Last Esperanzars

Last Esperanzars

後編



 突如、空に向かってマシンガンを鳴らしていた《ダガー》が爆発する。見当違いの方向から撃たれたビームが命中したのだ。僚機の撃墜に動揺したパイロットたちは、そのビームを撃った相手の姿に絶句する。

 おおよそ現行のロボット兵器とはかけ離れた、細身のボディ。紫を基本とするその機体の頭部には、白くて大きな羽根型の装飾品がついた兜が被せられていた。
 その右腕にはビーム砲の砲身に鞭を巻いた杖状の武器があり、乗っていた盾はフライトユニットなのか、低空で飛行している。
 何より異様なのは、頭部にある顔面型彫刻。アルカイク・スマイルを浮かべたそれは戦争の道具に似合わず、可笑しいまでに噛み合っていなかった。
 だが、その頭部が持つ意味を知っている者は笑うどころではなく、皆一様に言葉を失った。
 その『頭像』こそが、ギガンティック・フィギュア――人が作りし機械の神の象徴であったのだから。

《ダガー》のパイロットたちは、動揺しつつもすべきことを忘れるほど愚かではなかった。散開し、ビームライフルを《ギガンティック》に発射する。戦艦の主砲クラスと呼ばれるMSの主力兵器は、しかしその《ギガンティック》を傷つけることは叶わなかった。着弾の直前、盾を左手に持ち直した《ギガンティック》がそれを向けると、見えない障壁が生まれて阻んだからだ。

 すかさず《ギガンティック》は反撃に転ずる。先ほどのビーム砲を向けると、巻かれていた二本の鞭が伸びて《ダガー》二機に絡みつき、電流が流れる。《ダガー》は電装品が破壊されて沈黙する。

 僚機がやられる隙を狙って、一機の《ダガー》がビームサーベルを振り下ろした。だが、それすら盾は防ぎ、逆に飛びついた《ダガー》を弾き飛ばした。

 圧倒的な力で敵機を駆逐した《ギガンティック》――中央国の《玄武神三号》に、人々は逃げるのを忘れ、ただ戦慄するのみだった。



「さすがにギガンティック相手じゃ無理か……しゃあない、出るか」

 それまで格納庫で待機していた《喪羽》を起動させる。同時に、『ステルスコーティング』を発動させて姿を隠す。
『ステルスコーティング』はその名の通り機体表面に塗布された特殊塗料のことだが、表面に電流を流すと光を屈折させて視覚及び通常のセンサーやレーダーなどでは見えないようになる最新技術だ。ただし戦闘時に使用するとオーバーヒートなど不具合の可能性があるので、普段はカットする必要があった。その他諸々問題が多くてお蔵入りされた技術だが、《喪羽》には搭載されている。が、ここはそんなことも言ってられない。時間を稼がねば。

 しかし、東馬の目論見はいとも簡単に崩れさる。
 崩壊した新東京ドームの下から、《スサノオ》が這い出した来たのだ。

「な、なんだ、パイロットはいないはずだぞ!?」

 さっき正式にパイロットとして決定した州倭慎吾は、おくたまだにいるはずだ。ならば、別のパイロットがいるのか? それとも誰かが勝手に?
 だが、起きあがった《スサノオ》の動きは鈍かった。《玄武神三号》のビーム砲になんの防御も回避行動もせずやられている。いつでも起動できるようにしてあったはずだから動作不良ではあるまい。

 いや、今はそれどころじゃない。《スサノオ》の援護が先だ。ステルスモードを維持したまま戦場へ近付く。見えない物体が移動する音に足元の避難民がパニックを起こしているようだが、知るか。スナイパーライフルで狙撃する。

 近距離なので、発射と同時に命中した。続けて連射するが、一向に決定打どころか傷一つつけた様子はない。

「対機械獣用の特殊弾だってのに……これがギガンティックか!」

《玄武神三号》はどこかから不明の狙撃を受けつつも、《スサノオ》への攻撃の手を緩めない。完全に無視する気か。

「くそっ……こちらキウイ、《スサノオ》パイロット、聞こえるか!?」

 市ヶ谷関連の通信コードから《スサノオ》へ送ると、返ってきたモニターには場違いな少女の姿があった。

(東馬さん!? どこにいるんですか!?)
「お前……真名か? どうしてお前が……」

 そこで思い出した。ギガンティックのパイロットは原則二人。パイロットとトランスレーター(翻訳者)の名を持つ人間が動かすはずだ。でも他にパイロットかいる様子はない、ということは、真名一人でやっているのか。

「一人か!? 大丈夫なのかよ!」
(ち、違います、《スサノオ》が勝手に……)

 モニターには、真名が必死に操縦桿を動かすのが映されていた。が、《スサノオ》はそれに従わず、《玄武神三号》を背にどこかへ飛んで行ってしまおうとしている。

「勝手に!? 暴走でもしてるってのか!?」
(は、はい。こちらの制御は全然……どうしたの《スサノオ》、こんなこと今まで一度も……!)

