颯HAYATE★我儘のべる

颯HAYATE★我儘のべる

欲望と愛情の間で  7



類の存在を忘れていた。

「―――自分の傲慢さについて、ね。」

「傲慢? 牧野が傲慢っていうは違うと思うけど。」

「そうかな。人の気持ちを勝手に決めるのは傲慢以外の何ものでもないんじゃない?」

「―――そうかな。」

「そうだよ」

「ふうん。で、牧野はそれに気がついて、これからどうするの?」

「さあ・・・どうしようかな。」

「司の言いなり?」

もう愛人関係は断った。道明寺がどう思おうと私はもうあの関係を続ける気はない。

「―――言いなり・・・にはならない、と思う。」

「ね、牧野・・・俺と結婚しない?」

唐突な類の科白に頭が真っ白になった。いったい、彼は何を言った・・・?

いや、空耳かもしれない。っていうか幻聴?

「聞こえなかったフリをしようとしている?」

「―――何か言ったの?」

本当に聞こえなかったフリをしようか。だが先回りされた以上、そういうわけにもいかないだろう。

「牧野、俺と結婚しない? 司といるより、俺との方が幸せになれるんじゃない?」

「私は・・・類を好きだけど、愛していないよ。」

そう言うと、類は微かに笑った。

「わかっているよ。俺も牧野が好きだよ。愛している・・・かは、よくわからないな。でもさ、好きっていう感情が大事じゃないの?

俺はきっと、永遠に牧野が好きだよ。激しい感情だけが結婚に繋がるわけじゃないでしょ?」

確かにそうかもしれない。だからと言ってYESと返事はできないが。

「この先、類には愛する女性ができるかもしれないよ。好きという感情よりも強い感情を持てる女性が現れるかもしれない。」

「―――それはどうかな。俺の初恋は静だし、次の恋は牧野だろ。俺の今までの人生で好きだなって思った女性は2人だけだよ。

司のお姉さん、椿姉さんも好きだけどね。彼女に対する好きはどう考えても静や牧野に対する好きとは違うでしょ。

彼女は俺たちにとってもお姉さんなんだ。それは総二郎やあきらも同じだと思うけど。」

「―――滋さんや桜子だっているでしょ。」

「う~ん・・・あの二人はどうだっていいかな。彼女たちを好き?友達だと思うけど、好きって感情はあるかなぁ。」

そこで真剣に考えるな、とつくしは言いたかった。昔から類の感情には独特のものがある。

だからといって無感情というわけじゃない。表に出さないだけで、激しい感情を持っていることも知っている。

「友達になれるってことは好きだからでしょ?」

「そうかもしれないけど、静のときや牧野と比べると好きとはわからないくらいの感情だね。」

「―――アンタ、本気じゃないでしょ。」

「俺の本気を疑う気? 俺は本気で牧野が好きだよ。高校生のときからずっとね。別に牧野が幸せなら見守っているだけでいいんだけどね。」

「―――私は幸せじゃない?」

「幸せじゃないでしょ。そんな思いつめた顔してさ。司に再会してからの牧野はなんだか怖いよ。

幸せな人間がする顔じゃないよね。」

そんなに私の顔はキツくなっていたのだろうか。確かにこのままじゃいけないと思いつつ、愛人関係を続けていたことで悩み苦しんでいた。

それが顔に出ていた?

「―――牧野、返事は急がないから。ゆっくり考えてよ。」

「え? 類・・・私は・・・」

「今すぐに決断しないでよね。少しは悩んでくれない? 俺、本気だからね。本気で牧野と結婚したいと思っているよ。」

何を考えているかわからない類の顔は・・・真剣だった。

きっと、何を考えているにしろ、私と結婚してもいいと思っているのは真実なのだろう。

そして、私への気持ちも正直なところなのかもしれない。

「じゃね、牧野」

何をしに来たのかはわからないが、自分の言いたいことを言うと類はさっさと帰って行った。

たぶん、私の様子を見に来たのだろう・・・そんな気はするが。

それにしても今更の類からのプロポーズに驚いていた。

学生時代に告白されたことはあるが、私たちの恋はいつもすれ違いだった。

私が類を好きだったとき、類は静さんしか見えていなかった。

類がやっと私を見てくれたとき、私は道明寺だけを見ていた。

だけど、そういう時期があったから私たちはお互いをいたわり、何でも自然に話せる間柄になったのかもしれない。

だから・・・なぜ、道明寺と別れて何年もたってからプロポーズをするの?

