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大阪で水彩画一筋
A-Wyeth雑感04 丘の上の少年2
Andrew-Wyeth雑感04
丘の上の少年02
当時のアメリカの実情はよくわかりません。現代の日本に
おいては学校に行かない子供はどんな意味でも肯定的に見られる
ことはありません。アンドリューの家庭がいかに物質的に豊かで
あろうと家族にとってはこれは尋常ではないと思っていたと思い
ます。アンドリューは病弱で線が細い感じで主に姉たちと遊んで
育ったと思われます。
父の本を読み絵画を覗き、あれこれ夢をめぐらすのが常の少年
、そしてやがてその少年の絵の才能を誰よりも父親は認めます。
学校に行かないアンドリューに父はこう言いました。
「偉大な芸術家で学校に通ってた奴は一人もいない。」
この言葉を現代の日本で発することが出来る人は、よっぽどの変わり者
以外いないと思います。父親はアンドリューを溺愛したと記されて
います。この父の理解はアンドリューを助けます。
アンドリューには家庭教師がついていました。当時裕福な家庭は
当たり前のことかも知れません。しかしアンドリューには父が
唯一の教師であり尊敬する人でありました。しかし尊敬と畏怖は
表裏一体です。怖いお父さんは仕事柄いつも家にいます。学校に
行かないアンドリューには居場所がありません。
彼の絵画から予想してアンドリューが少年期さまよった場所は
家の周辺、丘の上、小川のそば、コーン畑、ブルーベリーの果樹園、
農作業小屋等々。貧しい黒人、ロブスター漁の人、そして好きな犬が
よく描かれます。いずれも心落ち着く彼の友であり身近な愛すべき
風景でもあります。
広大なアメリカ大陸と日本の国土では地理に対する認識が違います。
ワイエス家にはメイン州に別荘がありました。カナダに近いこの別荘は
夏を過ごしたそうですが地図で見ると1000Kmはゆうに離れています。
そんなに簡単に行き来できる距離ではありません。この距離は後に
父と子の関係に微妙に影響します。
アンドリューの絵画にはこのメイン州の風景もよく出てきます。
たびたび描かれたモデルクリスチーヌ・オルソンは別荘の近くに住む
ポリオという病気の障害者です。彼の作品のモデルとなる人はいわゆる
「土地の人」であり身近な人です。オルソン家の姉妹と弟のアルバロは
独身だったようです。後のアンドリューの妻ベッツィーがこの家族を
紹介したのが始まりです。障害のため外部と閉ざされたイメージのこの
家とモデルの家族は近代で最も有名なモデルの一つとなります。
特に冬に描かれたオルソン家の哀愁に満ちた描写とクリスチーヌの
不自由なポーズは「孤独」と「死」のイメージがアンドリューワイエスの
作風をつかさどる重要なテーマになっていきます。
アンドリュー・ワイエスは秋と冬しか描かない、と言って間違い
ありません。「春や夏の生い茂った緑は死や腐敗の感覚を覆い隠して
しまう。」枯葉や枯れ枝の色彩、何もかも凍らせ雪を降らせる冬の
到来は「死」と「腐敗」のイメージを増幅させます。
I prefer winter and fall, when you feel the bone structure in
the landscape - the loneliness of it - the dead feeling of winter.
something waits beneath it - the whole story does not show.
(私は冬と秋が好きです。風景の骨格を感じるとき、その孤独さ、
冬の死の感覚、何かがその下で待っている、全体のストーリーは
見れない。)
アンドリュー・ワイエス
後に述べる高村光太郎も冬の詩を残しています。
冬の詩
冬だ 冬だ 何処もかも冬だ
見渡すかぎり 冬だ
その中を僕はゆく
たった一人で
冬の送別
冬こそは歳月の大骨格
感情の鍛へ手
冬こそは内に動く力の酵母
存在のいしずえ
冬こそは黙せる巨人
苦悩に崇高の美を興える彫刻家
高村光太郎は晩年を東北の農村で過ごすことが多くあったそうです。
1945年以降の作品にある特徴の一つに「海」を本格的に描いて
いないという点もあります。メイン州クッシングという土地は入り組んだ
湾のすぐ側にあります。肺を病んでいたのでその海の湿気が嫌いだった
のでしょうか。
多くの木製のボートを描いていますがすべて陸上にあがった姿を
描いています。海原に浮かぶ船は「生」のあかしであり陸上で
干上がった船の乾いた腐食した感覚は「死」の象徴のようです。
ローシェンナーやセピアで地表を表現し白い船体の朽ちていく感触は
独特のムードをかもし出しています。そして「白」そのものにはかなく
変化しやすい哀愁のイメージが重複します。自然の中の白いもの、壁、
服装、板、土、幾度となくその白と汚れ、傷を描いていきます。
幼い時からの経験が独特の「メランコリー」「リリシズム」と
いった雰囲気を作品に持ち込む要因だと思います。しかし後に彼が
作品で名声をはくし大勢の大衆に知られファンが出来る存在になると
困った事態も起こったようです。彼の静かな制作の時を邪魔するものが
現れます。アンドリューの名声にあこがれるファンとイミテートする
ものの存在です。彼が描くであろう場所は限られているためその近辺を
訪問者が訪れる事態がやってきます。
アンドリューは人にスケッチを見られるのを大変嫌います。あつか
ましい鑑賞者のぶしつけな態度に困惑する画家の姿が眼に浮かびます。
人目を避けて誰も来ない真冬の雪景色が後年多くなるのはそんな
理由かなとも感じます。またイミテートする人にも苦言を呈します。
「絵画の表面の技巧と効果は真似できても、私の経験と感情は誰にも
模倣できない独特なものですよ。」と言っているように思います。
続く
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