颯HAYATE★我儘のべる

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楸も成長しました




「お姉ちゃん、サンタクロースはいないって本当?」

突然、歳の離れた妹に聞かれた椛はどう答えたらいいのだろうと迷っていた。

「どうして?」

なぜそう思ったのかが重要だと判断した椛は楸の真剣な目を見ながらたずねた。

「あのね、翔太くんがサンタはいないって!! お父さんとお母さんがプレゼントを持ってくるんだって言うの!」

「そうなの?」

「うん! 本当なの?お姉ちゃん!?」

19歳になってもサンタクロースの存在を信じている者は少ないだろう。椛もその一人だ。

だが幼い妹の夢を壊すこともできず、当たり障りのない答えを言うことしかできなかった。

「うん、お姉ちゃんはサンタさんに会ったことがないけど・・・いると思うよ。」

「そうだよね~」

楸は嬉しそうに微笑んだ。まだ楸は4歳、まだサンタの存在を信じていてもいい年齢だ。いつか自然とその存在を否定するようになるものだし―――。

「楸もね、会ったことない! 翔太くんもそうなんだよ! だからいないって思ったと思うの。」

「そうかもしれないね。」

「だからね、楸・・・サンタさんを捕まえようと思うんだ!」

サンタクロースを捕まえる―――それは子供なら誰でも考えることかもしれない。

「・・・どうやって?」

「あのね、前にお父さんといったホテルはね、部屋に入ったら勝手に鍵がかかって、外からは入れなくなるんだよ。」

つまり、オートロックのことらしい。

「だからね、その鍵を使えばサンタさんが楸の部屋に入ったら出られなくなると思うの!」

オートロックは外部からの侵入者を防ぐのであって、内部にいる人間が出るのは自在なのだが・・・?

椛は名案だと喜ぶ妹を見て、どう言おうかと悩んでいたが・・・その悩みは妹自身が解決してくれた。

「だからね、楸の部屋に入ったら鍵がかかって鍵を持っていないと外に出られなくするんだよ。ホテルとは逆にするの!」

椛は『ああ・・・』と納得したが、4歳児の考えに唖然としたのも事実だった。

「楸は頭がいいね」

そう言って笑って頭を撫でてやると楸は満足したように大きく頷いた。

「でもね、楸・・・そんな鍵、どうやって作るの?」

「大丈夫!もう翔太くんに頼んだから。 翔太くんちは鍵屋さんなんだよ!」

その言葉で椛は翔太という子が最近セキュリティーで名を上げた企業『喜多山SGロック』の喜多山社長の息子らしいことがわかった。

喜多山SGロックが作る鍵は評判がよく、実際道明寺財閥系の企業すべてが喜多山の作るキーを利用している。

「え・・・そうなの?でもさ、楸・・・クリスマスは明日だよ。間に合うかな?」

「大丈夫! 翔太くんがさっき電話で今日鍵を変えてくれるって言ってた!」

「・・・今日!?」

翔太くんは父親に頼んだのだろうが・・・今日の今日で鍵をつけかえられるとは思ってもみなかった。

もしかしたら、向こうとしては道明寺家と親しくなるチャンスと思っているのかもしれない。





数時間後、本当に『喜多山SGロック』がやってきた。

たまたま家にいた椛とその兄、榊が応対した可愛い客は喜多山翔太くん4歳。その後ろに立っているのが喜多山社長だろう。

「申し訳ありません! うちの翔太がそちらの楸ちゃんと何か約束をしたみたいで・・・」

「ああ、聞いています。あいにく両親は外出していまして・・・」

「はあ、申し訳ありません。なんでも翔太が楸ちゃんと約束したから守らないといけないと言い張って・・・」

父親としても社長としても困ったことだったのだろう。でも息子のために一緒に謝ろうと訪ねてきたようだ。

「―――いえ、楸も無理な注文を・・・申し訳ありません。こちらで言い聞かせますから。」

榊がそう言うと、喜多山社長は頭を振った。

「いえいえ、注文じたいは大したことではないんですよ。簡単なんですが、なにぶん子供の口約束ですから。」

そういうことか―――道明寺財閥ではなく、道明寺家とのつながりを持つ良い機会だが、子供同士の口約束で実行すれば怒りを買うかもしれない。だから確認に来たということだろう。

榊は椛と顔を見合わせ、微笑んだ。簡単にできると言うのだから楸の要望を受け入れて鍵を付け替えてもらっても問題はないだろう。

喜多山は優良企業だし、楸は翔太くんとは仲が良いようだ。それなら親同士が仲良くしても問題はない。

そう判断した二人は両親に相談することなく、鍵の付け替えを依頼した。

「・・・ご両親に相談しなくていいんですか?」

「大丈夫です。鍵くらいで怒るような両親じゃありませんし、支払いの件なら、俺と椛で支払いますから。」

「え?」

喜多山社長は驚いた声を上げたが、楸の部屋一つの鍵が何千万、何億とするわけではないだろう。

「・・・え? もしかして、すっごく高いんですか?いくらくらいするもんでしょうか?」

「あ、あの・・・扉から変えますので・・・工事費用等合わせますと100万近くにはなりますが。」

「一人50万か・・・大丈夫ですよ。それくらいなら俺たちの貯金で支払えますし、払えない金額でも両親が払います。」

19歳の子供が相手なので喜多山社長も信用していいものか悩んでいるのだろう。

道明寺の名前につられて簡単に仕事を請けないところは―――さすがだ。

「信用できないのも無理はありません。自分達はまだ大学生ですが・・・実はもう働いてもいます。だから給料も入りますし大丈夫です。」

そう言って榊と椛は一緒に名刺を差し出した。そこには道明寺で修行をしている榊と鷹野家で修行している椛の名前があった。

普通なら名刺だけで信用することはないだろう、だがここは道明寺の名前と自分たちが間違いなく道明寺司の子供であることが信用を得る材料になった。

「わかりました。では楸ちゃんの部屋の鍵を付け替えますが・・・あの、いいんですか?サンタを捕まえるって聞いたんですが・・・?」

そこまで心配してくれるとは榊も椛も笑うしかなかった。当然サンタは存在しないし、もしも父親である司が部屋に閉じ込められたら楸の夢も壊れる。

「大丈夫ですよ。親父には事情を説明しますし、対策は練りますから。」

榊が請け負うと喜多山社長は安心したように頷き、早速仕事にかかると張り切っていた。

「え、社長みずから?」

「今では会社も大きくなりましたが、出だしは小さな町工場ですよ。親父に言われ続けました、社長が動かないと社員はついてこない。

社の製品を知らない社長など会社の害にしかならないとね。だから現場に出ることは殆どありませんが一応、我が社の全ての製品を取り付け、取り外しができますよ。」

榊と椛は喜多山社長の考えに共感した。お飾りの社長は害になる―――珍しい理論だ。お飾り社長は多い。お飾りはお飾りで害にも毒にもならないと思っていた。

社員が素晴らしければ、会社は成り立つとも思っていた部分がある。

それが害になるという。だがよく考えればそうだろう、いずれお飾りの社長は社に損失を与えることになるだろう。

お飾り社長が社長として発した言葉は当然、会社全体にのしかかってくるのだから。

二人は顔を見合わせ、お互いに喜多山社長を気に入ったことを感じた。





工事は喜多山社長の言うとおり、3時間程度の簡単なものだった。

楸は工事を終えたドアを見つめ、満足そうに頷いている。まだ幼いというのに、なんだか偉そうな態度だ。
確実に父親の血だと思う。

「これでサンタさんを捕まえて、翔太くんに会わせれば・・・翔太くんもサンタさんがいるってわかるよね!」

「そうだね。」

椛は笑顔で頷いた。

「楸、それで・・・お前はどうするんだ?」

「お部屋でサンタさんを待つんだよ?なんで?」

「お前も部屋から出られないだろ~が、出たくなったらどうするんだ?」

「・・・楸は鍵があるもん」

「確かに鍵はあるな・・・。じゃ、ためしに部屋に入ってみろ、鍵を使って出ておいで。俺たちは外にいるから。」

「いいよ!!」

楸はピカピカの鍵、初めて持つ鍵をしっかりと握り閉めて自分の部屋に入った。こちらからは簡単に開く。

だが部屋の中からは鍵がないと出られないはずだ。楸はその鍵を持っている。

しばらく部屋の前で椛と二人で待っているが―――楸が出てくる気配はない。