なぜ今更・・・類は私を求めるのだろう。






「牧野、類のプロポーズに答えるのか?」

登場するなり、そう聞いてきたのは西門総二郎。

「類が言ったの?」

「いや、プロポーズ宣言はしていたけどな、いつ言うかまでは知らない。俺は何でも知っているのさ。」

ここは職場だった。まさか、自分の職場にF4の一人が用も無いのに尋ねてくるとは思わなかった。

「―――アンタ、何しに来たの?」

「プロポーズの返事を聞きに。」

「―――つまり暇なのね。」

「そうとも言う。」

「私は忙しいの、邪魔をするなら帰ってくれない?」

今はなんとなく、道明寺を思い出す全てのことを自分から遠ざけたかった。

「―――お前、司と付き合っているわけじゃないよな。お前は不倫なんてする女じゃない。

となると、あの記事はどういうことだろう? 牧野、何が考えられる?」

突然、あの記事に触れてきた西門さんに苛立つがどうしようもないことだ。

道明寺の奥さんは、あの記事をどんな気持ちで見たのだろう。私の愚かな決断が彼女をどれだけ傷つけたのだろうか。

「牧野? 俺たちには話せないか?」

「―――なんで気になるの?」

「友達だろ。俺は牧野も司も親友だと思っている。その親友が不倫していると記事がでた。

だが司はともかく、俺たちの知っている牧野つくしは絶対に不倫なんてするような奴じゃない。

友達なら気になって当然じゃないか?」

「―――そうかもね・・・ありがとう。」

最後は小声になってしまった。果たして西門さんに聞こえたかどうか。

「当然だと言っただろ。」

聞こえていたようだ。

「―――相方はどうしたの?」

「相方?」

「美作さんよ。」

「お前な・・・俺たちは漫才コンビかよ。」

「違うの?」

「―――まあ、いい。あきらは出張中だよ。だから俺だけで来たってわけだ。」

つまり、暇なのは西門さんだけだってことね。

「西門流家元っていうのは暇なのね・・・」

「家元っていうのは自分が動く必要ないんだよ。」

相変わらず、口が達者だ。どう言っても返されてしまう。嫌味のいいがいがない。

「それにな、話を逸らすなよ。司とのことはどういうことだ? お前はもう少し素直になれよ、そして人を頼れ。

だいたい、昔からそうだよな。自分で解決しようとして最悪の事態を引き起こす。」

―――類にも似たようなことを言われた気がする。

だが、今は自分でもそうだと思っているから何にも言えない。ちょっと悔しいが。

「―――これは簡単に相談できることじゃないのよ。でも、気にしてくれてありがとう。」

そう、心配してくれる友人というのは有難いものだ。だが・・・道明寺の提案とそれを受けた私を知っても親友でいてくれるだろうか?







「類がマジでプロポーズしたらしいぞ。知っているか?」

「何っ!?」

NYにいるというのに、あきらの突然の来訪に戸惑っていたら、もたらされた驚愕の情報。

信じられない思いで、あきらを見つめていると何故か微笑まれた。

「類は言っていたじゃないか。それを実行しただけだろ、何を驚いているんだよ。」

確かに類は言っていた。だが、俺を脅す材料にしているだけだと思っていた。

「本当に・・・したのか?」

「ああ。返事はまだもらっていないみたいだけどな。だけど、牧野の性格を考えたら、OKするかもしれないよな。」

「アイツの性格・・・?」

「お前とのスキャンダルでお前たち夫婦の・・・というより、お前の奥さんの心境を考えると牧野なら誤解を正そうとするだろう?

それを信用してもらうのに一番いいのは別の男と結婚することだ。牧野も嫌いなやつとは結婚しないだろうが、類なら?」

人のことばかり考えている牧野なら・・・確かにあきらの言うとおりかもしれない。

俺にチャンスは残っていないのか?

「な、司。俺たちはお前にも牧野にも幸せになってもらいたい、親友として当然の気持ちだろう?

