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颯HAYATE★我儘のべる
司×椛: 手放せない大切なもの
娘の晴れ姿・・・を見ても喜びの涙も悲しみの涙も出なかった。
こみ上げる思いは怒り。大事な可愛い娘を奪っていく男に対する怒りだけだった。
「ちょっと・・・! 何を睨んでいるのよ。」
「―――アイツを睨んでいるに決まっているだろ。俺の椛を・・・! くそう。」
「まだそんなことを言っているの? アンタ、椛に縁を切られるわよ。」
つくしの言葉に怒りをグッと飲み込む。わが娘ながら椛は気が強く、決めたことは実行する。
娘があの男を選んだ以上、俺がここでゴネれば娘に捨てられるのはアイツではなく俺だろう。
それもまた腹立たしく、怒りの原因となっている。
「親父、往生際が悪すぎ。」
両親の会話を横で聞いていた榊は、視線を主役の二人に向けたまま父親を嗜めた。
「うるさい。娘を奪われるんだぞ、怒らない親はいねぇだろうが。」
「―――声、大きすぎ。客が驚くだろ。いい加減にしろよ。みっともないぞ。」
「てめぇ・・・親に向かってなんて口をききやがる。」
ボソボソと親子で言い合っていると、横で大きなため息をつかれてしまった。
「アンタたち、やめなさいよ。みっともないでしょ。椛は結婚して姓が変わっても椛だって言ったでしょ。
たとえ結婚しても私たちの娘に違いないのよ。あれだけ言ったのに、まだわからないの?」
―――わかっているのだ、わかっているが、腹立たしい。それは仕方ないじゃないか。
大事に慈しんで育てた娘が自分の元から飛び立ち、あの男の元へ行くというのだ。
そう考えるとどうしても腹がたって仕方がない。これはもう理屈じゃないのだ。
「わかってる・・・だから、結婚させてるじゃねぇか。本当ならこんな式、ぶち壊してやりてぇんだぞ。」
「―――あ、それは親父らしい。だけど椛に一生恨まれるね。」
能天気に答える息子の頭上に強烈な拳骨を食らわせる。その音に周囲は驚いた表情で見たが、親子がじゃれていると思ったのか最後は微笑んでまた主役に視線を向けた。
「いってぇな・・・何すんだよ。」
「ふん、うるさいからだ。事故自得だ。」
「―――事故自得って何?」
「勉強しろ。事故自得は事故自得だ。」
「―――自業自得でしょ。」
横からつくしが呆れたように言う。
「ああ・・・自業自得ね。」
榊が哀れむような目で俺を見ていた。それもまた・・・ムカつく。
「事故だろうが、自業だろうが、そんなことはどうでもいいんだよっ」
俺がそう言うと二人は視線を合わせ、わざとらしく大きなため息をついた。
「あのねぇ、司・・・椛の一生に一度の大事な晴れ舞台なんだよ。そこに影を落としてどうするの。
父親なら喜んで送り出してあげなさいよ。」
父親だから喜べねぇんだろうが! そう突っ込みたいが、ここでそう言えばきっとつくしと喧嘩になる。
長年の付き合いから、それは絶対だと言える。
「俺にそこまで要求するな。ムカつくが、椛のために我慢しているだろうが。」
それだけ言うと俺は腕を組み、幸せそうに並ぶ椛と・・・あの男を睨み、いや見つめた。
「―――それも進歩よね・・・良しとしなくちゃいけないんでしょうね・・・」
つくしがそうつぶやくと、いつのまにか近くに来ていた親友たちが大きく頷く。
「そうそう。司が我慢するなんて成長の証。」
「そうだよな。気に食わないと暴れて手がつけられなくなる男だからな。」
「うん・・・猛獣だよね。」
F3は言いたいことを言っている。俺はそれを無視し、とにかく幸せそうでムカつく男と可愛い椛を見ていた。
「あの野郎・・・椛の肩に触りやがった・・・」
