颯HAYATE★我儘のべる

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椛: 初恋&お弁当をつくろう





恋をした。たぶん・・・

だって彼をみるたびに、胸がキュンってなるから。

だから、これって恋だと思うんだ。

彼はすっごく年上。大人の男性。

すっごく落ち着いてて優しい。

お父さんよりも大人って感じ。

私はさっそく告白した。

「好き、大好き」

彼の答えは「僕も大好きだよ」

やった~!!

ってことは私は『彼女』ってことだよね?

彼は喜ぶ私を抱き上げて、膝の上に座らせた。

真っ赤になっちゃう。

彼の顔がすっごく近い。どうしよう・・・

まだ早いけど、聞いてみたくなった。

「いつか結婚してくれる?」

「・・そうだね、いつかね」

私からプロポーズしちゃった!

そして・・・これってOKってことだよね??

よし!私は勇気をだして彼に唇を近づけた。

チュッ!

彼はにっこり笑って、私にもチュッをかえしてくれた。

なんか、すっごく幸せ・・・

「お、お前・・・何してるんだ!?」

突然、頭上から大声。びっくり。

声の主はお父さんだった。

「類!お前・・・人の娘にキ、キスなんてしやがって!」

「・・・だって椛にプロポーズされちゃって」

「プ、プロポーズだと~!」

「お父さん、椛ね、類ちゃんと結婚するの」

「ふ、ふざけんな~!!!!!!!」

なんでお父さんはこんなに怒ってるの?

類ちゃんはお父さんの親友でしょ。

結婚に反対する理由なんてないのにな。

「も、椛、類は俺と・・・同じ年だぞ!」

「・・・そうなの?」

「ああ!」

「司、愛に年齢は関係ないんだよ」

「父親と同じ年の息子なんてありえねぇんだよ!」

「でも、椛、類ちゃんが大好きなんだもん。結婚するの」

「司・・・そんなに怒ることじゃねぇだろ・・・」

横からお父さんを諌めようとしているのは総二郎おじちゃん。

「そうそう、椛が結婚できるまであと何年あると思ってるんだ?」

あきらおじちゃんもやってきた。

「すぐに結婚できないの?」

私はびっくりした。明日には結婚するはずなのに。

「椛、日本では女の子は16歳にならないと結婚できないんだよ」

「椛は5歳だよ?」

「そうだね、じゃ、あと11年たったら結婚しようね」

類ちゃんが優しく頭をなでながら言った。

11年?11年って何回寝たら来るのかな??

「ふ、ふざけんなよ!11年たっても結婚させるか~!」

私の恋は11年後までおあずけなんだって。

でも、類ちゃんは私のプロポーズを受けたんだから

私は婚約してるんだよね?そうだよね?

類ちゃんの彼女は私。

・・・はやく16歳にならなくっちゃ。

お父さんの怒声を聞きながら、私はにっこりと類ちゃんに微笑んだ。

類ちゃんも私に微笑みをかえしてくれた。



  FIN







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●お弁当を作ろう●

今日は土曜日、幼稚園はお休み。お弁当をつくろう。

早起きして、お母さん専用の小さなキッチンでお弁当をつくろう。

まず、ジャーを開けるとお母さんがキチンと白いご飯を作っている。

だから、それをまずはオニギリにしなくっちゃ。

しゃもじで掬って、この型に入れてから、ぎゅ~って押す。

これはいっつも私のお仕事だから、ちゃんとわかってるんだ。

ほら、ウサギさんのオニギリができたでしょ?

これに海苔を切って目と鼻をつけると、もっとかわいいウサギさんになるんだ。

海苔はどこかな。 いろんな引き出しを探して、やっと見つけた!!

次はお母さんが言っていた魔法のおかずを入れるんだ!

冷凍庫を開けるとお母さんが買っておいた、それがあった。

えっと・・・どれにしようかな。

ハンバーグとコロッケとエビフライ。う~ん、どれもおいしそう。よし、全部入れよう。

袋を開けて、凍ったそれらを取り出してから、そのままお弁当箱に入れた。

2段重ねの花びら模様の黒くて四角いお弁当箱。ちょっと大きすぎるかな?

でも、私と類ちゃんと二人で食べるんだもん、きっと大丈夫だよね?

あとはお茶を入れなくっちゃ。水筒、水筒・・・

水筒はいつも幼稚園にもって行っているヤツでいいよね。ピンクでかわいいお人形さんのヤツ。

お茶を探したけどわからない。冷蔵庫をあけるとオレンジジュースがあった。

仕方がないので、それを水筒に入れた。完璧!! あとはお弁当を包まなくっちゃ。

大きなハンカチはないかな~。ちょっと探すとお母さんが置いていた、大きなヒラヒラしたハンカチがあった。

ちょうどいいからこれで包んじゃおう。 今は何時なのかな~?

7と0と8。 よくわからないけど、たぶん・・・すっごく早い時間。

だってお母さんが起きてこないもん。さあ、類ちゃんところに行こうっと。

椛はこの間買ってもらったリュックサックにお弁当を入れようとした、しかし大きすぎて入らない。

どうしよう・・・あ、こうすればいいんだ!!

椛はお弁当の向きを変えて、縦にして入れてみた。これなら大丈夫! なんとか収まった。

リュックをからって、水筒をさげて椛は道明寺邸をあとにした。なぜか・・・誰にも見つからなかった。

電車に乗って、バスに乗って花沢物産に到着~。

迷ったわけじゃないけど、子供の足なので時間がかかってしまって、既に家をでてから1時間以上が経過していた。

椛はニッコリとしてビルに足を踏み入れた。受付の女性は、いきなり子供が遠足スタイルで入ってきたのでびっくり。

「お嬢ちゃん、どうしたのかな?」

「類ちゃんに会いにきました」

「・・・お名前は?」

「道明寺椛です」

そういって頭を下げた。挨拶はキチンと!ってお母さんが言ってたから、名前もきちんと言ったし、完璧。

お姉さんは一瞬、変な顔をしたけど、どこかに電話をしている。

たぶん、類ちゃんを呼んでくれているんだと思う。

私は近くにあった椅子に座って待つことにした。

ほんのちょっと待っただけで類ちゃんがやってきた。

「椛!!!??」

「類ちゃ~ん」

そう言って、ニッコリと笑って手を振った。

「椛・・・一人で来たの? お父さんとお母さんは? どうやって来たの?」

「あの・・・」

受付のお姉さんがちょっと変な目で見ている。 まさか・・・類ちゃんを狙っているの? 類ちゃんは椛のだよ!

「ああ、ゴメン。迷惑をかけたね、道明寺財閥の子だよ、若夫婦の一人娘。」

「ええ!?」

何が「ええ!?」なの?

