颯HAYATE★我儘のべる

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番外:煬介×滋 いつのまにか愛してた




いつのまにか―――愛していた。

最初は責任感と罪悪感、それに同情だったと思う。

自分の言った厳しい言葉が彼女をさらに追い詰めたかもしれない。

自分の言葉も結局は身内中心の考えだったと後悔し、彼女の行く末が心配になった。

彼女の父親によって離婚は成立し、そして彼女は無理矢理カナダの別荘へと送られた。

俺は大河原会長に連絡をとり、カナダの別荘を訪ねる許可を得た。




別荘は素晴らしい場所にあった。自然溢れる美しい場所・・・、気持ちが洗われるとはこういうことを言うのだろうと感じた。

俺が訪ねることは内緒にしてもらっていた。彼女はきっと俺を恨んでいるだろう、そう思ったから、しばらく影から見守るつもりだった。

彼女が立ち直る姿を確認したかった。それは自分を罪悪感から救うことでもあったから・・・。

俺が大河原家の別荘の前に立つと、まるで俺が来ることがわかっていたかのように、彼女が出てきた。

突然のことに身体をこわばらせ、そこにただ立ち尽くしていた。彼女の顔を見るのが少し怖かった。

しかし、彼女の顔には憎しみも怒りも、嫌悪すらも浮かんでいない。あるのは驚愕だけだった。

「え・・・鷹野煬介さん・・・?」

彼女がカナダに発って1ヶ月。たったの1ヶ月で人はこれほど変わるのだろうか。

日本にいたときと違い、優しげな顔をしていた。喋り方すら変わった気がする。全体的に落ち着いた雰囲気がある。

「こんにちは、おひさしぶりです。」

「―――どうして・・・?」

どうして、ここにいるのか。俺はそういう意味だと判断した。

「あなたのことが気になって・・・それにあなたに謝罪したかった。」

俺がそう言うと、彼女は黙って俺を見つめていたが、しばらくすると家の中へ案内してくれた。




「コーヒーでいいですか?」

「なんでも結構です。」

まさか、彼女が自分で淹れるとは思ってもみなかった。日本では使用人がすべてしていた。

彼女自らがコーヒーを淹れるなど有り得ないことだっただろう。実家でも、道明寺家でも。

―――コーヒーはおいしかった。

「―――美味しいよ」

俺がそう答えると彼女は嬉しそうに笑った。彼女の笑顔を見たのはこれが初めてだった。

こんなに綺麗に笑えるのだ・・・日本にいたころはいつも険しい表情で余裕のない顔をしていた。

「君は笑っているほうがいい」

自然に出た言葉だった。彼女は目を見開いて俺を見ている。俺自身、なぜこんなことを言ったのかわからないが、気がつけば口から出ていた。

「―――ありがとう。」

彼女は顔を赤らめ、小さい声で言った。

俺は今いわなければならないと感じた。今、ここであの時の俺の言葉を謝罪し、そして気持ちを言わなければ。

「あのときは・・・申し訳なかった。君を責める資格は俺にはないのに・・・」

彼女は俯いて小さく頭を振った。

「―――あのときは、責められても当然だった。私、煬介さんの言うとおり、自分のことばかりで司やつくしの気持ちを考えていなかった。

今、ようやく・・・私は我儘だったってわかったの。」

「俺もね、あの時は君を責めてしまったけど、後から色々考えたんだ。

俺自身、自分のことしか考えていなかった。いや、俺というよりも俺の身近にいる人たちのことだけを考えていた。

兄さんとつくしさんの幸せ以外は何も考えていなかった。君のことは・・・一切考えていなかったんだ。

あとで思ったよ・・・一番傲慢なのは俺なんだって。」

「―――」

彼女は何も言わなかった。だから、俺は続けて自分の気持ちを吐露した。

「俺は偉そうに君に説教する資格なんてない。それなのに、君を傷つけたよね。

誰だって自分が一番かわいいもんだ、それは当然だ。俺は・・・あの後、ずっと後悔していた。

君だけを責めて悪者にしてしまったことを―――」

彼女は涙目になっていた。辛い過去は誰もが振り返りたくないものだ。

それなのに、俺は思い出させているのかもしれない。そう思うと胸が痛かった。

俺はまた自分のことしか考えていないのかもしれない。自分の気持ちが軽くなることだけを望んでいるのかもしれない。

「私・・・つくしが初めてできた親友だった。つくしに出会って、F4や桜子っていう親友ができた。