だが牧野はお前といても幸せそうじゃない、どう見ても苦しそうだ。

あの雑誌を見て、俺たちは本当にそう思った。お前も牧野も・・・二人とも苦しそうだった。」

牧野を愛している、それは紛れも無い事実だ。

だが、俺の一言が二人の間に思い枷となってはだかっている。

愛人になれ――――脅迫してまで手に入れた女なのに、俺はアイツを抱いても苦しみしか得られなかった。

高校時代・・・まだ抱かずに純粋に恋をしていたときの方が、幸せだった気がする。

たとえ、どんな障害があろうと、何度辛い思いをしようと―――幸せだった。

「―――俺は牧野を愛している。牧野つくしだけをずっと愛しているんだ!」

あきらに言っても仕方のないことだ。これは牧野に伝えるべき気持ちなのに、昔のように素直に伝えることができない。

「それは疑っていない。お前も牧野も未だにお互いを愛していると思っているよ。だが、その二人が一緒にいて幸せじゃないって何だ?

それにお前は政略的とはいえ、結婚している身だろう。牧野とホテルにいけるような身分じゃない。

司・・・お前はいったい何をしているんだ?」

正直に言ってしまおうか。俺がどれだけ卑怯なことを牧野に強いたか―――。

「―――離婚する。さっき両親にも報告して納得してもらったし、あの女も了解している。」

「あの女って、お前の奥さんか? 政略結婚なんだから、一方だけが納得しても仕方ないだろう。

奥さんの実家はどういうふうに言っているんだ?」

「―――あの女にも恋人がいるんだよ。俺たちは義務的に夫婦生活を続けていたが、お互いに愛情がないからな・・・。

俺は子供をつくることは義務だと覚悟していたからな、一度も避妊しなかった。

だが子供はできなかった。俺はホッとしていたんだ・・・だけどな、これは意図的だった。

彼女・・・つまり俺の妻ってことになるが、あの女が避妊していたんだよ。

結婚は両親に説き伏せられて、家を助けるためと多少の打算で俺と結婚したが、子供だけはつくる気になれなかったそうだ。

離婚を申し出たら、そう言われた。自分と同じ目には合わせたくない、子供だけは愛情から欲しいそうだ。

アイツの親は娘を犠牲にして自分達の生活を守った負い目があるからな、それを脅迫材料にするそうだ。

今度は愛し合った恋人と結婚するといっていた。慰謝料は出向している道明寺の者をそのままにしておくことで合意した。」

言い終えるまであきらは黙って聞いていた。何を思っているのか険しい表情で俺を見ている。

「―――それで、お前は牧野と結婚するつもりか?」

「アイツが・・・牧野がそれを許してくれるなら。」

「許してくれる? 許してもらえないようなことをしたのか? 司、正直に話せ。俺たちは親友のはずだろう!」

俺は決意を固めるように目を閉じ、顔を上げた。 そして大きく息を吐き出す。

「―――牧野を追い詰めた。アイツの会社を追い込んで援助するから愛人になれと言った。」

俺の言葉にあきらは大きく目を見開き、驚きを隠せないようだ。

俺だって自分の言葉に驚いた、だが・・・吐き出した言葉はもう無かったことにはできなかった。

ずるずると不本意な愛人関係を続けてしまった。アイツが愛人を受け入れた時点で俺は離婚すべきだったんだ。

「つまり、それを牧野は受け入れたってことか?」

「最初は断られたさ、当然だ。 だが・・・今のアイツは社員を抱えている、きっとソイツらのことを考えたんだろう。

最終的には俺の提案を受け入れたんだ。俺だって、そんな関係を望んでいたんじゃない!」

「―――お前を殴る前に一つだけ聞いておきたい。お前がアイツの会社を追い詰めたのはなぜだ?

お前が牧野に未練があったことは知っているし、別れ方は納得いかないが、アイツのことを思って別れたことは気づいている。

その惚れた女を苦しめた原因を知りたい。なぜ今になってアイツを苦しめるんだ?」

どう答えようが殴られるわけか・・・。

だが俺はこれ以上、親友たちに隠し事をするつもりはなかった。だから正直に言うべきだ。

司は目を閉じ・・・そして、ゆっくりと口を開いた。



© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: