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かくれんぼ


私が台所に隠れようと廊下を走っていると、Yちゃんが洋服ダンスの扉を開き、中に入ろうとしているのを見た。「そんなとこ、すぐ見つかるよ」私はYちゃんに忠告したが、Yちゃんは無視して中に入り込み、扉を閉めた。 やがて、オニが数え終わって、あちこちの部屋に入っては隠れている仲間を次々に探し当てた。
「あとYちゃんだけや」とオニが言う。私はYちゃんが隠れている場所を知っているだけに、なぜAちゃんがあのタンスを捜さないのか不思議に思っていた。なぜなら、オニが数を数えて振り向くと、まず目に入るのがこのタンスであり、オニの心情からいって真っ先にここを捜すはずだと思ったからである。
「もう参ったから出てこいよ。おいYちゃん」とうとうオニが降参した。
「Yちゃんなら、あそこのタンスにおるよ」私がそう言うと、そんなはずない、とAちゃんが言う。そこは真っ先に捜したのだと言う。私がタンスの前に行って扉を開けると果たしてそこには誰もいなかった。
「どこかに場所を変えたのかな」そう思って、みんなでYちゃんを呼んだ。どこにもYちゃんはいない。
するとしばらくして、「おーい」とYちゃんの声がする。「出してくれよぉ」「どこやYちゃん」「わからへん」
どうも、その声はタンスの中から聞こえる。もう一度その扉を開ける。吊ってある洋服の裏を丹念に見るが、やはりそこには誰もいない。扉を閉めて、別の部屋を探そうとすると、またYちゃんの声がした。
「おーい、出してくれよぉ」「どこにおるのや」「タンスの中やと思うけど、出口がないんや、ここどこやぁ」
「どこかあたりを叩いて合図してみ。そしたらわかるかもしれん」誰かがそういうと、やがてどーん、どーんと先ほど誰もいなかったはずのタンスの中から、扉を叩く音がする。
「やっぱりあそこや」私が急いで扉を開けると、半泣きになったYちゃんがそこにいた。

あとでその時の様子をYちゃんに聞いてみると、そこは真っ暗闇で何も無い所だったと言っていた。

角川文庫『新耳袋 第一夜』より


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