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第7話 好奇と狂気(前編)
下を見ると白と茶の猫が。ミウミーと俺が勝手に名づけたメス猫だ。
こいつとは引っ越してきたときからの縁だ。ここに越してきた際純次が手伝ったのだが、その時こいつが現れた。野良猫らしかったが、動物好きではない俺に興味はなかった。
だが純次は違かった。純次は根っからの猫好きだったのだ。三十路をとっくに過ぎた身でゴロニャーンなんてやる姿は気持ち悪かったが、まあ人の趣味に口出す気はない。
しかし、問題はここからだった。気分が高揚した純次は即行で車を飛ばし、餌を買ってきたのだ。しかも俺に「餌やってくれよ」と残りを渡して。事務所じゃ猫は飼えないからと本当に泣きながら懇願してきたので渋々納得した。仕方がない。たかが猫ぐらいなら構ってもいい。
ところがこのメス猫、只者じゃなかった。翌日から餌よこせーとねだるようになった。姿を発見したら寄ってくるだけならそれもいい。だがこいつはそんな生易しいものじゃない。家にいるときにもドアやベランダをバンバン叩いて要求するのだ。おかげで網戸に穴が開いて使い物にならなくなった。ひどい時は真夜中にバンバン叩き起こされた。しかも一時間ごとに。地獄だったなあれは。それで起こしておいて水も餌も口にしないんだから、なんなんだ貴様と思った。
しかし、なんといっても大変だったのは……。
「……あだっ!」
物思いにふけっていたら噛み付かれた。ズボンだったのが幸いで怪我は無いようだが、足でミウミーを払う。フーッ! と吼えられた。
「餌なら今やる……ちょっと待ってろ」
侵入されないように注意しながら(前に侵入したミウミーに食パンを食われたことがある)ドアを開け、ペレット系の餌を取り出して玄関先にばら撒いた。俺の存在など完全に忘れたように、一心不乱に食っている。
どうしてこいつは俺のところに来るのだろう? このアパートのほかの住人に餌をもらっているようだし、ダンボール製の家まで支給されている。餌なんて他からいくらでも手に入るのに、こいつは俺の元へやってくる。
それでいてまったく懐いていない。早く餌をやらないと噛み付かれるような仲だ。前に生足で噛み付かれて傷ができ、こっから感染症にでもかかったら「ミウミーに殺された」とでも遺言を残すかと考えたくらいだ。別に何もなかったけど。
そんななのに、姿を発見したら一目散に飛び込んでくる。何故だろう。単なる都合のいい飯出し機と思っているのか、それとも……
「……なあ、ミウミー」
聞いていないとわかっていながら、餌を食い続けているミウミーに問いかける。
「お前、俺のこと恨んでいるのか?」
猫は受けた恩を3日で忘れるそうだ。
だが、恨みはどうなんだろう?
問いかけても答えてくれない。困ったものだ。
言葉が通じない相手とのコミュニケーションはとかく厄介極まる。
サジタリウス~神の遊戯~
第7話 好奇と狂気
「……たとえ言葉が通じても、コミュニケーションとは厄介なものだな。相手が言葉を理解する頭脳がない場合」
「なによそれっ! それじゃ私が大馬鹿みたいじゃない!」
「実際大馬鹿だろーがっ! 状況判断すらできないなぁ!」
ドスを効かせた声で叫ぶが、マリーは怯むことがない。なかなか根性があるようだ。馬鹿だけど。
宿舎の廊下で、俺とマリーは口喧嘩をしていた。
互いを口汚く罵るそれは、親衛隊員が集まってきても収まることはなかった。
2人の間には、バラバラに砕けた透明なプラスチックの破片と、黒の金属性の長いものがあった。
ロラルド商会から整備士を借りることに成功したその翌日。
「ふわあぁぁぁぁぁぁ~」
早朝から大アクビをしていた。まだまぶたが重い。眼鏡をはずして目をこする。
理由は簡単。昨日エミーナが暴走して叫び続けたので、宿舎への帰りが深夜になったから睡眠時間が短いのだ。ヘレナにも何でこんなに遅かったと怒鳴られたし。整備士の借用交渉に成功したんだから特訓は免除かな、と思ったのにそれで打ち消されちゃった。畜生。
「あの猫かぶり女のせいでまったく……いい迷惑だ」
「何か?」
ドキリとした。後ろから昨日散々聞いた声がしたのだ。
振り返るとそこにいたのはやはりエミーナ。幸いにも猫かぶりお嬢さんモードであるが、豹変したら一巻の終わりだ。
「な、ななな、なんでもないです」
「そうですか。では」
そのまま笑みを絶やさず去っていった。確かに笑っていたけど、青筋が立っていた気がします。
「おっかねぇなああいつ……またブチ切れられるのは勘弁だ」
爆発する前に退散しようと足を速めた。が、
「うわっ!?」
「わっ!?」
ドンッ!
