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颯HAYATE★我儘のべる
明けない夜はないから 15
牧野が来る。俺は鷹野の社長室でひとり緊張していた。
もうすぐ牧野に会える。5年ぶりの牧野・・・それに俺の子供たち。
社長室のドアが小さくノックされた。俺はその音に硬直した。
ドアがゆっくりと恐る恐るあけられた。牧野・・・
ドアの影から現れた顔は紛れもなく、俺が愛した女だった。
「ど、どうみょうじ・・・?」
小さくかすれた彼女の声。5年ぶりに聞く愛する女の声に俺は震えた。
彼女の両手は小さな子供たちにつながれている。この子たちが俺の子なんだと喜びに胸が高鳴った。
「牧野・・・」
俺は立ち上がり、牧野の元へ踏み出した。彼女が固くなるのがわかる。
俺は目の前にくるといきなり抱きしめた。
そうすべきではなかったかもしれないが、彼女の姿を見たとたんに我慢できなくなった。・・・この手に牧野を抱きたい。
それは俺がこの5年間、切望していたことだった。
「道明寺」
彼女は泣いていた。泣くな!泣かないでくれ・・・俺はお前の笑顔が見たい。
「牧野、すまなかった・・・俺は償い切れない罪を犯した」
「ううん、最初は・・・恨んだし、憎んだけど、あのことは仕方のないことだったんだよ。
そしてたぶん・・・私たちに必要なことだったのかもしれない。」
あれが必要なこと?俺はそうは思わなかったが何も言わなかった。
「お母さん?」
子供たちが母親の涙に動揺し、俺を睨みつけていた。
「ああ、榊、椛・・・ごめんね。大丈夫だよ。この人は・・・その、お父さん、だよ・・・」
お父さん!初めて呼ばれたその言葉に俺はとまどった。でも、子供たちに父親として紹介してくれたことに喜びがこみ上げた。
「お父さん?」
「そう、あんたたちのお父さん。・・・えっとね、お父さんがやっと帰ってきてくれたから嬉しくて泣いているの」
その言葉が本当なのか俺は知りたかった。だが、たぶん子供たちを落ち着かせるために言ったのだろう。
俺はそう判断し、子供たちにあわせ、かがんで挨拶した。
「やあ」
俺はいろんなことを話したかったが、そんな言葉しかでてこなかった。
「・・・お父さん?」
「ああ」
何をやっているんだ!?なぜ、そんな言葉しか出てこない!?
「ほんとうにお父さん?」
「ああ」
双子は母親を見上げた。彼女が小さくうなずくと俺に向かってにっこりと笑った。
「「おかえりなさい」」
そう言って、ふたりとも俺に抱きついてきた。俺はとまどってどうしていいのかわからなかった。
「抱きしめてくれればいいよ」
牧野の声に従って、おずおずと子供たちの背に腕をまわして抱きしめた。
素直に、単純に父親として受け入れてくれた双子に俺はまた涙した。
俺はこんなに涙もろい男だったか・・・?
「お父さんはどーみょーじって言うんでしょ?」
俺は驚いた。彼女が俺のことを教えてくれていたとは思ってもいなかった。
「ああ」
「・・・やっぱり、そうなんだ・・・」
娘の声はひどく落胆していた。何がいけないのだろう、不安が胸にこみ上げてくる。
「どーみょーじなんて名前は変だから、絶対うそだと思ってたのに」
「変か?」
「変だよ」
今度は榊が言った。俺はとまどった。そんなに変な名だろうか?
「鷹野どーみょーじって変」
俺はコケそうになった。牧野は思わず噴出して、そのまま大笑いしている。
「あ、あんたの・・・あんたの話をするときに、私が道明寺って言うから・・・」
そういうことか、それで父親の名前は鷹野道明寺だと思い込んだわけだ。そんな名前は俺も嫌だ。
「俺は道明寺司、つかさって言うんだよ」
「「鷹野じゃないの?」」
周りの子供たちはみんな父親と同じ苗字だから、自分たちも当然そうだと思ったのだ。
だから、父親は鷹野道明寺・・・。
子供らしい考え方に俺は微笑んだ。でも、この問題にどう対処したらいいのかわからない。
本来、子供の名前は道明寺榊と道明寺椛であるべきだったのに・・・。
「二人とも、よく考えて。チャーリーとニックはどう?お父さんと名前違ったでしょ?そういうこともあるのよ」
チャーリーとニック? よくわからないが、牧野の説明で二人は納得したようだ。俺は無言で彼女に問いかけた。
「シャーロットとニコラスという名前のNYでのお友達よ。この二人は両親は揃っているけど、結婚はしていないのよ。
アメリカはそういうところが進んでいるからね。結婚に縛られないっていうか・・・」
確かにアメリカなら私生児でも問題ない。私生児という概念すらないかもしれない。
だが、日本となると話は違う。日本は窮屈な国だ、日本で暮らしていけば・・・双子はきっと私生児として見られる。
俺の子が私生児?そんなことはありえねぇ!
