も謎の箱を通してヘレナと会話したが、あれはそういうシステムだったのかと一機は悟った。『アマダス』といい『ジスタ』といい、この世界には変な石が多い。
(でも、まさか本当に動かせるなんて……なにやったのアンタ?)
「ふん、こんなのシリア・L・レッドナウには余裕ってこった」
(は? シリア?)
「説明は後だ! ようし、行くぞ《サジタリ……あれ?」
そのまま全力発進しようとしたが、ピタリと硬直する。
「……なあ、マリー。これ、どうやって外出すの?」
よく周囲を確認すると、《サジタリウス》を移動させられるような広い通路はない。動かせないというのはこの機体ではなく運搬経路も問題だったのではという最悪のオチが浮かんだ。
(ちょっと待ってなさい。ちゃん出し方あるから。左側にあるレバー、引ける?)
視線を向けると、真横の壁にMNの大きさに合わせたレバーがあった。これを動かすのか。
「これを引けばいいんだな? よいしょ」
ガコン、と言われるままレバーを引く。ギギギ……と歯車が動くような音がしたが、別段まわりに変わったところはない。どうするのかと不思議に思っていると、
「うわぁっ!」
急に地面の底が抜け、《サジタリウス》ごと落下した。固定されていない身体は内部で浮遊し、全身をしたたかに打ちつけた。
「つう……なにが起こっ……え?」
気がつくと、《サジタリウス》の機体は金属に筒まれていた。上には大穴があり、そこに落ちてきたとわかる。周囲の金属は円形に囲っているらしく、《サジタリウス》がはまるかはまらないかの狭い隙間があり、足元には蓋のようなものが存在した。
「……………………」
一機は、何故だかわからないがものすごくやばい予感がしていた。全身からとてつもなく嫌な汗をダラダラかく。
「……マリー?」
(なによ一機、時間がないんでしょ? さっさとロープで身体縛って!)
「ロープで縛って、何する気? この、筒みたいなのにはめてどうするのよ?」
(ええと、カタパルトだったっけ。やばい時にはこれで出撃できるようにって、備え付けの設備があるのよ。使ったことないけど)
「か、カタパルト?」
(そ、カタパルトに入れて、ドーンて発射するの。たしかその《サジタリウス》の右腕と同じ原理って聞いたわよ)
「ちょい待ち! それはカタパルトじゃなくて人間大砲だぁ!」
顔が出血以外の理由で真っ青になる。無茶苦茶だ。いや、原理は正しいが思考が無茶苦茶だ。こんなデカブツを大砲で撃ち出すなんて狂っている。四十五年前の残党どもは何を考えていたのか。確実に《サジタリウス》が砕けるかこっちが中でシェイクされ死ぬに決まっている。
そうこう一機がパニック状態に陥っている間にもギギギギギとか機械が動く擬音が響く。マリーは本気で実行するつもりだ。
「や、やめろ中止しろ馬鹿! 無理だから不可能だから死ぬから俺!」
(ああもううるさいっ! もう準備は完了したから後は点火するだけ! だからさっさと身体固定しなさい!)
「ままま、まったああああああああっ!!」
怯えた一機はあわてて脇に置いてあったロープで身体をコクピットに巻きつけようとするが、急いでいるので上手くいかない。必然間に合わず、
下部から大量の火薬が爆発し、突き上げるように《サジタリウス》を天へ吹き飛ばした。
「わああああああああああああああああああああああっ!!」
強烈なGを全身に浴びた。
旧式の大砲のように後部から火薬を詰め、大砲内部に《サジタリウス》を入れてから空高く射出する簡易カタパルト――正確には人間砲台は、巨大で重いMNを飛ばすため飛んでもない量の装薬が必要であるから、それが発射された際の爆発音はとてつもなく、峡谷全体に轟いた。
鼓膜が破れるんじゃないかという轟音に驚愕した親衛隊と《ウサギ》の群れは、その中で天高く昇った火の玉を見つけた。
空に舞い上がった火の玉は、やがて火薬によってもたらされて運動エネルギーを使い果たし失速し、放物線運動を描いて峡谷に落ちる。地面に激突しても昇って落ちる際生じた運動エネルギーはそれだけでは相殺されず、峡谷内で激しく弾みまくる。一機たちの痛世界ならゴルフボールを思い出させる火の玉、《サジタリウス》のバウンドは、やがて地面を大きく削って停止する。
なんという奇跡か、あれほど激しくバウンドしたのに、《サジタリウス》は目立った損傷もなく、機体は座ったような体勢で立つことも可能だった。
もっとも、それは《サジタリウス》だけの話なのだが。
「う、ぐが、がが……」
(ちょっと、一機聞こえる? ねえ、一機ったら! くたばった?)
