佳那ちゃん



今の私があるのは・


坂本佳那子


 私には、寝食を忘れて一生懸命打ちこむものがあります。高校生ですから

勉強もしますが、私自身の大部分を占めているのはクラシックバレエです。

四歳の頃、母にスタジオへ連れて行かれてから、もう十三年踊っています。

 バレエを踊っている時が私にとって至福の時です。それが舞台の上とも

なると、私の心の興奮は最高潮に達します。あの喝采やスポットライトに

は、つらい練習を一瞬にして色あせてしまわせる魔力があります。

 しかし、バレエだけに打ち込んでいたのなら、今の私は存在しません。普

通は中学受験を機にほとんどの人はバレエをやめてしまいます。でも私は

勉強とバレエの両立をやめたいと思ったことはありませんでした。学校

では少しの時間が惜しくて、宿題は全て休み時間にしたり、走って学校か

ら帰ったり、塾の帰りに迎えの車の中でお弁当を食べてからバレエに行った

りと、毎日が時間との戦争でした。しかし、この小五・小六の二年間で体力

も根性もつきました。学校も塾もバレエも一度も休みませんでした。

 もちろんバレエのお稽古は楽しいことばかりではありません。長く続け

れば続けるほど、もっと上手く踊れるようになりたいと思う心は当然出て

きます。自分が思うように踊れず、泣きながら家に帰ったこともよくあり

ました。長時間の練習で足に出来た血が滲んだり、アキレス腱が痛かっ

ったりと、そういう故障は日常茶飯事です。でも一番悔しかったのは、中

ニの発表会の前に捻挫した時でした。私は踊りたかったので必死で痛みを

とるために、ありとあらゆる治療に挑戦しましたが、やはり完全に痛みは

とれないまま当日が来ました。でも不思議なもので、痛みを我慢して踊った

本番が一番よく踊れたのです。

 その後、東京の新国立劇場の舞台にも立つことができました。また昨年は

コンクールで四国代表になり、アジアパシフィックコンクールに出場も果たし

ました。今までの努力が報われ、私の長年の憧れが実現したことで、本当に

やった甲斐があったと心から嬉しかったのを覚えています。

 今でもほぼ毎日バレエの練習があり、就寝と学校にいる時間を除けば、

お稽古場にいる時間が一番長いと思います。試験中でもお稽古を休まず、

高ニまで勉強との両立を続けてこられたのは、バレエで培ってきた集中力の

賜物です。

 私の夢は、東洋と西洋の医学の知識を併せ持つバレリーナ、あるいはス

ポーツ選手専門の医師になることです。筋肉や骨を痛めた時、まず整形外科

病院に行くのですが、そうすると必ず「使い過ぎだから休みなさい。」と言われ

ます。休みたくても練習を休むわけにはいかなくて困っているのに、、といつも

思います。だから、私は少しでも体を痛めたバレリーナの役に立つ仕事に就

きたいといつの頃からか思い始めたのです。

 私はバレエを通して、同じ十六歳の高校生と比べると皆が経験したことのな

い、楽しさ、喜び、悔しさ、悲しみ、痛み等々たくさんの経験をしたと思います。

やってもやっても報われない、下りのエスカレーターを一歩一歩上っているよ

うな毎日の練習。上るのをやめてしまえば下っていってしまう焦り・・・。

でも、やっぱり私は一生、踊りを続けていきたいと思っています。

そして今、バレエは私の生きている証だと思います。


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