颯HAYATE★我儘のべる

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楸:保育園の効能



こんにちは、道明寺楸、2歳です。もうすぐ3歳です。

もう人間の言葉もペラペラだし、歩けるし、とぉっても美人だし、大人になりました。

今、私の目の前でお父さんとお母さんが喧嘩をしています。よく喧嘩をするので、きっと喧嘩が好きなのだと思う。

今日の喧嘩は私を保育園に行かせるかっていう問題。

朝ごはんを食べていたら、お母さんが「今年1年、楸を保育園にやります」って言ったのね、そしたらお父さんが「ふざけるな」って言ったの。

そしたら、ずっと言い合いしている。お兄ちゃんたちは呆れつつも無視して朝ごはんを食べている。

こんな光景には慣れっこなんです。この二人、きっと子供達の存在を忘れていると思う。子供を忘れるってひどいよね。





「この家にはたくさんの人間がいるんだ、保育園になんてやる必要はねぇだろうが!」

「面倒を見てくれる人がいるかどうかの問題じゃないのよね。楸に早いうちから友達をつくってほしいだけよ。このまま家で甘やかしていても友達はできないでしょ。」

友達・・・それは魅力的な言葉。お父さんには類ちゃんや総ちゃんにあきちゃんがいる。お母さんだって優紀お姉ちゃんや桜子お姉ちゃん、それに滋ちゃんがいるでしょ。榊お兄ちゃんだって祥吾くんがいる。

私も『親友』が欲しい。うん、保育園に行こう! お友達をつくるんだ。

「お父さん・・・」

お母さんと言い合うことに燃えているお父さんに声をかけたけど、全然気がついてくれない。

「友達って簡単に言うけどな、道明寺の名を利用しようとする輩もいるんだよ。」

「だからさ、大人になればそういうこともあるかもしれない。だけど保育園くらい小さければ、そういうこともないでしょ。」

「それが浅知恵って言うんだよ。子供にはもれなく親がついてくるんだよ。子供同士を友達にして、その親がそれを利用するんじゃねぇか!」

なぜ、お父さんがそんなに心配するのか全然わからない。だってお母さんは優紀お姉ちゃんのお父さんとお母さんとも仲良しだし、滋ちゃんのお父さんとも仲良しだもん。

それっていけないことなのかな? 

「確かにそうかもしれないけど、そんなこと言っていたら友達なんて出来ないじゃない。」

「友達なんて小学校に行ってからでも出来るんだよ。保育園なんていいじゃねぇか。だいたい、楸はまだ2歳だぞ、かわいそうだろうが。」

え!? 保育園に行くのはかわいそうな子なの? 楸はかわいそうなの?

「お、お父さん・・・」

「高天だって保育園には行ってねぇだろうが! アイツは幼稚園からだったじゃねぇか。なんで楸だけ保育園に行くんだよ?」

「―――高天はね。だけど榊と椛はNYだけど保育園にも行ったし、幼稚園にも行ったわよ。」

そうなんだ~。だけど高天お兄ちゃんだけ保育園にいっていないの? なぜだろう。

お母さんは腰に手をあてると、椅子から立ち上がってお父さんのそばまで行って・・・上から睨み付けた。

お母さんは背が低いから、お父さんが座っていないと見下ろせないんだよ。楸はお父さんが肩車してくれるから見下ろせるんだけどね。

お母さんはたまに抱っこされているんだけど、肩車は見たことが無いからしてもらえないんだと思う。

お父さんに頼めばいいのに―――。ってそういうことじゃなかった、保育園だよね。

「それにね、高天だって保育園にやるつもりだったんだけど・・・あのときもアンタが反対したのよね。あのときはアンタの気持ちも考えて仕方なく私が折れたのよ。

子供の成長を自分の目でずっと見たいって言ったからね。私も榊や椛のことでは多少の負い目を感じていたし。」

「―――あれは・・・お前が負い目を感じる必要は・・・ねぇ、だろ・・・」

「それでもね、感じるでしょ。私が黙っていたのは事実だし。」

負い目って何? 榊お兄ちゃんとお姉ちゃんに何かあったの??