つくしと初めて会ったのは司とのお見合いの後だった。まさか、司が彼女を好きなんて知らなかったから一方的に彼を追いかけてた・・。

その頃、つくしは道明寺のお義母さんに司との交際を反対されて、ひどい妨害にあっていたの。

それに育ちの違いも気にしていた。だから、あの二人は一度別れたのよ。

そして、司は私と付き合いだした。幸せだった・・・、そのとき本当は気がついてたの、司もつくしもお互いが好きなんだって。

この二人は両思いだって・・・気がついていたのに、それを言うと司は私と付き合ってくれない。

だから、その時も私は自分の幸せのために親友を裏切ったの。」

俺は二人の交際に道明寺サイドが反対し、妨害していたことは知っている。友人の家を脅迫に使ったことも知っている。

だけど、大河原とのお見合いも妨害の一つとは知らなかった。以前にお見合い話があったことは知っていた。

だが、一度交際するまでになっていたとは。彼女は2度、道明寺司を手に入れ、そして失ったのだ。

「あの頃は・・・それでも、二人がはっきり気持ちを言えば、二人の幸せを願って身を引けた。色々あったけど、諦めることができたの。

司のことは好きだし、つくしとのことは辛かったけど、彼の幸せそうな顔を見れば応援することもできた。

だけど・・・強欲だよね・・・彼がつくしのことだけを忘れたとき、悪魔が囁いたの。

これで司は私のものだって。偶然にもまた道明寺からお見合い話が来て・・・

父は前回のこともあったし、記憶喪失のことも知っていたから断ろうとしたのよ。

でも私が・・・どうしても彼と結婚したいと言い張ったの。父を説き伏せて無理やり結婚した。

彼は最初から政略結婚だといったし、愛情がないとも言った。だけど、夫婦として生活していれば、いつかは愛情も得られると思っていたの。

不思議だよね、記憶を失っていても彼は私を愛することはなかった・・・。

つくしのことは忘れているくせに、彼はずっと心の中にいる誰かわからない女性に恋焦がれていた。

それはつくしなのよね。たとえ記憶がなくても彼はずっとつくしを愛していた。

煬介さんが言ったように・・・最後はもう執着だったと思う。あれは愛じゃない。

おもちゃをとられたくない子供と同じ。勝ち負けでつくしに張り合っていた気がする。

今頃気がついても遅いよね・・・結果、親友を失っちゃった・・・」

彼女はそう言うと、寂しげな笑顔を向けた。 彼女の言う親友はつくしさんだけじゃない、F4や三条桜子のことを言っているのだろう。

彼らも彼女に対して怒りを感じていたらしいから、親友すべてを失ったということだろう。

だが、そこまでしても道明寺司という男を欲しかったということだ。

俺は胸が痛くてたまらなかった。俺はみんなに幸せになってほしかった。

だが、それこそが傲慢だと思う。俺は神じゃない―――すべての人間を幸せにする力があるはずがない。

俺は偽善者だ、そう思った。だが・・・俺は償える。どんな間違いでも正すチャンスはある。

「それに気がつく人間はマレだろう? 自分の間違いに気がつく人間は少ない。

それを正す勇気を持つ者はさらに少ない。君は立派だよ。

俺の傲慢な台詞を今こそ謝りたいと思う、悪かった・・・」

「ううん、本当に煬介さんのおかげで目が覚めた。私は自分で勇気を出したわけじゃない。

父に無理やり離婚させられ、無理矢理ココに連れてこられたの。立派じゃないよ・・・。

でも、今は感謝している。ここに来て、静かに生活していると気持ちが落ち着くの。

今はもう・・・これでよかったんだって思えるから。」

「そっか・・・良かった。君が・・・元気になって。」

「大丈夫、もう死ぬことなんて考えてない。この私がそんなことを考えてしまうくらい、あの頃はもうおかしくなっていたんだと思う。

執着しすぎて普通じゃなかった。煬介さんも私のことはもう気にしないで。もう大丈夫だから―――」

彼女はそう言うとさっきとは違った笑みを見せた。日本で見た彼女と違って、輝いていた。

俺は・・・何かわからない、モヤモヤとした気持ちを抱えて日本に戻った。




俺は暇さえあれば、彼女の様子を見にいった。これが愛情だと気がついたのは随分たってからだった。

兄が病に倒れ、闘病生活を送っているときも俺は彼女の元を訪れた。兄とつくしさんの近況も教えた。

「お見舞いに行きたいけど・・・私が行ってもつくしも颯介さんも喜ばないよね・・・」