角を曲がってきた誰かにぶつかった。前にも似たようなことあったような。
両者ともその拍子に手から持っていたものがポロリと落ちたのだが、犯人を特定するのが先だ。
「だ、誰だよ前ちゃんと見てないやつは!」
「いたたた……なによ、急に走り出したあんたが悪いんでしょ!」
この声は我が親衛隊唯一の整備士マリー・エニス。ええい、サジタリウスとの時いい、こいつはトラブルメーカーか!?
「黙れ、前方確認も行えないやつが何をぬかす!」
「前方確認できないのはあんたも一緒でしょ! ふざけたことぬかすんじゃないわよ!」
「なにぃ!?」
「なによっ!」
怒モードになった2人、感情が昂って戦闘態勢に入る。立ち上がったその瞬間、
バキッ。
「ん?」
「うん?」
何かが割れる音が下から。
不審に思い足元を見てみると、
「……?」
マリーの足元にへんなものが。
透明の薄いガラス片――いや、これはプラスチックか? と黒い金属製の長いもの。それがマリーの足が踏んづけられてバキバキに折れてひしゃげて……って、
「ああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーっっっ!!!!?」
俺の眼鏡じゃないかぁ!!
はっ! そういえばさっき目をこすった時外してそのまま持っていた。それがマリーとぶつかった拍子に落として、それをマリーが……って!!
「あーあ、割れちゃった」
「『割れちゃった』じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!! なんだその他人行儀はっっ!!」
マリーの平然とした態度に(そう見えただけ)にプッツン。胸倉を掴み上げ壁に叩きつける。
「な、なによ! 別にわざとやったわけじゃないわよ!」
「それが加害者が被害者に言うセリフかぁ!? 人の眼鏡お陀仏にしやがって!!」
「オダブツってなにオダブツって! うるさいわね、そもそもあんたがぶつかってきたのが悪いんでしょ!?」
「話を逸らすなぁぁぁ!!」
――そんで、数分後。
「状況判断!? わかってるわよそんなもん、あんたがぶつかってきて眼鏡を落としたその先に私の足があった、それだけ!」
「お前が割ったが抜けてるぞ、お前が!」
口喧嘩はまだ続いていた。もうここまでくると理由も原因もどうでもよく、意地と見栄の戦いと化している。引いたら負けなのでどちらも止められない。
「なによっ!」
「なんだよっ!」
「ううううううううううううううううううううううううううううううううううううううっ」
「むうううううううううううううううううううううううううううううううううううううっ」
両者唸りあう。付近にかなりのギャラリーがいるが、皆口出しできない。面倒なだけかもしれないが。
と、そこにズイと押し入るものが。
「何をしているんだお前たちは。大声で騒ぎおって。何が起きたんだ」
呆れた顔のヘレナが割って入ってきた。やれやれと顔に書いてある。
「こいつが自分の罪を認めず責任転嫁をしようと……」
「転嫁って、悪いのは完全にあんたでしょうが! だいたい前から気に食わなかったのよ、ボサボサ頭に地味な黒メガネ、陰気くさくて嫌になる!」
「陰……! だ、黙れ、円柱娘にだけは言われたくない!」
「円柱!?」
『円柱』発言に赤面。けっ、女の子ぶりやがって。
「上から下まで出るとこも引っ込むとこもない貧相体型のことだよ! 上から下までなにものにも遮られることなくストーンストーンストーンッ! 石柱のほうがまだいいボディラインをしているぞっ!」
「石……!」
その瞬間、マリーの後方からどす黒い炎のようなオーラが見えた気がした。顔は憤怒で歪み、犬歯はむき出し、筋がいっぱい立っている。
「んのクソ野郎! 言わせておけば!」
「おう、やんのか!」
「いい加減にせんかっ!」
ガンッ!
