手術


失敗続きだった。
注入のミルクの量や体重も順調に増えていたし表情も豊かになってきて
赤ちゃんらしくなっていたが管が取れない以上退院の見通しは
まったくつかないままだった。
しかし一歳になるちょっと前から問題がおきてきた。
一つは新生児用のコットでは小さなムスメでもかなり窮屈になってきたこと。
当時のNCUの体制はあくまでも新生児だけだったので
幼児用のベットを準備してもらうよう頼んでもいれてもらえなかった。
これは主任看護師さんが根回ししてくれたおかげで
小児科から短期だけという約束でレンタルしてもらうことができた。
しかしもう一つの問題はムスメに歯が生えてきてしまったことだった。
生後10ヶ月くらいから乳歯が生えてきたことは知っていたし
修正月齢六ヶ月と考えてもかなり早いほうだ。
むしろムスメがちゃんと成長していることがわかって嬉しかったのだが
どんどん本数も増えていきこのままでは送管チューブを噛み切って
しまう恐れが出てきたのだった。

担当医師とも相談の上三月には最終手段である
をすることで決まった。
器官切開にはリスクがあることも聞いてはいたのだが
今のムスメにとっては入院が長引くことが最大のリスクだと
思っていたので私も夫も同意していた。
外科医の話も聞き後は手術日を決めるだけというところまで
きたときNCUの担当医が急に違う話を持ち出した。
ムスメの大学病院は他に分院があるのだが
来月の人事異動で分院から留学経験のある小児外科医が来るらしい。
この先生に相談してみたところ気管切開ではなく
ムスメにとって有効な別の手術があるらしいので
その先生が来る四月まで待ってくれないか?とのことだった。

この申し出には正直がっかりした。
今のムスメは気管切開をすれば退院の見通しがつくはずなのに
またもや延期!しかし医学には無知な人間としては
専門医に従うしかなかった。
四月になってようやく外科医と担当医と話をすることができた。
ムスメの場合気管の一部分に細い箇所があるので
送管チューブを取ると気道が細くなり呼吸ができなくなるらしいので
ムスメ自身の軟骨を切除して軟骨を埋め込み喉を広げるようにすることに
よって気道が確保できるのではないか?とのことだった。
しかしこの手術はこの小児科医もまだ二回しか執刀したことがないらしい。
しかも一回は成功したものの一回は失敗したらしい。
単純計算するなら成功確率は50%ってことよね?
アメリカ帰りのこの医師も外科医のせいか
ムスメのためというよりは自分の経験のために
やりたい!という感じ。ムスメは単なる実験材料なのね。
と思うと不快だった。
あまのじゃくな私は
「そんな可能性の低い手術ならいやです!
安全策のとれる器官切開にしてください!」と頼んだ。
ところが担当医の小児科医は
「私もムスメさんが退院できる方法はないかと
色々調べました。確かにこの手術は先例では確立は半々だけど
うまくいかなかった症例はムスメさんよりも条件が悪い場合でした。
だからムスメさんだったらきっと成功する可能性は高いと思う」と
熱心に勧めてくる
担当医は温和な感じの女医さん。面会にいってムスメの様子を聞くたび
ムスメが退院できないのはまるで自分の実力不足のように
申し訳なく思っているような優しい先生でした。
ちょっと頼りない印象ももっていたのですが
あの人が専門家としてきちんと説明してくれるのだが
お任せしよう!と決めることにした。

ムスメの手術は3時間ほどかかった。
といっても麻酔をかけてからさめるまでの時間としては
かなり短いようで手術した家族用の待合室では一番最初に
連絡がありました。
手術自体は無事成功したのですが
二週間は自発呼吸を止められて呼吸器をつけたまま
様子をみることになりました。
最終的な成功はムスメが抜管できるかにかかっています。






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