「こっちで親に連絡するから、仕事に戻っていいよ」

お姉さんは頭を下げて、仕事に戻っていった。

「で、椛・・・どうやって来たのかな?」

「電車とバスに乗ってきたの。類ちゃんにね、お弁当をつくってきたの、一緒に食べよ?」

「・・・お弁当?」

「うん、椛が一人で作ったんだよ!! 魔法のおかずも入ってるんだよ。」

魔法のおかず・・・類は訳がわからず答えに窮した。

「内緒で来たんだね?」

「うん!! ひとりで来れたもん!」

椛はどこか自慢げだった。





どうしようかな。ここは牧野に連絡すべきか、司にするべきか。

屋敷の方も心配してるだろうな・・・でも、ここは司だね、おもしろいし。

牧野ならきっと動じないからつまんないだろうし。

類は携帯を取り出し、番号を押した。

『なんだよ!』

いきなり、挨拶もなしに司の不機嫌な声。

「機嫌が悪いね」

『忙しいんだよ! 何か用かよ。』

「おたくのお嬢様は今、ここにいるんだけど?」

『・・・はあ?』

「椛が花沢物産ビルに来てる。ひ・と・り・で!!」

『類・・・俺は冗談を聞いている気分じゃねぇぞ。』

「嘘じゃないよ。椛にかわろうか?」

俺はそういって、携帯を椛に渡した。

「お父さんだよ、椛の声が聞きたいって」

「・・・お父さん? 椛ね、一人で類ちゃんのところに来れたよ!」

すっごく自慢げな声で報告している。椛にとっては大冒険だろうけど、親にとってはたまらないだろうな。俺はクスっと笑った。

『椛!?』

「うん、お父さん。あのね、椛ね、類ちゃんにお弁当を作ってきたの。今から一緒に食べるんだ」

『ほ、本当に一人でそこに行ったのか!?』

「そうだよ」

『そこで待ってろ!!!! お父さんがすぐに行くから!!!!!』

「こなくていいよ?」

椛は携帯を俺に渡して「切れたよ」と言った。

「司はなんて言っていた?」

「ここに来るって言ってた。何かご用があるのかな?」

ぷぷっ!! 親の心子知らず・・・だね。

まさか椛のことが心配で、仕事を放り出して、ここに来るとは考えていないんだね。

「そっか、じゃあ、司が来るまで椛のお弁当を食べて待っていようか。こっちにおいで」

俺は椛を抱き上げて、副社長室へと連れて行った。





椛は部屋に入るなり、応接台の上にリュックをおろし、お弁当をだした。

そして嬉しそうに蓋を開けた。俺には予測がついていたけど、中身はすべて片側によってしまっていた。

オニギリも押しが弱かったらしく、原型を留めていない。

それを目の当たりにした椛の顔はショックで真っ青になってしまった。

「・・・椛・・・キチンとウサギさんにしたのにぃ・・・」

今にも泣きそうな声。

「椛、大丈夫だよ」

俺はそういうとエビフライらしきものを手にとって食べた。

さすがに一流のシェフが作る料理に比べるとおいしくないし、どこにエビがあるんだってくらいに小さくてわからない。

これが以前、牧野が言っていた「冷凍食品」っていう便利な食べ物だろう。

とにかく、椛の愛情がつまっているわけだから俺は有難くいただいた。

「うん、おいしいよ。ありがとう、椛。」

「本当? 本当においしい?」

心配そうな顔で俺を覗き込んでいる。

「おいしいよ」

俺がそう言って頭をなでると、安心したのか自分でもハンバーグらしきものを口に入れていた。

「本当だ~、おいしいね~」

やっと笑顔がでた。俺はホッとした。子供に泣かれてもどうしていいかわからない。

しばらくすると突然、荒々しくドアが開いた。

「椛!!!!!」

司登場~。相変わらず、騒々しい男だな・・・。

「やあ、司、久しぶりだね」

「やあ、じゃねぇんだよ。お前らいったい何をしているんだよ!」

「お父さん、椛がつくったんだよ。壊れたけど、ウサギさんのオニギリと魔法のおかずなの。」

司は訳がわからずキョトンとしている。

「魔法のおかず?」

「お父さんも食べる? 仕方ないからお父さんにもあげるね」

そう言って、エビフライを司の口元に持っていく。

愛娘が作ったというものなので、司は素直に口をあけてエビフライを食べた。

・・・が、顔をしかめている。俺はヤバイなって思ったが、案の定・・・

「うわ、なんだこれ! まずいな」

椛の顔が思いっきり変わった。 泣く・・・そう思ったが、泣かずに司を怒鳴りつけた。

「お父さんなんか大嫌い!! 椛が頑張って作ったのに、まずくないもん!!!!」

大嫌いといわれた司は顔面蒼白。

「も、椛・・・えっと・・・まずくないぞ。その・・・初めて食べたから、その」

何が言いたいんだか全然わからない。司は気が動転しているみたいだ。

「類ちゃんはおいしいって言ってくれたもん!!!」

いや、俺を睨まれてもね・・・。椛が自分で作ったって言っていたのに、それを迂闊にもマズイと言ったのは司でしょ。

「いや・・・椛、俺はその・・・類!!!なんとかしろよ!!」

俺にふられても困るんだけどね。 でも、こんな司の姿ってなかなか見られないし、面白いものを見せてもらったから助けてあげようかな。

司の眉がピクっと動いた。俺の考えていたことがなんとなく分かったに違いない。

こういう時の司の野生のカンは侮れない。

「椛、司はね、味オンチなんだよ」

椛は訳がわからず、キョトンとしている。

「味オンチって何?」

「椛はお母さんの作る料理おいしいでしょ?」

「うん、とってもおいしいよ」

「そうだよね、でも司はね・・・ずっと昔、椛がまだ生まれる前だけど、お母さんの作ったお弁当をマズイって言ったんだよ。

僕もそのお弁当は食べたことがあるんだけど、とってもおいしかったよ。」

「お父さんはお母さんのお弁当もマズイって言ったの?」

椛は何か考えているようだった。

「そう、司はお母さんの料理もマズイって言ったことがあるんだ。きっとおいしい料理を食べたことがなかったんだね。

でも、今はお母さんの料理をおいしいって食べているでしょう? つまりね、慣れってヤツなんだよ。

いつも変な料理ばっかり食べていて、それに慣れているから、おいしい料理を食べてもマズく感じてしまうんだ。

だから毎日、椛の料理を食べていれば、司の味オンチも治って、おいしいって言うようになるよ。」

「・・・お父さんって病気なの?」

「・・・そうだね」

椛は同情したような視線を司に向けた。司は唖然として俺を見ている。

仕方がないでしょ、こうでも言わないとどうしようもないじゃない。

「お父さん、かわいそう・・・椛がお父さんの味オンチを治してあげるね。

毎日、お弁当を作ってあげるよ。会社に持っていって食べればいいよ。」

そういって椛は司の手を握った。司はなんと言っていいのかわからない様子だったが、

愛する娘の機嫌が直ったので、渋々ながら笑顔をつくって感謝の言葉を述べた。

「ありがとう、椛。お父さん、頑張って・・・治すから・・・」

最後のセリフは、歯を食いしばって搾り出したような声だった。

俺は笑いたくなってしまった。

司の視線が痛いけど・・・俺には関係ないもんね。 俺が招いた問題じゃない。





司はその後、数日間は椛の愛情たっぷり弁当を会社に持っていくことになった。

ウサギのオニギリに、いつも同じ冷凍食品が入ったお弁当。

牧野にはその日のうちに俺が事情を説明しておいた。彼女も大笑いして、ただ椛を見守っていた。

結果・・・椛のほうが5日くらいで飽きたようだが、その間はずっと椛の愛情弁当を持参してご出勤となった。

娘の機嫌を損ねないように、キチンと平らげて帰宅していたらしい。・・・大変だね、司・・・


FIN



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