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颯HAYATE★我儘のべる
雨が止まない 1 【~22完】
新聞の一面に躍る文字。愕然とした。
もう戻れない・・・それがやっとわかった。
あの運命の日に道明寺は記憶を失った、私のことだけを。
きっとすぐに思い出してくれる、という私の願いは甘かった。
海ちゃんを私と思いこんで、私を邪険にするアイツに私は野球ボールをぶつけて目の前から去った。
もう期待するのは辛すぎる、でも思い出してくれると期待していた。
ことごとく期待は裏切られ、悲しみだけが残った。
道明寺を思い出す全てから逃げた。なにもかもが嫌だった。
両親から離れ、F3から離れ、桜子や滋さん、優紀さえも道明寺に繋がってしまう。
だから私はすべてを捨てた。でも、ずっと思っていた。
きっとアイツはいつか私を思い出す。そして私を探し出すだろうと。
今、その期待と夢は・・・・終わったんだとわかった。
●雨が止まない●
英徳高校も退学し、私はみんなの前から姿を消して、働きながら夜学に通った。
大学は奨学金制度を利用し、最近、卒業した。
努力の成果、私は成績トップを守り続け、素晴らしい会社に就職できた。
鷹野財閥の一端、ホーク・ロード。紳士服を扱う会社だが、今年からレディスも手がけるという。
「よお、牧野!! 何か浮かない顔してるな」
道明寺の結婚がショックだった。顔色が悪いのは自分でもわかっていたが、どうしようもなかった。
「え、そう? 仕事が慣れなくて疲れているだけだよ。」
「お前でも疲れることがあるのか?」
「・・・失礼なヤツね。」
「お、道明寺司じゃん。」
私の持っていた新聞が目に入ったらしい、同僚の男が言った。
「知ってるの?」
「道明寺を知らないヤツは、あまりいないだろ? へぇ、結婚するんだ。
大河原とねぇ、政略結婚ってのがミエミエじゃん。金持ちってのもかわいそうだな。
愛のない結婚しなくちゃならないなんてな・・・」
「愛がなくても、彼らは小さいころからそう育てられてるんじゃないの?」
「かもな。でも、そうなるとあの女性が哀れだよな。」
「あの女性?」
「一度、すっげ~話題になっただろ。道明寺司の高校時代の彼女だよ。
天草の御曹司と女の取り合いしてたじゃないか。その彼女だよ。
別れたのか、捨てられたのか・・・なんにしてもかわいそうだよな。」
それは私のことだ・・・でも別れていないし、捨てられてもいない。
アイツに存在を消されただけだ・・・・
私は気分が悪くなった。吐きそうだった。
「お前、本当に具合悪いんじゃねぇの?」
「・・・気分悪い・・・何か変なもの食べたのかな・・・」
「社長には言っとくから、帰れよ! 送っていこうか?」
「うん・・・お言葉に甘えようかな。 でも自分で帰るよ。社長にうまく言っておいて」
私はカバンを取るとサッサと家路についた。
贅沢はできないので、電車と地下鉄を乗り継ぐ。ただ何も考えずにボ~っと家路を急いだ。
はやく帰って気持ちを落ち着けないと・・・今日は泣いて泣きまくって明日に備えなきゃ。
人前では泣きたくなかった。でも涙を外に出さないとドロドロとした感情が爆発してしまう。
狭いアパートに着くなり、私はベッドに突っ伏した。
「道明寺・・・なんで・・・?」
そう呟きながら、私は泣き続けた。
泣いて、泣いて、涙が止まったら・・・きっと新しい自分で再出発できる。
そう信じて、涙が枯れるまで泣き続けた。
どれだけの時間が経ったのか、泣きつかれて眠っていた。近くにあった手鏡をとると、当然だが顔が全体的に腫れていた。
目元は真っ赤に腫れあがり、開いているのかいないのかよくわからない。
鼻はかみすぎて真っ赤、硬い安物ティッシュを使ったせいか擦りむけてヒリヒリする。
惨めな姿・・・それが自分に対する感想だった。
私にはもう何も残っていない、恋人も友も・・・。あるのは仕事だけ。
これからは仕事に生きよう、そう決意するとあとは容易い気がした。
道明寺のことは忘れなければならない。私に罪はない、でも彼に罪があるわけでもない。
記憶を失いたくて失ったわけじゃないだろう。私たちはこうなる運命だったのだ。