「でも、楸は保育園にやります。だいたいね、1年後には幼稚園でしょ。1年早いだけじゃない。」

「その1年が大事なんだろうが! それに楸は幼稚園にもやらねぇ!!!」

えっ!? 私は幼稚園にもいけないの? おじいちゃんが『楸ももうすぐ幼稚園だね。制服とバッグはおじいちゃんがプレゼントしよう』って言っていたよ。

「お父さん・・・」

さっきから何度も呼んでいるんだけど、お母さんとの話に熱中しすぎて気がついてくれない。

「アンタ、何言っているの?」

「楸はどこにもやらねぇ。」

お母さんは大きなため息をついた。そして呆れたように頭を振ったの。

「だから楸を保育園に入れるのよ。アンタねぇ・・・楸をどれだけ甘やかせば気が済むのよ?、というか過保護すぎ。それに愛情過多ってもんよ。

仕事の合間をぬっては家に戻って楸の顔を見るでしょ。秘書さんもスケジュール調整が大変なのよ!それに楸が何かしようとすると『お父さんがやってあげようね』って何それって感じだし。

高天のときはそんなことなかったのに、ベタベタデレデレ・・・仕事にまで影響しているし。家族の時間は大事だけど、楸にも我慢も覚えさせないと。」

そうなのよね。私がお菓子を食べたいって思うでしょ、そうすると、勘のいいお父さんがシェフの高見さんに頼んじゃうの。『楸のためにうまいデザートを作ってくれ』って。

おもちゃが欲しいなって思うでしょ、だからおもちゃルームに行こうとするとお父さんが抱っこして連れて行ってくれる。

で、お父さんと一緒におままごとするんだよね・・・これって変なの?

「アンタがさっき言ったでしょ。この屋敷には楸の面倒を見る人は大勢いるのよ。アンタが仕事を途中でやめて帰ってこなくてもね。

榊や椛、高天だって学校が終われば遊んでやれるしね。高天のときと同じようにできないの?」

「―――高天は男だ。楸は女だろうが。」

「・・・だから?」

「だから楸は俺のそばにいればいいんじゃねぇか。・・・あ?もしかして、お前、娘に嫉妬してんじゃねぇだろうな。俺が一番愛しているのはお前だぞ。心配すんな。」

「誰も心配していないから。それに娘に嫉妬することほど不毛なものはないでしょうが。実の娘なんだから。」

「じゃあ、何だよ。何が悪いってんだ?楸が可愛いからずっと顔を見ていたいんだろうが。そうだ! 仕事に楸を連れて行こう。それで解決だ。」

お父さんについていくの?それもおもしろそう・・・保育園に行くのとどっちが楽しいかなぁ。

「何が解決よ!!! ふざけんなっ!」

「て、てめぇ・・・自分の夫に向かって、ふざけんなとは何だ。」

「まさしく、ふざけんなでしょうがっ!」

「よそにやるよりいいじゃねぇか。保育園になんてやって悪いムシがついたらどうするんだ。」

悪いムシってどんなムシだろう。蟻みたいに小さいのかな・・・保育園には悪い虫がいっぱいいるのかな?
そんなところなら行きたくないなぁ・・・

「・・・楸はまだ2歳だけど?」

「2歳だろうと、保育園には男もいるだろうが。」

「―――」

お母さんはなぜか無言になっちゃった。男の子もいるんだろうなぁ。それがいけないの?







