チームの底力




10M以上ある高所に足場と鉄棒が組んである。
少し下にブランコが設置されている。
鳥のような演者が鉄棒から飛翔して、下で揺れるブランコの人に向かってつぎつぎアクロバットで飛び移るのだ。 
豪快に飛び回る猛禽のようだ。

だが小さなことが印象に残るのだった。
演目の始めに演者らは足場に立ち、水平に脚をあげたうえに足首を直角にあげた。
脚を水平にあげるのは脚が重いうえ膝が曲がるし太股裏はつるので、難しい。
しかも足首をあげるのもふくらはぎがつるし、ゆっくり曲げるのはできても
サッときりっと動かすのは難しい。
日頃私は太股とふくらはぎの裏側を使ってない、どう使えばいいのかと考えていたので、
この振り付けから与えられた意外な衝撃は、次の日の会社で力説のネタである。


さてアクシデントがあったのだ。
ブランコに飛び移れないのであった。

しかしブランコで相手をつかむ演者に迷いが見られない。
腕を伸ばしてポーズだけをとって、しかし腕にはつかむ意志が全くない。
かなり初期から事態を見ぬき、きっぱり諦めていたようだ。
驚くべき一瞬の決断である。
そして翔んでいた演者はすぅっと落ちるのだった。

下にネットが張ってあって怪我の心配はなさそうだが、落ちる本人にも全く迷いがなく、客の私に恐怖を感じさせない。
私はそのさまに充分心が満たされ、拍手のモーションに入っていたのでそのまま手をたたく。

バック音楽を演奏しているバンドがほんの0.1秒、作戦タイムをとり、
さっき演奏した4小節を巧みに繰り返して時間調整をする。

波のように広がっていく、まさにチームワークの底力なのであった。





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