「……うるさいよ、マリー」
全身の激痛に耐えつつ、うめくように一機は返した。これは《サジタリウス》にシンクロしているせいでダメージが伝わったか、もしくは普通に一機の肉体に来たのか、判別できなかった。
(何よ無事なんじゃない、さっさと返事しなさいよ。死んだかと思ったわよ)
「……死んだら真っ先に貴様を祟ってやる」
ロープなど、気休めにもならなかった。いや、本当に巻かなかったらコクピット内でシェイクされミンチになっていたろうからとりあえず巻けてよかったのだが、人間大砲にされた身としては大差なかった。
異世界なのに、重力と物理法則がきちんと存在していることを呪いたくなった。というか誰だこんな奇跡が何度も発生しなければいけない発射装置作った奴は。とっくに死んでいるだろうが、会って殴り倒したいと一機は憎しみを強くした。
(乗せてあげたんだから感謝しなさい! で、どうなのよ『魔神』――《サジタリウス》は。動かせそうなの?)
「ん……ええと、なんとか問題なさそうだな。あれだけガチャンガチャンやって無事て、メガラの科学力恐るべし……」
(一機!? この声は一機かっ!?)
「のわっ!」
突然別の声が割り込んできた。通信機越しにもわかる、ヘレナの声だ。
「え? え? なんでヘレナの声が聞こえるの? この通信機?」
(通信機……おい、まさかさっき墜落してきたMN、乗っているのは一機か!? いや、あいつがMNに乗れるわけが……)
「ああ、いや間違ってないよ。さっき落ちてきたの、俺」
(なんですって!? どうしてあなたがMNに乗ってるんですか!)
今度はグレタが割り込んできた。彼女らは当然MNに乗って戦っているはず。『ジスタ』とか言ってたが、その石は同じ場所で使うと混線してしまうらしい。
「えーと……すいません、全身痛くて説明すんのめんどいからしなくていい?」
(ダメに決まってるだろ! 一瞬で良く見えなかったが、おかしな造形のMNだったな、どこにあったんだそんなもの!)
(おかしな!? ふざけんじゃないわよ親衛隊! こいつは五十年前シルヴィアを恐怖のどん底に落とした『炎の魔神』よっ! あっはっはっはっは!)
(なんですって!? ……ていうか、誰ですかこの声?)
(あああぁぁっ!)
マリー、自爆。みんないい感じにパニクっているが、騒ぎの張本人は落ち着いて周囲を確認した。
峡谷のどこら辺かははっきりしないが、とりあえず広い所に出た。戦闘の音からして戦場からそれほど離れてはいない。見る限り《ウサギ》は存在せず、落下直後敵だらけという最悪のパターンは回避できたとひとまず安堵する。
しかし……
(とにかく、素人がMNなんぞ動かせるか! どういう経緯で乗り合わせたかは知らんが、そこを動くな! 『炎の魔神』だろうが、動かせないMNなど邪魔なだけだ!)
「ああいやヘレナ、こいつの名は『炎の魔神』じゃない、《サジタリウス》ってんだ」
(な、なに? さじた……一機、今なんて)
(《サジタリウス》!? 一機さん、どういうことですか!?)