「榊、楸は何をしているんだろうね。」

「―――出られないんだろ。泣いているかもしれないな。」

「え?楸、鍵の使い方がわからないの?」

「違うだろ。」

榊の言葉に椛はしばらく考えていたが・・・アッと声を上げると笑い出してしまった。

「そうか、楸も子供にしては頭いいと思ったけど・・・。鍵に手が届かないんだ!」

「そういうことだ。楸はまだ4歳だし、どちらかと言えば小さい方だろ。ここまで手が届いても鍵を差し込むことができないのさ。」

「そうか。じゃ、開けてあげましょうか。」

「そうだな。」

榊はそう言うと楸の部屋のドアを開けた。開けた瞬間、楸が転げ出てくる。

鍵が差し込めず、泣きながらドアを叩いていたようだが重厚なドアはその音を外部に洩らさない。

「うわぁぁぁぁぁん!!!」

部屋の外に出た途端、椛に抱きつき大泣きしている。椛が懸命になだめているが、部屋から出られない恐怖はそうとうのものだったらしい。

別に暗くもないし、こちらからは自由に入れることを考えれば、しばらくすれば誰かが部屋に入るだろうが幼い楸は鍵を入れられないことでパニックになってしまったようだ。

「大丈夫よ、楸。」

椛が頭を撫でながら優しくそう言うと、楸は―――

「翔太くんちに電話して!! ドアを取替えさせて!!」

「お前の希望通りのドアだろうが! わがまま言うんじゃない。」

「だってぇ・・・開かないんだもん!」

「部屋からは開かないドアがお前の望みだっただろうが。」

はっきり言って楸の部屋は子供部屋だ。今までのは押せばどちらへも開くような簡単がドアだった。

楸でも簡単に出入りができるようにと4歳になったときに母親が付け替えたのだ。

「ホテルでこういうドアを見たんだろ? お前、どうやって部屋に入っていた?」

「―――お父さんが抱っこして鍵を開けさせてくれた」

「だろうが。そこまで考えなかったお前が悪い!」

「・・・榊、楸はまだ4歳なんだからさ、わかるわけないじゃん。」

見かねた椛が助け舟をだすが、榊は頭を振った。

「それはわかっている。だけど注文どおりの商品を納めたのに自分の身長が足りずに鍵やノブに届かないから付け替えろって言うのはダメだろ?」

「あ・・・それはそうね。ただのクレーマーだわ。」

「そういうこと。そこのところはいくら子供でもしっかり教えとくべきじゃね?」

教えると言っても4歳児。わかるとは思えないし、これからシッカリと覚えていくことでもあるのだが・・・簡単に自分の言い分が通ると思わせるのも問題だ。

ただでなくても楸は両親や兄弟に甘やかされている。ここは自分の思い通りにならないこともあると教えるべきかもしれない。





榊と椛がまたお金を出し、ドアを元に戻すのは簡単だった。だが二人はあえてそのままにし、両親の帰宅を待った。

楸はガックリと肩を落とし、自分の部屋に入らずリビングで椛の隣に座り、グズグズと何かを訴えていた。

「おい! お父様のお戻りだぞ!!」

大きな声で戻ったのは当然、道明寺家当主である道明寺司だ。

揃ってパーティーに出席していた両親は・・・いや、父親だけだが・・・上機嫌だった。

「おう!元気だったか、愚息よ!!!」

「―――誰が愚息だよ。」

司の後ろから対照的に静かにつくしが入ってくる。

「司、もう夜なんだから・・・うるさいわよ!楸が起きるでしょ・・・」

そう言いながら部屋を見渡し、つくしは目を細めた。今、起きるといった楸がそこに座って泣いていた。

「楸?どうしてまだ寝ていないの? 何を泣いているの?」

「何!? 楸!!!!どうしたんだ!!!保育園でイジメられたのか!?」

つくしの言葉に司が大慌てで楸の元へ駆け寄り、楸を抱き寄せた。

「お父さんに言ってみろ。お前をイジメた奴を破滅させてやるからな。」

おいおい・・・破滅ってなんだよ! 榊は突っ込みたい気持ちを抑え、経緯を両親に説明した。





「何!そんなことなのか!? じゃあ、さっさとドアを元に戻してやれ!」

話を聞いた司は即座に長男に命じた。