「じゃあ、本当にお父さんなんだよね?僕らのお父さんなんだよね?」
榊が満面の笑みで俺に語りかけた。俺は言葉がでてこなくて、大きくうなずいた。
「お父さん、お仕事終わったの?」
椛がやっぱり笑顔で俺に聞いてきた。お仕事?ああ、そういえば颯介さんが言っていた気がする。
俺はずっと仕事で留守をしていることになっていると。俺はありがたくその嘘を利用させてもらった。
「ああ、もう終わった。これからはお前たちのそばから離れない」
双子は俺の言葉に大喜びだったが、牧野は・・・彼女は顔をしかめて立っていた。
俺に発言権はない。だが存在を知った以上は双子の成長にかかわって生きたい。
それを牧野に許してもらわなければならない。
「牧野・・・」
彼女は今にも泣き出しそうな顔だ。さっきは笑ってくれたのに・・・。
俺がそんな顔をさせていると思うとたまらない。
「俺は双子を私生児にはしたくないんだ・・・」
俺は双子には聞こえないように小さな声で言った。たぶんまだ意味はわからないだろう。
だが、そんな言葉をこの子たちに聞かせたくなかった。
「この子たちは・・・私生児じゃないわ。少なくとも日本では何も言われない。
私はともかく、双子はアメリカ人なの。日本名だけど日本国籍はもっていないの。」
やはり彼女が小声で言った言葉に、俺は愕然とした。
俺と牧野の子が日本人ではない!?日本人の子がアメリカ人・・・
ショックだった。俺の子が俺とは国籍が違う。俺は何者でもないと言われている気がした。
いや、少なくとも俺が父親だと彼女は教えてくれている。俺はこの子たちの父親だ。
「ね、榊、椛・・・ちょっと颯パパのところに行っててくれる?すぐ下だから二人で行けるよね?
すぐにお母さんも行くからね、お願い。」
牧野は双子に席をはずすように言っている。
双子はしばらく彼女と俺の顔を交互に見比べて、うなずいてから手をつないで部屋をでていった。
ドアから出る前に俺の方を振り向いて「絶対にもうどこにも行かないでね」と言い残して。
俺が閉まりかかっているドアに向かって大声で「ああ」と答えると安心したような笑みがチラッと見えた気がした。
「道明寺・・・あの子たちに簡単に約束しないでほしいの。」
俺は彼女の小さな怒りにとまどった。約束を破るつもりはない、俺はできる限り双子のそばにいる。
牧野さえ了解してくれれば・・・
「俺はお前さえ許してくれるなら、双子のそばにいたい」
「それはできないでしょう!?道明寺には奥さんがいる、あんたに子供がいるなんていい気しないでしょ!?」
牧野の目に涙が光った。俺は我慢できなくなって彼女を抱きしめた。泣くな!!
「泣かないでくれ・・・」
「本当はあんたに会わせるべきが凄く悩んだの。会わせずに死んだことにしようかとも思った。
だけど、これ以上あの子たちに嘘はつけない。ましてや道明寺が死んだなんて・・・。
いつか帰ってくるって言った手前、会わせないわけには行かないよね。
私だって嘘はつきたくない。これ以上はあの子たちを騙したくないの。
だから、道明寺・・・あんたも守れない約束はしないでほしい。」
「牧野、俺は約束は守る。昔、お前とした約束は守れなかった、だけどこのことだけは信じてくれないか?
それに、俺はいま離婚手続きをしている。あの女とは別れる、いま弁護士を話している・・・」
牧野は驚いた目で俺を見上げている。俺は彼女が理解できるように繰り返した。
「俺は離婚する。もともとあの女のわがままからはじまった愛のない結婚だ、あの女だって俺を愛しているわけじゃない。
本当はもっと早く離婚すべきだったんだ。いや、本当は結婚なんてするべきじゃなかった。
牧野・・・俺はお前を裏切った、その罰は受けたよ。
この5年間、俺の生活は地獄だった。俺自身、生きていなかった、魂のない生活がどんなものか・・・
俺が罰を受けるのは当然だが、お前まで巻き込んで地獄を見せてしまった。
牧野・・・すまない。すまない、許してくれ。すまない・・・」
俺はこれ以上言葉にならなかった。牧野を強く抱きしめ、俺は泣いていた。
牧野も泣いていた。ただ二人で抱きしめあって・・・泣いていた。
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