颯HAYATE★我儘のべる

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天は雑草に悩まされる



高天は言いようのない怒りに捕らわれていた。

なずなが他の男と帰宅したのだ。学年が違えば終業の時間も違う、だから先に帰宅するのは当然だろう。

だけど、いつもは俺を待っているのだ。

ところが今日はいないでの不思議に思い、なずなのクラスを訪ねると友人らしき人物から「栃原くんと帰りましたよ。」と聞かされたのだ。

「―――誰だ、栃原ってよ・・・」

聞いたこともない名前だった。なぜか怒りがこみ上げてきた。

別に一緒に帰ろうなんて約束はしていない、だから待っていなくてもいいのだが・・・

「いつも待っているんだから、待っていると思うじゃねぇかよ・・・」

高天はボソリとつぶやくと踵を返し、帰宅の途についた。




今は自転車通学をしているので、綺麗なマウンテンバイクを転がしながら家をめざす。

辺りを見回せば、スーツでMTBに乗る男が3人ほどいる。別に珍しい光景ではない。

スーツにヘルメットをかぶり、MTBに乗って通勤する人間は存在する。

だが、3人の男たちは高天を煩わせない程度に離れているが・・・よく見れば高天を囲って走っている。

つまりその3人は道明寺家のSPで高天を影ながら警護しているわけだ。

その光景もいつものことなのだが、その日はイライラが募り、鬱陶しいことこのうえない。

「この俺に警護なんて必要ねぇよ!!!」

そう言うと、足を繰り出し、すぐ近くにいる自転車の車輪を思い切り蹴り上げた。

なんの前触れもなく、警護対象の人間から発せられたいきなりの罵声と足蹴にSPはなす術もなくバランスを崩した。

他のSP2人に驚きで一瞬だけ隙ができたのを見逃さず、高天はその二人にもすばやく腹に蹴りを入れた。

そしてそのまま自転車に飛び乗ると、その場を離れた。

「高天坊ちゃんっ!!!」

SPの呼ぶ声が聞こえたが振り向かずにそのまま走り続けた。屈強なSPだが、高天とて小さい頃から防衛術として武道の全般は仕込まれている。

おそらく新米のSPくらいは簡単に倒せるだろう。だが、今日の奴らは小さいころから知っている。

高天の性格も知り尽くしているから、蹴りに対して咄嗟に腹の筋肉を締めたのに気がついた。だからこそ、捕まる前に逃げたのだ。

アイツらのことだから、すぐに俺を見つけるだろう。

「何分の自由かな」

高天はそんなことをつぶやきながら、別に寄り道するでもなく、家に向かって自転車を走らせた。

家に帰るならSPを巻く必要などないのだが、なんだかイラついて八つ当たりの対象が必要だった。




「よお、お坊ちゃま。お帰り」

出迎えてくれたのは使用人ではなく、社会人になり父の後継者として忙しい兄だった。

「誰がお坊ちゃまだよ。兄貴、暇なのか? 仕事で失敗して外されたのか?」

「―――お前なぁ・・・久しぶりに会ったお兄様に対する態度がそれか?」

兄貴は社会人になってから海外に行くことも多く、家にいることが少ない。たとえ家に戻っても俺が寝た後に戻り、起きた時には出勤している。

どこかのワーカホリックな父親のようだ。

「―――お兄ちゃん、久しぶりぃ。会いたかったぁ・・・って抱きついてほしいのか?」

「それは気持ち悪いな・・・」

「だろ?」

「―――まあ、いいさ。それでお前の不機嫌の理由はなんだ?」

兄貴の突然の話題変換となぜそれを知っているのかという驚きに俺は目を見張った。

「SPから家に連絡があったんだよ。お前が暴走したってよ。腹を蹴られたときに受信機が壊れたらしくてGPSで追えなかったらしい。

だから屋敷から調べたんだ。まっすぐに家に向かっているみたいだからSPどもにはそう言って戻るよう言いつけた。

ちなみにお前の帰宅も連絡済だからな。SPにもお袋にも。」

「―――え?」

「親父に言わないだけ良かっただろ?」

どっちかと言えば、親父の方が被害は少ない気がする。あの親父も俺くらいの時には何かあるとすぐにSPを殴る蹴ると暴行を働いていたらしいし。

俺も相当強いつもりだが、当時の親父は化け物並の強さだったらしい。




俺の部屋に兄貴もついてきた。きっと理由を聞くまでは俺についてまわる気なのだろう。

仕方がない・・・

「で、イライラの原因は何だよ。」

「―――いや、なずながさ」

「なずな?なずながどうかしたのか?」

「―――俺を待たずに帰ったのさ、栃原って男と。」

俺がそう言うと、兄貴は怪訝な表情で押し黙ってしまった。

「だから・・・何でイラつくんだ?」

「え・・・だって、いつもは待ってるんだぜ? 今日も待っていると思うじゃん。 黙って男と帰っているなんて思わないだろ?」

兄貴の眉間の皺は更に深くなる。―――なんで?

「お前な、どっちにイラついてんだよ?」

「どっちって?」

「だからさ、なずながお前を待たずに帰ったことか、男と一緒に帰ったことか、どっちにイラついているんだ?」

―――は? そう問われるとは思わなかった。

俺はどっちに怒りを感じている? 苛立ちを感じている?