「うわぁっ! なに、お前がどうしてこの通信入ってきてんの!?」
(あ、私は『ジスタ』の原石持っていますから――じゃなくて! 一機さんいない間何してたんですか!? マリーとやらとどんな話したらそうなるんですか!)
「説明すると長いからな……後でにしてくれ。今はこいつの鳴らし運転だ。てなわけで、ヘレナ」
(な、なんだ?)
「すまんが、兵たちを密集させてくれ。なるべくMNで囲んで、非武装の兵の安全確保に専念。主に落石とかからな」
(はぁ? 一機、あなたどういうつもり……)
(……っ! ヘレナさん、グレタさん、親衛隊の皆さんも従ってください! 危険ですからっ!)
さすがに察しがいい麻紀はあわてて叫ぶ。その間一機は《サジタリウス》の右腕、砲身を天高く持ち上げる。ただし垂直ではなく、少し角度をつけて。
思い出す。アイアンレジェンドで慣れ親しんだ動き。キーを押す手が必要なくなり、回るイスではなく本物の操縦席に座っていたとしてもやることは一緒。
だがパソコンの画面は存在しない。目の前には硬い岩と砂の崖。耳にするはBGMではなく、魔獣の雄叫びと鉄が激しくぶつかり合う音。
右腕の砲身に取り付けられたフォアグリップを握る。ターゲットは何もない空、ではない。スコープサイトも表示されないが、長年のカンでだいたい見当をつける。
ぐっと、存在しないトリガーに手をかけた。と同時に、自分の手のひらに汗がにじんでいることに気付いた。
大丈夫、問題ない。いつも通りいけば余裕だ。そう言い聞かせ、『的場一機』から『シリア・L・レッドナウ』へと変貌していく。
「最初が崖ってのが少し寂しいが……祝砲といこうじゃないか、《サジタリウス》ぅ!!」
声を張り上げると同時に、架空のトリガーを引く。
それに連動して、大砲に装填されていた砲弾が爆音と共に発射された。
「づうぅっ!!」
発射時のバックファイヤ、その衝撃が来た。これは予想範囲だったが、一機を襲った激痛はそれに留まらなかった。
右腕(たいほう)から、骨か何か(ほうだん)が飛びだした。そう表現するしかない、日常ならあり得ない痛みが襲いかかった。
砲身の内部は装薬が爆発した熱で焼けて熱い。現実なら腕が焼けただれ痛覚など無くなっていようが、一発ぐらい撃ってどうにかなる大砲ではなく燃えた苦痛だけがリアルに伝わってくる。
これが《サジタリウス》。こんなものに五十年前乗れたパイロットはどんなドMだったんだと一機は涙目になるが、その代償の代わりに得られるものは大きいとすぐに知る。
空に向かって放たれた《サジタリウス》の砲弾は、さっきの《サジタリウス》本体のように放物線を描いて地に戻ってきた。落着地は峡谷の崖。しかも真上である。
先端から落ちた砲弾は《サジタリウス》のようにバウンドすることなく、崖に突き刺さりそのまま潜っていった。
瞬間、崖が爆発した。
音と衝撃波と砕けた岩をそこら中にブチ撒け、崖は大きな穴をあけ崩れた。向かいの道が見えるのを確認した一機は、砲撃のに加えて岩がぶつかった痛みをこらえ、使い終わった薬きょうが大砲の横から落ちるのを確認しつつ分析する。
「……徹甲弾、遅延信管。詳しいタイミングはわからんか。目標にもほぼドンピシャ、角度はちとずれたが、誤差の範囲内。鉄伝で大砲馬鹿呼ばわりされた腕前はこっちでも通じるか。あとは何発か撃って、こいつのクセを把握しておくか」
一発目に撃ったのは、試し撃ち。知りたかったのは砲弾と信管の種類、あと大砲の狙いがどこまで正確か。
徹甲弾は主に戦車や軍艦に対して用いられる砲弾で、硬い装甲を貫くために用いられる砲弾。遅延信管は砲弾内の爆薬を起爆させる信管の種類で、着弾してすぐ爆発するのではなくある程度時間が経ってから爆発するタイプ。徹甲弾と組み合わせれば敵の内部に入り込んでから爆発することができる。崖に潜ってから落ちたのなら間違いあるまい。
問題は大砲のクセ。砲というのは大量生産品でもそれぞれクセが存在する。それは作られた時からのもののみならず使用、保存、損傷などその武器が存在した歴史からも生じるやむを得ない事象だ。しかも大砲というのは砲弾を撃つと熱により膨張する。そこら辺を計算に入れて修正し射撃しなければ当たるものではない。そういった大砲自体のクセがあるのは仕方がない。問題はそれを把握し、どう修正するか。こればかりは撃たなければ理解不能だ。
だったら撃ちっぱするか――ともう一度射撃体勢に入ろうとしたところ、通信機からまた声がしてきた。
(な、なんですか今のっ。いきなり大きな音がしたかと思えば火の玉が落ちて、崖が吹き飛んで――)
(すごい破壊力……ねえ、今のが『魔神』の、《サジタリウス》の力なの?)
