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颯HAYATE★我儘のべる
明けない夜はないから 18
俺が狙われている・・・
それは間違いないだろう。あの女ならやりかねない、もともと愛情など存在しないのだから。
問題はいつ俺を狙うのか・・・一緒の屋敷に生活しているから狙う機会はいくらでもあるだろう。
だが屋敷で不審死すれば、疑われるのは当然、使用人とあの女ということになる。
あの女は愚かだが、そこまでバカではないだろう。
いつどこで狙われるかわからないということは、俺も俺の周りにいる人間も危険だということ。
これでは、牧野にも子供たちにも近寄れない。俺は牧野の信頼と愛情を取り戻したい、今すぐにでも!
それなのに、あの女のせいで近づけないとは・・・
俺は昨日、先走りすぎた。許してもらえるだけでもありがたいことなのに結婚まで申し込んだ。
彼女が戸惑い、俺の求婚を断るのは当然のことだ。彼女の言うとおり、俺はまだ既婚者だ。
既婚者がプロポーズしたところで信用できるとは思えない。俺でも信じられないだろう。
俺は頭をかきむしった。
「俺たちはどこまで絡まってしまったんだ?いつになったら解けるんだ!」
俺は幸せになりたいだけだ・・・俺も牧野も幸せになる権利はあるだろう?
こんなことはさっさと終わりにしたい。あの女が俺を狙うというのなら狙いやすい環境をつくってやろう・・・
俺は決心した。
双子は道明寺とあって浮かれていた。一緒に住めないことをどう思ったのかはわからない。
でも、父親に会えたことは二人にとってとても嬉しいことだった。
昨日は会社で昼寝したせいもあるだろが、夜は興奮のあまり寝てくれなかった。
彼は・・・どうするつもりなのだろう?
自分が狙われる可能性が高いと知って、どうするのだろうか?
沙織さんと一緒に暮らしていれば、彼の危険値はさらに高い。
食事に毒だって盛れるし、寝ている間に殺すことだってできるよね。
考え出すと止まらなかった。不安と恐怖で胸がいっぱいだった。
道明寺・・・もしアンタが死んだらどうしたらいいの?
ずっと愛していたんだよ。あんたに裏切られたと思っても結局は憎みきれなかった。
もしも・・・という考えが頭から離れない。
道明寺、もうアンタと離れるのはイヤだよ。どんなにあのプロポーズにYESと言いたかったかわからない。
沙織さんが?という思いはまだ消えないけど、どっちにしても道明寺が危ないのは事実なんだと思ったら怖くてたまらない。
お願い、もうこれ以上彼を辛い目に合わせないで・・・
お願い、もうこれ以上・・・私たちを苦しめないで・・・
お願い、二人で幸せになりたい・・・神さま・・・
つくしは夜空を見上げて、一心に祈っていた。
そうすれば願いが叶うかのように。
「頼む、協力してくれ!」
司は親友たちに土下座する勢いで頭を下げていた。
「お前が頭を下げるとはな」
「だね」
「嵐がくるんじゃないか?」
「・・・先輩のためなら」
「それだけ、つくしを愛しているんだよね。」
5人それぞれがそれぞれの返事をしてくる。どれも協力的だった。
最後の言葉は滋、滋は目に涙をためていた。
ここには司に呼び出されて、類、総二郎、あきら、滋、桜子が集まっていた。
みんなそれぞれに多忙なのだが、司とつくしの為に必死で時間を作って集まった友だった。
「ああ。俺が今でも愛してるのは牧野だ。今までも愛した女は牧野だけだ。今度こそ、アイツと幸せになりたい。
子供とアイツと・・・俺はみんなで幸せになりたいんだ!!そのためにはあの女を何とかしないといけない。
沙織が俺の命を狙っている可能性がある以上は俺は牧野や子供たちに近づけない。
だから・・・手っ取り早く狙いやすい環境をつくってやろうと思う。」
F3と滋、桜子は真剣に耳を傾けていた。
「それでこそ司だよ!やっと司らしくなったね!良かった・・・」
滋は涙を流しながらも、笑顔になった。
「やっとあの女と別れる気になったんですか?遅すぎますよ」
桜子もホッとしたような顔をしていた。
「何をすればいいんだ?」
「いや、思いつかなくてよ・・・」
総二郎は呆れ顔で司を見た。思いつかなくて?もしかして、それを考えさせるために俺たちを集めたのか?
「お前・・・俺たちに考えろとでも?」
「いいじゃねぇか!お前らの方がこういうのは得意だろ」
「ぷっ」
吹き出したのは類。こらえきれずに大きな声で笑い出した。
「本当に司らしくなってきたね。」
「そうですね・・・昔の道明寺さんって感じです。」
「ね、ね、司を狙いやすい環境ってやっぱりパーティじゃない?」
根っからのお祭り好きの滋は目が輝いている。
「パーティだと人も多いし、紛れて狙いやすいでしょ?パーティ開こうよ」
「なんのパーティだよ?」
「なんでもいいじゃん。狙いやすい場所さえ作ればいいんでしょ?」
「お前ね・・・」
あきらは滋に疲れたような視線を送った。実際に疲れているのだろう、声に張りがない。
「道明寺が開くパーティだぞ?意味不明のパーティ開いて、あの女がおかしいと思わないわけないだろ!
いくらバカでもそんな場で人を狙うか?ありえねぇよ!!」
「そっか・・・そうだね。」
「パーティならいい時期じゃないの?」
5人は一斉に声のする方、つまり類の方を向いた。
「っていうか、こっちが考える必要ないでしょ。もうすぐあの女の誕生日なんだから」
あの女?つまり・・・沙織の誕生日!!
