見たまま、感じたまま、思ったまま

グッドバイ

MAKI


「マイ・マン」by浅川マキ(TOCT-6934)より
グッバイ
作詞 浅川マキ
作曲 板橋文夫


<この歌を最初に聞いたというか見たのは、「幻の男たち」というレーザーディスクであった。確か高知の中村に居た27才頃だったと思う。本田俊之のアルトサックスのソロに引き続いてマキさんが歌い出した。サックスと同じパート、同じ長さを歌って静かに歌は終わる。
その歌詞どおりのしずかな春の夜だった。

マキさんのレコードジャケットに共通した、モノクロが少しぼやけてにじんでいるようなイメージ。そんな夜だった。霧のような雨が降り、それに街灯の水銀灯の灯りがぼやっと溶け出している。空気はなま暖かく落ち着かない春の夜。

マキさんのオリジナルの演奏が入っていたのは81年に発表されたアルバム「マイ・マン」である。その頃のマキさんは、日本の腕利きジャズミュージシャンをバックにアルバムを作ることが多かった。中でも「マイ・マン」は、75年に発表の「灯ともし頃」と並ぶ傑作である。
そのアルバムでも本田俊之がサックスを吹く。そしてここでは杉本喜代志のE・ギターのソロに続いてマキさんが唄う。ピアノは渋谷毅さん。

解説を読んで、その歌が元々はインストゥメンタルであることを知る。ジャズ喫茶のエンディングに使われていたのを聴いて、気に入ったマキさんが歌詞をつけたのだ。作曲したのはピアニストの板橋文夫。
解説を読まなければ、まさかそれが元々歌詞のなかったものとは思えないだろう。

後年、その板橋のオリジナルを聴く機会を得た(ずっと探していたのだ)。
94年に世に出た森山威男クインテットの「Over The Rainbow」。そのバラードを集めたアルバムの中で演奏されていた。板橋は森山バンドのピアニストだったのだ。山下洋輔トリオの初代ドラマーであった森山と、あの美しい曲の板橋のピアノという取り合わせが意外だと思ったが、そこで聞けたのは珠玉の美しい演奏であった。私はこんなに大きく美しいドラムの音を聞いたことは無い。
マキさんの時には目立たなかったドラムがもの凄い音量で自己主張しながらも、美しい旋律を壊すことなく引き立てているのだ。
マキさんの歌の替わりに、ここでは林栄一のアルトサックスと、井上淑彦のテナーサックスが唄っている。
林のアルトが抜けた、本来のカルテットの演奏も、90年発表の地元名古屋のライブ「ライブ・アット・ラブリー」で聴くことが出来る。

独身の頃、飲み会にはこのマキさんのCDを持って出かけ、最後に行きつけのバーへ行き、この曲をかけて貰って自分自身のエンディングにしていた。
春になるとこの歌を聴きたくなる。そして霧雨に煙った春の宵闇の中に響いてくるマキさんの歌を思う。

今 しずかな夜
ちょうど いい季節
誰も知らない抜け道を
急ぐ あなたが見える

自分にさえもサヨナラした
あなたの 背中がゆく

もう愛せないの
闇を駆ける さすらいびと


虹の彼方に


「Over The Rainbow」森山威男(TKCAー70495)



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