彼のお母さんの言うとおり、私たちは住む世界が違いすぎた、そういうことだと思うことにした。
そう思うと・・・ほんの少しだけ気が楽になった。
あれから2ヶ月がたった。仕事は順調だった。企画部にいた私が社長秘書に抜擢された。
もともと大学は秘書課を選択していたので基礎はできている。
だが、大企業の社長秘書となると道明寺と会うかもしれないという恐れが、秘書として就職することを邪魔した。
社長の鷹野颯介には数回しか会ったことがないが、素晴らしい人物だという印象があった。
仕事に妥協はなく厳しいが、どんな人物にも公正で公平。学歴よりも実力、実績を重視し、会社を盛り上げていた。
そのせいだろう、鷹野財閥の数ある系列会社の中でもホーク・ロードは一番の成長株だった。
将来は鷹野財閥を率いていくであろう颯介の元で働くのは、とても誇らしいことだった。
もう道明寺に会うかもしれない、という恐れは殆どなくなっていた。
会ったところでどうなるだろう、彼は私の存在を消しているのだから。
ある日突然、社長室に呼ばれた。
ビル最上階の重苦しいドアをノックして、部屋に入ると奥から声がした。
どうも私の知らないうちにお客様が来たようだ。でも・・・秘書室を通さずに直接社長を訪ねる客はありえない。
訝しげな顔で社長室に入ると、そこにいたのは懐かしい顔だった。
「来たか、こっちに来て座りなさい。彼らを紹介する必要はないね、顔見知りだろう?」
社長の言葉に驚いた。私がF3と友人だと、いつから知っているのだろうか。
それが表情に出たのだろう、颯介は笑った。
「驚く必要はないだろう? 君がここに就職したときから知っているから」
「・・・どうして・・・」
「君は思ったより有名人なんだよ。あの道明寺司の恋人だったんだからね。
天草くんと司くんが君を取り合いしたのは有名な話だ、週刊誌や新聞を賑わせたじゃないか。
忘れている人も多いだろうが、私は忘れていなかった。名前だけですぐにわかったよ。」
そういうと、再度、私に座るように促した。何もしゃべらず、私を見ているF3が不気味だった。
いったいなぜ、この3人がここにいるのだろうか?
私は普通は上座にあたるので座ることはないが、唯一開いている社長の隣に腰を下ろした。
「久しぶりだね」
類が以前とかわりのない笑顔で言った。
「そうだね・・・なぜ、みんながここにいるの?」
「俺たちは5年前から、お前がどこにいるのか知っていたんだ。」
そう言ったのは美作さんだった。西門さんも大きく頷いている。
そうだ、この人たちには簡単に探し出せるだろう。それなのに私は隠れているつもりだった。
しばらくすると、西門さんが話しはじめた。
「お前が消えた理由は理解しているし、気持ちもわかる。だから司の記憶が戻るまでソッとしておこうと3人で話あったんだ。
いや、桜子と滋、それに優紀ちゃんも入れて6人だな。だが、司の記憶はいまだに戻らない。」
つくしは黙って聞いていた。何も言わないので総二郎は話をつづけた。
「2ヶ月前に新聞でも大きく取り上げられたから、お前も当然知っているだろうが、司が結婚する。
俺たちはそれを知ったお前が自分の意志で俺たちや司の前に現れるんじゃないかと期待していたんだ。
だけど、お前は来ないから俺たちの方が会いに来たんだよ。」
「・・・なんで私が?」
「もう司を愛していないの? 司を取り戻す気はないの?」
類が言った。私はその言葉を聞いて類を睨み付けた。気持ちが溢れてくるのを抑えられない。
好きな人に自分だけを忘れられて簡単に気持ちを切り替えられるとでも思っているのだろうか?
「・・・簡単に忘れられると思う? 捨てられたとか、別れたっていうなら思い出にかわるのも簡単だよ、
でもね、私の場合は違う!! 突然、好きな人に忘れられたのよ! 記憶から消されたの。
そして何を言っても思い出してもらえない。その気持ちがあんたたちにわかるって言うの!?
あの日、道明寺にボールをぶつけた日、私はもう期待しないって決めて会いにいったのよ。
でも、心のどこかで期待してた。 思い出の品を見れば思い出すんじゃないかって。
でもダメだった。そして、ぶつけるつもりはなかったけど、ボールが頭にぶつかって
道明寺が倒れたのは私も見えていた、だからあのショックで記憶が戻ればとも思った!!
