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百蛇の夢


先生が語ってくれた不思議な話のひとつを、できる限りその口調を思い出して再現してみよう。
 こうである。

先生のお兄さんが家を建てたときにな、先生、新築祝いに遊びに行って、その晩その家に泊まったんや。その晩はお兄さんにとっても新居で寝るのははじめての夜でな、先生も新しい畳の匂いを吸い込みながら柔らかい布団に入ったんや。そしたらな、その夜に先生、夢を見たんや。夢の中で先生な、今寝てる部屋に立とっとんのや。それで「ああ、この部屋で寝るんか」とか思ってあたりをきょろきょろ見回してるんや。するとな、部屋の襖がすぅっと開くんや。誰が入ってくるのやろうかと思うたが、誰も入ってきよらん。おかしいなぁとふと下を見ると、白い蛇が一匹、するするっと部屋の中に入ってくる。その蛇はどんどん先生の方へ近づいてくると、ふっと消えてなくなったんや。朝起きてもその夢のことが忘れられんでな。
「兄さん、わたし不思議な夢見たわ」と夢の話をしたら、「お前も見たのか?」と兄さんが言う。
実はこれとおんなじ夢をここの家族全員が見たらしいんや。みんな気味悪がって、さっそくこの家を建てた業者に相談してみたんや。そしたら業者が、
「えらいすいません・・・実は地鎮祭をやらんかったんです。それで土地の神様が怒ってはるんでしょう」
そう言うて、翌日すぐに地鎮祭をやってくれたんや、それからはもう二度と蛇は出えへんようになったんや。
 ところでその後、近所で火事があってな、燃えうつってもおかしうないくらい近かったんやけど火はおよばんかった。どうもこれは、あの白い蛇が守ってくれたような気がするんや・・・

角川文庫『新耳袋 第一夜』 より


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