颯HAYATE★我儘のべる

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雨が止まない  3



以前から新婚旅行はハワイと決めていたし、初めての海外旅行だったので楽しみにしていた。

鷹野家は驚いたことにハワイに別荘を持っていた。 お金持ちなら当然のことかもしれないけど、庶民の私は驚いた。

随分前にに購入し、売却を考えていたらしいが、私がハワイに行きたいと言ったので保留にしたそうだ。

「ホテルの方がよかったか?」

「ううん、このほうがゆっくりできるから。 でも別荘なんて庶民には考えられないな。」

「もうお前も鷹野の人間だぞ、お前の言う庶民とは違うってことになる。」

颯介はニヤリとして言った。

「・・・確かにそうだけど、長いこと庶民、いやそれ以下かもしれない。

そんな生活をしていたんだから、急には変わらないよ。

颯介さんは後悔するかもしれないよ、きっとお金の心配がなくなったって節約しまくるからね。 それに、バーゲンだって行くよ。」

「いいんじゃないの。 俺はそんなお前が好きなんだし。 変わる必要はないだろ。

お前はまだ俺を知らないんだな、俺もバーゲンは好きなんだよ。」

私は目を丸くした。 颯介がバーゲン? ありえない。

「流行ってもんがあるんだから、どんなものでも安売りはあるんだよ。

たとえ超高級ブランドでもな。 流行遅れになったら安く売るのは当たり前だろ。」

ブランド品のバーゲンね・・・

「そうなんだ。 ブランド品なんて持ったことないからわからない。」

「全部そうしろとは言わないが、これからは少しは高級なものも持っていた方がいいぞ。

安物だと馬鹿にされる場ってのがあるからな。 お前には大変だろうが、それには慣れてもらうしかない。

俺や親父、煬介だってサポートするから・・・頑張ってくれ。」

これからはいろんな場に出ることになるだろう。 そこで失敗すれば道明寺の母親を喜ばれることになる。

『ほら、私の言った通りじゃない』ってことになるのだ。

私は追い込まれたような気がした。 それを颯介は感じ取ったらしい。

「つくし、道明寺のことは考えるな。 お前は俺の秘書として働いてきて、成長したぞ。

どこに出しても恥ずかしくない。英会話やマナーは完璧にマスターしている。

茶道や華道はまだまだだが、これから簡単に学べるだろう? プロになる必要はないんだ、最低限でいい。

お前は道明寺と付き合っていた頃の子供じゃない、あれから随分と大人になったんだ、自信を持てよ。」

颯介の言葉は暖かかった。 道明寺と付き合っていたときは必死で家柄や格式といったものに対抗していた気がする。

庶民で何が悪い、そう思って肩肘張って生きていた気がする。

颯介の言葉で、今やっとそれが消えた。私は私なのだ・・・・

庶民の良さを生かして、鷹野財閥という大きな組織の中で生きていけばいい。

対抗や抵抗するのではなく、調和すればいい。 融合すればいいのだ。

「ありがとう、なんだか楽になった」

颯介はニッコリと笑って、私を抱き寄せた。 なんだかその仕草が妙に恥ずかしかった。

「お前ってウブなところがあるよな。 これくらいで恥ずかしがるなよ、俺たちは夫婦なんだぞ。」

「・・・性格だもん、仕方ない。 すぐに慣れるのは無理。」

颯介はちょっとイジワルな笑みを浮かべた。 私をじっと見つめて・・・

「俺、今すぐにお前を抱きたいんだけど。」

一瞬にして体中が真っ赤になった。 絶対に今の私はトマトよりも赤い!

「・・・ひ、昼間っから・・・」

「昼間だろうと関係ないだろ。 ここは俺たちだけ、それに俺たちは新婚旅行中だぞ。

使用人は来ない、料理だって掃除だって俺たちでやるんだ、完全に二人きりだ。」

どんどん真っ赤になっていく・・・恥ずかしすぎる!