(間違いなくあれは大砲――やっぱり、《サジタリウス》は大砲持ちなんですね一機さん?)
(大砲!? 馬鹿な、私も大砲くらい知ってるが、あんな威力を持った物は聞いたことないぞ! なんなんだ、あれは!)
またしても四人から動揺があからさまにでている通信が。こうさせたのは自分だと思うと気分がいいが、浸っている時間はない。早くならしを終わらせる必要がある。
「説明は後でにさせてくれ。マリーも、どこか安全な場所に隠れておけ。これからならしするから」
(ちょ……! だから止めなさいって! 皆さん、戦うのは一旦止めて身体を低くしてください! 危ないですよ!)
(危ないって、何する気ですが!?)
「だからならしって言ってるでしょ。つまり……」
また《サジタリウス》の大砲を構える。今度は正面、穴の開いてない岩肌に向けて。
「巻き添え食っても知らねーってこった!」
構え、自動装填されていた砲弾を発射する。十五.五センチ砲の射程からすればゼロ距離ともいえる場所にあった崖はほぼ直線で崖に喰らいつき、中心まで貫くと爆発した。粉砕された小石がぶつかってくるのにも構わず、別の場所にまた砲撃、三発、四発目と続く。
数瞬前まで崖を構成する一部分だったものが空から飛来する流れ星と化す。そんな有り様にパニックを起こさない動物がいるわけない。《ウサギ》はわめきながらそこらを走り回るし、親衛隊隊員たちは、やっぱりキャーキャーわめきながらそこらを走り回っていた。一応麻紀の指示に従い固まって岩から身を守る者もいるが。
(ええい、何をしているか知らんが止めろ一機! こっちまで被害が及ぶ!)
(無理です、トリガーハッピーって人種は一旦銃持つと誰にも止められない馬鹿なんです馬鹿! ああもう酒入ってるからってやりすぎですよ!)
(とにかく皆さん降ってくる岩に警戒! MN非搭乗の者を最優先に守りなさい! 一機は止めなさいと言ってるでしょう! 何が慣らしですか!)
