うたたねの店

うたたねの店

懐かしい人



時々、ずいぶんと以前のことを静かに思い出すことがあります。
例えばテレビをぼんやりと見ていて、ずっと会っていなかった懐かしい人のことを不意に思い出す。
その人の存在すらすっかり忘れ去ってしまうほどに、疎遠になってしまった人。
一体今、どこで何をしているんだろう。

私は相手に危機感を感じさせるほどにマイペースで、自分でさえも
たまに嫌気がさすことがある。
相手に「頼むから少しはペースを合わせてくれ」と言われることがあるけれど、私は精一杯合わせているつもりだった。
もしくは、行動を早くしても心が追いついてこなかったりして、
心が追いつくのを待っているとやはり遅れをとってしまうのだ。
気がついた頃には、相手が自分とはずいぶん離れた場所にいる。
精神的にも距離的にも。

私が中学生だった頃、塾の先生と仲が良かった。
優しい先生で、当時20才だった。私とは5歳の年の差。
塾を辞めた後も手紙のやりとりがあったり、遊びに行ったりして。
でも最後に会ったのが、4年前だろうか。
私は彼が私に恋愛感情を抱いているのかどうか、わからなかった。
また確かめるのも何だかおかしい気がした。
気恥ずかしくて、もどかしかった。
塾の先生の延長だったからだろうか。

確か最後に会ったときに
彼に「僕はまだ先生なのかな」と言われた。
私は何と答えたのか、思い出せない。
核心にせまる言葉だった。でもそれから先の話はしていない。

ずいぶん会っていない。
毎年年賀状のやりとりはしている。今年も届いた。
「なんとかやっています。」とのこと。

塾で数学を教えてくれていたときと、全く同じまるっこい字。
とても懐かしい気分。変わっていない安心感を感じてしまう。

ひととのつながりは不思議。
毎日死ぬほどたくさんの人と電車や、街中で出会う。
知り合いになることもなく、通り過ぎていく。
出会ったとしても、もう会わない人もいたりして。

懐かしい人は今どこに?
思い出すと色んな記憶が蘇るので、またそっと心の扉を閉じておくことにしよう。




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