颯HAYATE★我儘のべる

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楸:友達から始めよう



こんにちは、道明寺楸です。7歳になりました。

今日は椛お姉ちゃんの結婚式です。綺麗なドレスを着て、お姉ちゃんはまるでお姫様です。祥吾くんもとってもかっこいい!

楸も結婚したいなって思いました。祥吾くんみたいなカッコいい男の子と結婚したいなって。

でも、祥吾くんはお姉ちゃんのものだし・・・見渡しても他にカッコいい男の子はいません。

楸はキョロキョロと辺りを見渡した。やっぱり誰もいない。

諦めきれずにもう一度キョロキョロと見ていると、一人だけ同じくらいの歳の男の子が目に入った。

あ、あの子は楸と同じくらいだ。王子様っぽくないけど、お友達にはなれそうだなぁ――

楸はその男の子に近づいてみた。男の子は新品のスーツを着ていた。黒の半ズボンに白いシャツ、その上に黒のジャケットを羽織り、黒い蝶ネクタイまでしている。

白い靴下に黒い光った靴。完全に黒と白でコーディネートされた姿に、なぜかポケットから見える赤い布。

あれ、なんだろう・・・? 楸は首を傾げながら、近づいて赤い布を凝視した。

「あ、ハンカチか。」

思わず声に出して言ってしまうと、その男の子は驚いたように楸を振り返った。

眉をひそめ、楸を見る姿は相手を警戒する獣のようだった。

「―――誰?」

「道明寺楸です。」

そう言って、兄弟や両親の見様見真似で深々と頭を下げる。

しばらく待ってみたが、相手が名乗る気配がない。楸はちょっとムッとしてその男の子を睨みつけた。

「私が名乗ったら自分も名乗るんだよ! それが礼儀っていうんだよ、お母さんが言っていたもん!」

「―――野見山蓮登(のみやまれんと)」

男の子は仏頂面のまま名乗った。

「野見山?祥吾くんとおんなじだね。」

男の子は何も答えず、楸を凝視していた。いや、睨み付けていた。

「蓮登くんは何歳? 楸は7歳だよ。」

「お前には教えない。」

「なんで?」

「祥吾兄ちゃんを盗った奴の仲間だから。」

―――盗った?祥吾くんは人間だから盗んだりできないよ?