「だから言ってるだろならしって。正確には……」
そう言ってる間にも、視線改めスコープは新たなターゲットたる崖に向けられている。アルコール&出血で意識がはっきりしない&元より大砲馬鹿なのに加え発射時の激痛がスパイスとなり、もう発狂レベルで昂ぶっている一機だが、行動は恐ろしく冷静かつ合理的だった。
「地ならし、だけどな」
轟砲が火を噴く。文字通り炎に焙られる痛みに耐えつつ、一機は、鉄伝最強プレイヤーと呼ばれたシリアは笑みを崩さない。
さっきまで《サジタリウス》を囲っていた崖は、もう崩れてほとんど原形を留めていない。砲弾の直撃を喰らったところは大穴が開いている。多少の起伏はあるが、通る分には余裕だろう。
そう、今までの目標崖という寂しい砲撃は、全て小回りが利かず狭いところでは不利な《サジタリウス》のための地ならしであった。「邪魔な障害物があれば壊しちゃえばいいじゃん」とは大砲屋の決まり文句で、割と良くやること(麻紀の《クリティエ》も何度か巻き添え食らって撃破されかけた)だが、砲撃の余波を受ける身としてはたまったものではない。親衛隊も《ウサギ》も等しく悲鳴を上げていた。
やがて激しい連射も終わり、あたりはきれいサッパリ……になるわけがない。砂が舞って視界が全然確保できなかった。
「つぅ……ここまで撃ちまくるといい加減痛みにも慣れてくるな。いちいち意識が飛びそうだが……しかし」
飛ばすわけにはいかない。言外に付け足すと、砂の霧が収まってきた峡谷に目を戻す。
開けた空間には、白い毛むくじゃらと犬歯をむき出しにした《ウサギ》の凶悪な顔がいくつもいくつも並んでいた。一匹の例外もなく、一機に、《サジタリウス》に対して殺意をむき出しにしている。
「ま、そりゃ怒るよなあ。いきなり大砲ドカンドカンうって岩ビュンビュン飛ばしてきたら」
数日前襲われた時はビビっていたくせに、今にもあくびをかきそうなくらい一機は落ち着いていた。一見するだけで十数匹はいるであろう化け物たちに対して存外冷静でいられるのは、今鋼鉄の壁に閉じこもってるためだろうか。否、そうではない。
一機に、シリア・L・レッドナウにしてみれば、画面(モニター)越しに向けられる殺意など、飽きるくらい浴びせられたものに過ぎないからだ。
《ウサギ》の何匹かが、威嚇に吠える。毛を逆立て、うなり声を上げ、血ばしった目でこちらを睨む。飛びかかってくる気であろう。
「さて――こっちも崖ばっか撃ってて閉口してたところだ。記念すべき《サジタリウス》獲物第一号となってもらおうかね」
再び大砲を向ける。今度のターゲットは魔獣《ウサギ》。ド真ん中をぶち抜く気で構えた。
「日本人としては四十六センチ砲(フォーティシックス)じゃないのが残念だが……喰らえ、《サジタリウス》の十五.五センチ砲(フィフティーンファイブ)を!」
実際の口径なんぞ知る由もないが、それくらいだと勝手に納得し、トリガーを引いた。
砲弾後部、薬きょうに詰められた装薬が爆発し、砲内部に刻まれたライフリングによって回転し一直線に飛んでいく。
飛んでいくとしたが、開けたとはいえ元々狭い峡谷、十五.五センチ砲からすれば距離はないも同然で、一秒と経たず目標の《ウサギ》に直撃した。
回転された砲弾は本来硬い鋼鉄で構成されたMNを破壊するためのものであり、いくら強靭でも生物の物に過ぎない《ウサギ》の肢体に対してはあまりに威力が高すぎる。簡単に貫くと衝撃波で二足歩行動物だったものを四散させた。
だが血で汚れた砲弾はそれで勢いを減退させることなく、地面に突き刺さりそこでやっと爆発する。自分の仲間がバラバラになったことに気付かないケダモノは、今度は自分に何が起こったかわからず爆風によってミンチ化し、焦げたハンバーグが出来上がる。
かくして、一瞬にして四匹もの魔獣が、己の死を自覚することすら許されずに砕け散った。
「――四匹。一発でこれくらいなら上々か。しかし、我が相棒(サジタリウス)ながら恐ろしい破壊力……おっと」
感心している暇はない。その間にも《ウサギ》が何匹か突撃してきた。《サジタリウス》の砲身から薬きょうが落ちて次弾が装填される音を聞きながら、照準をそちらに合わせる。
