それから1ヶ月、私はいつもと変わらない日々を送りながらも、心に棘がささったままのような、何かしなくてはいけない事が山積みになっているような、そんな気分で過ごしていた。大石といても、友達と笑っていても、仕事に没頭していても、ずーっとそれは私の心に引っ掛かったままだった。そんなある日、珍しく残業もなく、予定もなかったので会社からまっすぐ帰宅して着替えていると、電話が鳴っていた。誰も出る様子がないので、仕方なく受話器を取ると「森岡と申しますが、チサトさんはご在宅でいらっしゃいますか」と落ち着いた女性の声が聞こえた。咄嗟に何も答えられず「あ、あの、あ、私ですけど」」と口ごもっていると「チサトさん?突然お電話してしまって、ごめんなさい。あの、今少しだけいいですか?」と、とても感じが良くて、私は思わず「あ、はい、いいです」と言ってしまっていた。「森岡の家内です。お通夜の時は、わざわざおいで頂いてありがとうございました」と、とても常識的な挨拶のあと、森岡の妻は、「一度ゆっくりとお会いしてお話したいので、お時間をとって頂けないかしら」と切り出してきた。![]()
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