「「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!?」」
2人の態度に怒ったヘレナが強烈なダブルチョップを脳天に直撃させた。俺をマリーも頭を抱えて声にならない悲鳴を上げて床にのた打ち回る。
「何があったのかちゃんと説明しろ。話はそれからだ。マリー、一機、言ってみろ」
話したくても、殺虫剤の直撃を浴びたゴキブリ状態の俺たちに口を開くことなど出来なかった。
「……で、これが一機のメガネか」
粉砕されたメガネを拾い上げ、まじまじと見つめるヘレナ。うう、まだ頭が痛い……。
「そうだよ。どうしてくれるんだ。俺ひどい近視&乱視なんだよ」
「たたたた……だから、事故だって言ってるでしょあれは。別にそんな怒ることないでしょ。死にゃしない」
ギロリと睨みつけたが、平然と受け流された。この期に及んでまだ自分は無実と言い張るか。
「止めんか2人とも。さて、しかしメガネが割れたのは問題だな。これほどまでバラバラでは直しようもないし……グレタ、お前のメガネを作ったところに頼んではくれんか?」
グレタ……あ! そういやグレタも眼鏡付けてるから、シルヴィアにも眼鏡の精製技術はあるってことだよな。ガラス製だと思うけど。
だが、グレタは首を横に振った。
「無理です。メガネは1人1人合ったものを作る必要がありますから、直接行く必要があります。それに、シルヴィアに作れる場所はアガタにしかありません」
「つまり、首都に戻るまで一機はこのままか……」
ヘレナが困った顔をした。俺はもっと困った顔をした。
「どれぐらい悪いんだ、目」
「どれぐらいも何も……あーダメ、誰が誰だかわかんない」
周囲を囲んでる連中を、ぼやけた目で見回すが、ろくに識別できない。だいたい予測できるが、曖昧なものだ。
「あらあらまあまあ、じゃあカズキン、ミオとナオの区別も出来ませんか?」
心配そうな顔で覗き込んでくる。しかし、それは目が見えてないからそう見えるだけで、実際はからかっているだけかもしれない。発言自体そうだし。
「……お前ら、眼鏡あっても区別つかないじゃん」
「あらあら」
クスクス笑いが聞こえる。それに眼鏡がないとは言え至近距離、笑っているのが丸見えだ!
「こいつ……!」
「止せと言ってる」
ヘレナに羽交い絞めにされた。襲い掛かろうとした腕が空中でむなしく空を切る。
「ミオに当たるのは止めんか。とにかく、首都に着くまで我慢しろ」
「ええー……」
不平を訴える。仕方がないとわかってはいるが、問題なのは問題なんだ。
「どうすればいいんだ……」
再びマリーを睨みつける。ボケて判りづらいが、ばつの悪そうな顔をしている気がする。やっぱり責任感じているのか? なんだ、素直なところもあるではないか。最初からそうすりゃいいんだ最初から。
「……しょうがないなあ……ちょっと待ってなさい」
めんどくさそうに腰を上げて、マリーがどこかに立ち去った。わけがわからずそのままマリーが消えたほうを見つめていたら、手に何かを持って帰ってきた。
「ホイ」
「へっ? おっとっとっと」
その何かをいきなり投げ飛ばされた。遠近感が麻痺している状態なので焦ったが、なんとか受け止める。
「…………」
キャッチしてみて、初めてそれがなんであるか確認する。筒を2つ並べてくっつけたかのような相貌、その筒は両方共大きさが異なり、筒の中にはガラス製の丸いものが……これは、今自分の足元で割れているのと同様のものだと推測できる。ってちょっと待て。
「……あの、マリーさん、これは……私の祖国で双眼鏡と呼ばれている代物と非常に酷似してるのですが……」
「そうだよ。それつけてりゃ問題ないでしょ」
「……っておい! こんなもんつけて生活しろってのか!?」
何が『問題ない』だよ! いちいち双眼鏡で覗いて見てたら、明らかに怪しい人だろーが! ただでさえ男というだけで変態扱いされているというのに、これ以上材料加えてたまるか!