でも思い出してくれなかったでしょ? 私はもう疲れたの、思い出してもらおうと努力するのは疲れた。
それでも心のどこかでは、いつか思い出してくれる、そして道明寺が私を探しだすのを期待してた。
自分勝手な気持ちだけどね・・・。でも2ヶ月前にあの記事をみて・・・・
一日中泣いたよ、会社を早退して泣いた。 で、次の日はちょっとだけスッキリしてた。
終わったんだなってわかったから、その日からずっと・・・忘れる努力をしてる。
彼のように簡単には忘れられないけど、私も道明寺の記憶を私の中から消すことにしたの、
道明寺に関わるすべてのことを消して、忘れるの! それにはあんたたちも含まれているのよ!!!」
私はしゃべっているうちに興奮して一気にまくし立てた。
F3と社長は黙って私の言うことを聞いていた。
「俺たちのことも忘れてしまわないと、司を忘れることはできないか?」
総二郎の言葉には悲しみと同情、そして優しさがあった。
「そう。思い出してしまうからね・・・どうしても。」
泣き出しそうになりながら、そう答えた。それは正直な気持ちだった。
しばらくしてから、ずっと気になっていたことを聞いてみた。
「ねえ、どうして・・・滋さんなの?」
しばらくの沈黙のあと、話はじめたのは美作さんだった。
「お前が消えて2年くらいたった頃かな、また道明寺と大河原に業務提携の話がでた。
実際は司の母ちゃんが邪魔者であるお前がいなくなったから、以前破談になったお見合いを復活させたんじゃないかと思う。
それに事実、道明寺と大河原の業務提携は利益をうむに違いないしな。お互いにないものを持っているから。」
それは、私にもわかる。でも今更なぜ滋さんなのだろうか?
美作さんは膝の上に組んだ自分の手を見つめていたが、また話はじめた。
「滋は、ずっと司に惚れていただろ? 初めは記憶を失ってる司を気遣っていたんだ。
お前のためにも司のためにも思い出させようとしていた。それは俺たちも知っている。
だけど、1年が過ぎ、2年が過ぎても司は思い出さない。そこに道明寺からのお見合い話だ。
滋は・・・もう司はお前を思い出さないって思ってるんだ。昔の記憶は取り戻さない。
思ってるというより賭けたのかもしれないが。つまり、このお見合いに賭けたんだ。
司がお前を思い出していなくても断るなら・・・それまで。自分も諦めようと。
だが、司が了承したらお見合いをすすめて・・・結婚する。」
滋さんはまだ道明寺を愛している、そういうことなんだね。
忘れたのは私のことだけ。なぜかはわからない、私よりも後に出会ったはずの滋さんのことは覚えている。
道明寺・・・これは・・・ひどくない?
「そっか・・・」
「お前を覚えていないにしても結婚は司も迷っていたんだ。でもな、俺たちが昔言ったことを覚えているか?」
「昔?」
「そうだ、俺たちの将来は決まっている、政略結婚だって言っただろ? 俺たちの結婚はそういうものだ。
だから、好き勝手やれるうちは、そうしているんだって言っただろう?
司だってそうだ。だから、あいつは考えたんだ。知らない奴と結婚するよりも
友達と結婚したほうが、まだマシかもしれないってな。それであいつらは付き合い始めたんだ。
俺たちは後悔することになるって何度も言ったんだがな・・・」
後悔・・・後悔するだろうか?
だって道明寺は私を覚えていない。それなら、自分の決断に満足するだろう。
滋さんだって、愛している男性と結婚できるのだ、後悔することがあるだろうか?
「そっか・・・」
「そっか、しか言わないんだね?」
私をじっと見つめ、静かに言ったのは類。
そっか、以外に言える言葉がある? 何が私に言えるの?
「もう結婚は決まったことでしょう? それで、あんたたちは何をしに来たわけ?」
「今ならまだ間に合う。牧野、もう一度だけ司の前に出てみないか?」
「・・・でない。出てどうするの? もしも道明寺が思い出さなかったら私が立ち直れない。
それに・・・もしも思い出したらどうなるの? 滋さんが不幸になるんじゃない?
一度は私と道明寺を思って、身を引いて応援してくれたんだよ。
2回も同じことをさせられないでしょう? もう遅いんだよ・・・」
「滋も・・・お前を裏切ったって負い目をもって結婚しても幸せになれるとは思えないんだがな。」
「俺もそう思う。この結婚はぶち壊すほうが、司にとっても滋にとってもいいと思うんだ。」
「俺は司も大河原もどうでもいいよ。 牧野次第だよ、牧野が幸せになれる道を選びなよ。」
私の幸せはどこにあるんだろう?