「お前、よく知ってるな」
「そりゃ、行ったことはないけど招待状は来るでしょ。最近も来てたから捨てたしね。
いつかは知らないよ。でも招待状が来るってことは近いってことでしょ?」
そのとおりだ。司はちょっと考えた。しかしわからなかった。
「誰か・・・招待状持ってねぇか?俺はあの女の誕生日なんかしらねぇ」
「お前、仮にも奥さんだろ。お前も出席するんじゃないのか?」
あきらが電話をしながら、呆れた声で言った。
「あ、もしもし、俺だけど。俺に道明寺からパーティの招待状来てないか?
・・・それだ!いつになってる?・・・・ああ・・・そうか、わかった」
あきらは電話を切ると司に向かい合った。
「3週間後だってよ。」
3週間・・・いいタイミングだ。こっちで考えなくてもあちらが狙いやすい場を作ってくれる。
・・・もしかして本当に作っているのか?その場で俺を狙う気で?
俺は一瞬そう考えたが、すぐにその考えは捨てた。俺は一度も沙織の誕生日を祝ったことはない。
パーティに出席したことのない人間が、今年は出席すると確信するのは難しい。
「でもさ、あの女が自分の誕生パーティで夫を狙うか?」
司は苦虫を噛み潰したような顔であきらを見た。
「あいつが最近なぜか浮かれているのは確かだ。何かをしようとしていると思う。」
「どういうことだ?」
「タマに言って、使用人たちに見張らせているんだ。怪しい動きをしたら知らせることになっている。
最近、あの女は妙に浮かれているんだ。どうも・・・どこかに電話をして以来ってことなんだが。
その電話が気になるが、どこにかけたのはまだつかめていない。
まさか、殺し屋を雇ったとかではないと思うんだがな・・・」
司は自嘲したような笑みを浮かべた。
「・・・でも、あの女が自分で手を汚すとは思えないでしょ?」
類は少し考え込んだ。すると、桜子がひらめいたように口を挟んだ。
「男じゃないですか?」
「「「「「男?」」」」」
F4と滋は一斉に桜子を見た。桜子は絶対に間違いないというように大きくうなずいた。
「そうです。今、彼女には長く続いているヒモのような男がいるんですよね?
その男だって金づるを失いたくはないでしょう?彼女に手を貸すってこともあるんじゃないですか?」
確かにそれは考えられる。状況的にあの女が頼れるとしたら、今付き合っている男しかいない気がしてきた。
父親には頼れまい、あの兄では助けにはならない。
沙織が付き合っている友人たちは、金がなくなれば離れていくような連中ばかり。
となれば・・・やはり「男」しかいない。利用できる「男」。
男がいることは知っているが、どんな男かなんてまったく興味がなかったので調べたことなどなかった。
だが今は状況が違う。その男を早急に調べなければ・・・
司は携帯を取り出し、信頼できる者に調査を依頼した。・・・結果はすぐに届いた。
たったの2時間程度で「男」に関する簡単な調査結果が司の手元に届いた。
「どうだ?」
簡単にタイプされた調査結果に目を通している司に、待ちきれないあきらが尋ねた。
司はその結果を目の前のテーブルに投げ出した。
「桜子が正しいかもしれないな・・・」
総二郎とあきらがそれを取って、みんなが聞けるように読み上げ始めた。
「調査結果・・・名前は、松崎健吾。年齢は・・・へぇ、28歳だってよ。
俺たちより年上か、なんか年下をイメージしてたな。
うわ!こいつって二十歳の頃から一度もまともに働いたことないぞ。
ここ数年はあの女のヒモだし、以前はやっぱり別の女のヒモだったみたいだな。あ、でも捨てられたんだ。
おっとぉ、こいつ借金だらけじゃん。」
「そうなんですか?」
桜子が興味をもって覗き込む。
「あら?すっごくヤバイところで借りてますね。この男、返せないときは消されますよ。」
「お前・・・なんでそんなことわかるんだ?怖いヤツだな。」
「どんなものでも情報っていうのは大事なんですよ」
「でも、それってさ、その男が司を狙う確率が上がったってことだよね?」
類がみんなに思い出させる。緊張感のない声で言われたが、類が真剣に言っているのはみんなわかっている。
「ああ、可能性がすごく高くなった。3000万以上も借りてるし、その返済にはあの女の金をあてにしていたんだろうから。
金がないとわかれば、自分の命が危ない。それなら司を殺して女に金を出させるんじゃないか?」
司は大きなため息をついた。
「あの女が妊娠してることは言ったか?もちろん、俺の子じゃない。
だが、その男の子供だったら、道明寺をその子が継ぐって考えも魅力的じゃないか?
沙織は親父がアイツを気に入らなくて調べていることは知らない。
ということは、子供を餌にその男を操るのもありえる話だろう?」
「・・・だな」
5人は大きくうなずいた。すでにその男が司の命を狙うだろうということは確信に変わっていた。
問題はどうやって、ということだ。いつ、は沙織の誕生パーティで間違いないだろう。
自分の誕生パーティなら「男」を招待しやすい。芸術家友達とでも言っておけば、どうにでもなる。
「いつもは無視してたけど、今回は出席しないといけないみたいだね」
類が相変わらず緊張感のない声で言った。それは司の頼みを了解したという返事に他ならない。
ありがたいという感謝の気持ちで司はみんなと見つめた。
俺は・・・やっと親友たちを取り戻した。
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