SERENADE 第7話 悠季
---圭、周りの変化に戸惑っているのは君だけじゃないよ---
僕と君の穏やかな日々は戻ってくるのだろうか？
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圭。
君のＭ響コンサートと僕のソロリサイタルの後から
僕たちの日常は一変してしまったね。
僕のソロの翌日から取材の申し込みがあったり
次のリサイタルはいつ？なんて連絡を貰ったりで。
初のソロリサイタルを終え、お世話になった方々への
ご挨拶回りをしているここ数日なのだけれど
伺った先々で同じ様なご質問を頂いたり。
やっと緊張が解け、放心状態の僕に
「次は？」
「主催者は決ったかい？」
「ＣＤは作らないの？」
とか言われても、慌ててしまったり戸惑ってしまったり・・・なんだ。
正直、少しの間、そっとしておいて欲しいのが本心で。
そういったご質問を頂くと僕は一貫してこう答えているんだ。
「次のフジミの定期演奏会です。それ以降はまだ考えられません」ってね。
だってその通りなんだもの。
あ、そうそう。
フジミの定期演奏会のポスター、見たけど
あれ、なんとかならないかい？
コンダクターとして君の写真が載っているのは納得できるけど
どうして“一団員”の僕の写真まで載っているのかって事。
僕はフジミでは他の団員さんたちと同じ立場にいる・・・と
思っているんだけれど、幾ら、一応プロとしてデビューしたとは言え
写真はなんとかならないものだろうか？
それに、あれではまるで君と僕を“餌”にお客さんを釣ってるみたいに
感じられるんだ。
それじゃあ他の団員さんちに失礼すぎるよ。
あれは誰の発案なんだろう・・・・・。
君に言っても仕方なかったね。ごめん。
話題を変えよう。
姉たちの事、本当に有難う。
僕ね姉たちは心の中では僕たちの事、許してくれてるんじゃないかって
思うんだ。諦めた、というべきかな。
けどね、前にも言ったけれど、何しろ田舎の小さな町だから
人の目を気にしてしまうんだよ。
だって、昨夜おきた事が次の日の午後には町中の人が知ってしまうくらい
なんだからさ。
君と僕の事が知れたら、姉たちはあの土地に住んでいられなくなっちゃうし。
だから口には出せないんだと思うんだよ。
僕の勝手な解釈なんだけどね。
姉たちの涙を見てそう、思ったんだ。
やっぱり「桐院家」が後ろ盾だったんだね。
主催者さんにご挨拶に行った時、たまたま小夜子さんと
ご一緒してね。偶然だよ！
「わたくしがこちらに（主催者さん）イタリアのロスマッティさんの所に
素晴らしいお弟子さんがいらっしゃるから是非1度、お聞きになるといいわ、
って申し上げてね。そしたらすぐに守村さんの所へ行かれましたのよ。」
って仰ってたんだよ。
ああ、やられた・・・って思っちゃった。
でも恨んでる、とかじゃないよ。
今は感謝してるんだ、小夜子さんに。
だって彼女のその言葉がなかったら、あのリサイタルは
なかったんだもの。そうでしょ？
それに、君の家の方たちも僕の事、
応援して下さってるのかって思ったら、
僕もね、
君のお家の方たちに認めるまでいかないけど
気に掛けられてるのかなって、ちょっと気分、いいんだ。
ホントだよ。
しかし、あの女性たちの声、なんとかならないもんかね。
君も相当、困ってるみたいだけど、実は僕もなんだ。
なにしろ今まで一度も「もてた」事のない男だろ。
君以外には。
それが急に「きゃ～」とか何とか言われたら面食らっちゃうよね。
ま、君の場合は言われなれてるのかもしれないけれど。
嬉しいやら恥かしいやら・・・なんだ。
それにね、君に対して掛かる声、気になるんだ。
出来るものなら君の首から
「所有者・守村 悠季」って札を下げたい位！
そんな事、出来ないのだけれどね。あはっ。
いつだったかさ2人で話した事、覚えてるかい？
「どちらも船であり港でありたい」って。
君が『樹』なら僕も『木』でいたいんだ。
君の様な『大樹』にはなれないけれど。
細くて低い、頼りない木かもしれない。
君は立派な『鷹』でね。こんな頼りない木だけれど
安心して羽を休めて貰える様になりたいんだ。
一応、僕も男だからね。
いつも君に甘えて頼ってばかりいる情け無い男かもしれないけれど。
その大きな君が心地よく休める、そんな「場所」でありたいんだ。
時にはぐらつく事もあるかもしれない。
けれど、そういう時でも君の“宿り木”でいたいんだ。
君の心の奥深くまでは読めないけれど
何かに苛ついているんじゃないのかい？
君が僕を抱いてくれる至福の時にね、ちょっと気になったんだ。
君は全身全霊を掛けて僕を愛してくれた。
僕も君への愛を現した。
けど、心のどこかで僕以外の所を見ていたんじゃないかってね。
ちょっとそう思っただけ。
フジミの定期演奏会を控えて君はナーバスになっているのかもしれないね。
僕には何も出来ないけれど僕で良ければ話してよ。
ね。頑張って支えるからさ。
僕だっていつも君に支えられているのだから・・・。
なんだか君の日記に答える様なのになってしまってごめん。
だけど、ちょっと気になったから。
ああ、だけど毎日、君と一緒にいられて
君に愛して貰える事がこんなに幸せだったって忘れてた気がするよ。
愛してる・・・圭
悠季。
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本当は僕も定期演奏会の前だし少し緊張しているんだ。
みんなと巧くやれるかってね。
暫くの間、一人でやってきたし、フジミでのブランクもあるから。
けどね圭、君と一緒なら心強いし、安心出来るっていうのは
嬉しい事だよね。
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