「今、幸せかって聞かれたら・・・それはわからないけど、将来は幸せになるつもりだよ。」
「牧野はさ、いつも人のことばかり考えてるよね。だから俺は牧野次第だと言ってるんだ。
悪く考えれば大河原はさ、あんたの気持ちを知っていて司を奪ったんだよ。
お人よしもほどほどでいいんじゃない? あんたがお人よしだから、俺が我儘に牧野のことを考える。」
類の言うことはあまり理解できない、でも、そうかもって思うこともある。
滋さんは確かに私の気持ちを知っているし、奪ったと言えば奪ったのかもしれない。
でも、奪ってないと言えば奪ってない。 矛盾している。
「花沢類、こう考えたらどうなる? 道明寺が記憶喪失にならなければ滋さんは賭けにでなかった。
きっと私と道明寺の良い友達のままでいたんじゃないかな?
結局、こうなった原因って全部道明寺だよ。アイツの記憶喪失が原因だよ。」
「司が悪いってこと?」
「違う、誰も悪くない。 なんかさ、最近は運命って言葉を信じてるんだよね。
これも運命ってヤツでしょ。 道明寺だって記憶喪失になりたかったわけじゃないし、
滋さんだって道明寺が記憶喪失にならなければ、アイツの想いを応援してくれていたんじゃない?
私だって・・・たぶん、ここにいないよ。 つまり、いつだって運命の歯車ってヤツは回っているの。
逆回転はしないんだよ、なるようにしかならない。」
「それでアンタは幸せなの?」
「・・・さっきも言ったけど、今はわからない。 でも将来は幸せになっているよ。 自分自身の手でね!!」
それを聞くと類は笑顔になった。総二郎とあきらは何も言わなかった。
颯介はずっとただ黙って聞いていた。 席をはずすこともなく私たちの話を聞いていた。
「牧野が幸せになるために決めたことなんだよね? それなら俺はいいよ。
俺は牧野から会いたいと思ってくれるまで、司のことを吹っ切れるまで俺は会わないよ。
もしも会いたくなったり、俺が必要になったら・・・わかるよね。
花沢物産は絶対にそこにあるから・・・いつでも連絡して。携帯の番号も絶対に変えないから。」
類はそういうと席をたった。総二郎とあきらがあわてて追いかける。
「「おい、類!!」」
類は二人の呼び声に反応もせず、部屋を出て行った。
二人は私の方を振り向いた。
「牧野、俺たちもいつだって近くにいる。俺たちはずっといるから。
何かあったら連絡をくれよ。俺たちは親友だろ? 司も親友だけど、お前だって俺たちの親友だ。
お前も司も大事なんだよ! 俺はどっちも失いたくない。
俺の会社も家も変わらずそこにある、携帯の番号も変更しない。類と同じだ。」
あきらの声は真剣そのものだった。 ありがたい言葉だと思った。
私のことを心配してくれているのだから。
「俺も同じだよ、牧野。 俺の連絡先も覚えておけよ。 俺は・・・たまに連絡するかもしれない。
たとえ、お前が電話にでなくてもな。 司を忘れるのは仕方ないが、俺たちまで忘れてほしくないからな。」
総二郎はそういってあきらと共に部屋をでていった。
私は涙を流していた。 本当はみんなといたいけど、今はまだ道明寺を思い出して辛い。
声も出さずに泣いていると、肩に暖かい手が触れた。
颯介が私を振り向かせ、胸に抱きよせて背中を撫でている。
慰めてくれている・・・私は社長の優しさに気持ちが落ち着いていった。
颯介にプロポーズされた。
あのF3との対面から1年が過ぎた頃で、秘書としての仕事にも慣れて自信が出てきたころのことだった。
それはあまりにも突然に言われた。二人で仕事帰りに騒々しいファーストフード店でランチをとっていた。
「つくし、俺と結婚しないか?」
あまりにも簡潔な言葉に冗談だと思った。
「それって、冗談? 本気?」
颯介が呆れたような顔をしたかと思うと、今度は思いっきりしかめた。
「お前ね、こんなこと冗談で言うかよ。それもこんな場所で。」
「そっか。でも私、社長のこと愛してないですよ。」
「直球なヤツだな。 俺が傷つくとは考えないのか?」
「傷つかないでしょ? 愛してないけど、好きですよ。たぶん大好きです。」
颯介が笑みを浮かべた。大笑いしたいのを堪えているようだ、肩が震えている。
「笑いたいみたいですね。」
「よくわかるな。」
「ここ1年、ずっと社長と一緒でしたからね。いい加減わかるようになりますよ。」
「それって長年連れ添った夫婦みたいじゃないか?」
そう言って、また肩を震わせている。 もしかしてからかわれているのだろうか?