「―――肩くらい・・・。あの二人は夫婦になったんだし、もっと別のとこも触りまくりだろ。」
榊が何も考えずにそう言葉にすると・・・周囲が凍りついた。
「「「榊っ・・・」」」
つくしと総二郎、あきらの声が重なる。
「そうだよね」
一人だけ納得する類。
「―――もっと別のとこってどこだ・・・? 榊、言ってみろ。どこだ?」
ギリギリと歯軋りと共に吐き出される言葉は、まるで地の底から響いてくるようだった。
榊はしまったという表情をしたが、口にしたものは仕方がない。
榊は覚悟を決め・・・というよりも、開きなおって言った。
「アイツらは夫婦になったんだし、子供だってつくるだろ。」
「―――子供?」
司は呆然としながら、その言葉をつぶやいた。
「―――子供?」
同じ言葉を繰り返す司に榊は訝しげな視線を送る・・・が、その顔を見た途端、言うべきではなかったと後悔した。
司の顔は一瞬のうちに蒼白になり、表情すべてが消えたと思ったら、今度は忽ち真っ赤になった。
目は吊りあがり、口端はヒクヒクと動いている。はっきり言って・・・怖い。
「子供だとっ!!!!!」
大声で怒鳴れば、当然周りにいる人間の目を引く。
司の声に式の招待客すべてが自分達の方を振り返った。いや、招待客だけじゃない、主役の二人はもちろん親族一同が俺たちを見ている・・・
榊は真っ赤になりながら、父親を諭した。
「こんなところで大声だすなよっ・・・恥ずかしいだろ。」
「大声くらいなんだっ!」
司は榊を怒鳴りつけると、主役の二人を睨みつけ、二人に向かって歩きだした。
「ちょ、ちょっと、司っ!」
慌てたのはつくしと榊だ。何をするのか想像がつくだけに今止めないと厄介なことになる。
「司っ!! 娘の結婚式に両親の離婚ってことになってもいいのっ!!」
つくしは慌てて司の腕をとると、小さな声で言った。
「―――てめぇ・・・脅迫かよ。」
「―――脅迫だってするよ。椛の幸せがかかっているんだからね。司、椛は祥吾くんと一緒にいたいのよ。
椛の望んだ結婚なのよ。もう高校生の頃からの想いなんだから・・・私たちと同じじゃない。」
そういわれれば、司だってどうしようもない。事実、つくしと司は高校生の頃からの付き合いだ。
「あの二人は私たちと違って何の障害もなく、幸せになれるんだよ? ここで司が暴挙に出れば私たちの二の舞だよ。
あの二人を私たちのような目に合わせたいの? 違うでしょ。」
「―――俺は親父やお袋を捨てても・・・お前と一緒になりたかった・・・」
「そうだね。一緒にはなれなかったけど、何度もそういうことを言っていたね。じゃあ、椛も同じじゃない?
なんと言ってもアンタの子なんだから。アンタが反対したり、式の邪魔をすれば私たちを捨てても祥吾君と一緒にいる道を選ぶんじゃないの?」
「わかってる。わかってるんだけどよ、俺の椛が・・・俺の椛がアイツの物になると思うと・・・」
「司、お前は今でも私の息子だし、大事な愛する子だよ。」
司の大声に何事かと近くに来ていた道明寺英(すぐる)が息子を諭すように言った。
振り向けば、楓も椿もいた。仕方がないとでもいうように困った顔をして、それでも気持ちがわかるのか微笑んでいた。
「あなたも親の気持ちがわかりましたか?」
楓がそういうと、司は思いっきり嫌そうな顔をした。
「てめぇはつくしと結婚させたくなかっただけだろうが。大河原とは高校生のときに婚約させようとしたくせに、よく言うぜ。」
司の言葉にもめげず、楓は言い返した。
「それは当然です。あの頃の二人では幸せになれると思えませんでしたし、目を覚まさせる意味では仕方のない縁組だったのです。
ですが、手放したくないからこその同レベルでの縁談だと思えませんか?