「親父」

今まで黙々と朝ごはんを食べていた榊お兄ちゃんがお父さんを呼んでいた。声の大きさの問題なのか、お父さんはすぐにお兄ちゃんの方を向いた。

「なんだよっ!」

「俺ってもうじき18歳なわけよ。」

「だから何だ!?」

「俺って双子じゃん、ってことは椛も18歳になるわけだ。」

「・・・そうだな。だからなんだ。」

お父さんはすっごくイライラしている。私にもお兄ちゃんの言いたいことが全然わからない。

「この家には2歳児よりも心配すべき人間がいるんじゃねぇの? それとも椛のことはどうでもいいってか?」

「―――」

「榊、私は品行方正よ。お父さんの心配なんてム・ヨ・ウってもんよ。祥吾くん一筋だもん。」

あ、お父さんの顔色が変わった。

「も、椛・・・てめぇ祥吾と・・・」

「ああ、心配しないで。今は祥吾くんにアピール中だから。結構、鈍感なヤツなのよね。」

「だな。椛は露骨に好きだって言っているようなもんだけどな。気がついていないのってアイツだけじゃねぇのか?」

「かもね。でもそこが楽しくない?」

「お前も絶対に振り向かせるって張り切っているからなぁ。祥吾に近づく女には片っ端から牽制しまくりだし?」

「そりゃ、他の女に横から獲られたら最悪じゃない。」

お兄ちゃんたちは完全にお父さんを無視して祥吾くんの話に花を咲かせている。それを聞いているお父さんはどんどん青くなっているんだけど・・・

「まあな、だけど英徳には祥吾を好きになる奴いるかな? 先の見えないヤツばかりだからな。」

「女なんて英徳だけじゃないでしょ。私生活にだっていっぱいいるし、英徳にもさぁ、貧乏人ってバカにしながら興味を持っている女っているのよね。」

「へぇ・・・そうなのか? じゃ、ライバル多いじゃん。祥吾って俺よりは落ちるけどかっこいいからな。」

「榊よりかっこいいでしょ。」

「お前ら・・・いい加減にしろっ!!! 椛、祥吾と付き合うなんて俺は許さねぇぞ!」

―――私の保育園話はどうなったの?

「だから、付き合ってないから。今、振り向いてもらうために努力中。」

「俺の娘の美しさに気がつかないようなヤツに努力する必要はねぇ!!!」

―――だから、私の保育園はどうなったの? お母さんは何も言わず、また椅子に座って食後のコーヒーを優雅に飲んでいる。

「な、親父? 2歳児の楸よりも椛だろ? 椛はあと2年ちょっとで成人な訳だ。つまり親の承諾なんか必要なく結婚なんてできちゃうわけだし。

それにもう17歳ってことは、親が許せば法律的には結婚も可能がお年頃。事実、見合い話もきているんだろ?」

もうお父さんの頭の中には、私の保育園のことなんてない。どうでもいいみたい。

「さ、榊・・・てめぇ!!!」

「事実だろ。」

「―――司、楸は保育園に入れるからね。」

「勝手にしろ!!! 今はそれどころじゃねぇ!!!」

お父さんが叫んだ瞬間、お母さんはシテヤッタリな顔。お兄ちゃんとおねえちゃんは呆れ顔だった。







勝手にしろってひどくない? 私が保育園に行くかどうかってさっきまで言い合いしていたくせに。

「そう? じゃ決まりね。私が手続きしておくから。運がよければ1週間後には保育園よ、楸、良かったわね。いっぱいお友達つくりなさい。」

お母さんはそう言って。私にニッコリと笑った。お友達・・・できるかな? 悪い虫いっぱいなのかな?

