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颯HAYATE★我儘のべる
アラフォーの純愛 1
恋をした。
とても激しい恋をした。
私の生涯の相手はアイツだけ・・・そう思える恋をした。
道明寺との連絡が途絶えてすでに20年。
4年後に迎えに来るという約束は果たされないまま、20年が過ぎて・・・
原因はアイツの記憶喪失。
記憶が戻らないまま1年が過ぎ、2年が過ぎ・・・いつのまにか連絡もとらなくなって。
もう記憶が戻ることはないのかもしれない。
私ももう38歳。未だに独身、それに道明寺に操をささげて・・・なんて異常なのかもしれない。
でも彼以上に私をあげたい男性なんていなかった。
私は一生、このままで死んでいくのかもしれない。それはそれでいい。
私は高校時代に一生に一度の恋をしたのだから。
牧野つくしは大手書店で店長を務めていた。
「店長、これはどうしたらいいですか?」
「あ、そうね、この作家はこれから伸びるわよ。特集を組んで中央に平積みしましょう。」
「わかりました。」
アルバイトの女性に指示を与えるとつくしはまた入荷した新刊のチェックを始めた。
「店長」
「どうしたの?さっきのは平積みでいいわよ?」
またさっきのアルバイト女性だ。つくしは振り向かずに答えた。
「いえ・・・お客様ですけど。」
客?今日は誰とも会う予定はなかった。つくしが怪訝な顔で振り向くとそこには懐かしい顔があった。
「あの、この方が店長に会わせてくださいって・・・」
女性は顔を赤らめながら客を紹介する。もう40近いというのに全然変わらないその顔はまぎれもなく花沢類だった。
「類」
「やあ、牧野! 久しぶりだね。・・・・ありがとう」
最後の言葉はアルバイト女性に言った言葉だった。
女性は名残惜しそうにゆっくりと自分の仕事に戻って行った。
「類、どうして・・・」
「どうしてって牧野のことなら、ずいぶん前から知っていたよ。もう20年だし、そろそろよくない?」
「・・・なにが?」
「まだ司を忘れられない?・・・忘れられないんだね?でももう俺たちを避けなくても大丈夫じゃないの?」
そう、道明寺の記憶が戻らず3年が過ぎたころ・・・つくしはF4や高校時代の友人たちの前から姿を消した。
なんとなく彼らといることが全て道明寺とつながってしまって辛かったのだ。
「そうだね。」
F4の力を持ってすれば、一人の女の居所をつかむくらいたやすいことに違いない。
だけど自分の気持ちを考えて20年も見守るだけにとどめたのだろう。
それに・・・道明寺の記憶が戻ったらすぐに迎えに来てくれるつもりでもあったのかもしれない。
でも今まで来られなかったのは道明寺の記憶が未だに戻らないからだ。
「もう待ちくたびれたからさ、迎えに来た。もういいでしょ?僕らのところに戻っておいでよ。」
「・・・ありがとう。みんなに会うのはもう大丈夫だと思うよ。」
「うん、今度さ、総二郎もこっちでお茶会があるし、それに合わせてあきらも呼ぶよ。みんなで会わない?桜子も滋も会いたがっているよ。
桜子も滋ももう結婚してしまった。二人とも2児の母ってやつだよ。」
「そう。そうよね、みんなもういい年だもの。で、アンタたちF4はどうなの?」
「F4?ふふ・・・俺はまだ独身。あきらと総二郎は結婚したよ。あきらは遺伝かな?双子の父親だし、総二郎は女の子が一人。司は・・・まだ独身だよ。」
道明寺財閥の後継者が結婚するとなれば大々的に報道されるだろう。それがないということは結婚していないだろうと感じていた。
しかし、あの母親が未だに結婚させずにいることにも驚いていた。
「へえ・・・」
「一番興味があることでしょ?」
「そんなことないわよ。」
強がっても類は自分の気持ちを見抜いている。わかっていても持って生まれた性格はなかなか治らないものらしい。
「うそつき」
「う、うそじゃないわよ!!」
「ふふ・・・ま、いいよ。じゃ、また今度連絡するから。」
類は言うだけ言ったらその場をあとにした。
「ちょっと!!類!!! 連絡って・・・どこにするのよ?」
「携帯番号なら知っているし、もうここにいることも知っている。適当に連絡するよ。」
言ったつもりはないが、携帯番号はずっと変えていない。
「俺たちも誰一人携帯の番号を変えていないよ」
類はそういうと本当に店を出て行った。
つまり、この20年・・・お互いに連絡をしようと思えばいつでもできたのだ。
冷たいのか優しいのかよくわからないが・・・F4なりに自分のことを考えてくれているのだということだけはわかった。
「ありがとう」
つくしは類が帰っていったあとに小声でつぶやいた。
類が来てから1週間後・・・連絡があった。
つくしは今、兵庫県にいた。そこにF4・・・いや、F3と桜子、滋が集まってくれるというのだからありがたい。
「じゃ、明後日・・・土曜日の夜でいい?」
「いいわよ。ホテルに行けばいいのね?」
「うん。メープルだけど問題ないでしょ?」
メープルホテルは道明寺財閥が経営するホテルだ。