「冗談じゃない! 誰がこんな……」
「それで我慢しろ。どうせアガタに着くまでの代理品だ」
ヘレナに苦情を制された。ヘレナに言われたら口ごもるしかない。
「くっ……」
「……フフン」
あっ! マリーの奴鼻で笑いやがったな! ええい、この腐れアマぁ……!
「2人とも騒いだ罰だ。格納庫にいって機体の整備をしてこい」
「……え?」
ヘレナは厳罰主義のようだ。孔子に嫌われるぞ。
「……だからこの根暗クンネジじゃないってつってんでしょーが! そっちの引っ込み思案な子! いつになったら見分けつくのよあんたは!」
「だから、ネジにそんなもんはないっつってんだろーが! というか、それ人間でも違いないと思うぞ!」
格納庫にて。マリーと2人サジタリウスの腰部分で整備中。この間の襲撃で破壊された駆動系だ。
整備士がジャクソンの計らいで来たとはいえ、たいした人数じゃない。さすがに大人数入れると周辺都市がうるさいのと、そもそも駆動系は専門技術が必要だが十分な設備と道具、あと腕さえあればそんな大変な作業ではないらしい。さすがに一人では重労働だが。
そんなわけで今日から作業を開始したが、明日の夕方には終わるらしい。グレタも安心していた。
で、俺たちはその手伝いと。……ええい、この馬鹿のせいでこんな羽目に陥るとは。
「一機……じゃなかった、おいロージャ、何ぼけっとしてんのよ、さっさとペンチよこしなさい!」
あっちも同じことを考えているらしく、終始不機嫌だ。まあこっちも顔をしかめているはずだが。
「その名前は禁止だって言われたろ! ほらよっ!」
半ヤケでペンチを投げよこす。「おっとっと」とさっきの双眼鏡と俺状態になった。
「この馬鹿! ペンチを投げる捨てるなんてどういう神経してんのよ!」
「俺はライラにドライバー投げつけられたぞ!」
「それとこれは別! コーレスちゃんになんてことすんのよ馬鹿男!」
「……へ? コーレスちゃん?」
意味不明の単語出現。マリーもこちらの目が点になったのを不審思ったのか、熱が冷めている。
「何その反応」
「――コーレスちゃんって何?」
「このペンチの名前よ。コーレスで大体解ると思うけど」
「全然違うじゃ……あ」
そうか。この世界でのペンチみたいな物が同じペンチって名前とは限らないよな。俺は自動的に翻訳されてるからペンチって聞こえてるけど、実際はコーレス何たらって名前なのかもしれん。
「なるほどなるほど」
「何勝手に納得してんのよ」
1人で?マークを浮かべて1人で悩んで1人で推測し1人で納得して完全に置いてけぼりにされたのが気に食わないのか、マリーがふてくされている。子供みたいな奴だな。
「なんでもないよ。ただちょっと、別世界だなぁと」
「わけわかんない……」
頭をガリガリ掻いて理解不能の4文字をあらわにする。説明したところで理解できないだろうからやるだけ無駄だ。――あ、そうだ。あれ聞いてみるか。
「なあマリー」
「はい?」
あからさまにうっとうしいと顔に明記してこちらを見てくる。そこまで露骨だと引くぞおい。確かに思わせぶりなこと言った俺が悪いけど。
「サジタリウスの設計図とか無いかな? どうやって動いてんのかとか知りたいんだ」
「ほっほう?」
うわ、目の色が変わった。キラキラ輝いている。少女マンガ?
「そうかそうか、ロージャも目覚めたということだね。ちょっと見直したよ」
「いやいや、別に目覚めたとかそんなんじゃ……」
「ちょっと待ってなさい、今持って来るから」
耳を貸さずにちゃっちゃと降りていってしまった。ルンルンルンルンスキップしながらそのまま外へまっしぐら。きっと部屋にでも戻ったのだろう。MNの資料は全部あいつが持っているって聞いたし。
……ん? 待てよ。ってことはあいつ……今まで設計図なしで修理してたのか? 空で? 難しい作業と聞く駆動系を?
「……マジかよ」
イーネのときと同じ。初めて俺は、マリーが親衛隊にいる理由を悟った。
人を見る目が無さ過ぎる。呆れてものも言えない。
「……仕方ないかも知れんな。あっちじゃ、人を見たことなんか無かったから……」
「お~い、お待たせぇ~」
嫌なこと思い出してちょっとブルーになった俺に真逆レベルの温度差を持つ声がかかる。満面の笑みを浮かべたマリーが丸めた紙を担いでやってきたのだ。さっきまでの不機嫌さはどこへやら、だ。
「ずいぶん早かったな。宿舎とここまで少し距離あるだろ」
「なんのなんの。全速力で駆けてきたからね」
「……頑張ったんだね、君」
なんか正確も幾分か変わってるし。どこの世界でもオタクパワーは共通ということか。
「何その生暖かい視線。そんなことはどうでもいいから、ほら、ちゃっちゃと見た見た」
ウキウキ気分で設計図を開くその様に、こいつ誰だという思いが生まれたが、まあそれは後でと、設計図に目を向けて……。
「……なにこれ?」
絶句。
「? なにって、サジタリウスの設計図。探すの苦労したんだよー? カルバナの格納庫とか倉庫とか手当たり次第探してさ。それもみんなにバレたら終わりだからこっそりとさあ……」
マリーの語る苦労話も、今はあんまし耳に入っていなかった。目の前に提示されたその信じられない画に釘付けになっていたのだ。
「……なあ、これ本当にサジタリウスの設計図?」
「なによ、当たり前でしょ? 他にこんな特徴的な形したMNなんてないわよ」
「いやさ、形の話じゃなくて……」
いまいち話がかみ合っていない。マリーはサジタリウスのなのかと疑っているのではないかと思っているようだがそれは違う。
これ本当にMNの、ロボットの設計図なの? と思っているのである。
だって……
「……カラッポじゃん、これ……」
そう。カラッポ。いや実際は装甲で埋まっているのかもしんないが、設計図では紙の色そのままだった。
具体的に言うと、中身が無いのである。設計図に描かれていたそれは、人間の骨格標本にサイズが2回りも三回りも大きい鎧を被せたような実に寂しい代物だった。カラクリ人形のほうがよっぽど複雑な中身してんじゃないの? というぐらいの。よくお菓子売り場に変な粉を水に溶かして棒にまとわり付かせて食う菓子があるが、あれが人型の棒でたくさんまとわり付かせたような姿なのだ。
断言する。こんなのでロボットが動くか。
「なあ……サジタリウス、いやMNの設計ってみんなこんな感じ?」
「え? まあ、MNはみんなだいたいこんなもんだけど……なによその顔、全然信じてないの?」
あまりに怪訝な顔をしているのでまた機嫌を損ねたらしいが、こっちはそんなん構っていられない。
――こりゃほとんど魔術の領域だね……。
いやちょっと待て、そもそもMNの操縦方法だって一時的にMNと同化、なんてオカルトな代物。最初からロボット工学なんてものが通じない領域だとわかっていたではないか。何を今更、だなこれは。
「――いや、なんでもない。ところでさ、壊された駆動系って、具体的にどういう風に壊されたの?」
「はい? ああ、関節の繋ぎ目をやられてね、足が回らないようになっちゃって……」
「ああ、一応ロボットやってるんだ……」
2日後、ノイマン周辺の丘。
ここからはノイマン全体を見回すことができる。陰になって見えない場所もあるが、それでも大まかに見るには十分だ。
当然、修理を終えて王都へ戻る親衛隊の一団の姿も丸見えである。丘に立つ土色のフードを被った男2人には。
「――行ったか」
「そのようで。バラの連中が痛めつけたって聞きましたが、大したことなかったみたいですな。すぐ出て行っちまった。もうちょっとかかるって聞きやしたけど」