「祥吾兄ちゃんは僕の兄ちゃんだったんだぞ」

「祥吾くんの弟なの?」

「違うけど、僕のお兄ちゃんだ。泥棒のくせに僕にしゃべりかけるな。」

泥棒!? 楸は泥棒じゃない・・・この子、ムカつく。

「楸、泥棒じゃないもん!!!」

楸はパーティ会場で大声を出した。周囲がびっくりしたように注目するが、そんなことは関係ない。

「泥棒だ!」

「違う!」

楸は持っていた可愛いバッグを振り回し、蓮登を叩きつけた。

「痛いっ! 何するんだ! 泥棒を泥棒と言って何が悪い。泥棒!!」

蓮登も負けじと拳を振り上げる。






「蓮登!!!」

大声で祥吾が呼ぶ。それにビクリと反応した手が振り上げられた状態で止まった。

「蓮登、何をしているんだ。手を降ろしなさい、どんなことがあっても女の子に手をあげるなんて最低だ。」

二人の喧嘩に驚き、駆け寄った祥吾が蓮登を諭すように優しく声をかける。

「だって・・・だって・・・」

口調は優しいが、叱られた蓮登は大人しく手を降ろして涙声で『だって』を繰り返していた。

「楸、どうして蓮登くんと喧嘩しているの?」

やはり、祥吾とともにやってきた椛が優しく楸に問いかける。

「―――この子が私を泥棒って言った。」

「「泥棒?」」

祥吾と椛が素っ頓狂な声をあげる。二人で顔を見合わせ、蓮登と楸の顔を交互に見ていた。

「蓮登、どういうことだ?」

「だって・・・僕のお兄ちゃんなのに、コイツらが盗った」

その言葉に祥吾と椛は一瞬だけ呆気に取られたが、幼い子供の可愛い独占欲に顔を見合わせて微笑んだ。

つまり、大好きなお兄ちゃんが結婚して、自分のものじゃなくなった気がしたのだ。

何事かと集まっていた招待客も微笑ましい喧嘩に顔を綻ばせ、談笑へと戻っていった。

今、二人の周りにいるのは祥吾と椛、それに榊と高天、司とつくし、蓮登の両親だけになっていた。

「蓮登、祥吾くんは今までと変わりなく、従兄弟のお兄ちゃんよ。それはどちらかが死ぬまで変わらないの。」

蓮登の母親が泣きじゃくる息子を宥めようと諭すのだが、幼い息子には母親の声が届かないらしい。

「蓮登、俺はずっと蓮にとって『お兄ちゃん』だし、いつでも遊びに来ていいんだぞ?ただ、遊びに来る場所が今までと違うだけだ。」

「―――お兄ちゃんは、その人のものになったんでしょ。」

「なってねぇ。祥吾は椛のものじゃないし、椛は絶対に祥吾のものじゃない。俺のものだ。」

大人げなく子供の駄々に口を挟んだのは、この結婚を快く思わない男―――つまり、司。

「お姉ちゃんはお父さんのものなの?祥吾くんはお姉ちゃんのものじゃないの?」

父親の言葉に敏感に反応した楸が、つくしが司を嗜める前に口を挟んでくる。

「そうだ」

「司! いい加減にしないと怒るわよ!」

「お袋、放っておけよ、おもしろいし。」

「榊!!」

道明寺家の面々が言い合いをする中、呆然とその姿を見ているのは蓮登とその両親。いつのまにか蓮登の悲しみはどうでもよくなっているようだ。

祥吾はすでに慣れきっていたが、初めて目の当たりにする世界を牛耳るといわれる道明寺家のトップがあまりにも子供じみた真似をすることに驚きを隠せないようだ。

高天と言えば、肩をすくめて言いあいから離れ、幼馴染の花沢なずなの元へと行ってしまった。

同じく招待客であるF3も司の言動や行動には慣れきっているので、ただ呆れた視線を送っただけで何事もないかのように他の招待客と談笑している。

唖然としているのは野見山家側の招待客だけのようだ。

「みんな、私の大事な日を滅茶苦茶にしないでよね。そんなことしたら、一生恨むわよ。わかってるわね、お父さん?」

「うっ・・・わ、わかっている。だから結婚させているじゃねぇか・・・」

司がそう言うと、椛はため息をついてこれ以上は司を責めなかった。言ったところで無駄なことはわかっている。

ここまで我慢して妥協していることの方が奇跡なのだから、それ以上を望むのは間違っているだろう。

「ねぇ、ねぇ、お父さん、祥吾くんはお姉ちゃんのものじゃないの?」

しつこく聞いてくる楸に司は少し苛立った声で「椛は誰のものでもないし、祥吾もそうだ。」とだけ答えた。

「ふうん・・・」

「まったく・・・蓮登くん、ごめんね、びっくりさせちゃって。」

椛は家族の言動に呆れながら、唖然と道明寺家の面々を見守っている蓮登の方へ向き直った。

「あのね、祥吾は私の旦那様、つまりね・・・蓮登くんのお母さんにとってのお父さん。意味わかるかな、それになったのね。

でも、だからと言って祥吾は私だけのものじゃないのよ。お父さんもお母さんのもの?

違うでしょ。蓮登くんのお父さんはお母さんのものでもあるけど、蓮登くんのものでもあるでしょ。」

椛の言葉に蓮登は小さく頷いた。祥吾はホッとしたように椛に視線を向けた。

「だからね、私の旦那様になっても祥吾は蓮登くんの大事なお兄さんでいいのよ。好きな時に私たちの家に遊びに着なさいね。」

椛がそう言うと、蓮登はまた小さく頷いた。理解したかはわからないが、とにかく納得はしたらしい。

それを見ていた楸は徐に蓮登の前に立ちはだかると・・・

「謝りなさい! 楸は泥棒じゃないでしょ!」

「―――ごめん」

真っ赤に目を腫らしながら、蓮登は素直に謝罪の言葉を口にした。

謝られたことで気が済んだのか、楸はニッコリと蓮登に手を差し出した。

戸惑ったようにその手を見つめる蓮登に楸は苛立ちながら・・・

「謝ったら仲直りの握手をするんだよ。」

そう言って無理やり蓮登の手をとり、握りしめると勢いよく振った。

「う、うん・・・」

「うん!じゃ、楸と蓮登はもうお友達ってことだから。」

「―――そうなの?」

「そうよ!で、蓮登は何歳? 楸、弟が欲しかったんだ!」

何故か勝手に蓮登を年下だと判断した楸は蓮登が口にした年齢に顔を顰めた。

「僕は8歳だから、楸よりもお兄ちゃんだ。」

さっきから蓮登と呼び捨てにされることに、少しだけムッとし、楸と強調して名を呼び、年上であることを明かした。

「「―――」」

二人はムッとして見詰め合い、また喧嘩するのかと周囲をひやひやさせていた。

「楸、7歳と8歳なんて殆ど変わらないじゃない。ほら、高天となずなちゃんだって1歳違いだけど、とっても仲が良いお友達だよ。

楸と蓮登くんも二人みたいに仲良くしなさい。ね?」

「―――うん。でも、弟が欲しかったのに。ま、お友達は弟じゃないから蓮登が8歳でも仕方ないよね。」

訳のわからない理解を示し、楸は機嫌を直した。

「蓮登も仲良くできるよな?」

大好きなお兄ちゃんにそう言われては頷くしかない。

「よし、良い子だ。蓮登、いつでも好きな時に来ていいけど・・・俺にも仕事があるからな。いないときもある。
だから前もって電話をしてくれると嬉しいけど?」

「うん、わかった!」

今まで娘と恋敵?の従兄弟の喧嘩を見ていた司はふと何かを思いついたように笑顔になった。

「そうだな、蓮登、いつでも遊びに行け。いっそのこと、今からでも泊まりに行け。」

ニヤニヤしながら言う司に榊とつくしは大きなため息をついた。

「親父・・・どこまで大人げないんだよ。新婚家庭の邪魔をするなよ、邪魔を。」

「別に蓮登くんが来たいならかまわないけど?」

椛はさして気にもせず、言った。

「でも寝室は別だからね。子供は9時に寝ること!それが守れる?それなら今からでも遊びにおいでよ。」

遠まわしに9時以降は大人の時間だと周囲に言っている。榊は大胆な奴だと思いつつも似たもの同士だとため息をついた。

「―――楸も行く!!祥吾くんがお姉ちゃんのものじゃないなら、楸の王子様になってくれる?楸がお姉ちゃんくらい大きくなったら結婚してくれる?」

楸の言葉に司は固まってしまった。

―――なんだと!?

司の心の怒りの声が道明寺家の面々には聞こえた気がした。

周囲の緊張の中、楸だけがニコニコと祥吾の答えを待っていた。




お姉ちゃんのものじゃないんだから、私のものにしてもいいだよね!?


FIN


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