 何が起こってるのか東馬には想像だつかなかったが、とにかく《スサノオ》はまともに戦える状況じゃないらしい。ならばやれることは一つ。

「だったら、《玄武神三号》はこっちに引き付けておく。お前は《スサノオ》をどうにかしろ!」
(え!? で、でもギガンティックが相手じゃ……)
「正面切って相手する気はない。時間稼ぎだ期待すんな!」

 それだけ言って通信を切ると、ステルスモードを解除してライフルを捨てる。と同時に、何もない空間からガトリングガンを取り出して《玄武神三号》に撃ち放つ。《喪羽》転送時の空間転移技術の応用だ。見えない相手では囮にならない。本当は、そっちが理由ではないが。
 こちらを確認した《玄武神三号》は、もう無視はしてこなかった。早々と破壊するほうがいいと判断したようだが、それこそ軽率というものだ。

《玄武神三号》は応射の火線を切ってくる。ビーム砲の連射に《喪羽》は回避する。が、全部かわし切れるものではなく、一発が食らいついた。

「くおっ!」

 だが、着弾の瞬間、ビームは大きくねじ曲がり、近くのビルに命中する。逃げ遅れた人々が瓦礫の下敷きになり、生肉のプールが形成された。

「成功、か。しかしそう何度もできるもんじゃないなこれは」

 冷や汗を拭いつつ、東馬は操縦桿を握りなおした。
 ビームの湾曲、似たような技術にディストーションフィールドという重力力場があるが、《喪羽》のはまったくの別物で、先ほどの『ステルスコーティング』の応用だ。
 ビームというのは、簡単にいえばものすごく強力な光である。その光を屈折させることができるということは、自然ビームも屈折させることが可能。『ステルスコーティング』の出力を上げることで、ビームを湾曲させるフィールドを装甲表面に張れるのだ。
 とはいえ、これは理屈上の話であって本来の使い方ではない。必然過剰なエネルギーを送ることになり、下手すればオーバーロードにより損傷する危険もある。それに出力上の都合機体全面に張るのは難しく、着弾点に指定して張るという神業を為さねばならない。『ステルスコーティング』が採用されなかった理由の一つがこれだ。
 しかし、東馬はその困難な作業を行っていた。けれどそれは東馬の操縦技術が優れているわけではない。

 すべては、《喪羽》に搭載されたもう一つのシステム、『羽根なしパピヨン』の賜物だった。

「おおっと!」

 サブモニターの《玄武神三号》が二本の鞭を《喪羽》に飛ばしてきた。それを見た東馬は回避行動を取ると、実際の《玄武神三号》が鞭を飛ばし、何もない空間で空を切った。
 その隙にミサイルを発射、不意を突かれた《玄武神三号》は盾をはる暇もなくまともに喰らう。

「はっはあ! いかにギガンティックでも、動きが見切られてちゃどうしようもないな、もういっちょ喰らえ!」

 爆発で生じた黒煙にガトリングガンを向ける。サブに銃弾が撃ち込まれる姿が映されるのと数刻送れて、メインに銃弾が映される。

 そう。
《喪羽》にもう一つ搭載されたプログラム『羽根なしパピヨン』
 その正体は、未来を映し出すシステムだ。
 起動と同時にサブモニターが浮き出て、メインに映された映像の先の映像、つまり未来を表示する。それを戦闘に利用すれば、敵の行動を先読みすることが可能になり、戦闘を制する力になり得る。
 もっとも、この場合に使用される未来予知の時間は短く、長くてもせいぜい五分が限界。それに致命的な欠点を抱えているが――ここで問題なのは、もう一つの欠点だ。

「……ちい」

 コクピット内部に舌打ちが響いた。

 黒煙から出てきた《玄武神三号》の姿に、変化は見られなかった。言い方を変えれば、まったくダメージを食らっていないということ。あれだけの攻撃に平然と耐えるとは、まさに怪物だ。

「ギガンティックの相手はギガンティックでなければ不可能――信じられなかったが、マジらしいな」

 ギガンティック同士の決闘戦が前提であるはずのWWW。にもかかわらず、その他の航空機やMSなどの戦力を使用することを許可されていた。それでは紳士的な決闘にならないじゃないか、とする意見もあるが、大して問題視されていない。
 理由は簡単、物の数に入っていないからだ。
 武装や装甲などは他の機動兵器とさして変わりないはずなのに、そのスペックは圧倒的。他の機動兵器ではせいぜい牽制にもならないので決闘を阻害するものにはなり得ない。だからこそWWWが成立するのだが……目の前で敵にすると、ここまで恐ろしいとはな。

《喪羽》のコンディションをチェックする。さすがにビーム湾曲は難しそうか。ステルスモードなら可能だが……それでこいつに勝てはしまい。
 いっそ――と、後部ミサイル発射ボタンとは別枠にそなえつけられたボタンに目を向ける。こいつ、《タンゴ・パパ》なら仕留められるのではないか? いくら《玄武神三号》とはいえ、こいつの火力は……そんな考えが頭をよぎり、馬鹿じゃないかと頭をはたいた。
 そんなことして何になる。俺が相手すべき敵はこいつじゃない。第一、ここで戦う必要もなかった。俺は何を――その思考は、後部からの衝撃で打ち切られた。

「んなっ!?」

 驚いて周囲をスキャンすると、円盤が空を飛んでいた。いや、あれは旧ティターンズの《アッシマー》タイプのMSだ。既に旧式の代物だが、可変MSの傑作として今もなお配備されているところもある。あのカラーは、言うまでもなく中央国のもの。

「ギガンティックどころかMSまで!? 海自は何やってんだ!」

 吠えつつも、東馬は回避行動を取っていた。スラスターを噴かせ、サブの映像で《アッシマー》数機の連携したビーム攻撃を避けつつ応射を繰り返す。しかし敵は付かず離れずで攻勢に出ない。時間稼ぎは明白だった。

「オペレーター! 援護の機体はまだ来ないのか!?」
(そ、それが、丁度太平洋側から機械獣の軍勢が現れて……)
「んだとぉ!?」

 機械獣、つまりDr.ヘルの軍団。何故連中が? もしや――合わされた?
 最近の無意味な機械獣の多発からして、連中が光子力研のマジンガー勢を疲弊させて一気に攻勢に出る気なのは明白だった。問題はいつかだが……まさか、WWWで非常警戒態勢の時を狙われるとはね。日本海側から来る中央国軍に合わせて反対方向から攻める。こんな月並みな戦術に気づかなかった誰を責めるべきか。それとも両面作戦にも対応できない弱体化した自衛隊に文句を言うべきか。

「ってんなこと言ってられんか。今はこいつらを!」

『羽根なしパピヨン』で敵の行動を予測すれば、いかに高機動の《アッシマー》といえども捉えるのは容易。アスファルトの大地を踏み壊しつつ、ガトリングガンで潰していく。

 やっとの思いで全滅させた時には、もう《玄武神三号》とはだいぶ離されていた。

「くそっ……、してやられたか」

『羽根なしパピヨン』が持つ欠点、その一つはこれだった。
 確かに『羽根なしパピヨン』を起動させれは少し先の未来を見ることができるが、あくまで『見る』だけであり、それで機体性能や武器の破壊力が上がるわけではない。敵の行動を読めるということは戦闘において優位に立てることは立てるが、それは戦闘能力がある程度拮抗した相手に限る。単純に言うと、未来が見えようが見えまいが、勝てない相手には勝てないわけだ。まあ、最大の欠点に比べればそんなこと大したことじゃないが。
 それにしても、便利かつ厄介なシステムだ。本当にめんどくさいもの造りやがって……頭の中に浮かんだニヤケ顔に悪態をつきつつ、東馬は本部に通信回線を開いていた。

(東馬? お前どうしてそんなところに……)
「いいから、そっち経由で輸送機かベースジャバーの類寄越してくれ」
(な、追撃する気か? そんなのお前の任務じゃないだろ)
「そんなことはどうでもいい。さっさと寄越してくれ。こいつ……飛べないんだ」

 MSのサイズならフライトユニット標準装備が当たり前の時代なのに。いくら《喪羽》でもここまでこだわるかと嘆きつつ、要求の手を緩めることはなかった。



「もしもーし、僕優勝したんですよね? もしもーし?」

『UN』と書かれた画面に慎吾が何度声をかけても、返事はなかった。
 優勝した途端こうなってしまった。何を言ってるかさっぱりわからない。スサノオとか玄武とか、皆目理解できない。つけていたヘッドホンを外す。
 会場まで行く時間がなかったため、学校のパソコンで参加した。専用のコクピットじゃないので大変だったけど、なんとか勝ったと思ったらこれだ。

「せっかく優勝したと思ったのに、変な画面のまま音沙汰なしってどういうこと?」

 ため息をつくと、どこからか警報が鳴った。

(お知らせします。《スサノオ十式》と、中央国のギガンティック《玄武神三号》が戦闘をしつつ、おまたまだ町に接近しつつあります。一般市民の皆さんは、指定のシェルターに避難してください。この地区のシェルターは、第一小中学校です)

 警報とともに聞こえた放送にどこかひっかかった。第一小中学校、どこかで聞いたような……ふと、転入、編入手続きの資料に目を向けた。

「第一小中学校って……ここか!?」

 下を見ると、既に長蛇の列があった。何があったのかわからないけど、慎吾も降りることにした。



 シェルターに入る人の列に並んでいると、子供がぐずる声がした。
 振り返ってみると、さっきの親子がいた。どうも家に帰りたいと駄々をこねているらしい。そりゃわけもわからずシェルターにいかされたら嫌だよな、と呟いたら、

 パアンと、背後で大きな音が。
 周囲から悲鳴が上がる。驚いて尻もちをつくと、後ろでうめき声がした。

 そこには、スーツ姿の男の人が取り押さえられていた。シャツとジーパン姿の男の人に上げられた手には拳銃が。
 何が起こったのかわからず呆然としていると、銃声がまた響いた。しかも今度は何発も。スーツ姿の人たちが銃を乱射しているのだ。蜘蛛の子を散らすように逃げる人々の中で、シャツとジーパン姿の男の人は銃を持った男性を盾にして銃弾を防ぐ。その横で警察官が銃を応射。

「やっぱり東京ってすごいなあ……」
「早く逃げろ州倭くん、奴らの狙いは君だ」

 とぼけた様なことを言っていると、さっきの人が声を掛けてきた。あれ、この人駅で見かけたような……思い出そうとすると、撃たれた警察官が倒れてきた。

「う、うわあ!」

 一目散に逃げ出した。ちらを後ろを見ると、こちらに拳銃が向けられている。
 ダメだ。そう思った途端、目の前が暗くなり、頭を抱えてうずくまった。その時、銃声が。

 でも、どこも撃たれていない。金属とぶつかる音がして、何が起こったのかと顔を上げると……

「ああっ!」

 そこにあったのは、巨大なロボットだった。MSやレイバーよりずっと大きい。こんなロボットテレビでみたことない。

「《スサノオ》……」

 さっきの男の人の呟きと同時に、ロボットのパイザーが緑に発光した。

「スサノ、オ……こいつが?」

 そこで再び銃声がした。さっきの人たちが《スサノオ》に向けて撃ってきている。でも《スサノオ》はそんなもの意にも介さず、手で払いのけた。突き飛ばされ、校舎の壁に数人叩きつけられる。

「お前すごいなあ……うわあ!」

 突然強い光が差したと思ったのと同じく、《スサノオ》の後部が爆発した。黒煙が立ち上るのを見て、ビームを撃たれたのだとわかった。
 さっきの男の人に起こされると、盾に乗ったロボットが降りてきた。頭に羽を生やしている。

「なんだ、あいつ……」

 よくわからないが、ビームを撃ったのはあいつ。だとすれば、《スサノオ》の『敵』ということなのかもしれない。

 ビーム攻撃は続く。《スサノオ》も後部からミサイルを発射するが、盾から生じた緑色のバリアで弾かれてしまう。あっちのロボットはそこでビーム砲から二本の鞭を伸ばし、《スサノオ》に巻きつけ電流を流した。

 苦悶する《スサノオ》は、巻きついた鞭を右手で払おうとするが、逆に右腕に巻きつけられ、電流を流された腕は爆発してしまう。千切れた右腕が遠くに投げ飛ばされる。

「《スサノオ》……」

 痛々しそうな雰囲気をした《スサノオ》の姿に何か感じた。その時、悲鳴が上がった。

「えっ!」

 気が付くと、さっき《スサノオ》に弾き飛ばされた人たちが起き上がった。なんで、ロボットに叩かれて生きてるの?
 だけどそれだけじゃなかった。その人たちがこちらに目を向けると、ニヤリと笑って……