「並みの夫婦より長い時間いっしょにいるんじゃないですか?」
「そうかもな。 あのな、俺もお前のことは好きだ、たぶん大好きだな。
お前を愛してるかと言うと、正直わからない。 でも、好きって気持ちも愛だと思うんだよ。
愛にはいろんな形があるんじゃないか? 俺はお前といると楽しいし、落ち着く。
お前を幸せにしたいし、俺も幸せになりたい。 それって愛情があるからだろ?
お前が道明寺を忘れていないのも分かっている。忘れろとは言わないよ。
それでも好きなんだよな、その気持ちが愛じゃなくてなんなんだ?って考えたわけだ」
颯介は真剣だった。
「何・・・それ、考えたわけだって。」
「照れ隠し?」
私は自然に微笑んだ。颯介は私の気持ちを和まそうとしている。
あの日からずっと颯介は私を慰め、励ましつづけてくれている気がする。
たしかに愛情がなくてはできないことかもしれない。私も感謝している。
「私は・・・まだ道明寺を吹っ切れない。彼の記憶喪失っていう中途半端な別れがいけないんだろうな。
だけど、1年前よりは思い出に変わったって気もします。
社長のことは好きだし、感謝しています。 まだ愛情っていうのはわかりません。
幅広い意味での愛情というなら、たぶん・・・何らかの愛情を持っていると思います。
それがどんな愛かは、全然わかりませんが・・・」
「ははははは!!!」
颯介は結局笑い出してしまった。
「正直なヤツだな。 ま、いいさ。 俺を好きだって気持ちがあるならな。
結婚は先走りすぎか? でも、お前となら幸せになれるって思う。
俺の気持ちは決まっているから、お前次第だ。 返事は急がないが・・・でも急いでくれ。」
「・・・何それ? 結局、急ぐってことでしょ。」
「そう、俺は待つのは嫌いだから」
「じゃ、一日だけ考えさせてください。」
「ああ。それでいい。」
颯介はそういうと一瞬迷ったように付け加えた。
「道明寺と大河原が結婚したのは知っているか?」
「式は明後日じゃないんですか?」
「・・・式と披露宴はそうだ。だが、入籍は既に2ヶ月前にしてるんだよ。」
私は少しショックだった。 今度は覚悟してたし、わかっていたことなので
すぐに立ち直れた。
「そうですか・・・アイツにしては長い婚約期間でしたね。結婚発表から約1年ですから」
「・・・泣きたかったら、また胸を貸すぞ」
社長は優しい。これも私への愛情だろう。彼なら私をずっと愛してくれる気がした。
「もう泣きません。 泣いてもたいして吹っ切れないことがわかりましたから。
泣くより現実をしっかり受け止めて、早く先に進んだ方が自分のためにいいようです。」
「そうか。でも泣きたくなったら、いつでも胸は開けとくぞ。」
「ありがとうございます。 じゃ、泣きませんけど少しだけ貸してください。
また、あの時みたいに・・・抱きしめてもらえますか?」
そう言って私は颯介の胸に飛び込んだ。言ったとおり、涙は流さなかった。
ただ、颯介の温もりで心を慰めたかった、気持ちを落ち着けたかった。
なぜか・・・彼の胸の中は落ち着く。 我が家に帰ったような気になる。
颯介は何も言わず、背中をなでていてくれた。
私はここがファーストフード店だということをすっかり忘れていた。
颯介は気にしないようだが、思いっきり注目を浴びてしまった。
一日考えさせてと言いながら、実際に返事をしたのは3日後だった。
その間ずっと顔をあわせていたにもかかわらず、颯介は返事を催促することはなかった。
「社長、あの件ですけど・・・お受けすることにしました。」
突然、仕事の話のようにバインダーを覗き込んで、顔を見ずに言った。
颯介は一瞬だけキョトンとした顔をしたが、すぐに理解して満面の笑みを浮かべた。
「わかった。じゃあ・・・さっそくディナーにでも誘おうかな。 どう?」
軽く返事を返してくれた颯介に感謝しながら、私も笑みを返した。
ディナーと言いながら、颯介が連れていってくれたのは高級でもおしゃれでもない店。
普通の24時間営業のファミリーレストランだった。最近わかったことは、颯介はこういう安上がりな店が大好きだということ。
「・・・で、決断した理由を聞いてもいいかな?」
「そうですね・・・。愛にも色々な形があるって社長は言いました、それがわかった気がしたからです。
道明寺との恋は激しく燃え上がるものだった、だったらもう燃え尽きていると思いませんか?