「大丈夫よ」
そうして20年ぶりの同窓会が決まった。
当日、つくしは久しぶりに会う友人たちに緊張しつつ、自分なりに豪華?と思える服装をしてメープルホテルを目指した。
超豪華なロビーにはちょっとドキドキしつつ、知った顔はいないかと見渡した。
するとすぐに類の姿が目に入った。
ドアマンと思える男性が不審そうにつくしを見ていたので、すぐに類が見つかったことに安心した。
「牧野!!こっちだよ。」
高級ホテルには不似合いに大きな声が響きわたる。類にしては珍しい声量かもしれない。
「類、よかった~、すぐに見つかって!!」
「牧野はこういうとこに慣れてないでしょ、だからロビーで待ってた。」
「・・・そうね。ありがとう」
普通の人間はこういう高級なホテルには縁がないものだ。そう突っ込みたかったが無駄なことは分かっていたのでため息だけついて意思表示してみた。
「そのため息は何?」
「なんでもない」
「そう?」
類について案内された場所はホテルの一室。あえてホテル側の人間は使わず、類が案内してくれた。
集まっている人物が人物なだけに他人の目がうるさかったのかもしれない。
「ちょ、ちょっと!類・・・ホテルのレストランじゃないの?」
「レストラン?ううん??部屋の方がゆっくりできるし、一部屋抑えたよ。」
「抑えたって・・・」
「大丈夫だよ、誰も牧野に払えなんて言わないから。それに俺たち全員で一部屋なんだから安いもんだろ。」
「・・・アンタが泊っている部屋じゃないのね?」
「・・・俺の部屋と思ったの?」
「・・・」
「ふうん?期待していた?」
「するわけないでしょ!!!」
つくしは真っ赤になりながら否定した。
「俺は別に部屋をとっているよ。泊るためにね。この部屋は牧野に会うための部屋。みんな別に部屋をとっているよ。」
「・・・そのどれかの部屋で会えば節約になるのに」
「全員がそろうと狭いからね。」
全員って6人じゃない・・・と思ったが、またため息だけにとどめた。
類は鍵をとりだすと、ノックはせずにいきなりドアを開けた。
中は広い部屋が広がっている・・・が、人の姿は見えない。
ここは本当にホテルだろうか? つくしは一部屋以上あるホテルに泊まったことなどない。
「何部屋あるのよ?」
「狭いよ、ちょっと話すくらいだから2部屋かな。」
どういう感覚をしているんだと思いつつ、つくしは黙っていた。
「ちょっと広めのリビングと寝室だけだよ。テラスが少し広いかな。俺たちが泊っている部屋もこのクラスだね。少しリビングが狭いけど、一人だけだから・・・」
部屋の奥に入って驚いた。ちょっと広めのリビングはつくしの部屋がゆうに4部屋は入るような広さだった。
「・・・ホールじゃん」
つくしは呆気にとられてつぶやいた。
「え?」
「なんでもないわよ。」
類とそんな会話をしていると大きな声でつくしを呼ぶ声がした。
「つくし!!!」
声とともに左横から飛びつかれた。
「きゃあ!」
声の主は大河原滋だった。
「し、滋さん?」
「そうよ!! もう・・・長い間待たせちゃって・・・心配したじゃない!」
「滋さん、先輩が苦しそうですよ。」
軽く涙声で滋を諭すのは桜子だった。懐かしい友の姿と声につくしはただ茫然としていた。
信じられない思いだったのだ。あの20年も前に別れた友人が、自分を忘れずに今、会えて嬉しいと涙しているのだから。
「桜子・・・」
「先輩! もう黙っていなくなるなんてダメですからね」
「うん、うん・・・」
つくしはいつのまにか泣いていた。
涙で見えなくなった目にぼんやりと影がうつる。
「牧野、全然変わってないじゃん。相変わらずの庶民スタイル。救いは腹が出たおばさんになっていないことか?」
「そうだよな?庶民はエステ代をケチるからなぁ?」
軽く憎まれ口をたたくのは西門総二郎と美作あきらだ。
声でわかる。20年経っても忘れることのなかった声、そして姿だった。
「西門さん、美作さん・・・二人とも、相変わらずなのね?」
「お前もな、牧野」
絶え間ない抱擁に涙しながら、類に目をやると・・・20年前と変わらず、何を考えているかわからない笑顔を見せていた。
「類も変わらないよね?」
「そう?」
「うん、みんな変わってないね。」
「老けただろうが、俺たちも、お前も」
あきらの言葉に女性陣は反発したが、あれから20年・・・当然だが高校時代のように若いわけではない。
誰が見ても老けているだろう。だが、内面は誰も変わっていない。
「表面のことでしょ、それは! 私が言っているのは内面のことなの!」
「内面が見えるのかよ?」
そう言って笑顔を見せたのは総二郎。
「とにかく座ろうぜ。茶でも飲んで語ろう。飯は適当に持ってきてもらうか?」
「いいわよ、食事なんて。」
「軽いもんを持ってきてもらおうぜ。」
そう言ってさっさとフロントへ連絡をしたのはあきらだった。これも以前と変わりない位置だとつくしは思わず微笑んでしまった。
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