「……ひっ!」

 真っ白な怪人に変身した。

「ば、化けものだぁ!」

 どこかから誰かが叫ぶ。確かに化けものだ。みんな姿が白いこと以外は違った姿をしている。一人は頭部に蜘蛛のようないくつもの目に大きな牙を生やしたアゴ、もう一人は猛牛を思わせる大きな角を持っている。他どれもこれもまともな人間じゃない。そういえば、数年前日本で怪物が出現したなんて話が……。

 慎吾にはわからなかったが、とにかくその怪物たち――タランチュラオルフェノクとバイソンオルフェノク――がこちらへ迫ってきた。さっきの人が拳銃で撃つが、効いている様子はない。異形の姿に本能的な恐怖を感じ、今度こそダメだと思った時、

(教官、頭下げろぉ!)

 頭の上でスピーカーを使って誰かが叫んだ。
 教官と呼ばれたさっきの人が慎吾をその場に伏せさせると、強風とともに巨大な何かか降って来て怪物を潰した。

「な、なになに!?」
「あの馬鹿……暴れ過ぎだ」

 失笑した声がした先にあったのは、またしても巨大ロボット。ただし《スサノオ》より一回り小さく、全身黒で覆われている。

(教官下がって下さい! こいつらの相手は俺が!)
「馬鹿、外部スピーカー鳴らしっ放しだ!」

 叱るように声を張り上げて教官が応じる。その合間に、慎吾はそこから離れていた。敵巨大ロボットのビームは《スサノオ》を未だ傷つけ続けている。ビームの余波で、近くの人々も傷つき倒れている。

 どうしよう。どうすればいい。何とかしなくちゃ、そんな言葉が浮かんだものの声にならない。何をすべきかわからなかった。この惨状に、棒立ちになるしかできることはなかった。

 その時、眼前に《スサノオ》が降りてきた。胸の円形の部分が開くと、コクピットが降りてきた。

「……っ!」

 コクピットの形状に唖然とした。何もない田舎町、ただあった娯楽としてはまった『ギガンティック・フォーミュラ』。友達とよくいった小さなゲームセンターに、場違いなほど大がかりなオンラインゲーム……

「このコクピットって、まさか……」

 驚きを隠せない慎吾の前に、《スサノオ》が左手を差し出してきた。

「僕に、乗れってのか?」

 その声に呼応するように、《スサノオ》のパイザーが発光した。



(市民の避難完了。《スサノオ》、コクピットにパイロットが搭乗しました)
(《スサノオ》、各種パロメーター上昇。70、80……これまでになく高い数値です)
「な、なんだと!?」

 無理やり借りたベースジャバーから降りた《喪羽》で突如現れた怪物を潰していた東馬は、入ってきた通信に殴られたような衝撃を受けた。
 いつの間に乗り込んだ? てか、大丈夫なのか素人なのに? 不安要素が山のようにある中、《スサノオ》は立ち上がった。
 どちらにしろ、右腕が外されたままでまともに戦えるわけがない。援護しようとペダルを踏み込む。が、動きは敵の方が速かった。

《玄武神三号》、《スサノオ》の様子が変わったのに気づいたのか、鞭を飛ばして締めにかかった。だが《スサノオ》はさっきまでの体たらくを否定するかのように素早い動きで鞭を掴むと、返す手で左腕からダガーを飛ばして顔に打ち込んだ。
 ひるんだ隙をついて、最大出力で《玄武神三号》に詰め寄ると、右腕を握って、

「……んなっ!?」

 いとも簡単に引きちぎった。たまらず後方に倒れる。馬鹿な、さっきまでとまるで別物じゃないか。パイロットが乗るだけでこうも変わるか。

 しかし驚くのはそこじゃなかった。《玄武神三号》の右腕を握ったままの《スサノオ》は、その手を無くなった自分の右肩に押し付けると、
 光の線で繋がり、腕が接続された。

「な、なんだありゃ……」

 言葉を失った東馬に、オペレーターの声が入る。あっちも動揺しているようで声が上ずっていた。

(《スサノオ》、右腕復元)
(ナーヴケーブル、接合されました)

 向こう、《スサノオ》を管理するブラティカルペース側からしてもこれは異様な現象ということか。いくらギガンティックを形成しているのが同じ頭像、『OXII』とやらでも、敵の腕を自分に接合するなんて誰が信じられる。――しかも、緑色に発光したら元の腕の形に変質しやがった。