いやいや・・・親としてそれでいいのか? 榊はそう思いながら、母親の様子を窺った。

「司、何を言っているの? こんな夜中に喜多山さんを呼び出して、ドアを付け替えろというつもりなの?」

「・・・いや、明日でも・・・」

つくしに睨まれた司は前言を翻し、弱弱しく言い直した。

「そういう問題じゃないでしょ。」

司を一喝するとつくしはグズグズと泣いている末っ子に向き直った。

「楸、お兄ちゃんたちはアンタの望みを叶えてくれたのよね? 翔太くんと翔太くんのお父さんもそうよね?」

つくしがそう問うと、楸は素直に頷いた。

「そうね、みんな楸の言うとおりにしてくれたのよね? それなのになぜ泣いているの?」

「ドアがね、開かないの。鍵に手が届かないの。楸もお外に出られないの。」

楸は必死で母親に訴えているが、つくしはただ微笑んで聞いているだけだった。

「そう、それは大変ね。でも楸が望んだことでしょう? すこし大変でも我慢するしかないわね。」

「―――楸がお外に出たいときはどうしたらいいの?」

「サンタを捕まえるためにドアを付け替えることを考えついたんでしょう? そのドアから出る方法も自分で考えなさい。

それまでは以前に使っていたブザーで誰かを呼んで開けてもらうしかないわね。でもみんなをお仕事があるわ、だからすぐに来られないかもしれない。

だから誰かが開けてくれるまで我慢して待つしかないわね。これは楸がしたことなんだから、その責任も持たなくてハダメよ。いいわね。」

すぐに元に戻ると思っていた楸はビックリした顔で母親を眺めていたが、母親が懐柔できないとわかるとその可愛い視線を父親へと向けた。

しかし父親はゆっくりと視線をそらせた。道明寺司が妻であるつくしに逆らえるはずもなく、楸の味方になることはできない。

「楸、誰もドアを元に戻してくれる人はいません!!」

母親は幼いわが子を一喝した。4歳児のやることに厳しい措置かもしれないが、何度もドアを付け替えるなど不経済だし、教育にも悪い。

当然の結果と言えば当然の結果なのだが。楸は更に泣きじゃくり始めた。

「楸、泣きやんでもう寝なさい。それから・・・お母さんがサンタさんの居場所を教えてあげます!」

俺も椛も何を言い出すのだと、驚いて母親の顔を見た。しかしつくしはニッコリと笑って・・・

「サンタクロースは普段はトンムテランドにいるのよ!!サンタは世界中の子供にプレゼントを渡しに大忙しなのに、そのサンタの邪魔をするなんて悪い子よ。

そんなことをしたら二度とサンタさんは来なくなるわよ、楸。だから翔太くんと二人でサンタさんにお手紙を書きなさい。お母さんがトンムテランドに送ってあげます。」

俺と椛は顔を見合わせて―――思い出した。俺たちも小さい頃にサンタに会いたいと言った覚えがある。

そのときに鷹野の叔父・・・颯介が言ったのだ。サンタはトンムテランドにいると。

トンムテランド。確かにサンタはそこにいる・・・ことになっている。手紙を書くと返事まで来るのだから。

「・・・ほんと?」

しゃくりあげながらも楸は必死に問いただす。幼いながらも信じられない思いがあるらしい。

「本当です! サンタさんはお返事をくれるから、お母さんの言うことが間違いじゃないとわかるはずよ。」

「じゃ、楸・・・お手紙、書く、から、お母さん、送ってくれ、る?」

「もちろん! 楸のも翔太くんのもきちんとトンムテランドに届くようにするから大丈夫よ。さ、早く寝なさい。」

つくしは楸を促し、あの扉を付け替えた部屋へと連れて行った。

楸は大人しくベッドに入り、寝たようだ。いつもの就寝時間はとうに過ぎている。





数日後、つくしは楸と翔太から預かった手紙をトンムテランドへと送った―――。

返事は随分たってからだが・・・間違いなくやってきた。すでに季節は夏になろうとしていた。

「楸、サンタさんから手紙が届いたわよ。」

みんなが珍しく揃った場で告げられた楸は一瞬、キョトンとした顔でわけがわからないようだった。

つまり・・・半年近く前の話なので忘れているのだ。子供なんてそんなものだろう。