大河原となら仕事でも繋がっていますし、私も仕事で忙しい以上、親子関係は仕事で繋ぐしかないのですから。」
「―――楓、今はそんなことはどうでもいいだろう。司、椛は幸せそうじゃないか?」
椛と祥吾は心配そうにこっちを見ている。
「自分が辛い目にあったことを忘れるな、司。同じことを娘に強いるんじゃないぞ。愛した人との結婚を邪魔されることの辛さは自分が一番知っているだろう?」
父親の言葉に司はグッと詰まった。それは嫌というほど知っていた。そして愛情のない結婚の空虚さも知っている。
愛する人が傍にいない悲しみと辛さは並大抵のものではない。
司は椛と祥吾に視線を向けると、黙って二人に向かって歩きだした。
「司・・・」
「心配するな。式をぶち壊したりしねぇから。」
そう言ってつくしを安心させると、司は二人の前に立った。
「―――お父さん・・・」
椛は不安気に父親の顔を見たが、司の顔には怒りも悲しみも喜びも浮かんでいなかった。
「おい」
司は椛から視線をそらさず、祥吾に向かって声をかけた。今、椛の横にいる男を見ると殴ってしまいそうだった。
「はい・・・」
祥吾は神妙な面持ちで席を立った。司の言いたいことはわからないが、真剣な表情に目線を合わせるべきだと考えた。
「お前は椛を幸せにできるのか?」
「お父さんっ! 私は祥吾と結婚できるだけで幸せだよっ!」
「椛・・・黙ってろ。お義父さんは俺に聞いているんだから。」
祥吾は椛を制止すると、義父となった男の顔を見据え、迷いの無い言葉で断言した。
「幸せにします、間違いなく。」
「苦労をさせずにいられるか?」
「それはわかりません。俺は・・・道明寺家のような暮らしに縁がありませんから、俺のレベルで生活をすれば椛はとまどうことが多いとは思います。」
「―――とまどうだけなら苦労じゃねぇ。」
「そうですね―――どう言ったらいいのか・・・椛が苦しいと思うことはさせませんし、思わせることのないようにします。」
「司、それで充分じゃないの? 私とは逆になるけど、私たちから見て大変だと思うことも椛にとっては幸せなことかもしれない。
現に私は周りから『大変ね』と言われたことで大変だと感じたものは一つもないわよ。
私が苦しいときはアンタが助けてくれたし、アンタが苦しいときは私が助ける。それが夫婦ってもんでしょ。」
心配で横に来ていたつくしが司に笑顔を向けながら言った。
「だからね、司。私たちは椛が幸せであれば苦労していても見守るだけの方がいいのよ。椛にとってはその苦労も幸せの一つかもしれないでしょう?」
「だが・・・」
「司、私たち親は椛が助けを求めるまでは黙ってみていればいいの! いい加減に子離れしなさい。」
つくしがそういうと、司は苦虫を噛み潰したような顔で二人を見た。
「―――椛、意地をはるんじゃねぇぞ。辛いときは我慢せずに俺たちに助けを求めるんだ。それができるか?
てめぇはつくしにソックリだからな。人を頼ることをしねぇから・・・まったく、頑固っつうかよ。」
「―――わかった。普段は頼らないかもしれないけど・・・ダメだと思ったら・・・絶対に助けてもらう。
それでいい? お父さんも私の心配ばっかりしていないでよね、まだ楸もいるのよ。私が結婚するくらいでこんなだったらどうするの?
楸は末っ子だし、あの子が結婚したら家にいるのは榊とその奥さんだけってことになるのよ。大丈夫?」
椛がそういうと司の顔色が変わった。
「楸はまだ子供だっ!!! 結婚なんてしねぇっ!!!」
また司の大声が会場にこだまする・・・
「司っ! 恥ずかしいから声を落として。」
「あ、あの・・・お義父さん、絶対に椛に結婚を後悔させるようなことはありません。幸せにします。」
慌てて祥吾がそう言うと、司も我にかえった。
「―――絶対だな。約束しろ、誓えよ。」
「絶対です。約束します。私の人生すべてで椛を幸せにします。」
「私も祥吾を幸せにするよ」
二人がそう言って見つめあうと司も苛立ちはしても何も言えなかった。
椛が望み、そして夢をかなえて結婚するのだ。親がぶち壊してはいけない。
「―――しかたねぇ・・・祥吾、てめぇ・・・まだ子供はつくるんじゃねぇぞ。俺もつくしもまだジジイやババアになる気はねぇ。」
司はそれだけ言うと自分の席へと帰っていった。
「子供はつくらなくてもヤれるって知ってる? 親父。」
司が戻るなり榊が言う。それを聞いてF3が小さく吹き出した。
「そうだよな。避妊って言葉もあるんだし。」
「だよね。避妊しようがなかったら総二郎もあきらも既に父親だよね。」
類の言葉に総二郎とあきらは嫌そうな顔をして睨みつけた。
「「俺たちはそんなドジは踏まないよっ」」
「てめぇら・・・楽しんでるだろう?」
「当たりまえだろ。お前をからかえる機会を逃すわけない。」
「―――司、ほら見なさいよ。椛ってばあんなに嬉しそうじゃない。」
つくしが司をもう一度壇上にいる二人に視線を向けさせる。二人は見つめあい、まさに今キスを交わしていた。
「―――牧野・・・タイミング悪すぎ。」
「ホント、最悪。」
「お袋、もうちょっと空気読めよ・・・」
つくしとF3、榊が一斉に司を見ると・・・司は拳を握りしめて必死で耐えていた。
震える腕がなんだか怖い。
「司?」
つくしが呼びかけるが返事はない。
「司、大丈夫?」
「あの野郎!!!!! やっぱりこの結婚はなしだ~っ!!!!!!」
司の大声が披露宴会場にこだました。
FIN
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