彼女の言葉に胸が締め付けられた。

そんなことはないといいたかったが、つくしさんはともかく、兄は痩せ細った体を他人に見せるとは思えない。

「兄は・・・もう永くないよ。きっと君が行けば喜んでくれると思う、でも兄は痩せた体を人に見られるのを嫌うんだ。

それにつくしさんは妊娠していて、大事な時期だ。お客様をお迎えする準備ができないんだ。」

本当は彼女もわかっている。だけど俺の言葉に納得したように頷いた。

それから・・・半年がすぎた頃、兄が亡くなった。葬儀に出たいと言った彼女を俺は断らなかった。

まだ何も言っていない、だけど俺は彼女が運命の女だと感じていたから―――。




彼女は一人で葬儀にやってきた。ここに来るには相当の勇気が必要だったに違いない。

司くんもいる、F4に桜子さんも、そしてつくしさんもいる。彼女が失ったともがすべている場にくるというのは大変なことだ。

彼女は強い―――そして毅然とした態度で参列する彼女を美しいと思った。

つくしさんも彼女の存在に気がついたようだが、話す時間はないだろう。

小さい子供を抱え、葬儀を取り仕切っている。俺は手が空いた時間を利用し、彼女に挨拶に向かった。

「来てくれてありがとう。」

「―――煬介さん」

「来るのは勇気がいっただろう?それでも・・・来てくれてありがとう。」

俺が笑顔を向けると、彼女も寂しそうに笑った。

こうして、久々に日本を訪れても、かつての親友と話すこともできない。彼女は今、その現実を受け入れようとしてるのかもしれない。

だが・・・彼女がこれ以上辛い思いをすることが正しいとは思えなかった。

だが、ここで彼らを責めるわけにはいかない、でも、何とかしなければ、と俺は考えていた。

その時、後ろから声をかけられた。

「やあ」

彼女の目が大きく見開かれる。俺が振り返ると、そこにいたのは花沢類だった。

「ひさしぶりだね」

類は何事もなかったかのように彼女に話かけている。俺も彼女も戸惑っていた。

「―――花沢・・・くん?」

「元気にしてた?」

「―――うん」

類くんは過去に何もなかったかのように、彼女に接していた。実際、彼は彼女を傷つけたわけじゃない。

親友のために怒っていたのだ。彼はつくしさんを愛していた。

だから、つくしさんを苦しめたことが許せなかったようだ。

つくしさんが幸せを見つけ、実際に幸福な生活を送っていることで彼女を許すことができたのかもしれない。

こうして、かつての親友に話しかけてもらうことは彼女にとって大事なことだった。

俺は黙ってその場を離れた。彼は絶対に傷つけることはしない、そう確信があった。




俺は葬儀が終わったころ、司くんに兄の伝言を伝えた。これから先は彼しだいだ。

俺にはどうすることもできない。斎場に戻ると、滋さんが立っていた。

「煬介さん・・・」

「花沢くんとの話はどうだった?」

俺がそう訪ねると、彼女は嬉しそうに答えた。

「みんな、許してくれたのかな・・・?少しだけど、西門さんや美作さんとも話せた。桜子も・・・とても嬉しかった。」

本当に嬉しそうだった。たぶん、俺が今までに見た彼女の笑顔は最高のものではなかったのだろう。

この笑顔を見れば、それがよくわかる。

「良かったな」

「うん・・・煬介さん・・・ありがとう」

恥ずかしそうに感謝の言葉を述べる彼女が愛しかった。俺は感謝されるようなことは何もしていない。

「―――滋さん、司くんのことはもうふっ切れた?」

「・・・うん、前にも言ったけど・・・最後はもう愛情じゃなかった、ただの執着。

司とは話せなかったけど、もしも話せるなら謝りたいし、普通に話すこともできると思う。」

「そうか・・・」

彼女が司くんの呪縛・・・自分で自分を縛り付けていた鎖から逃れたことが単純に嬉しい。

心の底から湧き上がる喜びに俺は悟った。

俺は―――彼女を愛しているんだ―――

そう、いつのまにか・・・彼女を愛していた。俺はきっと、これからもカナダの彼女の元を訪れるだろう。

そして・・・近い将来、彼女にプロポーズをするに違いない。

本当に気がつかなかった。いつのまにか俺は彼女に囚われていた。

―――いつのまにか、愛していた―――――

FIN



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