椛がクリスマスの時の話をするとやっと思い出したようだった。

「サンタさん遅い!!」

自分も忘れていたくせに楸はサンタに悪態をついている。

「楸、サンタさんは一人でたくさんの子供にお手紙を書いているのよ。遅くなるのは仕方がないわ。」

「え・・・サンタさんにお手紙を書く子はいっぱいいるの?」

「そうよ、楸だってその一人でしょ。サンタさんがいないと思っている子もいるけど、いるって信じている子は誰かに教えてもらってお手紙を書くのよ。」

「ふう~ん・・・お手紙、読んでいい?」

「もちろんよ、楸に届いたお手紙だからね。」

つくしはエアメールを楸に手渡した。

忘れていたにも関わらず、ドキドキと嬉しそうに楸は封筒を破り、手紙を取り出して―――顔をしかめた。

「サンタさんは宇宙人なの?」

楸の言葉にみんなが顔を見合わせた。司が楸から手紙を受け取ると、それは英語で書かれていた。

トンムテランドにいるサンタが何人かは知らないが、少なくとも万国共通語である英語の読み書きはできるようだ。

ついでに通訳がいるのは間違いないし、はっきり言ってトンムテランドで働く人間は世界各国、どの国の言葉も理解できるようだ。

楸は日本語で手紙を書き、そしてそれを英語で返事をよこすのだから・・・。どうせなら日本語で返事をくれればいいものを。

まあ、サンタは謎の人でもあるので英語圏の人間には他国語で返事を書くのかもしれないが。

「英語じゃねぇか! 楸、俺が読んでやるから泣くな!」

司が偉そうに手紙を広げて胸を張って読み出した。




手紙の内容は当たり障りのないものだった。楸の質問とそれに来年またクリスマスにという挨拶。

それでも楸は大喜びだった。

「翔太くんに電話していい?」

「いいわよ。でももう夜だから、長くはダメよ?」

「うん!!」

大きく返事をすると楸は電話に突進していった。携帯を持たない楸は親父の書斎にある電話か、両親の部屋にある電話、もしくは廊下の脇にある電話を使うしかない。





「しばらくはサンタの存在を信じていそうね。」

椛がそう言うと、つくしは満面の笑みで答えた。

「まだ4歳だもの。じきに自分で気がつくわよ。無理に教える必要もないでしょ。」

「まあな。俺たちも結構長く信じていたよな。颯介おじさんのおかげで。」

「そうね。私もトンムテランドなんてそれまで知らなかったけど・・・」

「サンタから返事が来たときは私たちも興奮したわよね、榊!」

「そうだな。」

そう言えば、サンタからの手紙を読み上げてから・・・声を発しない奴がいる。

「おい、つくし・・・」

それまで存在を忘れてられていた司が愛する妻を呼んだ。

「なに?」

「―――サンタって本当にいるのか!?」

「「「・・・は?」」」

俺たちは3人とも固まってしまった。信じるのは楸だけでいいのだが・・・なぜかいい大人である司まで信じてしまった。

―――単純

「マジにいたのか・・・あのデブった親父は。」

「「「・・・・・」」」

「いつも変わらない姿だが、親子で代々サンタクロースなんだな! いや、あのヒゲのせいで顔が見えないからわからないだけか!?」

「―――かもね・・・」

「そうか!! サンタはいたのか!! 俺は信じてなかったんだが・・・まさか本当にいるとはな。今度は楸をつれてトンムテランドに行くぞ!」

司はそう言って楸に元へと走っていった。





「いいのか?お袋・・・トンムテランドに行くって言ってるぜ?」

「大丈夫よ。あそこは子供たちのためにサンタの扮装をした人が一年中いるそうよ。だから大丈夫よ。」

つまり、トンムテランドはすでに観光地と言うわけだ―――。

それなら楸の夢は壊れないだろう。

―――親父の夢も。

榊と椛は顔を見合わせ、大きくため息をついた。

「アンタたち、今さらでしょ。この家で一番の子供は昔から司じゃないの!」

長年付き合ってきた妻は夫を4歳児以下だとあっけなく肯定した。


END


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