内心、私は森岡を見直していた。よく考えてみれば、私は大学にいる時の森岡しか知らなかった。大学にいる時の森岡は、膝の出たコーデュロイのズボンに毛玉が出来ているようなセーターを平気で着ていた。よーく見るとバーバリーであったりするのだが、それを指摘しても「あぁそう。貰いもんだからね」とよくわからないようだった。レディスのブランドにもやたら詳しいような男子学生にウンザリしていた私は、森岡のそういう所もとても好もしく思えた。ところが、成田空港の待ち合わせ場所に現れた森岡は、まるで有能なビジネスマンのような出で立ちだった。ただ、ビジネスマンと違っていたのは、引いていたトランクがゼロハリではなく、かなり使い込まれたヴィトンだった事と、羽織っていたのがバーバリーではなく、当時はまだとても珍しかったディオール・オムのコートだった事だろうか。そして、パリに滞在中、森岡はずーっと紳士だったのだ、あの夜までは...。