「照れるなよ、嫌なのか? 無理強いはしないぞ。 俺はお前を抱きたい、でもお前が嫌なら諦める。どうだ?」

「ど・・・どうだって・・・」

「嫌か?」

「・・・ううん・・・嫌じゃない」

そう言った途端、私の体は宙に浮いていた。 颯介に抱き上げられていた。

颯介は勢いよく寝室のドアをあけ、ベッドへと向かった。





二人でハワイ初の食事を楽しんだ。

疲れて、大したものは作れなかったが、おいしかった。

心地よいベッドから出る気になったのは、日が沈んだあとだった。

颯介は優しく、丁寧にリードして私を天国へと誘ってくれた。

夜までに何度愛し合っただろう、それを思いかえすと自然に顔がほてり、赤くなっていく。

「・・・思い出してる?」

颯介のニヤニヤ笑いに更に真っ赤になってしまった。 私が反論しようとしたとき、颯介の携帯が鳴った。

「誰だ? 新婚旅行先に電話をかけてくるなんて野暮なヤツは!」

「ぷっ・・・、そんなこと言うなら電話を持ってこなければいいのに。」

颯介は社長だ、それも鷹野財閥後継者。 新婚旅行といえど、大事な用件があれば電話くらいかかるだろう。

「まあな。 すまん、ちょっと話してくる。 すぐに戻るから。」

そう言って、部屋を出て行った。 私はボウッとしていた、また彼に抱かれたことを考えていた。

道明寺とはそういう関係にならなかった。

嫌だったわけじゃない。 怖かったし、それにいつもタイミングが悪かった。

道明寺の母親に認めてもらうことが何より優先で・・・それどころじゃなかった。

それを考えると、私と道明寺は別れる運命だったのかもしれない。

「運命か・・・」

私のこれからは、いったいどうなっていくのだろう。





颯介はその電話を心痛な面持ちで聞いていた。 電話の相手は花沢類だった。

『颯介さん、これを知らせるか迷いました。 旅行から戻ってからでもいいかとも思ったんですが・・・。

俺も真剣に悩みましたが、帰国して突然知るよりもと思って連絡をしてんです。』

「ああ、知らないで日本に戻るよりはいいだろう。 知らせてくれてありがとう。

つくしには俺からきちんと話す。 隠すつもりはないから。」

『司には・・・牧野は幸せに暮らしていると言いました。 

アイツに二人の生活を壊させるようなことは絶対にさせませんから。』

「・・・大丈夫だよ。 俺たちの幸せは俺たちで考えて守る。

君は君が正しいと思う行動をしなさい。 彼とは親友なんだろう? 彼のことを一番に考えてやればいい。」

『確かに司は親友です。でも・・・牧野も親友なんですよ。』

類の電話はそう言って切れた。 

颯介は切れた携帯を見つめながら、皮肉な運命を笑いそうになった。

たったの一日だ、その一日が決定的な違いを生んでしまう。

道明寺、一日遅かったな。 俺はもうつくしを手放す気はない。

だが・・・卑怯な真似もできない、そんな性分だ。

颯介はため息をついて、つくしの待つ部屋へと向かった。





「終わった?」

部屋に入るなり、つくしが聞いてきた。

「ああ」

「まさか、急な仕事で日本に帰らないといけないとか?」

「・・・違う。 いくらなんでも、そんなことはさせないし、しないよ。」

「大丈夫? なんだか顔色が悪いような気がする。 疲れた?」

俺は無理矢理に笑顔を作った。

「疲れた? あれしきで? まだまだ俺はヤレるけど?」

つくしの聞いた意味はわかっていたが、俺はわざと間違えて答えた。

真っ赤になって照れる彼女がかわいかった。

「ち、違うよ!! この旅行の為に凄いハードスケジュールで仕事をこなしていたし・・・」

「大丈夫だよ。 ちょっと・・・さっきの電話がショックだっただけだ。もう大丈夫。」

つくしは怪訝な顔をした。 颯介がショックを受けるほどの電話、いったい何だったのだろうか。

「聞けばお前の方がショックが強いと思うぞ。 だが、隠すわけにもいかない。」

そういう言い方をされると余計に怖くなる。 不安が募る。

「今の電話は花沢類からだった。 彼は重要なことを教えてくれたんだ。」

「花沢類?」

「ああ、つくし・・・落ち着いて聞いてくれ。 道明寺司の記憶が戻った。」

・・・衝撃的な事実。 つくしは何も言えなかった。

颯介はこの静かな間が居心地が悪く、落ち着かなかった。

「・・・いつ?」

どのくらいの時間が過ぎただろう、つくしがやっと口を開いた。

「俺たちがハワイに発った日の朝だ。 つまり、結婚式の翌朝だ。

ベッドから落ちて頭と腰を打って、目が覚めたら思い出していたらしい。」

「頭を打って? 私が硬球を脳天にぶつけても思い出さなかったのに?

ベッドから落ちたぐらいで思い出したの・・・笑い話にもならないわね。」

少しヒステリックな声になってしまった。 確かにショックが強すぎた。

颯介はつくしに近づくと、抱き寄せて背中を優しく撫でた。

「つくし、お前はどうしたいんだ? 俺はお前と別れる気はないが、お前が望むなら・・・とりあえずは別れてもいいぞ。

あとで取り戻すけどな。 俺は聖人じゃない、アイツに同情して簡単にお前を渡す気はないからな。

お前次第だ。 お前の気持ちはどうなんだ?」

「・・・正直に言うと、まだ多少は道明寺に気持ちが残っている。

だけどね、私なりに覚悟を決めて、あなたと結婚したの。

5年も死んだように生きていた、それを蘇らせてくれたのは仕事だったし、颯介さんだわ。

私は後悔していないよ。 正直、結婚式を挙げる前に思い出していてくれたら、どうなっていたかわからない。

でも、今では遅すぎるし、5年前ほどの愛情はもうないと思う。」

颯介は神妙な面持ちで黙って聞いていた。 そして、つくしの言葉が引っかかっていた。

”思い出してくれたら” 彼女は”くれたら”と言った、つまり道明寺を責めているのだ。

なぜ今頃思い出したのか、なぜ今まで思い出さなかったのか。

心の中の正直な気持ちが出たのだと思う。

覚悟を決めて結婚したのは真実だろう、だが、まだ道明寺を愛しているのも事実。

色々と言い訳しても、たぶんこの結婚を後悔している気持ちもあるのだと颯介にはわかった。

つくし次第だ、彼女の気持ちには気がつかなかったふりをしよう。

それが今の彼女にとって良いことだと思った。もちろん、自分にとっても・・・。

いつか彼女は言い訳などせずに、自分で決断するときが来る。

俺か道明寺を選ぶときがくるだろう。 

彼女がどう考え、どう願っていたとしても正直な気持ちをお互いに伝え合うときが来る。

その時に嫌な言葉を聞くのはどっちだろう。 俺か、道明寺か・・・



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