かるちゃーしょっくな朝ごはん


家庭によっては違うというところもあるのかもしれないが、私の知る限りフランスの朝ごはんは各自バラバラの時間帯、各自好きなものを食べるというのが主流のようだ。

坊男の実家に来る前まで、私の朝ごはんスタイルは母が早く起きて作った朝ごはんを家族一緒に摂るというのが基本だった。ハリウッド映画を見たって、トーストに目玉焼きとサラダという場面を何度も見ていたから、当然のように坊男の実家でも出来立てのまだ温かいクロワッサンにコーヒーなんかを期待していた。

坊男の実家に初めて泊まった日の翌日、不安と緊張そして日本から直接来たための時差ぼけのせいもあって、うつらうつらと眠り、朝目覚めると5時半。
「こんなに朝早く食卓に行ったら迷惑よね。」
とベットの中で思い、もう一眠りしたかったが眠れず我慢すること1時間半。ようやく7時になり、1階の食卓の方からグラスの音など聞こえてきだしたので簡単に身支度を整え、眠っていた坊男を起こした。
「起きてよ~。」と私。
「もうちょっと寝かせてよ。」と坊男。
「ダメよ。最初の日からあんまり遅くまで寝ていると感じ悪いし、第一私フランス語話せないから、あんたがいないと食事中に坊男父母となにも話せなくて困るでしょ。」
とこんなかんじで、無理やり坊男を起こし、食卓にむかった私を待っていたものは、クロワッサンでもフレンチトーストでもなく、前日の晩に私達が食べた後の皿をちょうど片付けているところの寝起きのままの坊男母だったのだ。
「おはよう。あ~あんた達起きたのね。私も今さっき起きたところなのよ。コーヒー飲む?朝ごはん何にする?クッキーもマーブルケーキもチョコレートそれからシリアルもあるわよ。」
私はその場で絶句した。だって出てくるもの全てお菓子。私の感覚では朝ごはんになるようなものは一つもなかったのだ。とりあえず、私はコーヒーだけ頂くことにして、様子をみると、坊男とその母はクッキーやらマーブルケーキやらを美味しそうにほおばっている。テーブルの上にはまだ片付いてない皿や鍋なんかが載っているし、前の晩に食べたフランスパンのカスがちらばっているままだ。朝ごはん(と呼んでいいのか?)のためにお皿を出すこともなかった。

こんな調子で過ごすうちに気付いたことは、彼らにとって朝ごはんとはごはんでないんじゃないかということである。その証拠に昼・夜ごはんの前には「ボナペティ」の一言(日本語の「いただきます」のようなもの)は必須だが、朝ごはんの前にはまず聞いたことがない。朝ごはんにクロワッサンなんかを食べる時でも同じことだ。

最初のうちは、ごはん・味噌汁・塩シャケ・ほうれん草のおひたしなんかの朝ごはんが恋しくてたまらなかったが、結婚し自分が主婦になってみて、朝から何も作らなくていいし、パン屋にクロワッサンを買いに行くことないし、洗い物のコーヒーカップひとつで済むフランスの朝ごはんは自分にとって楽だということに気付いてからは、これはこれで悪くないなと思うようになった。すっかりお気楽主婦が板についた私はすでに仕事に出かけた坊男がいれたコーヒーを飲みつつ板チョコを頬張り、今朝もぼんやりインターネットを見ているのである。


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