大石の母親はヒーターをつけて部屋を暖め、熱いほうじ茶を淹れてくれた。かじかんだ手で茶碗を包みながら、私は久し振りに訪れた大石の家のリビングを眺めていた。リビングのほとんどを、大石がいつも弾いていたグランドピアノが占めており、その傍らにあるソファセットに私は腰をかけていた。子供の頃、このソファセットでよくお母さんごっこをしたなあ、と私は思い出していた。私がさんざんお母さん役を楽しんだ後、大石は必ず「僕も一回だけお母さんやらせて」と言って、私よりずっとそれらしくお母さん役をこなして私を不機嫌にさせていた。こんな時にこんな事を思い出せるなんて余裕だわ、などと考えていた私に、大石の母親は「チサトちゃんはもう知ってるのよねぇ?あの子の事」と聞いてきた。「あ、え、ええ。一応」と歯切れ悪く答えると、彼女は笑いながら話し出した。「私達もねぇ初めて聞いた時はびっくりしたのよそりゃ。それも本人の口から聞かされたんだから。おじさんはかんかんになって怒るし、蓉子はそれからしばらく聡と口きかないし、私もどうしていいかわかんなくてねぇ」蓉子というのは嫁いで東京にいる大石の3歳違いの姉だ。

