おいしくありたい! あたふたカナダ生活記

おいしくありたい! あたふたカナダ生活記

地獄の新婚生活



彼がカナダに来たのは2月14日。私は2月7日に転職したばかり。彼はすぐに学生ビザの申請をしにアメリカのバッファローのカナダ領事館まで行った。
私は新しい職場に慣れるのに必死だった。それまでやっていた仕事とは違って、技術用語の翻訳とか、とにかく頭が痛いものばかり。
そんなある日、生理が遅れていることに気づいた。検査薬で調べてみる。結果は陽性。あー、こんな状態で子供を産めるだろか。。。。

4月はじめ、移民局からレターが「健康診断の書類が遅れています。提出してください」。ってことはドクターが書類をまだ送ってないのか。
ドクターからは「別の病院で、もう一度検査してください」と。やっぱり、引っかかってしまった。別の病院で検査を受ける。すると「6ヵ月後、もう一度、レントゲンを取って問題がなければ、大丈夫です」と言われてきた。え?あと6ヶ月もビザがこないの?

それからの生活は地獄だった。
今までバリバリと働いていた人が、家でごろごろする毎日。彼の心はすさむし、それを見ている私もすさむ。おなかの子供だけはスクスク育つ。
けんかは絶えない。
私は気分転換にと思って、彼を外に連れ出そうとするけど、彼はあまり外にも出たがらない。私は自分を責めた。私が彼の人生を変えてしまっている。
でも、どうしても彼にはカナダで勉強してもらいたかった。

そう、婚姻届のこと。さっさとカナダで籍を入れればよかったんだけど、仕事が忙しくてマリッジパーミットを取りに行くにも行けなかった。彼に頼んでもあの頃の彼は嫌がっただろうし。

ある日のこと、彼は私に言った。「今、僕が一番心配なのは、おなかの子供のことでもない、両親のことだ。」「今、僕は後悔している。両親の面倒を見てくれる人と結婚すればよかった」「僕は妻には親の面倒を見てくれて、子供を生んでくれればそれでいい。僕にとって妻とはそれだけのもの」と。
私はこの言葉で「韓国には住めない。韓国へ言ったら私は確実に不幸になる」と。
それからが地獄の始まりだった。
私が一転して「韓国には行かない。行くなら別れる。子供は私が育てる」と言うようになったのが、彼を怒らせるきっかけになったんだけど。
彼も彼でひどいことを言ってくる。
「お前より、もっといい母親はいる。僕はこの子にとってもっといい母親を探すから、子供は僕が韓国に連れて行く」とか。。。
もう、はっきりとした言葉は忘れたけど、皇太子殿下じゃないけど「人格を否定するような発言」が飛び出す飛び出す。。。そのたびに私の韓国に対する思いがどんどん悪くなる。「絶対行くものか!行くくらいなら死んでやる!」といって死場を探しに一人で出かけてたこともあった。
「今、私が死んだら、おなかの子もこの地獄を見ることなくてすむ。そのほうが私にとってもこの子にとってもいいのかもしれない」って何度思ったことか。
今まで会った人の中で「私という人間が存在すること自体が悪いこと」と思わせたのは彼が初めてだ。それほどまで、自分を追い詰め、自分がこの世に存在していることを申し訳なく思い、自分の存在には価値がないとまで思った。本当に死にたかった。
彼も彼なりにいろいろ悩んだんだと思う。辛かったと思う。これで父親になってもいいのかとも思っただろうし、だから思っている以上にひどい言葉を浴びせたのかもしれない。
でも、彼の言葉がトラウマとして今でも心の傷になっている。

8月になって、やっと籍を入れる段取りが整って、形だけの式を行った。本当に私と彼と証人二人。それも一人、途中、車が故障して間に合わなくて、私たちの次に式を挙げる新郎に証人になってもらった。
ちゃんと正式に「夫婦」になったけど、相変わらず喧嘩は収まることはなかった。毎週末になると喧嘩。私がプイっと家を出て帰らない夜もあった。
更に悪いことは起きるもので、バッファローのカナダ領事館からレターが来た。「学生ビザの申請に関して、健康診断書が届かないままになってます。あなたのファイルはこれでクローズします。一度クローズしたら再び開けられることはありません。再び学生ビザを申請する際は、新規で申請してください」と。つまり、学生ビザの申請は書類不十分で却下しますってことだった。もうどうしようもなくなってしまった。
それでも、おなかはどんどん大きくなる。大きくなる。

10月31日、定期健診で内診をしたらもう3cm開いていた。彼はぎっくり腰をして寝込む。仕方がないから針治療に連れて行く。私の運転。治療の途中、陣痛が始まるし。。。もうなんだか踏んだりけったり。
11月1日、早朝 病院へ行く。午前中に生まれた。男の子。
これで少しは変わってくれないかなぁ。。。両親への愛を息子に方向転換してくれないかなぁ。。。とちょっと期待。

だが、更なる悪夢が待っていた。。。


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