爆音、発射。今度はヘッドショットのように頭部に命中し、《ウサギ》一匹の首から上が消え去った。砲弾自体はだいぶ後方に落着し爆発、一匹は倒したがその他は軽く火傷した程度で健在だ。
「っ! 砲弾自体が強すぎるか! 貫くにしても砲弾の落下位置を予測して撃たないと……っと!」
仕留め損ねたのに気を取られていると、左側から《ウサギ》が飛びかかってきた。あわてて《サジタリウス》の履帯をフル稼働させ、全速後退した。足の表面がグリグリ回るという表現できない未知の体験を味わいながら。
「あがががが……っ、だいぶ気持ち悪いなこれ。あんまり使いたくないが、そうも言ってられんか」
首をキョロキョロ回して状況確認をすると、だいぶ《ウサギ》に接近されていた。月明かりと肉が焼ける匂い付きの炎が照らすところによると、《サジタリウス》の周辺を囲むように集まってきている。目立ち過ぎたようだ。まあ、元から目立つ気だったのでOKなのだが。
「下がった方が適切だな。一旦おとなしくして……ろ!」
狙いをつける暇も惜しいので、集まっているところに狙いをつけてぶっ放した。地面に落ちた砲弾は地面を抉って大穴を作り、土を砂に変え視界を曇らせる。駐退復座機によって砲身が後退し戻っていくのを、筋肉がずりゅっとスライドするようなおぞましい感覚に震えつつ一機は全速後進していった。
「ああ、つくづく心臓に悪い機体だなあこいつは……さてと」
地ならしにより広がったとはいえ、やはり峡谷そのものは狭い。目を動かして戦場の環境、敵の位置を把握する。
「また増えてきたな、こっちに何匹向かってきてるのか、おい麻紀、策敵……できるわけないか。ええい、ところ構わず撃つ!」
勝手の違いを嘆きながら、はんばやけ気味に乱射した。その場を戦ゃなどで使われる、左右の履帯を同速度で互いに反対に回転させることで向きを変える技術、超信地旋回の要領で回転しつつ撃ちまくる様は、傍から見ると滑稽そのものであった。しかし、その回る面白モジュールから飛んでくるのが一撃必殺の砲弾なのだが。
周囲にいた《ウサギ》はぶちまけられる砲弾の雨にさらされ戦々恐々、爆音と爆風のコラボレーションの前に怯えまどうしかない有り様だった。
しかし、そうして撃墜スコアを上げている方はというと、
「ぜえ、ぜえ、ぜえ……」
戦闘開始から数分も経たずにグロッキー化していた。
元々酔っていたのにいきなり人間大砲、そして地上へノーロープバンジー、大砲発射時の衝撃や高速稼働させると発生するG、どれも引きこもりの体力をガリガリ削るには十分すぎる代物である。
だが、何よりも一機のささやかな体力を奪っていたのは、MNの操縦そのものであった。
「ぜえ、はあ……MNの精神操作ってのがこんだけきついとは、ヘレナが馬鹿みたいな筋トレやらせた理由わかる……サボんなきゃよかった」
何せ普段の数十倍体重が増えたイメージで動かすのだ。例えるなら全身に重りをくくりつけられたのと一緒。おまけに《サジタリウス》は通常のMNと違い大砲を発射する、履帯を動かすという人間が行わない、行う必要のない動作を強いられる。そのため余計に神経をそちらに集中させなければならず、疲弊するのは自然だった。
荒く息を吐き、操縦席に寄りかかり脱力した。MNへのリンクを切るわけにはいかず完全に力を抜けないのは辛いが、突然襲われた際またあの面倒な同調を繰り返すのは危険すぎるのでしょうがないと一機は舌打ちした。
「あー……まあどうせだいぶ撃破したからぐだっても平気だろ。にしても、鉄伝で遊んでた腕がこんなとこで役立つとはな、人生何事も塞翁が馬ってか」
こうして動かせている一機自身信じられない。鉄伝で四年間履帯を回し大砲をぶちかましていた経験が、身になってこの《サジタリウス》を動かしていた。鉄伝で恐れられる『週末の悪魔』とはいえ実社会では何の役にも立たなかったのに、こんなところで力を発揮できるとは想像していなかった。
まるで、自分にあつらえたかのような……
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