自分にそう問うてみれば・・・どちらにも。 そう答えるしかない。

「だいたい、約束をしていたわけじゃないんだろ? 先に帰ったぐらいでイライラする必要はないだろうが。

八つ当たりされたSPも散々だよなぁ。アイツらにしっかり謝っとけよ。」

「―――俺って・・・」

「なんだよ?」

「なんか、割合で言えばさぁ・・・栃原なんて知らない男となずなが帰っていたことにムカついている気がする。」

正直に自分の気持ちを吐露すると、兄貴は変な顔になった。

「―――お前、それって・・・」

「何? なんでムカついてんだろ。」

「ぶわははははははっ!!!!!」

突然、兄貴は腹を抱えて笑いだしてしまった。俺はと言えば、兄貴が狂ったのかと呆れてその姿を見ていた。

「お、お前って鈍感すぎ。あの夫婦の子供だよなぁっ!」

兄貴は目に涙をためて大笑いしている。―――って、お前も「あの夫婦」の子供だろう!?という突っ込みはとりあえず置いておこう。

「どういう意味?」

「どう考えても・・・お前は・・・なずなに惚れてるってことだろっ!? そうじゃないなら何でそんなことでイライラすんだよ?」

―――俺がなずなに惚れている? それは・・・いや当然、女としてってことだよな?

「俺が? ・・・いや、兄として妹を心配してんだろ?」

「―――ぷっ!! お前が兄としてなずなを? 兄として、ねぇ・・・。」

兄貴はまだ笑いながら意味深な表情で俺を見つめている。

「―――あのな、この間なぁ、楸が男と遊びに行ったぞ。」

「は? そうなのか? アイツ、あの年齢でもう彼氏がいるのかよ。」

俺がそう返すとまた大笑いされてしまった。でも気がついてしまった、楸は実の妹だ。それに彼ができても平気なのだから兄としての心配ではないということだろう。

「いるんだよ。俺に紹介していたぞ。親父が知ったらどうなるんだろうなぁ。

・・・で、楸のお兄様としては、さぞかしご心配でしょうねぇ。」

意地の悪いヤツだ。俺の気持ちが兄としてのものじゃないとわかっていながら、この科白だ。

俺は兄貴を睨みながら・・・それでも意地を張り、こう答えた。

「ああ、兄貴としては心配だよっ!!!」

榊はニヤニヤとしながら「そうだな」とだけ答えた。

俺はなずなへの気持ちを自覚した。だから、これ以上何も言う必要はないと判断したのだろう。

兄貴は忙しいと言って、またどこかへと消えていった。





「俺が・・・なずなに惚れてる??」

部屋に一人残った俺は、不思議な気持ちでつぶやいた。

おそらく、その通りだと自覚したが、それでも信じられない思いがある。

だって・・・そうだろう? 俺たちは赤ちゃんの頃から一緒にいるんだぞ。どう考えても兄と妹的な関係だ。

それが、どうして女として惚れるんだ?

なずなと楸の違いって何だろう。

俺は盛大にため息をついた。すると、ため息にあわせるように携帯がメロディーを奏ではじめた。

「はい?」

「あ、てんちゃん??」

「―――なずな」

「うん。てんちゃん、ごめんね。今日クラスによってくれたんでしょう?」

「ああ。お前は栃原ってヤツと帰ったらしいな。」

普通に喋ろうとするのだが、なにせ、恋心を自覚したばかりだ、どうしても嫉妬したような口調になる。

―――いや、嫉妬しているのか?

「うん、そうなの。栃原君、具合悪くなってね・・・委員長としては放っておけないから送っていったの。

栃原君の運転手さんも病気らしくて迎えに来るのが遅くなりそうだったからね・・・。

うちの車を呼んで家まで送って急いで戻ったんだけど・・・てんちゃん、もう帰ってた。ごめんなさい。」

なずなの言葉に少しだけ気持ちが浮上する。

―――なんだ、栃原ってヤツは具合が悪かったのか。委員長としての義務で送っていったのか。

一緒に帰ったけど、そういうわけだったのかと俺はホッとした。

それに、なずなは急いで戻ったと言った。つまり、俺と一緒に帰りたかったってことだよな。

「まあな。お前もそのまま帰ると思っていたからな。・・・で、その栃原ってのは?」

「うん、なんかね・・・インフルエンザなんだって。運転手さんもそうなの。」

インフルエンザ?? それって感染するんじゃねぇのか?

「お前、予防接種受けてるんだろうな? それってうつるぞ。」

「えっ!? そうなの? じゃ・・・菌が私にもついてる? 今からそっちに行こうかと思ったけど・・・やめようかな。」


「なんで?」

「え、だって私に菌がついてたら、てんちゃんにもうつるかもしれないでしょ。」

そうか、俺にインフルエンザをうつしたくないのか。その程度にはなずなも俺を思っているってことだよな。

「そう簡単にうつるかよ。来いよ、茶くらい用意しておくから。お袋ももうすぐ戻るし。」

「―――いいの?」

「いいに決まってるだろ。」

「うん。じゃ、今からくるね」

電話が切れた後、俺は小さくガッツポーズをした。

―――なんで? なんで、ガッツポーズ?

自分の行動がイマイチ理解できない。だが・・・やっぱり惚れてるってことなんだよな?

なずなが来るってだけで、気持ちが少し浮き立っている。

う~ん・・・なずなは妹・・・じゃなかったのか? 俺ってなずなに惚れてるんだよ・・・な?

高天の悩みは今、始まったばかりだった。

FIN


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