「――ジャクソン殿が援助したらしい」
「……シルヴィアと仲が悪いあの商人がですかい?」
信じられないといった顔をされた。当然だろう。自分も最初聞いたときは信じ辛かった。
「別に公式的に仲が悪いわけではない。一応友好的である必要性があるから、ジャクソン殿も断ることができなかったのでは?」
「――もしくは、親衛隊不在で内乱が発生するのを防ぐため、ですかね? 通商路破壊されたら商売になりゃしませんし」
なるほどなと思った。いつもはとぼけた男に見せかけているが、洞察眼は自分以上だろう。
「――さて、どうします? このまま放っときますか?」
鋭く光った目を向けられた。襲撃するか否か、と聞いているのだ。カルバナの時と比べこちらのMBの錬成度も上がっているし、地の利もある。夜襲でもかければ勝ち目はある。だが……
「――止めておこう。まだ連携などの熟練も不十分だし、全員がMBの性能を引き出しきったとはとても言えん。この状態で挑むのは得策ではない」
「そうですねぇ。修理される前に行きゃよかったんですけど……」
「…………」
こちらから視線を逸らしてノイマンから離れていく親衛隊一行を眺め見ている。背を向けられていても言いたいことが充分伝わってきた。
さっきの言葉、ようするに「何故ノイマンにたどり着く前に襲わなかった?」と聞いているのだ。当然の質問だろう。バラの棘に襲撃されMNが故障した時点で攻撃していれば楽に勝てた。だがそれをしなかった。どうしてだと暗に咎めている。
「……戻るぞ」
「はいはい。隠れ家に引っ込むとしやすか」
返答を聞かずに歩き始めたことを気にもせずついてくる。さっきのオーラの跡はまるでなかった。
機会を逃し続けていることに長老たちも変に思っているらしい。伝言役でもあるこの男の言葉はそのまま長老たちの発した言葉。そろそろ怪しまれているようだ。
だが、この胸にある思惑は絶対に知られてはならない。私の声を長老たちに伝えるこの男にも。
――もっとも、とうの昔に察知されているようだが。
振り返ると、口元に手を当て難しい顔で考え事をしていた。こちらの視線に気がついたら手を解き、口笛を吹き始めた。かなり下手だった。
「……う~~~ん……いまだに慣れんなこれは」
また暑さと車酔いに苦しんでいた。今日は狭くて崖が多い荒れた山道なので尚更揺れる。
「あーもう、唸らないでよ。こっちまで暑くなる」
「いや、でもこんな鎧着てんだから……というかさ」
「なに」
「……なんで、お前が同乗してんの、マリー?」
「こっちが知りたいわよ、そんなこと!」
汗だくだくで当然の疑問を投げかけたら吼えられた。やっぱ犬だこいつは。
荷馬車の中で、俺は再び鎧を着せられて特訓中。でも同乗してるのはイーネじゃなくてマリー。
『なんで?』って思ったけど、ヘレナに命令されたから反発するわけにもいかず(結構2人ともぎゃあぎゃあ騒いだが)そのまま乗車。で、今のいやな空気を醸し出している、と。
まあヘレナが一緒にした理由は大方わかる。喧嘩したまま仲悪いのは良くないとして、一緒にいさせることで話し合う機会を作ったのだろう。言いたいことはわかるが、険悪な空気を作っただけだよ残念ながら。
「……ねぇ」
「ん?」
マリーの声のトーンが下がった。ぼやけて良くわからないが、しおらしくなっているような、首にぶら下がっている双眼鏡に目を向けたような。
「……悪かった」
「……はい?」
一瞬言葉の意味がわからなかった。何悪かったって。何がどう悪かったって? ひょっとして……
「……謝ったの今の?」
「聞き返すんじゃない!」
ぷん、とそっぽを向かれた。横顔真っ赤。
――え? え、何こいつ。どうしたの?
