・・ 野山ですごす ゆっくり時間 ・・

自我の解発=変容


れば、なんらかの「立場」に立つことでもさらさらない‥‥違った信
念の間に、それを編み変えて新しい了解の通路をつけるような新しい
言葉をつなごうとするのである。




 個的な信念の『独我論』を破るというのは、さまざまな立場(独我
論)の外や間に立つということではない。 「自分はさまざまな立場
の外に立つ」というのもそれ自体ひとつの立場にすぎないからだ。

 信念の『独我論』を破る条件はただひとつである。それはつまり、
自己の信念を他のさまざまな主観のうちに投げ出して、その間で「妥
当」(相互の納得)を成立させていくプロセスの有無にかかっている。

 これはまた、自分の信念や理論によって他者や現実を試すのではな
く、逆に人々によって自分の信念が試されるということだ。このこと
を通してのみ、私達は<自我>のありようが解きほどかれ変容すると
いうことが生じる。独我論が破られるとは、そういう場面以外には考
えることができないのである。

 この自我の解発=変容は、人間にとって、自我を頑なに守り強化す
るのとはまた違った、もうひとつのエロス的原理である。またそれは、
他者と直面し、他者を認める唯一の方法なのだ。

「自分を知るための哲学入門」 竹田青嗣 著 筑摩書房



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