ただ少しだけ燻っているだけだと思ったんです。いずれ完全に消えるでしょう。
社長とは・・・はっきり言って愛とか恋してるとかわかりませんが、好きって気持ちが愛なら・・・
ゆっくり育つ愛もあるってことだと思いました。ろうそくみたいにゆっくりと燃えていくってことです。」
「つまり、俺とはそういう愛ってことか? もしくはそういう愛を育てたい?」
私は顔を赤らめた。 こういうことを正直に話すのは少し照れくさい。
「そうです。 大好きって気持ちと思いやりが愛になるってことですよ。」
「そうか、わかった。 俺もそう思う、俺はお前を大切に考えているし、お前といると落ち着くんだ。
きっとうまくいくさ。二人で一緒に幸せになろう。お互いを幸せにするようにしよう。
それで・・・結婚式はいつにする? 俺は道明寺みたいに結婚会見をしておきながら1年近くもただ婚約しているだけは嫌だね。
結婚するならすぐにしたいな。 そうだな・・・準備も含めて1週間後?」
早い!! 焦ったが自分が決断したことだ、早い方がいいかもしれない。
だが、不安がよぎった。道明寺とは母親から大反対を受けて大変だった。
鷹野家も同じ大財閥だ、同じようなことになるのではないだろうか。
社長があまりにも気さくで親しみやすかったので忘れていた。
「ご両親やご兄弟は私との結婚を反対するんじゃないでしょうか」
「なんで?」
颯介は本当にわからないらしい。怪訝な顔をしている。
「私は庶民です。一般家庭の人間です、おそらく中流ともいえません。
同じレベルの女性をご家族は望むんじゃないでしょうか?」
颯介はしばらく考えていたが、急に険しい顔になって言った。
「道明寺にはそういうことを言われたってことか?」
「・・・そうです、彼の母親に大反対されて妨害されました。 大金を渡されて別れろって言われたこともあります」
正直に言った。隠しても仕方のないことだ。
「俺の親は反対しない。 俺は高校生じゃない、お前よりも11歳も年上の34歳だぞ。
親は俺を信用している、俺が選ぶ女性に間違いはない!
それに、もしもお互いの価値観や育ちの違いから別れることになったとしてもそれは俺の責任だ。
それから学ぶことだってあるはずだろう? って・・・俺は今から別れることを想定して考えたくないぞ!」
完全に信用したわけでもないし、安心したわけでもない。
だけど、その言葉に少しだけ・・・ほんの少しだけ安心した。私は笑った。
「私も考えたくないですね」
颯介にはつくしがまだ安心しきれていないことがよくわかった。
「あのな、鷹野家は世間からみたら大財閥だ、そして俺は将来その財閥を背負っていかなくてはならない。
だけど、よく考えてみろよ。 会社ってのは富豪と呼ばれる人たちが働いているわけじゃないだろう?
お前の言う庶民の人たちが働いて会社は成り立っているんだ。
そういう人たちを差別して考えていたら、誰も俺についてこない。
親父や弟もそれは同じ考えだ。結局、俺もお前も同じ人間なんだよ。それが大事なんじゃないのか?」
颯介の言葉に涙がでた。 道明寺の母親に言われたことが胸に突き刺さっていたから、この言葉は救いだった。
やっと長い間刺さっていた棘が抜けたような気がした。
「泣くなよ、俺は当たり前のことを言っただけだろう?」
そう、当たり前のことだ。 だけど道明寺と付き合っていたときは、それは当たり前じゃなかった。
私は彼のお母さんにとって鼠以下だったし、息子にたかる蝿のようなものだった。
私は英徳に通っている間に洗脳されていたのかもしれない。
まわり中が金持ちで私だけが庶民だったから、蔑まれた中で生活をしていた。
それが私の内面になんらかの影響を及ぼしていたのかもしれない。
鷹野財閥御曹司の口からでた言葉は私の心に響いた。
この結婚は間違っていない、そう感じた。
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