急な態度変化についていけない。変な汗がとめどなく流れる。待てよ、これって確か……。
「……なによ。ジロジロ見て」
「いや……こういうものなのかなって思って」
「……はい?」
眉をひそめられた。怪訝な顔が理解不能と回答を求めている。注文どおり出すことにした。
「……我が祖国ではお前のようなやつをツンデレと呼ぶ」
「……へ? ツンデレ?」
「うん」
ツンデレ。語源は不明だが、最近よく聴く言葉。普段はツンケンしているのにたまに素直になったりもたれかかったりすること。心理学でいう反動形成(ある抑圧を行った時に、それと正反対の行動を取ること。好きな異性に対して、意地悪をするなど)に近いかもしれない、とのこと。よく知らないけど、ようするに素直じゃない意地っ張りに多い。一般的な恋愛であれば初対面では相手への関心が薄く、親しくなるにつれ関心が大きくなる。これに対してツンデレの場合は最初から相手への関心が強く、相手に向けるエネルギーも多い。その気持ちの方向性がプラス(デレ)かマイナス(ツン)かの違いであると言うだけで、相手に向ける気持ちの量は最初から最後まで一定である点で通常の恋愛と大きく異なるそうだ。いずれにしろ定義がはっきりしていない新出の言葉である。
ゲームなんかで見ている分には嫌いじゃない。でも、実物を見るのは初めてだった。――待てよ、それ以前に俺女を見たことなんてろくすっぽないじゃないか。性格を推測するまで交友を持った女なんて……いたな、1人。
「あいつは……なんだったんだろう。宇宙みたいなやつだったなあ……広大すぎて全く掴めない」
「誰のことよ。勝手に1人で考え込んでないで、ツンデレの意味教えなさい」
気がつくと、目の前に軽く無視されて気が立ったマリーの膨れっ面が。かなりの近距離で、荷馬車が揺れてあと10センチ詰まったらラブコメ展開突入、というほど。
「わっ、わあっ!」
「きゃっ!」
びっくりして、マリーを突き飛ばした。顔が紅潮しているのが自分でもわかる。飛ばされたマリーは壁に激突に、上に乗せてあった水筒が倒れてきて頭から水を被った。
「きゃあ!? うっわあびちゃびちゃ……。何すんのよいきなり!」
「な、なにって……!」
ああああ、今一瞬カタカナ変換してしまった自分が嫌だ! あいつにもさんざん「このムッツリスケベ」と呼ばれたし。俺は女に免疫がなさ過ぎる!
「あーあ水浸し……着替えなきゃ」
そういうとマリーは水で肌に張り付いたシャツを勢いよく脱ぎ……!?
「……!!?」
「え!? こ、今度はなに!?」
瞬時に反転、ほぼ倒れるかのようにうつ伏せになって顔を覆った俺に驚くマリー。驚いたのは俺だ!
「おま、おま、お前……下着どうした!?」
「はい? 下着ならちゃんと穿いてるけど……」
「穿いて、いや着けてないだろ!」
そう。シャツを脱ぎ捨てようとしたマリーの上半身には何も……いや、何かはあった。肌と同色の……ってそれはちがぁう!!
「な、な、なんでブラ着けてないんだよ!」
「……ブラ?」
キョトンとした顔を多分された(顔見てない。全身から目を逸らしている)。こいつ正気か!? いくら円柱だからって――いや、何かはあった……って待て待て待て! そうじゃないだろ!
「ブラジャーだよブラジャー! ブラジャー着けないなんて貧相を自覚して……!」
「……なに、ブラジャーって」
「……へ?」
思わず振り返り、今度はモロに見てしまい、再び真っ赤になって転倒。鎧がガシャンと鳴る。
「だから、何してんのあんた!?」
「い、いやあの、ブラジャーって何って何!?」
「え? だから、ブラジャーって何のことって聞いたの」
そんなピュアな声で聞くかそんなこと! 俺だけうろたえてるのがムカつく!
「ブラジャーって、そ、そりゃ上の下着だよ!」
「……シャツのこと?」
「違う! その下! 胸に直接着けるの!」
「……無いよ、そんな下着」
「……え?」
………………………………………………………………
……無くて当然か。ブラジャーの原型はフランスで1889年にエルミニー・カドルが発明したって言うし。似たようなのは古代ギリシャにおいてクレタ文明時のクレタ島やスパルタでゾナと呼ばれる一枚布の下着が着用されていたそうだけど、シルヴィアはヨーロッパと似通っていても違う世界。下着まで同じとは限らないか。
……ってちょっと待てぇ! ブラが無いってことは、この国の人間、つまり親衛隊員全員が……ヘレナとか、イーネとか、あのグレタまで……ええええええっ!?
「な、なんてこった……」
「顔真っ赤にして俯いてんじゃないわよ。さっきから変よあんた」
んー? とこちらを覗き込んでくるマリーの顔を(胸元を見ないように注意しながら)覆った手から逆に覗き見て一言、
「……とりあえず1個聞いていいか? 胸見せて平気なのお前?」
「え……あ……!」
今度はあっちが紅潮させる。なんだ、見せて平気なのレミィだけか。
「ど、どこ見てんのよこのスケベ!」
「お前が勝手に脱いだんだろ!」
理不尽なものを感じながら、振り下ろされるカカトがいやにゆっくりに見え、ああ、ズボンじゃなくてスカートだったらまだマシだったのにと思いつつ、ガード体勢を取った。間に合わないと思うが。
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