 ま、こっちも人のこと言えたもんじゃない『異常ぶり』だがな……サブモニター、『羽根なしパピヨン』を見て東馬は笑った。

「……心優しき無法者、姦計に弄ばされるも見捨てることなく、偽りの神と相対す――」

 そこで、またしてもUN――地球連邦政府からの放送が入った。

(UNからの発表です。本日日本において、現地時間十五時二十分、ギガンティックによる決闘戦が、日本と中央人民共和国間において初めて行われました)

 それにしても――あいつらはなんだったんだろう? 《喪羽》のカメラを、さっき踏み潰した怪物に向けた。何か青白い炎が上がっている。
 中央国の工作員と思ったし、事実慎吾を狙ったところからして多分そうだろう。しかしあれは、数年前発生した未確認生命体か、あるいはアンノウンか。どれも最後は爆死すると聞いた。あんな炎を出すなんて話は聞いたことがない。第一、中央国の使いとしてギガンティックパイロットを狙うなんてあり得ない。人間に化けれるなんて話もあるから確実ではないが。

(しかし、一回目の決闘は、中央人民共和国の《玄武神三号》が撤退することで中断されました。これに続き、時差のため未だ開戦を迎えていない各国も、随時宣戦するものと思われますが、UNはいずれも紳士的な決闘が行なわれるのを望みます)

「……何が紳士的だか。笑わせるんじゃないよ」

 ふんと鼻を鳴らすと、東馬は『羽根なしパピヨン』を停止させた。
 とにかく今日の戦いは終了か。あっちも修理に時間かかるだろうし、一時休戦と言ったところだ。
 何にせよ今は疲れた……ゆっくり息を吐くと、コンソールで自衛隊の情報を閲覧した。義務というか、暇つぶしの行為だった。
 だが、その行為のせいで東馬はやすむどころではなくなってしまうのだが。

「……《マジンガーZ》が機械獣にやられた?」



 夜。スマートブレイン本社オフィス

「……中央国はオルフェノクを実戦使用しているというわけですか」
(そのようですね。まったく、あんな化け物を兵士にしようとは、あちらの気が知れない……)

 吐き捨てるような言葉に眉をひそめるものの、通信パネルに男は笑顔を返した。

「まったくです。ところで、そちらの研究は?」
(未だ未完成といったところですか。貴方には申し訳ないと言わざるを得ません。技術面でも資金面でも協力してもらっているというのに……)
「なに、構いませんよ。あの異形の怪物たちを根絶やしにするためならばどんな協力も惜しみません」
(そう言ってもらえるとありがたい。それでは、今日はこれで)

 警察高官の制服を着た男の姿がパネルから消えると、男は嘲笑うかのような顔をした後で、考え込む仕種をした。

 オルフェノクの軍事利用、か。諸外国まではスマートブレインの手は完全に及ばない。これが中央国のような閉ざされた国ならなおさらだ。仕方ないこととはいえ、本来同胞となるべき者を兵器扱いとあれば腹が立つのも無理はないだろう。

 何にせよ、これで警察庁はさらに動かざるを得ない。《G5ユニット》での力不足を感じた連中がアレを要求してくるだろう。こちらの手で意図的に製作を遅らせていたが、協力しているという立場上いずれは渡さざるをえまい。まあ、本物のギアに比べればマシだが。最悪、始末してしまえば済む話だ。

 今動くのはまずい、それは誰よりも理解していた。地球のみならず宇宙にまで広がった人間に比べて『自分たち』はあまりに数が少ない。生身としては圧倒できても、人類は兵器を発達させ過ぎてしまった。
 ならば、できることは一つ。人の世に潜伏し仲間を集め、人知れず人を消していくこと。

 必ず人類を滅ぼし、この景色を本当に手に入れてみせる――巨大コングロマリッドの王、村上峡児は、窓から夜の街を見下ろしていた。



 次回予告

 突然パイロットにされた州倭慎吾は、戦いへの恐怖からパイロットになるのを躊躇う。

 それと同時に発生した鉄の城崩壊。消えた魔神の残骸。Dr.ヘルの陰謀とは。

 ついに判明するホス暴走のトリガー。静寂の歌により、東京は滅びの道を歩み出した。

 勝利なき戦いに進む第二小隊に、未来はあるのか。

 次回、スーパーロボット大戦B 第四話『風速四十メートル』

 to be continued……


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