でも、ここでお父さんが何かにハッとしたみたい。

「つくし・・・今のは無しだっ!」

「男のくせに前言撤回? 最低。」

「なっ!!! 俺を嵌めやがっただろうが!」

「何もしてないじゃない、だいたい、最初から保育園に行くか行かないかを話しあっていたんじゃないの。だから私は自分の主張をもう一度言っただけでしょ。」

「く・・・くっそぉ」

「親父も単純だよな。それに楸を保育園にやるくらいで文句言うなよ。幼稚園と違いはねぇし、親父が暇な時は送り迎えしたほうがいいだろ。

保育園に行った方が適度に運動できるし、楸にとっても良い事だと思うけどね。」

お兄ちゃんはそう言うとなぜかチラリと私を見た。何?保育園に行くのはいいことなんだ~。

「あ?いいこと?」

「だって、ここにいるとみんなが甘やかすだろ。食いもんは欲しがるだけ与え放題だし、末っ子でみんなに可愛がられているからな・・・」

「楸は本当に可愛いんだから仕方ないだろう。」

だよね。楸は可愛いもん。

「可愛いけど・・・このままじゃ可愛いなんて言ってられなくなるぞ。」

「あ?」

「楸、最近・・・デカくなったよな。―――横に」

「――――大人になっただけだもんっ!!!」

これにはさすがに大声で反論。だって私は天才だから意味がわかるんだもん。―――太ったっていいたいんだよね?

「楸・・・この間、風邪気味だったから病院に行ったのよね。そしたら言われたわけよ、2歳児にしては大きいって。つまり太っているってことよ。

このまま屋敷で、みんなから甘やかし放題されてたらポッチャリして可愛いね、ってのを超えて・・・ただの豚になっちゃうでしょうが!

だいたい、夕飯前にケーキを食べさせたり、楸の望むままになんでも与えるアンタのせいでもあるんだからね。楸はこの屋敷から離します!!

というか、アンタが一番の問題なわけよ。わざわざ仕事途中で帰ってきて楸におやつをやるってどういうことよ!?」

お母さんの言葉にお父さんはジッと・・・私を見つめる。

―――私、可愛いよね? 太ってないよ、大人になっただけだもん。 ね、お父さん?

お父さんに向かってニッコリと笑ってみたけど、なぜかな・・・眉間に皺がよっている。

「おい、友達を作るために保育園に行かせるんじゃなかったのかよ・・・それに、子供ってこんなもんじゃねぇの?」

「バカね、一石二鳥って言葉を知らないの?あ・・・知らないわね、アンタは。とにかく! 高天のときを思い出しなさいよ。それか、道明寺の中にも託児施設があったわよね、見に行ってきなさいよ、他の2歳児を!」

お父さんは・・・ちょっと考え込んで言ったの。『仕方ないな』って・・・。

それって私が太っているってことなの!? みんなひどいっ!!

「楸、豚じゃないもん・・・」

「そうよ、豚になる前に誰かが救いの手を差し伸べないとね。お菓子を食べていいのは一日一回なの、楸、アンタ何回食べている?

昨日は朝、食後にプリン食べていたわよね? その後、お昼前にクッキーを1枚食べたでしょ、お昼ご飯を食べた後にアイスを食べたのよね? 

そして3時にはケーキを食べて、その後に司が高見さんにクレープを作らせたらしいわね。そして夕飯後にゼリーを食べたでしょ! お母さんはちゃんと知っているんだからね。

はっきり言って食べすぎです! これから朝はデザート無しです、お兄ちゃんたちも食べてないでしょ。保育園でおやつが出るから、それでお菓子は終わりです!!」

ガガンッ!!

「じゃ、楸はご飯いらない・・・お菓子食べるから。」

「ダメです! ご飯はご飯! お菓子じゃ栄養はとれません!!!!」

お母さんに怒鳴られてしまった。大好きなケーキとアイス、どちらかしか食べられないの?

涙がでそう―――。保育園なんて行きたくないかも・・・。

「泣いてもダメ! 保育園に行って、お友達と遊びなさい。保育園に行けば、お友達ができるからね。」

お父さん・・・助けて。そう思ってお父さんを見たら・・・お父さんは横を向いていて楸を見てくれない。

「お父さん・・・」

呼ぶと、お父さんは悲しそうな顔で私を見て・・・抱きしめてくれたの。

だけど―――!!

「楸、お父さんも寂しいけど我慢する、お前も少しだけ我慢しろ、な?保育園が終わる時間になったらお父さんがすぐに迎えに行くからな。」

ええっ!!! 何、それ!?





そうして、私は不本意ながら保育園に通うことになった。

どうしてよっ!? 

太ってないもん、大人になっただけだもん・・・・!!!


FIN






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