颯HAYATE★我儘のべる

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番外☆永遠に明けない夜  (完)



俺が愛し、裏切り、傷つけ、ボロボロにした女。

俺のしたことは間違っていたと思う、だがいくら後悔したところでアイツを取り戻すことはできない。

道を選び間違って、森の奥深くに迷いこんでしまった。 後戻りするにも遅すぎる。

後ろを振り返ってみても、歩いてきた道はもう見えない。

牧野・・・お前は今どこにいるんだ? 生きていてくれるだろうか?

生きていてくれたら、それでいい。

類には自惚れるな、そう言われた。 自惚れているわけじゃない。

アイツが俺を愛してくれていたことを知っているだけだ、

俺が傷つけたことがわかっているだけだ・・・・

人間は傷つきすぎると何をするかわからないことを俺は身をもって知っている。

俺も・・・この結婚で傷ついたんだ、だが、これは言い訳にしかならないこともわかっている。

誰の慰めも同情も得られないこともわかっている。

俺は自分の心をどうやって癒したらいいのだろう?

なあ、牧野・・・お前は今どうしているんだ? 今、この夜をどう過ごしているんだ?

少なくとも、お前と同じ空を眺めていることを慰めにしたい。

俺は幸せを失ったが、お前は幸せになってほしい。 

でも、他の男と一緒にいるお前を見たくはない。 

矛盾した気持ちが俺をさらに苦しめる。

牧野・・・お前の横には今、誰がいる?

苦しい、苦しい、苦しい・・・

想像したくないのに、どうしても考えてしまう。

お前が俺じゃない男と結婚して幸せに暮らす姿。

他の男の子供を嬉しそうに抱いている姿。

寒い、寒い、寒い・・・

心がどんどん凍っていく。

牧野、俺は永遠にあの女と生きるだろう。 それは俺が自分に課す罰。

永遠に幸せにはならない。

俺は凍った心を抱えて、お前を想いながら生きよう。

お前が他の男に抱かれ、幸せになる姿を想像して苦しみながら生きていこう。

それが・・・お前を傷つけた、俺への罰だ。


FIN





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●永遠に明けない夜 ~つくし~●

生まれたのは双子だった。 

二卵性ってことはわかっていたが、性別は影が重なっていたり、子供たちがうまく足で隠したりで生まれるまでわからなかった。

男女の双子―――――

私は生まれた子供を見せられて、涙を流した。 感動と悲しみ。

この子たちは父親に永遠に会えないのだ、そう思うと涙が溢れ止らなかった。

道明寺、あんたの子だよ。 あんたが知ることのない子供たちがここにいる。

なぜ、彼は私を裏切ったの? 私を捨てたの? 私を・・・愛していなかった?

鷹野の養子となって安定した生活を送っているが、私は道明寺を忘れることができない。

アイツは私を裏切って、別の女性と幸せに暮らしている―――なのに憎みきれない。

「つくし、よく頑張ったね」

出産の間、颯介兄さんがそばについていてくれた。 彼は生まれたばかりの子供たちを見て・・・

「ふ・・・道明寺にそっくりだね。 残念、つくしにはあまり似ていないようだ」

私はその言葉でまた涙がでてきた。 私は子供たちを愛しているし、愛していくことができる。

でも、これからずっと、道明寺に似た子供たちを見て育てていかなくてはならない。

それはきっと・・・辛いだろう。 私はアイツを忘れることはできるの?

「兄さん・・・私、まだアイツを忘れられないよ・・・」

「忘れる必要があるのか? 道明寺司はこの子たちの父親だ。 それは否定できないよ。

たとえアイツが知らなくても父親だ、DNAがそう言っているしね。

つくしが憎みたいなら憎めばいい、許したいなら許せばいい。 忘れる必要はないだろう?」

「憎む・・・たぶん、最初は憎んでいたと思う。妊娠がわかったその日に裏切りを知ったんだし。

だけど、今はわからない。 今は許せないけど、憎んでいるってのは違うような・・・」

それはつくしの正直な気持ちだった。 まだ愛情が残っているんだと気がついた。

「出生届はどうするんだ? お前は今、二重国籍だろう? 子供の国籍はどうする?」

つくしは日本に戻るつもりはなかった。 道明寺は今、日本にいる。

そこに戻って幸せな彼を見る勇気はなかったし、そんな辛い思いをしたくなかった。

「・・・子供たちはアメリカ国籍だけでいい。 こっちに出生届を出すよ・・・」

「そうか、わかった。 こっちは日本の戸籍の形態が違うからな。 出生証明書が発行される。

父親の欄には・・・嘘を書くなよ。 きちんと道明寺の名前を記せ。 日本と違ってそれができるからな。

相手の認知とか関係ないから、知らないうちに父親だ―――おもしろいだろ?

日本で戸籍を持つには私生児ってことになってしまうだろうが、こっちは片親でもあまり蔑まれない。

だから・・・嘘はつくな。 父親の名は道明寺司だときちんと記すんだぞ。」

「・・・わかった・・・」

翌日、退院して颯介の言うとおりにした。 名前は性別がわからなかったので二つずつ考えてあった。

そのうちの一つを二人につけた。

榊(さかき)と椛(もみじ)

自分でも道明寺を意識した名前だと思った。 でも・・・この子たちは永遠の父親に会うことはないだろう。

名前くらい、父親の家を連想させるものでもいいだろう。

本当は司の名前からつけたいとも思っていた。 でも、それだと私が辛かった。

愛は残っていても、裏切られたという失望と悲しみも当然心に残っている。

「やっぱり憎んでいるのかな・・・?」

つくしのつぶやきは颯介の耳にしっかりと聞こえた。

「そうじゃないだろう。 ・・・・つくし、覚えておけよ。 愛と憎しみは紙一重だよ。

愛しているからこそ憎しみは強い、そして憎しみが愛に変わることもある。

憎むってことは、常にその相手のことを考えているってことでもあるからな・・・」

颯介の言葉につくしはハッとした。 そうだ、私はまだ道明寺を愛している―――

だからこそ、憎んでいるし、許せないのだと気がついた。

どうでもいいなら、憎むことはないし許せるだろう。 

つくしは後部座席で眠る双子を見た―――天パではないところ以外はアイツにそっくりだった。

赤ちゃんのくせにここまでアイツに似ているなんて・・・アイツの遺伝子もわがままで自己中なのかもしれない。

私の遺伝子はいったいどこにいったの!?

道明寺・・・もしかしたら、アンタと奥さんにもそのうち子供ができるかもしれない。

その子はアンタと奥さん、二人の愛情に恵まれて幸せに育つだろう。

だけどこの子たちには・・・私だけ。アンタは一生存在を知ることはない。

道明寺、アンタはこんな可愛い子供たちを失ったんだよ。 

道明寺、私はアンタを憎んでいる、でも愛している。 だから・・・些細な復讐をしよう。

アンタがしたように、私も道明寺を捨てるよ。 

難しいことだけど、私はアンタへの愛を封印しよう。 子供たちを愛して大事に育てよう。

永遠に明けない夜の世界に心を置いていく。

私は―――――道明寺を愛している、そして憎んでいる。

愛も憎しみもどっちも捨ててしまおう。 何が残るかはわからない、だけど――――

これは些細な復讐。復讐にならないかもしれない些細な復讐。

颯介兄さんの言葉が正しいなら・・・私は考えることをやめよう。少なくとも、そう努力をしよう。

私は道明寺への思いの全てを捨てよう―――

FIN





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