I歯科医院の高楊枝通信。

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歯周病解説その1~その4+おまけ。


筆者がここは読んで欲しい!!と願っていることが
日々の更新のうちに埋もれてしまうこともしばしばです。

うるさいと思われるかもしれませんが、
ちょっとまとめて置いておきますね。(^^ゞ

********************** 

 歯周病って、何なのか?判り難いですね。
細菌が最初の原因となっているのは確からしい。
ところが実際に歯周組織が破壊される過程では、
細菌の宿主である患者さんご自身の免疫応答が主な役割を担っているのです。
歯周組織の破壊の様子を4回シリーズで描写してみます。
もちろん、1μmが1mの想像の世界です。
では、ブログをお楽しみください。

【その1】
代表的な歯周病の原因菌の1つPG菌(Prophyromonas gingivalis)は、
直径が50cm位の球菌です。
その表面は黒くて硬いウロコで覆われていて、
ウロコの隙間からはたくさんの20cm位の長さの半透明のしなやかな毛のようなものが出ています。
その毛はゆっくりクラゲやイソギンチャクの触手のように動いていますが、
移動やエサを採る手段に使うものではないようです。
菌体同士が絡み合うために、
また、ヒトの細胞膜に喰い込ませて感染・定着するためのもののようです。
そして、その毛をほとんど覆うように、ネバネバ、ドロンとした
透明の粘液のような物質で囲まれています。
この物質のおかげでリンパ球やマクロファージと言った免疫細胞の攻撃から免れるのです。
この物質は隠れ蓑であり、ヒトの免疫系はこれを異物とみなさないのです。
免疫細胞はこれに触れても素通りします。8:47 2006/09/01

【その2】
PG菌にとっては酸素は毒ガスですので、風通しの悪い歯周ポケットの奥深くに住み着いています。
大好物は赤血球です。
赤血球を溶かす消化酵素のような物質を出して、
中のヘモグロビンをウロコの所々にある口から取り込みます。
口と言っても、穴ではなくて、食いついて引っ張り込む手のようなものです。
また消化酵素のような物質は周りにあるたんぱく質もどんどん溶かしますので、
ヒトの細胞も溶かされて、毒ガスが発生し、悪臭が満ちています。
つまりこの細菌の住む環境はドブの中と同じになるわけです。

【その3】
PG菌は時々古くなったウロコを菌体外に放出するのですが、
この廃棄物がヒトの免疫系を大変興奮させるのです。
廃棄されたウロコがあちこちにいるTリンパ球の表面にある突起に結合すると劇的なことが起こります。
Tリンパ球は直径10m位の丸い免疫細胞です。
大きくて虹色に輝く、吸い込まれそうなくらい綺麗で荘厳な細胞です。
その表面には、Y字型の突起がびっしりと生えています。
細胞内の内容物を外に突き出し、キャタピラーのように動かしながらゆっくりと巡回しています。
PG菌のウロコがY字型の突起の1つに結合すると、
Tリンパ球は外来からの攻撃を受けたと判断し、
ただちに、身震いしながらある物質を盛んに放出します。
この物質は微量でもフェロモンのように
血管、リンパ管を通してヒトの全身を駆け巡り、
免疫系のスィッチを入れるのです。

【その4】
免疫系のスイッチが入りました。
最初の廃棄物(ウロコ)を拾ったTリンパ球のいるところを目指して
免疫細胞が大結集を始めます。
まず集まってくるのは大きくてアメーバ状の細胞です。
リンパ球がつぶれて、浜に打ち上げられたクラゲのような形になっていると想像してください。
不定形で、平べったくて、黒っぽい透明の細胞で、
中に直径2~3mもあろうかと思われる核があります。
表面の膜は軟らかく柔軟性があり、細胞内の内容物がゆっくり回転流動し、
全体がキャタピラーのように移動しています。
異物を取り囲み、中の顆粒状に見える各種の分解酵素・酸で異物を破壊します。
これはマクロファージと呼ばれる掃除屋です。
このマクロファージがまた数匹合体するのです。
小山のように大きい合体マクロファージの破壊力は凄まじく、
見る間にヒトの歯槽骨を攻撃し、破壊してゆきます。
しかし、癌細胞と同じく、元は自分自身の細胞ですので、
歯槽骨の破壊には自覚症状を伴いません。
歯が抜ける寸前になるまで、気が付かないことが多いのです。

生物学的に歯周病とは、
歯周病菌に感染した歯を含めた自分の組織があまりに汚く、
このままでは全身に悪い影響を与える異物であるとみなして、
自分の免疫細胞が自分自身の汚染された組織を除去・排出する機転、と解釈できます。

ウロコはLPS(リポ・ポリ・サッカライド)と呼ばれていますが、
このLPSを分解・除去する成分が含まれた歯磨剤がGUM(サンスター)より発売されています。
実際に使用してみて、その効果は実感できるものです。
しかし、これだけではとてもとても不十分なのです。
何故なら、4mm以上の歯周ポケットの底には歯ブラシも届かないし、
歯周病菌は粘液状の物質に守られて、しかも集まってバイオフィルムを形成しているので、
歯磨き粉に含まれる薬剤も十分には届かないのです。

【おまけ】
4回でお送りした歯周病解説シリーズ、
最後までお読み下さいましてありがとうございました。

歯周病は自覚症状なしに進行し、
歯茎から出血しやすい、口臭が気になる、咬むとき軽い違和感がありしっかり噛みにくい、、、
などの軽い症状ですら、、
もう歯周病は、かなり進行してしまっている、、、
ということがお判りになられたと思います。

歯ブラシも薬剤もなかなか届かない、
4mm以上の深い歯周ポケットの底で繁殖しているばい菌・・・
ばい菌がいるかぎり、暴走を続ける免疫系・・・

では、どうするか?
原始的に、ばい菌を物理的に排除します。
つまり、ばい菌を”掻き出す”わけですが。

そこでまた問題が、、、。
狭くて深い歯周ポケットの中で派手なアクションは出来ません。
周りの組織を傷つけてしまうので。
手用の器具が様々あるのですが、術者の知識と技量とをもとに
見えない部分を想像力を膨らませて”見る目”が必要。
熟練にセンスというエッセンスが無いとなかなか思うような結果は出せません。
半年、1年に一度、歯石を取るというのは、
歯を傷つけてしまう危険性も大きいのです。

ところが最近は、あるんですよ、良いものが!!

超音波スケーラーです。
ヒトの歯の根っこの形状を知っていて
歯周組織検査表の数字さえ読めれば、
チ~ッ、、って。
完全にポケットの底までさらう必要もないので痛くないし。
ポケットの底まで1、2ミリというところまで届いてさえいれば
超音波がバイ菌の菌体を破壊してくれます。

バイオフィルムの成熟には
2週間から16週間の時間が必要とされていますから
その方の病状によって
1ヶ月に2回から、3、4ヶ月に1回程度まで期間に開きはありますが

歯周ポケット内の超音波洗浄さえきっちりしておけば
歯槽骨の破壊は何とか防ぐことが出来ます。

それでもね、全然歯磨きしないってのは反則ですよ。


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